先祖返りの姫王子

春紫苑

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ミコーの語る第一話 3

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「⁉︎ 正気ですか!」
「知った者を生かしてはおけん。それにその首を王子として晒せば時間くらいは稼げる。身体が女かどうかなど、瑣末ごとよ」

 バカ叔父の言葉に、ミーレスは突き立てていた剣を引き抜き、構えた。

「きさまのような者が王となるなど、願い下げだ!」

 わ。言っちゃった!

「ふっ、どちらにせよ口封じせねばと思っておったしな、手間が省けた」

 襲いかかってきた騎士らを、ミーレスはよくさばいたと思う。
 私を抱き抱えて庇いながら、必死で耐えた。クーストースもすぐ横手に追いつき、囲う騎士を振り払い、でも――。
 バカ叔父の抱える騎士は、門番よりずっと人数が多く、精鋭揃い。数太刀でミーレスの腕は飛んでしまった。
 落ちた腕と私に覆い被さるようにして、ミーレスは剣を防いでくれた。二撃、三撃と背に受けて、血が流れ……。
 ドサリと地に伏して、最期に絞り出した言葉は――。

「クーストース、頼む……」

 死の瞬間まで、彼は勇敢で、カッコよかった。

「……くっ」

 ミーレスの死を見たクーストースは、そこで一瞬だけ表情を歪め……。

「進言がございます!」

 声を張り上げたの。

「ほう?」
「私は……私はこいつとは違う! アウクトル様、この女は殺すよりも良い使い道がございます!」

 倒れたミーレスを踏みつけて、クーストースは血走った眼で私の腕を掴んだ。

「この女を王子に仕立て上げ、きたる日に王に据え、貴方様が宰相となれば良い!」
「それは女だろう? 王は務まらん」
「務まらなくて結構。傀儡かいらいで構いません、飾りで良いのです! 王子が王宮に在れば、逃げた王子が名乗り出てきたとしても偽物として処罰できます。違いますか?」
「……」
「国を武力で簒奪するは愚策。民の反感を買い、王宮内にも政敵を多く抱えることになる。政務が滞れば、他国につけ入る隙を与えてしまいます」
「……ふふ、門番のくせに、さかしいな」

 ぎちりと腕を捻りあげられ、地面に押さえつけられた。
 すぐ前に光を無くした、ガラス玉みたいなミーレスの瞳がある。最期まで私を守ろうとしてくれた、勇敢な人。

このバカミーレスに巻き込まれましたが、私は元から貴方様を支持しておりました! 貴方様こそ王に相応しい。この不祥クーストース、貴方様にお仕えしとうございます!」

 それにひきかえこの男……クーストースは、ミーレスの最期の言葉まで、汚した!
 言いたいことは山とあったけど、ついさっきまで狼だった私はそれを上手く言葉にできなくて、暴れようにも押さえつけられ、やれること全部を封じられてしまってた。
 悔しい、悔しいっ、ひどい!

「はなせ、はなせええぇぇバカー!」
「……なるほど」
「バカバカー! クーストースのバカー!」
「ははっ、まるでしつけのなってない子犬だな」

 バカ叔父のくせに人のことバカにするな!
 そう叫ぼうとしたのに、口に手拭いかなにかを突っ込まれた。
 吐き出そうとしてる上からさらに猿轡さるぐつわを巻かれて、手際よくマントを茶巾のように縛り、動けなくされてしまった。
 悔しすぎてボロボロ目から水が出てきたけれど、クーストースはそんな私を乱暴に吊り下げて、バカ叔父に敬礼。

「このように粗暴では、王子ではないとすぐにバレてしまうぞ?」
「心配ご無用。両親を亡くした王子は、納骨の帰りに野盗の襲撃を受け、妹狼まで亡くされて心身を喪失なされたのです。誰もが信用できなくなり、部屋に引きこもり、たまにしか顔を出さない愚者になってしまわれたのですよ」
「なるほど」
「そのような者に国は任せられぬと結論が出れば、皆が貴方様を王へと推すでしょう。多少時間はかかりますが確実かと。……使用人は最低限にし、極力孤立させた方が良いと思われます。確かミーレスには姉がおりました。王子の女中頭をされていたはず……」

 タミアのことを指摘され、動揺してしまった。
 だってトニトの女中頭は私の女中頭でもあった。タミアは私たち兄妹にとって、大切な存在だったの。

「それは使えるな」
「王子の救出は、貴方様の手柄でございます。犬笛に気づき、いち早く動かれた」
「その通りだ。こうして王子をお救いした。……クーストースと言ったな。其方を召し抱えよう」
「はっ! ありがたき幸せ!」

 王宮に運ばれていく間、私はクーストースに踏みつけられたうえ、その場に打ち捨てられたミーレスの亡骸を、ただ見ていることしかできなかった。
 ごめんねミーレス。いつか絶対、仇を取るからね。貴方のお姉さんは死なせない。絶対に、死なせないから……。
 
 ごめんねミーレス。
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