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 ぎゅうっと、タオルを絞りルファムアの額に乗せる。

「け、結構大変」

 タオルが温くなるたびに、冷たい水に浸して絞る。その動作を繰り返せば、自然と指の節が痛くなってきた。ほんのりと手の色が赤へと変わる。

 苦しそうに唸るルファムアが寝返りをすれば、簡単にタオルは落ちる。

「あ、また」

 落ちたタオルを拾って、再び絞る。

「ふぁ」

 ふーふーと、両手に息をかけて少しでも痛みを減らそうとする。

(――ルファムアって、少し捻くれてるなぁ。腹黒っぽい)

 苦笑を浮かべて、ルファムアの少し穏やかになった寝顔を見る。

 ほっと胸を撫で下ろし、ルファムアの布団を掛け直す。

『ご主人様、時間大丈夫ですか?』

「時間? あ、そっか。ヴィラと約束してたんだ」

 外はオレンジ色に染まり、既に夕方。穏やかな寝顔を見れば、このまま後は侍女に任せても大丈夫かな? と考えが頭を過ぎる。

「ルーファさ……ルーファ、寝てるよね?」

 どうせ嫌われてるんだし、と名前を呼び捨てにした。

 花梨の言葉に反応するように、ぴくっと眉が動く。薄っすらと開いた瞳から覗く緑色が、微かに怯えるように震えた。

「待って、ください。はは……うえ」

「え? ルーファ?」

 熱に浮かせたようにぼうっと焦点の定まらない瞳は、花梨とは違う人を見ているようだ。

 初めて見るルファムアの姿に、花梨は躊躇う(ためらう)ようにルファムアとミケを見た。

「あ~、ミケ。ヴィラに伝言頼めるかな? 今日は帰れそうにないって」

 少し考えた上で言った言葉に、どんっとミケは自分の胸を叩いて見せた。

『了解したですー』

 ミケが出て行ったのを確認すると、花梨はルファムアの腕をそっと握った。すると、彼は微かに微笑んで、再び寝息をたて始めた。

「ヴィラ、ごめんね」

 率直な気持ち。花梨もヴィラと話をするのを楽しみにしていたのだが、何しろこんな状態のルファムアを置いていくことは出来なかった。

 パシっと頬を叩いて気合を入れると、ルファムアのタオルを変え始めた。














 段々と外は闇の色が深くなっていく。花梨はベットのランプに火を灯した。灯りががルファムアの顔を照らす。

 額のタオルをどかし、直接手のひらで触って嬉しそうに笑みを浮かべた。

「もう大丈夫みたい」

 念のため、一応冷えたタオルを置いておこう。とタオルを変えようとした時、手を捕まれる。

「君、は」

 どうやらルファムアが目覚めたようだ。

「あ、ルーファおはよう」

 夜だけどね、と付け足して笑う。

「何をしていたの?」

「何って、看病かな」

 花梨の言葉を聞いて、ルファムアが黙り込んだ。

(――ルーファとの友好を深めるのはまた今度にして、今は帰ったほうがいいみたい)

 うんうん、と一人納得するように頷いて、立ち上がった。

「それじゃあ、私はもう帰るね」

「ちょっと待ちなよ」

 意外そうに、花梨が立ち止まる。

「礼ぐらい、言わせたらどう?」

「は?」

 怒っているような声にも似ているが、花梨には拗ねた子供の声にしか聞こえない。

「ルーファって、意外と子供っぽい」

 言った言葉に慌てて口を閉ざすが、しんと静まった部屋の中。勿論聞こえないはずがない。

「早く行ったらどうかな?」

 何時ものようにルーファは作ったような笑みを浮かべて、花梨の背中を押した。

「わわ、押しとめたのはどっちなんだか」

 ぶつぶつと言いながらも、部屋を出て行く花梨。ドアを閉める瞬間―

「まぁ、ありがとう」

 聞こえた声に反応出来ずに、ドアはそのまま閉まる。

「な、何。今の声」

 聞いたこともないような穏やかな声だった。

「今更、今の言葉なんだった? なんて入ったら確実に駄目だよね」

 暫く考えるようにドアの前に立っていたが、諦めてヴィラの部屋に向かった。

(――そういえば、何でミケ帰ってこないんだろう?)

 首を傾げながら廊下を歩き、見事に兵士に顔面からぶつかった。
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