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幼少期の推し編

情報ギルドと妖精

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 侯爵家の屋敷は首都と侯爵領にあり、ベルるんたちが今住んでいるのは自領の屋敷になる。ちなみに、家を空けている侯爵は、首都の屋敷にいるようだ。

 公爵領も十分に活気があったが、それに比べても首都はすごい。特に水の国の建国記念により行われるお祭りがすぐのため、既に飾り付けをしている店も多く賑わっている。

「ベルるんー。人混み気をつけてね」

 人混みがすごく、はぐれてしまいそうなのでベルるんの肩に乗っている。最初は飛んでいたが、すぐにはぐれてしまいそうになったので、飛ぶのは早々に諦めた。

 ベルるんは特徴的な髪色と目の組み合わせをしているため、目元をすっぽりと覆う仮面をつけている。

「ありがとうアリサ。それにしても人がすごいね」

 屋敷からほとんど出たことがないベルるんは、こんなに大量の人を見るのも初めてだ。到着してすぐはキラキラと目を輝かせていたが、人をかき分けて歩くうちに少し疲れてきたように見える。

 推しを歩かせて、私が推しに座るなんて!私が運びたい!

 くぅっと悔しさに唇を噛み締めているが、ベルるんは気にしていないようだ。

「あ、そこのフルーツ屋さんを右に曲がって」

 自分では歩けないので、ベルるんに道を伝える。

 異世界らしい色とりどりのフルーツが並んでいる店を右に曲がれば、私の目的地だ。

「バンスおばさんのパン屋……アリサはパンを買いに来たの?」

 ぐっと親指を立てて笑顔を浮かべるキャラが描かれた看板の文字を読み、ベルるんが不思議そうな表情を浮かべる。パン屋であれば、公爵領にもあることを知っているからだろう。

「ううん。情報を買いに来たんだよ。それじゃあ、ベルるん。受付のおばさんに、買ったミートパイに宝石が入っていた。って伝えてくれるかな?」

「?……うん!わかったよ」

 私の伝えた言葉に不思議そうにしながらも、ベルるんは店内に入っていく。店の中は焼きたてのパンの香りがして、とてもお腹が空いてくる。

「いらっしゃい」

 受付で穏やかな表情で笑顔を浮かべる中年の女性に、ベルるんが真っ直ぐ近づいていく。

「こんにちは。買ったミートパイに宝石が入っていた、です」

 ベルるんの言葉に女性は穏やかな表情を崩さず、立ち上がった。

「この奥の部屋においで」

 そう言って受付のカウンターの裏を通り、階段を下っていく。ゲーム通りなら、このパン屋の地下に情報ギルドが入っている。

 暗い階段を降りていくベルるんの顔は、不思議と怯えていない。心配そうに見つめる私の視線に気がつき、ニコッと微笑んでくれる。

「ボス、客だよ」

「ああ。入っていい」

 階段を降りた先に扉があり、その扉を中年のおばさんが開けてくれた。パッと明るい室内の灯りに目が眩む。

「いらっしゃい。どこのお坊ちゃんかな?」

 生イーライだー!

 部屋の中心に椅子にゆったりと座る深い紫色の髪をし、涙ボクロがセクシーなイケメン。彼こそが情報ギルドのトップであり、四つ龍でも人気が高かった非攻略キャラのイーライだった。

