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幼少期の推し編

妖精という存在について知る妖精

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 侯爵は建国記念日の祭りの日、ベルるんの叔父であるギルバートと一緒に帰ってくるそうだ。おそらく、ギルバート側が侯爵を丸め込むため、一緒に帰ることを提案したんだろう。

 可愛いベルるんを散々堪能した首都へのお出かけから、今日で3日目。今朝、情報ギルドへ一人で依頼内容を確認しにいくと、既にベルるんの出産時に立ち会った医師の情報を得ることができた。

 エリザという女性医師で、当時はまだ20代半ばだったものの、将来を有望視されていた人だった。そんな彼女はベルるんの出産に立ち会い、その後は侯爵にベルるんの風貌について口止めされて侯爵領の小さな村へ行くように指示されていた。

 侯爵領の小さな村へ、というのは彼女にとっては医師としての成功が途絶えたこと意味する。でも、私としては、口止めで殺されてるかも?と思っていたため、生きていてくれてありがたい。

 そして今。私はイーライからエリザがいると言われた村にテレポートで飛んできた。

「村の名前と場所さえ分かれば、初めての場所でも飛べるとか本当にチート」

 パタパタと村の中を飛びながら、様子を見る。小さな規模の村だけれど、子供たちが笑顔で走り回っている。大人たちの表情も明るいため、環境としては良さそうだった。

「ええと、この家かな?」

 エリザの家は村のはずれにあった。赤い屋根のこじんまりとした家で、庭には風に揺れる洗濯物がある。

「流石に透明化したまま入ったら失礼だよね」

 私はエリザから姿が見えるように意識をし、玄関に置いてあるベルを鳴らした。

 すぐに室内からバタバタと足音がし、少し待つと扉が開いて、落ち着いた雰囲気の女性が出てきた。

「はーい」

「あ、初めまして。こんにちは」

 笑顔でぺこり、と挨拶をすると、エリザは目をぱちぱちとさせて固まっている。

「少し話したいことがありまして」

 そう私が言うと、はっと我に返った様子で中に入れてくれた。

 こざっぱりとした清潔感のある部屋で、エリザは室内のテーブルと椅子を見て少し悩み、木箱を椅子の上に置いてくれた。

「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

 椅子の上に置いてくれた木箱に腰掛けると、テーブルの高さがちょうど良くなる。

「失礼ですが、妖精様でよろしいですか?」

「あ。はい。多分」

 今まで姿を見せたベルるんとイーライとは異なり、エリザはとてもかしこまった様子だ。どこか緊張しているようにも見える。

「ああ。初めまして妖精様。お会いできて光栄です」

「こちらこそ、突然押しかけたのに対応してくださってありがとうございます」

 私がお礼を言うと、とんでもない!とぶんぶんと両手を顔の前で振る。

 あれ、もしかしてこの世界にとって、妖精ってそこそこの存在なの?

「本題に入る前に、エリザさんにとって妖精はどんな存在なのかを聞いてもいいですか?」

「私にとってですか。そうですね。妖精様は女神様の使いとして認識しております。そのため、女神様の代理人のような尊い存在かと」

「悪戯したりとかのイメージではないの?」

 地球での妖精のイメージは、どちらかといえば悪戯っ子のイメージが強い気がする。そう思って聞いてみると、急にエリザの表情が固くなる。

「確かに言い伝えの中には、妖精様の意見にそぐわないことをした街に対し、妖精様が悪戯と称して天罰を与えたという話がありますが」

「こわ!この世界の妖精の悪戯こわ!」

 思わずブルブルと震えてみせると、その様子にエリザは少し安心したようだ。

「妖精様の姿はほとんどの人が言い伝えで知っていますが、実際に会ったという話は神話でしか聞いたことがありません。なので、私は本当に今感動しています」

 なるほど。エリザはキラキラとした瞳で私を見てくれている。

 ベルるんは子供だから純粋に喜んでくれたけど、昨日のイーライのあの態度はさすがギルド長ってところだったんだな。この世界の大人であれば、このくらいの反応はしてしまうものなんだろう。

「本当に尊い存在で、敬語を使っていただくのは申し訳がありません。気軽なお言葉にしてくださると嬉しいのですが」

「分かりました。実は1つお願いがあって来たんだけど、エリザさんは侯爵家の一人息子であるベルンハルトの出産に立ち会ったんだよね?」

 こくん、と頷くエリザ。先ほどまでのキラキラの瞳とは変わり、また表情が固くなっている。

「口止めをされていると思うのだけど、出産の時に変わったことはなかった?」

 そう言うと、しばらくエリザは戸惑いながらも、口を開いてくれた。

「妖精様はベルンハルト様の風貌についてご存じでしょうか?」

「今は金色の髪で、目の色が緑ってこと?」

「ご存じなんですね。実は、生まれた時のベルンハルト様は、目の色が銀色だったんです。しかし、次の日に健診でお伺いしたところ、なぜか瞳の色が変わっていて」

 両手を顔の前でぎゅっと握り、しっかりと答えてくれたエリザ。この様子なら証拠なりそうだ!

「今から話すことを聞いて、協力するかを決めてほしいんだけど」

 そう言って私はベルるんの現状について話し始めた。オーガスト侯爵の弟であるギルバートの陰謀だったこと。本来のベルるんの目は銀色で合っていること。ベルるんがそのせいで辛い目にあってきたこと。

 全てを話し終えると、エリザはポロリと涙をこぼした。

「あの時の可愛らしい赤ちゃんが、そんな目にあっていたなんて」

 そう言うと、決意を込めた表情で顔を上げる。

「妖精様。私にできることであれば、何でもいたします。ベルンハルト様の風貌について口にしないことを条件に、ここで細々と暮らして参りました。でも。あの日、私がもっと瞳の色について自信を持って食い下がれば違っていたかもしれません」

 元々責任感の強い女性なんだろう。ベルるんの生い立ちを聞き、悔やんでいるように見えた。

「ありがとう!それじゃあ、建国記念の祭りの日までに、侯爵家のある街まで来てもらえないかな?そこで、侯爵に出産の日の様子を聞かれたら、素直に答えてほしいの」

 分かりました、と頷いてくれたエリザの手に、そっとお金を渡す。これは今朝イーライに会った際に、手持ちの気つけ薬を換金してもらったお金だ。流石に推しのお金ばかり使うのは、オタクの信条に反する!

「これは?」

「街までの交通費と、宿代だよ。足りなかったら、侯爵に言ってね」

 この村での生活にお金はさほど必要ないように見えるが、街へ向かうなら話は別だ。行くだけでも金はかかるし、建国記念日に滞在をするなら宿代も多くかかる。

「ありがとうございます。必ず、お祭りの日までには宿の方に着いておきます」

「うん!よろしくね」

 そう言ってエリザに片手を差し出すと、恐る恐るといった様子ではあるが手を握ってくれた。

 目標を達成し、エリザの家から出る。叔父側の人間ではなくて、本当によかった。

 これで下準備は完了だ。

 祭り当日の日、絶対に叔父の悪事を暴いて、叔父も何なら放置した侯爵にも、ベルるんに謝ってもらうぞ!私は一人拳を突き上げると、ベルるんにお土産になりそうなお花を探しに飛んだ。
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