上 下
26 / 57
学園編

元婚約者と妖精

しおりを挟む
 学園での授業は一般教養から、魔法、剣術、貴族の多いSクラスは帝王学、など多岐にわたるものだ。

  初日ということもあり、先生たちの自己紹介や進める授業の概要だけだが難しそうなことが伝わる。

 隣に座るベルるんは涼しい顔で聞いており、主要キャラはリン以外は余裕がありそうだった。高位貴族で家庭教師をつけていれば、それほど苦労をしない内容のようだ。

 その後は学園内の案内などが終わる。寮生活のため、昼ごはん以外に夜ご飯も学食で食べる必要がある。

 学食が食べられる食堂には、安くて量の多いところと、美味しいが値段もそれなりの2か所がある。

 学園内では身分を越えて、がコンセプトの学園なので、生徒たちは自由に2つの学食へいける。が、奨学金を借りる多くの平民やお金のない貴族は、安い方の学食へ行くのが常だった。

 と、いうわけで。

「結婚式場ぽい!」

 ベルるんと行くのはもちろん、高い方の食堂だ。床がピカピカに磨かれており、シャンデリアがキラキラと輝く。

「しょ、食堂とは?」

「さあ、アリサ。座ろうか」

 そう言ってテーブル席に私をエスコートして座ると、すぐに給仕の人が注文を聞きに来てくれる。

 そう。学食なのにオーダー制なのだ!

「アリサは何を食べる?」

「ベルるんと同じやつで!」

「分かったよ。本日のディナーBセットを2つで」

 何もないところに話しかけて、当たり前のように2人前を注文するベルるん。給仕の男性は私の存在を知っているのか、知らないのか。表情には何も出さずにオーダーを受けていた。

