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 騒がしい教室。高校の朝とはこんなものではないだろうか?

 その教室に花梨が入ると、急に静まりかえり、そしてざわざわと先ほどとは違った騒がしさ。

「また、来てるよ~」

「本当。早く消えて欲しい」

 わざと聞こえるような声で喋る女生徒。男子生徒は見てみぬフリ、そして一部は女生徒と同じように嫌味を言っていた。

(――早く先生来ないかなぁ)

 花梨は時間を確認しながら、ただじっと椅子に座っている。

「ねぇねぇ。相川って凄いセンスじゃない? 学校に体操服で登校って!」

 花梨の体操服の袖を、汚いものでも触るかのようにつまんで、そう教室中に響き渡る声で言った。

「本当だ。きっと可愛い制服は自分に似合わないって、やっと認めたんじゃない?」

 それに同意する声。生徒達は花梨の周りを囲むように集まる。

「ねぇねぇ。今度これ切ってあげない?」

 良い事思いついた、とばかりに一人の女生徒が嬉々として声を上げた。その女生徒が掴んだものは、花梨の背中を流れる漆黒の髪。

「あ、良いねぇ。私切ってあげるよ。放課後にでもやってあげない?」

「それ良い! うっわ、私達ってすっごい良い人じゃない?」

 けらけらと笑う女生徒達に、花梨は全く視線も向けずに下を向いていた。

(――また、あの夢見れるかなぁ)

 暴力を振るわれているわけではないからだろう。全く別の事を考えていた。

「こいつ。下向いてて……もしかして泣いてるんじゃない?」

「顔上げさせよ」

 そう言って一人の女子が花梨の頭を掴んだときに、誰かか声を出した。

「先生来たよ!」

 その言葉にさっと周りは反応した。その反応の良さに、見てみぬフリをしていた数人が少し笑う。

(――やっと来たみたい……今日一日は睡魔との勝負だなぁ)

 あくびを噛み殺し、眠そうに目を擦った。

 眠い、と思ったときに考えたのは再びあの夢。

 何だか、今日も見れる予感がしていた。それはどこか胸がドキドキして、ぎゅっと心臓を掴まれる様な。期待と不安が混ざり合ったような感情を、花梨へ与えていた。

「相川、制服は?」

 そう教師に言われ、花梨は困ったように笑って見せた。

「あ、汚れててまだ乾いてないんです」

「そうか……」

 それだけ言うと、男性教師は興味を失ったように黒板へ向かった。

 この男性教師は、花梨が虐めにあっている事を気がついていなかった。いや、気がついているのかもしれないが、とにかく何かを行動する事はなかった。

 花梨はこの高校が好きではないし、これからも好きになる事はないと思っている。

 ただ気に入っているといえば、窓際の自分の席だろうか。そこからじっと空を見つめるのだ。授業中はずっとそうやっている。

 勉強の方は、家で余った時間が多いのでその際にやっている。成績は平均くらいだ。

「今日はさすがに、途中で帰れないだろうなぁ」

 花梨の言葉に隣の男子生徒が、不審そう顔をしたのが視界の端で見えた。あ、また口に出していたんだ。そう思うがもちろん、ひとり言を言う癖を直すつもりはなかった。
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