【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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幼少期の推し編

最悪の叔父と妖精3

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「あ、兄上?」

 部屋に入ってきた2人に、現状が理解できていないギルバートは目をキョロキョロとさせた。そして、ごまかすように笑みを浮かべる。

「突然入って来られるなんて、私もベルンハルトもびっくりしますよ」

 どこまで会話が聞かれているのかが分からないギルバートは、ごまかすことに決めたようだった。そんな発言に侯爵は怒りで顔を真っ赤にしている。

「ベルンハルトが鏡をお前に見せた時から、全部話は聞いていたぞ!」

 そう言ってギルバートに近づくと、その顔を思いっきり右手の拳で殴った。

「あぐ」

 鈍い音がし、ギルバートが座り込む。信じられないといった様子でギルバートが頬をおさえる。

「なぜだ!ずっと信頼していたのに、なんで私の妻と息子を苦しめたんだ!」

 殴られた頬に手を当てていたギルバートだが、侯爵の発言にカッとなったんだろう。侯爵を睨みつけて、立ち上がった。

「2年早く生まれただけで、俺の全部を手にいれたくせに調子に乗るな!大した才能もないくせに、先に生まれたってだけで後継?ふざけるなよ」

 ギルバートは侯爵の胸ぐらを掴み、唾が飛ぶほどの勢いで叫ぶ。

「愚かだよな、兄上は!俺の愛人を侍女に入れて、俺が探したヤブ医者に姉上を診せて。その結果、姉上は病んで、ベルンハルトは使用人からもいじめられてたんだ!気が付かなかった兄上にも責任はあるからな」

「……ヴェロニカが対人恐怖で夫の私ですら、顔を見るだけでストレスだという診断も嘘か」

 侯爵の言葉に、ギルバートが大笑いをする。

「嘘だよ!嘘!俺の思った通りに、兄上が屋敷から離れていったことで二人目もできなかったな。これで、姉上とベルンハルトが死んで、兄上も死ねば侯爵家は俺のものになったのに」

 笑ったかと思うと、今度は憎らしげに言うギルバート。そんな初めて見る弟の姿に、これ以上話していても無駄だと思ったのだろう。侯爵は大きなため息をつくと、テオドリコの方を振り向く。

「連れて行ってくれ」

「かしこまりました。ギルバート様。行きましょう」

 テオドリコがそう言うと、二人の男性がギルバートを挟むような形で拘束した。両手を拘束されて連れていかれるギルバートだが、にやにやとした笑みを浮かべている。

 二人のやり取りを見る限り、完全に弟に舐められてるんだな。と思うと同時に、簡単な処罰になったら嫌だなとも思う。

 部屋には私とベルるん、そして侯爵だけが残った。侯爵がベルるんの方へ進むと、ベルるんはびくっと体を振るわせた。

「ベルンハルト」

 そう言って、侯爵はベルるんのことをぎゅっと抱きしめた。ベルるんは驚いたように身を固くし、両手は前ならえの状態でぴーんと伸びている。

「本当に、本当に。申し訳なかった。今まで辛くて寂しい思いをさせたな」

「お父様…」

 侯爵が大粒の涙を流しながら謝罪の言葉を繰り返すと、ベルるんは徐々に侯爵の方へ体を委ねる。そして、涙を流しながら、ベルるんも伸ばしていた両手を侯爵へと回した。

 いやいや!私はそんな簡単に許さないけどね!

 一言謝っただけで許されるようなことじゃない!と思いながらも、ベルるんが謝罪を受け入れているなら何も言えない。ひとまず、二人が落ち着くまでは、静かに待つことにした。









 10分ほど経っただろうか。そっと侯爵が体を離す。二人とも泣きすぎて、目が真っ赤になっている。

「ベルンハルト。ところで、この鏡は?」

 そう言って侯爵が鏡の方を向く。そこに映るベルるんの姿を初めてみて、また涙腺が緩んできたようだ。

「ああ。ヴェロニカそっくりの銀色の瞳だ。これが本来のベルンハルトの目なんだな」

 母親そっくり、と言われてベルるんは照れたように笑顔を浮かべた。

「ベルンハルト。この鏡は一体どこで?」

 よし!やっと私の出番だ!

 私は、自分の姿がみんなから認識されるように、と意識をする。

「アリサが全部手伝ってくれたんだ」

 そう言ってベルるんが床に立っていた私へ両手を差し出してくれたので、その手のひらに乗る。

「初めまして。ベルるんのお父さん」

 そう言ってぺこり、と頭を下げると驚いた様子で固まった。そんな父親の様子に、ベルるんはなぜか自慢げだ。

「オーガスト様。ギルバート様は地下牢へ連れて行きました。また、ニナも同様に地下牢の方へ移動させました」

 そう言ってテオドリコが部屋の中に入ってきて、ベルるんの手のひらにいる私を見て固まった。

「このままだと話が進まないので。こちらを見てください」

 よいしょっとアイテムボックスの中から、魅惑のネックレスとニナの手紙を取り出す。手紙は量が多く持ちきれないため、バサバサと床に落とさせてもらう。

「これは?」

「これはニナがギルバートからもらったネックレスで、魅了の魔法がかかるようになっています。あと、手紙はギルバートのやってきたことが分かると思って持ってきました」

 侯爵は床に落ちている手紙を拾い上げ、さっと目を通す。1つ見ると眉を顰め、さらに数枚拾って読んでいる。

「ベルるんが生まれたときに立ち会ったお医者さんも、街の噴水前にある宿屋に来てもらっています。後で確認してみてください」

 そう告げると、はっと侯爵が手紙から顔を上げて私を見た。そして、深々と頭を下げる。

「アリサ殿。何から何まで、ありがとうございます。テオドリコ、すぐに確認できるか?」

 侯爵の言葉に頷いて、テオドリコが部屋から出ていった。

「ベルるんのためにやっていることだから、気にしないでください」

 そう言ってツン、と顔を背ける。ベルるんが許しても、私は簡単に許さないからな!

「息子との関係は?」

 私の態度に戸惑った様子の侯爵は、おずおずと尋ねた。私はベルるんの方を見ると、なぜか期待に満ちた顔で推しがこちらを見ている。

「ベルるんは、私の1番大切な存在です」

「嬉しいよ!アリサ!」

 私の答えが満足だったのか、手のひらの私にベルるんが頬擦りしてくれた。おおおお。推しの顔が至近距離すぎて天に召されそう!

 推しと絡んで幸せそうにしていると、侯爵が大きな咳払いをした。

「処罰についてギルバートとニナに告げてくる」

「二人はどうなるのですか?」

 ベルるんの問いに、侯爵は優しく微笑んだ。

「ニナは修道院へ、ギルバートは自領の屋敷の中で一生を過ごしてもらう。もう2度と、ベルンハルトの前には現れないから、安心してくれ」

 そう言ってベルるんの頭を優しく撫でると、部屋から出て行こうとする。

「私もついて行きます!ベルるん、ちょっと待っててね!」

 二人への罰が甘すぎる!と思い、侯爵の後ろを追いかける。10年近く苦しめられたのに、ただの自宅軟禁って納得がいかなかった。

「侯爵!」

「アリサ殿。先ほどは息子の手前ああ言いましたが、実際に与える罰は違います。息子には刺激が強いかもしれないので、内密にしてもらえますか?」

「もちろん」

 そう言って侯爵の後をついていく。侯爵はベルるんの前では怒りを抑えていたようだ。地下牢へ向かう間は、怒りからか歯をぐっと噛み締めたまま無言だった。
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