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 リルに引きずられるように、花梨は豪華な廊下を歩いていた。

「花梨様、きちんとしてください」

 目の笑っていない笑顔でリルに言われ、慌てて背筋を伸ばす。着替えによる、花梨に与えられる精神ダメージは相当なものだったようだ。

「それにしましても、一体何をなさるのでしょうか?」

「ヴィラーネルト王が、何か言ってたんですか?」

 しきりに首を傾げるリルに、恐る恐る訊ねる。

「えぇ。今回はただのパーティーの予定ですのに、重臣全てに参加を義務付けて」

 ひくっと口が引きつる。

 多分、それ私のせいです。なんて言えなくて花梨は曖昧な笑みを浮かべた。

「行けば、分かりますよ。きっと」

「そうですね」

 先ほどから、廊下を行きかう人の多さはそのせいか、と内心ため息をつく。

 慣れない化粧を施された顔を、あまり上げたくなくて俯いて歩いていたために
目の前まで近づいてきた人に、花梨は気がつかなかった。

「んぶ」

 顔面からぶつかり、妙な声が漏れる。

「わわ、ごめんなさいっ!」

 慌てて後ろに一歩下がり、相手の顔を見る前に謝る。

「いいよ、こっちも不注意……あれ?君は確か」

「え?」

 顔を上げてみれば、端整な顔立ちが目に入る。少し嬉しそうに微笑むその顔は、まさに天使!王都で出会ったあの青年だった。

「この前の、ゼフィルドの連れ子だよね?」

「ま、まぁ」

(――連れ子って言うと、私がゼフィルドの子供みたいだ)

「あ、ごめんね。もしかして、ゼフィルドの妹さんだったかな?」

「違うよ……」

 この人、絶対わざとだ! と睨みつける。しかし、相手の顔は柔らかな微笑を浮かべている。どう見ても悪い人には見えない。

「え、と」

 わざと言っている、とストレートに訊ねるわけにも行かずに、必死で頭の中言葉を探す。

「やっぱり、妹さんだね。12歳くらいかな?」

 微笑みながら言われた言葉に、思わず。

「その顔嘘ですか?」

 言ってしまった言葉に、さぁっと顔を青ざめる。

(――わざと言ってる、の方がまだマシだったよ!!どうしよう)

 隣に居るリルに助けを求めようと視線を送れば、リルはうっとりと青年を見つめていた。

 あぁ、助けにならない!意を決めて、青年の顔を見る。

「……面白い子だね」

 そう言って一瞬だけ、にやりと笑った。すぐに、その笑みは天使の微笑にすり変えられたのだが……。

「うん、また時間がある時にゆっくりと話でもしようね?僕の名前はルファムア。君は?」

「か、花梨です」

「ふぅん。それじゃあ、またね」

 ばいばい、と手を振って、ルファムアはその場をゆったりと歩いていった。

(――天使だと思ってたのに、あれじゃあ悪魔だよ)

 一瞬だけ見えたルファムアの姿に、頬を引きつらせた。

「ん?ルファムアってどこかで?……あー!むぐ」

 昨日言われた人物だと気がつき、思わず大声を上げてしまう。しかし、それはすぐに誰かの手で無理やり押さえつけられた。

「後は、俺が」

「まぁ、お願いします」

 にこにこと嬉しそうに笑って、リルが私の背後の人間に礼をした。

(――この声はゼフィルドだ!)

「行くぞ」

 口元を押さえつけたままで、ゼフィルドが歩き出した。慌ててその手を引っかいて、抗議をする。

「んぐ……ゼ、ゼフィルド。手がおっきいから、は、鼻まで押さえつけられて」

 数度深呼吸をして、乱れた息を整える。

文句を言ってやろう! と潤んだ目でゼフィルドを睨みつければ何故か自分の手のひらを、眉を顰めてみるゼフィルド。

「自分で抑えておいて、感触が嫌だったとか、言わないよね?」

 そう言ってその手を掴んで、花梨は固まった。ゼフィルドの手のひらには、べっとりと赤い紅が付いている。

「うわぁ」

 思わず声を漏らせば、冷えた目線で睨みつけられる。

「これは、私のせいじゃないよ~」

 ぶんぶん、と首を振って、訴えかければゼフィルドは浅くため息をついた。

「もう、始まっている。早く行くぞ」

 そう言って私の手を取ると、そのまま引きずるように歩きだす。

(――どうして、リルさんもゼフィルドも、私を引きずって歩くの?!)

 片手で引きずられるくらいだから、きっと体重が軽いんだ!と花梨は無理やり己を励ました。実際のところ、引きずれば数分で花梨が自ら歩き出すから、なのだが。
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