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学園編

休暇の終わりと妖精

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 ベルるんと穏やかな雰囲気の侯爵家で過ごす休みは、最高だった。ベルるん自身も学園生活での疲れも取れ、表情がさらに穏やかになった気がする。そんな楽しい休みは、あっという間に終わる。

 ふにゃふにゃと泣くマーシャ。赤ちゃんの成長は早いもので、ほんの2週間ほどで泣き声が少し力強くなった。マーシャを抱っこする侯爵夫人は、少し寂しそうに笑顔を浮かべている。

「二人とも気をつけて。また、帰ってきてね」

「すぐにアリサと帰ってくるから、安心して」

 そう言うとマーシャを抱いたままの侯爵夫人を、包み込むようにベルるんが抱き締める。夏の間にぐっと背が伸び、侯爵夫人をすっぽりと抱きしめられるようになっていた。

「また会いにきますね。テレポートがあれば、すぐに来れるので。何かあれば連絡ください」

 そう言うと侯爵夫人に別れを告げて、テレポートで学園に飛ぶ。寮にあるベルるんの自室であれば、誰にも見られることがないためテレポートが使える。










 学園に到着すると、荷物を下ろして簡単に荷解きをする。もうすぐ訪れる秋に備えて、ベルるんの秋・冬服もたくさん持ってきた。

 ベルるんと一緒に荷物を片付けると、テーブルに座って一息。

「明日から新学期だけど、その前に話しておきたいことがあって」

 そう言うと私はアイテムボックスから、冷えたレモネードを取り出す。アイテムボックスでは冷たいものは冷たく、温かいものは温かく保存ができる。レモネードをベルるんのコップに入れると、そのまま手渡しをする。

「ありがとう。話って?」

 レモンの爽やかな香りが、フワッと部屋に広がる。気分スッキリ話ができそうだ。

「邪神についてなんだけどね。実は、邪神教の動きが活発化して、復活が早くなりそうみたいなんだよ。それに、邪神教に貴族が関わっているみたい」

「ふうん」

 ベルるんは興味なさそうにそう言うと、レモネードを一口飲む。

「でも、僕たちがやることは何も変わらないよね?邪神に備えてレベルを上げていくだけ」

「そうだね。邪神復活までに80レベルにしたいから、ちょっとレベル上げも急ごうと思ってる。女神様にお願いをして、学園長には話を通してもらっているから」

「授業に出なくてもいいって?」

 ベルるんの言葉に、コクっと頷く。なんだか少し満足そうだ。

「アリサと二人の時間が増えるのは嬉しいね。勉強自体は履修範囲まで終わっているから、テスト前に復習すれば問題ないよ」

 さすが私の推しは優秀だ。それに、邪神復活という一大事に対して、落ち着いているのも助かる。

 冷たいレモネードを入れたコップから水滴が垂れ、その水滴をベルるんが指で拭う。

「邪神教については、僕たちは何か動く?」

「関わっている貴族が分かれば、復活を遅らせれるかもしれないよね。でも、そっちは大丈夫。イーライに依頼してきたから」

 そう。実は2週間ほどの休暇中に、1度情報ギルドを訪れている。その際にイーライから火龍が起きる周期について教えてもらい、邪神教の調査を依頼しておいた。

「イーライね」

 名前を聞いた途端、むすっとするベルるん。そのまま私を手招きすると、濡れた指を私のおでこにくっつけた。

「冷たい!」

「別の男に会いに行った罰だよ」

 そう言っておでこにつけた指を、ぐりぐりーと押し付けてくる。

 や、やばい。悪いことをしてないのに浮気がバレた気分だ。慌てて話題を逸らさないと、と口を開く。

「明日授業が始まる前に、アーサーに会いに行こうか。火龍を倒しにいくよ」

 話題を逸らしたことがわかるのか、ベルるんはおかしそうに笑っている。私はおでこに押し付けられている人差し指をグイッと退けると、テーブルに戻ってレモネードを飲んだ。










「あああ。邪神様。私は憎いのです。私の愛する人を奪ったあの妖精が。憎くて仕方がないのです」

 真っ黒なローブで身を包んだ人たちが、密室の中で祈るように天を見ている。天井に描かれているのは神でも天使でもなく、おどろおどろしい見た目の魔物だ。

 多くの人たちが濁った目でブツブツと呟いている。その中にいる一人の少女は、私への憎しみを込めた言葉を呟いている。

 ベルるんと部屋でレモネードを飲んでいる私は、まさか別の場所で私を恨みながら邪神へ祈りを捧げる存在がいるなど知る由もなかった。
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