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 拝啓。天国のお母さんお父さん。お元気ですか?私は元気です。でも、かなり大変な事に巻き込まれてしまったようです。

 ちなみに、私を拾ってくれた優しい女性(タグミって言うんだよ!)は私の素性を決めてくれました(頼んでないけど)

 何でも。ツザカ出身のお嬢様。外の世界を全く知らずにすごしてきた。だが、一家が賊に襲われ私は攫われた。

 そのショックで記憶を無くしてしまう。そして賊は逃げているうちに私が邪魔になり、森へ捨てた。

 何も言ってないのにここまで……お母さん、タグミの妄想力は最強なのかもしれません。

 でもでも、呼び捨てを許してくれて(さん付けを無理にしたら殴られた)

 身元不明な私を匿ってくれて(雑用はかなりやらされるけれど)

 タグミは、優しい人だと思うんです(じゃないと私がやっていけない)
 
 ……ゴホン。とにかく、私は元気です。










 ピンク色のワンピース型の服を着て、花梨はポーズをとっていた。

(――似合わない! 激しく似合わないよ!)

 うぅん。と唸りながら自分を睨み付ける。

 長い髪はタグミの手によって、お団子頭になっていた。足がスッポリと隠れてしまうスカートは、風にふわふわと揺れている。

 どこからどう見ても、可愛らしい少女だ。だが、残念ながら花梨はそうは思えないようだ。

【頭、頭が可愛い過ぎるんだぁっ! んでもって、服が何でこんなにふわっふわなの!?】

 軽くパニックを起こしかけている。この世界に飛ばされて早一ヶ月。ここまで慌てているのは初めてだ。今日森を降りて街へ行く、その際に人目に触れると言う事が理由だ。

 普段はタグミと森の奥深くで小屋に住んでいるので、タグミ以外の人とは会う機会が無かった。

 街へは数キロの距離があり、降りるのは一ヶ月に一回ほど。今日がその日なのだ。

 ちなみに、今日は花梨が拾ってもらった記念日でもある。

 花梨が自分で「拾われました、イェイ」と喜ぶわけにもいかないので、心の中でタグミに礼を言うだけだが。

「花梨。まだかい?」

「う~。まだ。おかしい。直す」

 くるくると鏡の前で回っては、自分の姿を見つめる。このスカートの形はそのままでいいが、せめて、色を変えて欲しかった。出来れば髪形も。

「タグミ。髪。服。変える」

「ん~、今、まさか変えるなんていったんじゃないよね? あっはっは。花梨はまだ言葉が上手く言えてないんだよね?」

 にこにこと笑いながら言うタグミ、しかしその目は笑っていない。

【そ、そうなの!】

「私、言葉、不自由」

 こくこくと真っ青な顔で頷く。その言葉は恐怖のあまり、日本語も出てしまったほどだ。その反応に、タグミは満足そうな笑みを浮かべた。

「じゃ、行こうか?」

 伸ばされた手を拒むことも出来ずに、結局その姿で行くことになった。



 手を繋いで仲良く街を歩く。花梨は周りをキョロキョロと見ながら、歩いていた。

「そこのお嬢ちゃん、ブレスレットどうだい!」

「おっ。安いよ。安いよ!」

……なんとも活気に溢れている。

 花梨が周りを見てしまうのは、露店形式が珍しいからだけではない。人の姿だ。いや、皆人型をしているのだが、目を引くのは目の色髪の色。

 金色の髪の毛。紫色の瞳。年をとった老人は目が白色。髪の毛は真っ白の中に黒が見え隠れ。

(――あの人、目が白いし。もしかして白髪とは言わずにこちらでは年取ったら、黒髪っていうの?)

 頭の上には?マークが飛び回っている。

「パン。貰えるかい?」

「おぅ。タグミ、久しいな」

 豪快に笑うパン屋のオヤジは、そう言いながらパンを袋につめた……つめすぎて破れそうだ。

「ほらよ……ん?その女の子はどうした。まさか、お前の子か? よくやった!」

 めでたい!と言いながら、花梨の背中をばしばしと叩くオヤジ。

「違うよ!こんな大きい子が私の子なわけ、ないだろ?全く、アンタは困った奴だよ」

 そう言いながらも、タグミの顔は嬉しそうだ。

「名前はなんていうんだ?」

「花梨で、す」

 カタコトでいう花梨に、オヤジは一瞬にして表情を消した。その豹変振りに、花梨も思わず驚く。

「この子、ツザカの子か?」

「あぁ。多分ね。でも今は、記憶をなくしてる。ただの少女さ」

 そうタグミが言うと、むっと腕を組んだ後でにかっと笑った。

「そうか!まぁ、タグミの世話してる子だからな。よし、花梨ちゃん。今日はおじさんサービスするぞ」

 そう言ってすでに破れそうな袋に、むりやりパンを突っ込んだ。

(――嬉しいけど、あぁぁ、あれって絶対パン潰れてるよね)

 心の中で、潰れた哀れなパンに合掌。

(――それにしても、あの反応からしてもここは『イガー』なんだろうなぁ)

 未だ状況がつかめぬ自分に、花梨は悔しくて唇を噛んだ。

 この世界の表舞台に出る気は勿論無い。だが、それでも自分が生きていく世界を知っていきたい。そう思ったのだ。
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