「アリサ?」

 指示が欲しい、とベルるんが私に小声で問いかけ、はっと我に返る。ゲームスタート時よりもだいぶ若い印象のイケメンイーライに見惚れて、推しの存在を一瞬だけ忘れていた。

 先ほどこの部屋まで案内してくれた女性がいないことを確認し、私は自分の姿がイーライにも見えるように意識をしてみる。

 ベルるんの方をじっと見ていたイーライが、ベルるんの肩の上に視線を上げて驚愕の表情を浮かべる。

「その感じだったら、私のこと見えているよね?」

「これは驚いたな」

 私とイーライのやりとりに、ベルるんも私の姿が見えていることに気がついたみたい。不快そうな表情を浮かべている。

「僕だけに見えるんじゃないの?」

「話すときだけだよ。普段はベルるんにしか見えないから、安心してね」

 大好きな友達を取られてしまったような気分なんだろう。私がそう言うと、渋々ながら納得してくれた。

「そこのお嬢さんは、妖精と呼ばれる存在であっているか?」

「この世界での妖精の立ち位置がよくわからないけれど、今回の依頼には関係がないことだから、妖精だと思ってもらえばいいよ」

 私の返答に一つ頷くと、イーライは気持ちを切り替えたようだ。

「情報ギルドの長としては、知らないことは知りたいが。ここは依頼を受ける場だからな」

 パタパタ、と羽を動かして、イーライの目の前まで移動する。

「調べて欲しいことは1つ。オーガスト侯爵の一人息子であるベルンハルトの出産に立ち会った医師が、今どこにいるのかを調べて欲しいの」

「ああ。なるほどな」

 ちらっとベルるんの方を見て、納得したように言う。目元を覆う仮面を見て、ベルるんがベルンハルトだと認識をしたのかもしれない。

「いいだろう。だいたい3日くらいあれば分かるが、報酬はどうなる?」

「これでどうかな?」

 昨日ニナから取り返したベルるんの宝石を、アイテムボックスから取り出して机の上にゴロンと出した。昨日の夜に、依頼料として渡すことはベルるんから了承を得ている。

「ふむ。これだと少し足りないな。依頼後にお嬢さんについて聞かせてもらう、という条件を付け足してもいいか?」

 実際に依頼の相場なんてないようなものだ。イーライの匙加減で決まってしまうから。

 ベルるんが生まれて魔法がかけられるまでの間、つまり産後すぐに瞳の色を証明してくれる医者の存在が必要なのは事実。

「答えられない質問もあるけれど、それでもいいなら」

 ここは乗っておいた方が良い提案だろう、と判断してそう答える。

 イーライは、にっと笑顔を浮かべると、口笛を吹いた。その口笛の音に呼ばれるように、緑色の可愛らしい小鳥がイーライの人差し指にとまる。

「依頼内容が終了次第、コイツを知らせに飛ばせる。家はどこだ?」

「あ、ちょっと小鳥さんがすぐ飛んでくるには大変だから、3日後に私がまた来るよ」

「なるほど。現在地は予想通り、と」

「些細な情報を集めるのはやめてくれない?」

 どうやらベルるんの位置について、カマをかけられたみたいだ。思わずうぇっとした表情を浮かべると、イーライはおかしそうに笑う。

「職業病だからな。それじゃあ、また3日後にここに来てくれ」

 そうイーライが言うと、私が返事をする前にベルるんが私の腕を掴んで部屋を出ようとする。

「それでは、お願いします」

 ベルるんはイーライにそう言うと、スタスタと出口に向かって腕を引っ張ったまま出ていく。

「まだアリサは僕以外に見えているの?」

 扉の前でそう拗ねたように言われたので、イーライからも見えないように意識をする。

「今はベルるんからしか見えないよ!」

「よかった!」

 ぱぁっと花が咲くような笑顔を至近距離で見せてもらい、うっと眩しさに目を細める。イーライもイケメンだったけど、やっぱり推しの尊さにか敵わないな!

 機嫌が良くなったベルるんと情報ギルドを出て、賑わう街へ向かう。





「わ!なにこれ!一緒に食べよ!」

 美味しそうな串焼きに興奮して、一口食べた後に私にあーんしてくれたベルるん。

「これアリサに似合いそう」

 アクセサリー屋さんで、私にヘアピンをプレゼントしてくれたベルるん。

「お母様には、どんなお土産がいいかな?あ、首都には行くのは内緒だから、買えないね。……じゃあ、アリサにお土産買ってあげる!」

 しょんぼりした後に、お土産の概念を覆す提案をしてくれるベルるん。

 夕方までさんざんショッピングをして、私の心は推しへの尊さで爆発するかと思ったよ!!
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