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「行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
にこっと笑って、タグミに手を振った。
タグミの背中が見えなくなると、少しだけ目で探す。
(――タグミって、何の仕事してるんだろ?)
金が湧き出るわけもなく、なんらかの手段で金を稼いでいると思う。だが、何の仕事をしているのか、分からなかった。
毎朝、街へ下りる日以外はこうして朝出て行く、そして夕方頃に戻ってくる。
鞄などは持たずに、ただ銃を持っている。そのために最初は狩りでもしているのか、花梨は考えたのだがそうでもなかった。
(――まぁ、考えても分からないし。ゼフィルドと話そうっと)
くるっと向きを変えて、花梨はゼフィルドの所へ。
ゼフィルドが現れてから、もう二週間も経っていた。このゼフィルドと言う男は、無表情、無口、無愛想。と三点そろった男だ。
花梨が纏わりつくからだろうか、最近になって少しだけ会話をするようになったのだ。それも花梨限定で。
そして、花梨もようやくゼフィルドの微かな表情の変化を見れるようになった。
「ゼフィルドー。遊ぼ!」
にこにこと笑い、弾んだ声で言うと、ゼフィルドは無言で毛布を被った。
「ゼフィルド、遊ぶ、遊ぶ。遊ぶ~」
ぐいぐいと毛布を引っ張って、アピールする。すると、無表情な顔が毛布から覗いた。
「断る」
硬く、冷たい声。ぎゅっと寄せられた形の良い眉。
「駄目?」
少し悲しそうに花梨が言うと、ぴくっと微かに頬を引きつらせた。その変化は微々たるもので、花梨もその変化に気がつかなかった。
「……話せ」
その言葉は「聞くから、話をしろ」と言う風に花梨は受け止める。そのため、花梨はぱぁっと表情を明るくした。
そして、拙い言葉で話し始めた。単語を分けて話すような喋り方で、聞き難いのだが、ゼフィルドは何も言わずに聞いていた。
文句は言わないが、返事も返さない。しかし、花梨はそれでも嬉しそうだ。
「でね、そこで」
身振り手振りで表す花梨、その手を突然ゼフィルドが掴んだ。
「変だ」
「え?」
さすがに意味が分からずに、花梨は首をかしげた。
「変な奴だ」
そう言ってゼフィルドは、微かに笑った。
(――笑った、あのゼフィルドが!)
ゼフィルドと会ってから、一度も見たことのない笑顔。一瞬で消えた上に、ほんの少し口角を持ち上げただけの笑みだったが、花梨は驚いて喋れない。
「おい?」
「ゼ、ゼ、ゼフィルド。笑って、笑った?!」
「言語障害か?」
さらりっと無表情でそう言われる。
「違う!」
そう言って、どうしていいか分からずにそっぽを向いた。その様子に暫し考えると、ゼフィルドは花梨の頭へ手を伸ばした。
「うひゃ」
奇声を発する花梨に顔色一つ変えずに、そのまま頭を撫でる。
そのまま暫く苦痛では無い沈黙が続いたが、思い出したようにぱっと花梨はゼフィルドに向き直る。
「怪我、調子良い?」
今日はまだ聞いていなかったのだ。
「あぁ。もう少しで治る」
その言葉に嬉しそうに、花梨は笑顔を浮かべる。
「治ったら、一緒に……何でもない」
途中で言葉を止めると、そのまま目を閉じた。その間もずっと手は止まらずに、花梨の頭を撫で続けてる。
(―― 一体何だろ?それにしてもゼフィルド寝ちゃったら暇だよ)
んん~と唸るように言うと、ぼすっとゼフィルドの胸元に顔を乗せた。
「重い、退け」
そう冷たい声が花梨の頭上からしたが、手は優しく撫で続けていたので思わず花梨は笑ってしまう。
(――そうだ、寝たふりしてやろ)
少し困らせるために、花梨はわざとらしく寝息を立て始めた。
しかし、寝たふりをしていると眠くなってきてしまうもの。
花梨はわざとらしい寝息を消して、すーすーと穏やかな寝息を立て始めた。
「花梨?」
ゼフィルドの低い声、その言葉に花梨からの返事は無い
花梨は唸るような声を上げて、もぞもぞと動き出した。
椅子に座り上半身だけ、ゼフィルドの胸元に預けるような状態。今にも落ちそうだ。
ゼフィルドは花梨を落とさないように慎重に起き上がると、花梨を抱き上げてそっとベットに横たえた。
花梨が座っていた椅子に腰掛けると、そっと顔を撫でた。
すると花梨はふにゃっとした笑顔を浮かべる、その様子にゼフィルドは微かに笑った。
「もう少し、まだ早いんだ」
そうどこか縋るように呟くと、ゼフィルドは花梨の体に毛布をかけた。
「ん~。ヴィラ」
「ヴィラ?」
花梨の寝言に、ゼフィルドは訝しげに眉を寄せた。
「行ってらっしゃい」
にこっと笑って、タグミに手を振った。
タグミの背中が見えなくなると、少しだけ目で探す。
(――タグミって、何の仕事してるんだろ?)
