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「君は誰?」

「わぁっ」

 突然の声に、花梨は驚きの声を上げた。その反応に、声の主である少年は困ったように笑った。

「驚かせてしまいました?」

 どこか大人びている雰囲気を持っている少年。見たところの年齢は10歳前後くらいだろうか。花梨の目を引いたのは、彼の風貌だった。

「綺麗」

 思わず言ってしまった言葉に、彼はくてっと首を傾げる。髪の毛はきらきらと光を浴びて光る銀色。瞳は花梨の大好きな空色だった。

「始めまして、えぇっと私は相川花梨だよ」

 とりあえず自己紹介から始めよう。と妙にマイペースな花梨。その花梨の言葉に、数秒遅れて少年が反応した。

「あ、僕はヴィラーネルトです」

「ヴィラー、ネ。ルト?」

 言い難い、と少し眉を寄せると、ようやくヴィラーネルトは年相応の笑みを浮かべた。

「ヴィラ。ヴィラで良いですよ」

「あ。じゃあ、ヴィラ君だね」

 にこっと笑ってそう言うと、ヴィラーネルト。もとい、ヴィラもつられるように笑みを浮かべた。

「さてさて、ヴィラ君。ここは夢の中だよね?」

 何となく夢の中、という実感が湧かなくて、ヴィラにそうたずねた。

「あ、そうだと思います。何だか不思議な感じですけど」

 そう言って微妙な顔をしたヴィラと違い、花梨は笑顔だ。

「何だか、こういう特別な夢って嬉しくならないかな?」

 花梨の言葉に、ヴィラは首をかしげただけ。

「だって、ね。嬉しいでしょ?」

 続く言葉が浮かばなくて、ごまかすようにえへへと彼女は笑った。

「そう、ですね」

 花梨の笑みに再びつられるように、ゆっくりと彼の頬も綻んだ。

 何となく、穏やかな場の雰囲気。

(――髪の毛触りたいって言ったら、嫌がるかなぁ)

 じーとヴィラの髪を見つめて、手をうずうずとさせる。

「何ですか?」

 苦笑しながらたずねられ、花梨はぱっと目を開いて首を激しく横にふった。

「なんでもないよ!」

 分かり易すすぎるその反応。これでは年が逆のようだ。

「どうかしたんですか?」

 再度たずねたヴィラの瞳は、とても優しくて。花梨を意を決したように口を開いた。拳はぐっと握っている。

「あのね。その髪触らせて貰えないかな!」

「は?」

 花梨の勢い、そしてその勢いとは合わない内容に、ポカーンとした様子でヴィラは花梨を見つめる。

「やっぱり、駄目かな?」

「良いですよ。どうぞって言えばいいのでしょうか?」

 そう言って頭をかがめてくれたヴィラに、花梨の顔にはさらに笑顔が増す。

「有難う! うわぁっ」

 触った途端、花梨の口からは歓声。しっかりと手で撫でて感嘆。硬そうにも見える銀色の髪は、柔らかく一本一本が繊細だった。

「面白いですか?」

 暫くすると、そうヴィラが口を開いた。

 先ほどから花梨は「うわぁ」だの「凄い」などと言いながら、髪の毛をずっと触っている。

「うん。面白いよ。あ、さすがに目は触れから。良く見てもいい?」

「え?」

 先ほどの髪とは違い、その言葉を聞くと彼は大きく目を見開いた。

「え、と。駄目だったりした? もしかして」

 その反応にそうたずねると、驚いた顔のままでヴィラは顔を横に振って見せた。

「じゃあ、遠慮なく」

 そう言って花梨はヴィラの白い両頬にそっと両手を添えて、じっと瞳を見つめた。

(――やっぱり凄い綺麗)

 暫くそうしていると、呆然とした様子だったヴィラの反応が少し変わった。

 白い頬に、ほんのりと淡い赤色。その赤は時間が経つとともに段々と濃くなっていった。

 もう、堪えきれない! とばかりにヴィラが口を開く前に、花梨が口を開いた。

「やっぱり。空の色……」

「そ、ら?」

 言葉に出したんだと気がついて、花梨はぺろっと舌を出した。

「うん。空色だよね。凄い綺麗」

「空、そうですか」

 どこか嬉しそうなヴィラに、花梨の方も嬉しくなってくる。

「ヴィラも空が好き? 私は大好きなんだよ」

 その花梨の言葉に、ヴィラは俯いた。

「うん。僕も好きです」

 その頬が真っ赤に染まり、瞳が微かに潤んでいたのは花梨には見えなかった。

「そっかぁ……あれ? 調子でも悪いの?」

 俯いたままのヴィラが心配になってきた花梨はそう言って、ヴィラの肩をゆすった。

 その時、急に目の前が光に包まれる。声を上げる間も無く、次に目を開けて花梨が見た光景は何時もの部屋だった。
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