上 下
47 / 57
学園編

オークションと妖精1

しおりを挟む
 私はベルるんの部屋で一人ノートを開いている。

 ベルるんは期末テストを受けている最中で、さすがにテスト中はそばにいられないので部屋で留守番だ。

 暇なのでノートに落書きをしているのだが、どうしても星降りの夜のことを思い出して顔がニヤける。

 あの夜は一生の思い出になりそうだなー。と思いながら、落ち着かない気持ちでペンを走らせる。

 とんとん

「誰だろ?」

 ベルるんが帰ってくる時間には早いし、この時間は学生はみんなテストを受けているはずだ。

 寮の掃除の人かな?

 鍵をかけていないため、待っているとドアが開いた。そこには、黒いローブを深々と被ったヘレナが立っていた。

「妖精さん。いるんでしょう?」

 どうしよう、と私が固まっていると、ヘレナが部屋の中に入ってくる。

「妖精さん。出てきてください。話をさせてください」

 そう言ってヘレナが頭からフード部分を下ろすと、やつれて痛々しい顔があらわになる。

 いざとなればテレポートすればいいか。

 私とヘレナには圧倒的なレベル差があり、襲われても全く問題ない。そう判断をして、透明化を解いた。

「何の用かな?」

 私の姿を見たヘレナが走り寄り、私の首に触ったかと思うと、かちりと音がした。

「ははは。上手くいったわ。邪神様ありがとうございます」

 ヘレナは何もない部屋の天井を見つめ、ぶつぶつと話しかけている。

 私が自分の首に手をやると、硬い金属製の首輪が付けられていたことが分かった。

 首輪を触ると、テロンと説明画面が出る。

 魔封じの首輪。装備者の魔法を封ずる首輪。

「魔封じ?……テレポート」

 咄嗟にテレポートを唱えるが、何も起きない。まずい、魔法が使えなくなった?

 動揺している私をヘレナはつまみあげ、箱のようなものへポイと放り投げた。

 がたん、と箱の底に身体をぶつける。

「羽虫はここでじっとしてなさい。有効活用してあげるから」

 ふんふん、とヘレナが上機嫌に鼻歌混じりに、その場から歩き出す気配がした。

 箱の中は真っ暗で、ヘレナが動くたびに中で転がってしまう。

 ぶつかっても痛くないけどね!

 衝撃は多少あるものの、レベル80の私の防御力からすれば、全くもって痛くもない。

 ん?そういえば、抑えられたの魔法だけ?

 自分のステータスを確認すると、特記事項の欄に、魔封じ。という文字はあるが、その他は変わりない。

 魔法は使えないけど、普通に防御力も攻撃力も高いままだった。

 攻撃力がそのままなら、こんな箱から簡単に脱出できるな。

 そう思い、箱に穴を開けようとする。が、そこで先ほどヘレナが口にした邪神という言葉が引っかかった。

 このまま着いていけば、邪神復活が早まった原因、関わってる貴族が分かるかもしれない。

 そう思い、箱から脱出するのは辞めて、しばらくヘレナの行動を泳がせることに決めた。










「生きてるかしら?」

 気がついたら眠っていた私は、バンッという衝撃で目を覚ました。どうやら、私が入っていた箱を、ヘレナが床に投げたようだった。

 箱の蓋が空いたので、そこからそっと出てみる。

「おお。これが妖精ですか」

 部屋にいた老人はそういうと、私を小さな鳥籠へ押し込めた。抵抗する元気がないように、わざとぐったりとしてみせる。

「弱っているようですな。死んでしまう前に、早く売ってしまいましょう」

「ええ。任せたわ」 

「今日のオークション最後の目玉品として出しましょう。ぜひ、観ていってください」

「そうさせてもらうわ。邪神様のために」

「邪神様のために」

 信者の合言葉か何かなのか、二人は同じ言葉を繰り返す。ヘレナは私を見て、にやりと笑う。

「あなたの運命も今日までね。あなたをほしいって言う変態のところに、死ぬまでいると良いわ」

 ヘレナの言葉にゾッとする。入っている鳥籠の金属部分を軽く指で押すと、ぐにゃりと簡単に曲がった。

 大丈夫。殴り合えば私最強だから。

 今すぐ逃げ出したい気持ちをグッと抑え、ヘレナの言葉に返事はせず目を閉じて横になっておく。

 返事がないことが気に入らないのか、ふんっと鼻を鳴らしてヘレナが出ていった。

「さて、こいつ世話は…。おい、お前ら。死なないようにオークションまで見張っていろ」

「かしこまりました」

 部屋の隅に控えていた数名の女性にそう言うと、老人も部屋から出て行った。

 これから始まる、と言っていたオークションまでいれば、邪神教に関わっている貴族について情報が集まりそうだ。

 売り飛ばされるのは絶対嫌だから、ギリギリまで情報集めたら逃げよう。

 80レベルの筋肉舐めるなよ、と思いながら、鳥籠の中でじっと息をひそめるように過ごした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、 この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。 自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。 ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、 それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___ 「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、 トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘! そんな彼女を見つめるのは…? 異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

この異世界転生の結末は

冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。 一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう? ※「小説家になろう」にも投稿しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...