「基本的にはセットになってるんだね」

「学食だからね」

 メニューには値段がなく、A~Eまで5種類のセットが載っている。どれも一律料金にすることで、集金を簡単にしているようだ。

 しばらくするとカトラリーが2つセットされて、美味しそうな料理が運ばれてきた。

 1つのお盆の上に、生ハムサラダやスープ、鶏のオーブン焼き、小さなプリンのようなものまで揃っている。

「美味しそう!」

 くるんっと喜びで一回転すると、ベルるんが嬉しそうに笑う。

「さあ、食べようか。デザートが足りなかったら僕のをあげるから教えてね」

 ふふ、と笑い合ってご飯を食べる。ちなみに透明化は解いてないので、周りから見ると、カトラリーが宙を舞い料理が空間に消えていく、中々の恐怖映像だ。

「ベルンハルト様!こちらの席よろしいですか?」

 和気あいあいとご飯を食べていると、途中で頭に響く大声を出す女性が現れる。

「席は他にも空いているから、別のところへ行ってくれないか」

「た、縦髪ロール!!」

  冷たく言い放つベルるん。赤い髪がぐるんぐるんとドリルのように巻かれている、その髪を見て私はつい興奮してしまう。

「元婚約者にそんな態度はないのでは?」

「あ、ヘレナ?」

 かっと頬を赤くして怒りを表す女性がヘレナだと気がつき、ベルるんに耳打ちをする。ベルるんは私の方を見て、少しうんざりした顔で頷いた。

「君との婚約はとうの昔に終わった話だ。用がないなら、さっさと消えてくれないか」

「そんな。ベルンハルト様!私たちは愛し合っていたのに、妖精様のご機嫌を損ねないために、解消されただけじゃないですか!」

 なんとびっくり。ヘレナの頭の中ではそんなストーリーになっているようだ。ベルるんをいじめていたことなど忘れて、目をうるうるさせている。

 おそらく、ベルるんとの婚約破棄から、ベルるん以上の地位や見た目の男性が現れなかったのだろう。当たり前だ。

「ねー。デコピンして追い払う?」

 指をぴんぴん、と弾いてみせると、ベルるんが笑って首を振る。

「相手にするだけ無駄だよ。さ、アリサ。冷めないうちに食べないと」

 そう言うとベルるんは本当にヘレナを居ないもの、として扱い出した。

 キャンキャンと話しかけるヘレナをガン無視して、私にニコニコと笑顔で話しかけながらご飯を食べていく。段々とヘレナが可哀想になるほどだ。

「ベルンハルト様。その態度はあんまりじゃないですか?」

 ついに泣き出したヘレナを見てられなくなったのか、ヘレナの友達らしき女性が現れた。

「あ、いじわるデコピン少女!」

 その女性は入学式でリンをいじめており、私がデコピンを食らわせて少女だ。

「うーん。まさに類は友を呼ぶってやつだね」

「初めて聞いた。どんな意味?」

 ベルるんは新しく現れた女子生徒も無視する気のようで、私に話しかける。

「ベルンハルト様!」

「僕。君の名前も知らないんだけど?」

 あまりにもうるさいからか、そうベルるんが声をかける。

「私はヘレナの友人のチェルシーですわ!」

「そう。それじゃあ、そこのヘレナをどこかにやってくれないか?」

 うんざりとした様子でベルるんが言うと、さらにヘレナは声を上げて泣きはじめた。

 これは収拾がつかないな、と判断して私はみんなから自分が見えるようにする。

「ねえ。ベルるんの言うことが分からない?私もご飯食べたいんだけど」

 わざと傲慢に見えるようにそう言うと、効果はてきめんだ。

 まだ何か言いたげなチェルシーや泣くヘレナに、周りの人がサッと集まってどこかへ誘導していく。

「まだお話が!」

「いや。やばいって。早く行こ」

 傍観していた人も妖精を怒らせるのはまずい、と判断をしてくれたようだ。私は怒った表情のまま、透明化をする。

「ごめんね。アリサにやらせちゃって」

 これ、お詫び。と言ってデザートのプリンをくれたベルるん。ちなみにプリンはちょっと硬めで、上に生クリームがちょんと乗ってる絶品プリンだった!

 ヘレナが同じ学校かー。先が思いやられそうだな、とスプーン口に入れたまま思った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

召喚された勇者様が前世の推しに激似だったので今世も推し活が捗ります

蔵崎とら
恋愛
耐えて耐えて耐え抜いた先で待っていたのは、とんでもないご褒美でした。 国王夫妻の長女として生まれたのに、王家に稀に出現するらしい『先天性魔力欠乏症』という貧乏くじを引いてしまったセリーヌは、婚約者から疎まれるわ貴族たちから陰口を叩かれるわと散々な毎日を送っていた。 しかし王族とは世のため人のために生きるもの。無能の自分でもサンドバッグになることで人のためになることが出来るのだと耐え続けていた。 そんなセリーヌに転機をもたらしたのは、この世界を救ってくれた勇者様。 そしてなんとその勇者様は、前世の推しに激似だった。しかもそんな前世の推しに激似の勇者様と結婚!? 本人を目の前にこっそり推し活をしてみたり毎日が供給の日々に心臓が止まりそうになってみたり、とにかく耐える日々は終わりを告げた。 推しさえいれば何をされようと何を言われようとひとつも気にならない。だって推しに思いを馳せるだけで頭の中はいっぱいいっぱいなんだもん! そんな表面上はお淑やかな王女様が脳内薔薇色パラダイス状態でキャッキャしてるだけのただのラブコメです。頭を空っぽにしてからお楽しみください。 この作品は他サイトにも掲載しております。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

命拾いした治癒魔法使いですが、腹黒王子に弄ばれてキュン死寸前です

河津田 眞紀
恋愛
「だいっきらい」から始まる物語は、優しい「好き」で終わりを告げる── フェレンティーナは、治癒魔法の力を持つ少女。 彼女が暮らすイストラーダ王国は今、戦争の真っ只中だ。 敵国の襲撃に傷つき絶望しているところを、敵側の軍人であるはずのルイスに助けられ、運命が動き出す。 ルイスの斡旋により働き始めた酒場で、彼女は出逢ってしまう。 天使のように愛らしく、悪魔のように妖艶で気まぐれな、まっクロい王子様に── 無自覚ドM娘×腹黒ドS王子が織りなす、じれじれで甘々な恋愛ファンタジー。

『完結』人見知りするけど 異世界で 何 しようかな?

カヨワイさつき
恋愛
51歳の 桜 こころ。人見知りが 激しい為 、独身。 ボランティアの清掃中、車にひかれそうな女の子を 助けようとして、事故死。 その女の子は、神様だったらしく、お詫びに異世界を選べるとの事だけど、どーしよう。 魔法の世界で、色々と不器用な方達のお話。

処理中です...