金が湧き出るわけもなく、なんらかの手段で金を稼いでいると思う。だが、何の仕事をしているのか、分からなかった。
毎朝、街へ下りる日以外はこうして朝出て行く、そして夕方頃に戻ってくる。
鞄などは持たずに、ただ銃を持っている。そのために最初は狩りでもしているのか、花梨は考えたのだがそうでもなかった。
(――まぁ、考えても分からないし。ゼフィルドと話そうっと)
くるっと向きを変えて、花梨はゼフィルドの所へ。
ゼフィルドが現れてから、もう二週間も経っていた。このゼフィルドと言う男は、無表情、無口、無愛想。と三点そろった男だ。
花梨が纏わりつくからだろうか、最近になって少しだけ会話をするようになったのだ。それも花梨限定で。
そして、花梨もようやくゼフィルドの微かな表情の変化を見れるようになった。
「ゼフィルドー。遊ぼ!」
にこにこと笑い、弾んだ声で言うと、ゼフィルドは無言で毛布を被った。
「ゼフィルド、遊ぶ、遊ぶ。遊ぶ~」
ぐいぐいと毛布を引っ張って、アピールする。すると、無表情な顔が毛布から覗いた。
「断る」
硬く、冷たい声。ぎゅっと寄せられた形の良い眉。
「駄目?」
少し悲しそうに花梨が言うと、ぴくっと微かに頬を引きつらせた。その変化は微々たるもので、花梨もその変化に気がつかなかった。
「……話せ」
その言葉は「聞くから、話をしろ」と言う風に花梨は受け止める。そのため、花梨はぱぁっと表情を明るくした。
そして、拙い言葉で話し始めた。単語を分けて話すような喋り方で、聞き難いのだが、ゼフィルドは何も言わずに聞いていた。
文句は言わないが、返事も返さない。しかし、花梨はそれでも嬉しそうだ。
「でね、そこで」
身振り手振りで表す花梨、その手を突然ゼフィルドが掴んだ。
「変だ」
「え?」
さすがに意味が分からずに、花梨は首をかしげた。
「変な奴だ」
そう言ってゼフィルドは、微かに笑った。
(――笑った、あのゼフィルドが!)
ゼフィルドと会ってから、一度も見たことのない笑顔。一瞬で消えた上に、ほんの少し口角を持ち上げただけの笑みだったが、花梨は驚いて喋れない。
「おい?」
「ゼ、ゼ、ゼフィルド。笑って、笑った?!」
「言語障害か?」
さらりっと無表情でそう言われる。
「違う!」
そう言って、どうしていいか分からずにそっぽを向いた。その様子に暫し考えると、ゼフィルドは花梨の頭へ手を伸ばした。
「うひゃ」
奇声を発する花梨に顔色一つ変えずに、そのまま頭を撫でる。
そのまま暫く苦痛では無い沈黙が続いたが、思い出したようにぱっと花梨はゼフィルドに向き直る。
「怪我、調子良い?」
今日はまだ聞いていなかったのだ。
「あぁ。もう少しで治る」
その言葉に嬉しそうに、花梨は笑顔を浮かべる。
「治ったら、一緒に……何でもない」
途中で言葉を止めると、そのまま目を閉じた。その間もずっと手は止まらずに、花梨の頭を撫で続けてる。
(―― 一体何だろ?それにしてもゼフィルド寝ちゃったら暇だよ)
んん~と唸るように言うと、ぼすっとゼフィルドの胸元に顔を乗せた。
「重い、退け」
そう冷たい声が花梨の頭上からしたが、手は優しく撫で続けていたので思わず花梨は笑ってしまう。
(――そうだ、寝たふりしてやろ)
少し困らせるために、花梨はわざとらしく寝息を立て始めた。
しかし、寝たふりをしていると眠くなってきてしまうもの。
花梨はわざとらしい寝息を消して、すーすーと穏やかな寝息を立て始めた。
「花梨?」
ゼフィルドの低い声、その言葉に花梨からの返事は無い
花梨は唸るような声を上げて、もぞもぞと動き出した。
椅子に座り上半身だけ、ゼフィルドの胸元に預けるような状態。今にも落ちそうだ。
ゼフィルドは花梨を落とさないように慎重に起き上がると、花梨を抱き上げてそっとベットに横たえた。
花梨が座っていた椅子に腰掛けると、そっと顔を撫でた。
すると花梨はふにゃっとした笑顔を浮かべる、その様子にゼフィルドは微かに笑った。
「もう少し、まだ早いんだ」
そうどこか縋るように呟くと、ゼフィルドは花梨の体に毛布をかけた。
「ん~。ヴィラ」
「ヴィラ?」
花梨の寝言に、ゼフィルドは訝しげに眉を寄せた。
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