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学園編

星降りの夜と妖精1

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 アーサーと一緒に火龍を討伐した人から、あっという間に日が過ぎていく。

 土の珠は、土の国の貴族であるタイロンと、土の国と因縁が深いドワーフの長が和解するときに出る。

 ドワーフの一族は常に放浪しており、2年目の夏休み休暇直前にたまたま武器屋で遭遇することができる。

 場所さえ分かれば土の珠入手が早まるかも、と思いイーライに依頼しているが、中々難しいようだ。

 できることがないため、ひたすらレベル上げに打ち込み、気がつけば目標の80にも到達した。

 季節は秋を過ぎ、冬がやってきた。冬になると、学園では星降りの夜というイベントがある。

 流れ星が降る冬の日、学園ではドレスパーティが行われる。乙女ゲームでは1番好感度が高い相手とパーティを楽しみ、そして星を見るイベントまでが一連の流れだ。

「えっ。アリサ様。まだベルンハルト君に大きくなれること言ってないんですか!」

「しー。声大きいよ」

 目の前で驚いているのはリン。そう、実は言う機会を逃し、まだベルるんには大きくなれることが言えていない。

「でも。今度のパーティでは、アリサ様と参加するって聞きましたよ?」

「そうなんだよね」

 私みたいなのがくっついていても、やはり侯爵の後継でイケメンのベルるん。沢山のお誘いがあったようで、早々に私とパーティに出ると宣言をしていた。

「ドレスを作るにしても、早くしないといけませんし」

「ドレスは作らないで、買いに行くつもりだよ」

 貴族から平民まで多くが参加する学園のパーティでは、オーダーメイドよりも既製品のドレスを着る人の方が多い。

「そうなんですか?あ。それなら、私と一緒に選びに行きませんか?ベルンハルト君に伝えるタイミングとかも、相談に乗りますよ」

 そう言って微笑むリンに、後光が差して見える。

 学園内で姿を透明化しても私が見え、しかも性格の良いリンとは仲良しだ。今のようにベルるんから離れ、リンと過ごすことも増えてきた。

「それじゃあ今週のお休みに一緒に選びに行こう!ところで、リンはローレンと参加することにしたの?」

「ええ。お誘いしていただけたので」

 ぽっと照れたように微笑むリン。ローレンと過ごす時間も増え、お互いが好意を持っていることが周りからも認知されている。

 チェルシーなどが憎そうにリンを見ていることがあるけれど、直接の関わってくることはなくなった。

 もう他の攻略キャラに心が揺らぐことはなさそうだな。と頬を染めるリンを見て、改めて感じた。









 かりかり、と部屋の中に紙をペン先でひっかくような音が響く。年末にある期末テストに向けて、ベルるんが勉強をする音だ。

 推しは勉強する姿も絵になるな。眼福、眼福。

 私は邪魔にならないように、部屋の隅で本を読みながら、時々ベルるんの様子をバレないように見ていた。

「ふう」

 かたん、とベルるんがペンを卓上に置いて、ぐっと背伸びをする。

「お疲れ様」

 勉強にひと段落ついたようだ。私がそう声をかけて近寄ると、ベルるんが微笑む。

「ありがとう。アリサ暇じゃなかった?」

「ゆっくり読書できたから大丈夫だよ」

 両手を差し出してくれるので、その上にちょこんと乗る。

「今週末はどこに行こうか?レベルも80になったし、どこか遊びに行こうよ」

 ニコニコ顔のベルるんに、私は少し気まずそうな顔になってしまう。

「あ。ごめんね。今週末はリンとお買い物に行こうと思ってて」

「そうなの?まぁ。先に約束してたなら仕方がないね」

 少し不満そうではあるものの、つんつんと私の頬を突きながらそう言った。

「アーサーかパーシヴァルでも誘って、ダンジョンに潜ろうかな」

 私がリンと仲良くなったように、ベルるんもアーサーやパーシヴァルと仲良くなっていた。私とは別行動で過ごすことも増え、ベルるんも楽しそうだ。

「今度のパーティなんだけど」

「ん?」

「私の格好に驚くかも?」

 私の言葉にベルるんが噴き出す。

「はは。なにそれ?アリサはどんな格好でも似合うから大丈夫だよ」

 よしよし、と人差し指で頭を撫でてくれるベルるん。

 何となく大きくなれることは言い出しにくく、結局パーティ当日まで言うことができなかった。
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