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二章
十二話 計略
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私の身を抱きしめて離さないまま、クルトは言ったわ。
「君に黙っていたのは、僕の自己満足だった……。
君は、知れば心を痛めると思った。だけど……それ以上に君は、知らせてもらえなかったことに傷付くって、分かっていたはずなのに……」
苦いものを噛み締めるような声音だったわ。
「……分かってくれたなら良いの。そのかわり、もう隠し事はしないでちょうだい」
彼らなりの配慮だったのだということも、本当は分かっていた。
だけど私は、綺麗なものだけを見ていたいんじゃないの。
どんなことだって、貴方たちのことならば知りたいのよ。
「だって私たち、親友でしょう?」
「…………そうだね……」
彼はそう言って、私の頬を撫でたわ。
まだ表情には苦しさが滲んでいたけれど、それを振り捨てるように顔を上げる。
「君にも話すよ。全部……。この計画の全てを」
そうして彼がまず話してくれたのは、アラタは決して、魔牛に負けはしないということ。
「アラタが軽装なのは、身を軽くして心臓への負担を減らすためと、その方が動きやすいからだよ。
魔牛相手には、防御よりも身軽さを優先した方が良い。どんな重装備だろうが、あの突進をくらってはひとたまりもないからね。
だから魔牛の攻撃は、全て避けるのが前提。だけどそれだけでは、観客は喜ばない」
観客……?
さっきから湧き上がっている歓声を、この時初めて、別の意味で意識したわ。
そうしてこの歓声こそが、アラタの求めるものなのだと理解した。
「臆病は処罰対象だ。剣闘士は命を賭けてこそ。
アラタは、本当はもっと楽に動けるし、魔牛を仕留めることも容易にできる。
だけど敢えてギリギリで動き、弱腰と取られないように振る舞っている。
ああして剣で浅く斬り付けているのも、極端な軽装も、演出のうちなんだ」
クルトの言葉に、私は目を見張ったわ。
そうして改めてアラタを見た。
普段と変わらないような軽装に、小剣二振りだけを携えて、闘技舞台に立つアラタ。
確かに、焦った様子は見受けられなかった……。
意識すると、ぎりぎりで魔牛を避けるあの動きも体力温存の一環なのかしら? と、思い至る。
「……僕は、アラタの譲歩はここまでだと、さっき君にそう言ったよね。
先ほど話したのは、元々のアラタの計画だよ。大きな怪我を繰り返していた、あの頃のね……。
だから僕も言ったんだ。そんなに金が必要なら僕が出資者になるって。
無論、怒って拒否された……。それでは彼が守ろうとしているものは、何も守れない……」
アラタは、お爺様の残した剣闘士団、そこに所属する剣闘士を、守ろうとしていた。
だけどその理由が分からなかったわ。
だって彼は、放っておいてもいつかそれを、お父様から引き継ぐことになるのでしょうに。
「それでは遅いんだ。
今、あそこに所属する剣闘士は奴隷出身者ばかりで、自分の身を買い戻す以外、剣闘士を辞める手段が無い。
その為には賞金を稼がなければならない。だけど身を鍛えることすらできないんだ……。
今団長であるアラタの父親は、剣を握ったこともない男だからね」
剣闘士団の団長……興行師は、剣闘士を鍛えることも仕事のうちと聞くわ。
だから、花形まで上り詰めたアラタのお爺様は、その後も成功した。
彼には剣闘士が戦いを勝ち抜くために必要なものが、ちゃんと分かっていたのね。
「鍛えられなければ、剣闘士らは戦い方も知らずに、無謀な挑戦をするしかなくなる……。
なのに怪我をしても、その怪我を治療する費用すら用意してもらえないじゃ、どうしようもない」
「そんな……酷いわ」
アラタの怪我を思い出し、身が震えたわ。
でも、クルトの言葉で、状況が見えてきた。
本来なら、出資者を募る興行師は、出資してもらう代わりに、出資者からの希望を叶える必要があるの。
例えば、その名を鎧に刻み、闘技舞台に立つ。だとか、年内に大賞や称号をひとつ以上取る。みたいなことが多いと思うけれど、中には無理難題を言う人もいる。
全ての賞と称号を総なめにせよ。であるとかがそうね。
この都で一、二を争う大きな剣闘士団に、それに見合うだけの資金を出資するならば、叶えられなくもない願いでしょう。
けれどそのために用意する金額は、想像できないくらい膨大なものになるはずよ。
アラタの父親が担う弱小剣闘士団に、それは願うだけ無茶。
そして、アラタの父親には、それが無茶な要求であるかどうか、出資額がその願いに相応しい金額であるかどうかすら、判断できないということ。
「……クルトが出資者となることも拒否するのは、たとえ願いを無難なものにしてお金を渡しても、それがちゃんと剣闘士に使われる保証はない……ということなのね?」
「……」
私の問いかけに、クルトは一瞬何故か瞠目した。
けれど諦めたように息を吐き。
「その通り。多分全て、借金返済と酒代に消えるのだろう。
何より出資者が付くことで、父親を増長させることを、アラタは嫌がっているんだ」
「そうね。出資者が付くということは、そのやり方に賛同しているということ。
興行師の箔になってしまうのだものね……」
そしてクルトの社会的名声にだって響きかねないことを、アラタは嫌ったのだと思う。
……アラタは、まるで十六歳の平民とは思えないようなことを考えるのね。
まさかお爺様の残した剣闘士団と剣闘士たちを、自らの手で守ろうとしていたなんて。
彼でなければきっと、考えもしない……思いつきもしないことだと思うわ。
「……君は本当に聡明だね。
普通女性は、僕の話したこと程度で、そんなことまで見えやしないんだよ……」
「え? 何かおっしゃった?」
思考に囚われていたせいで、クルトの囁きを聞き逃してしまったわ。
けれどクルトは首を振って、独り言だからと笑ったの。
「アラタの決意は固かった。剣闘士団を救わないという選択肢は、彼の中には無いんだよ。
だけど、あの身体で、花形を目指すのは難しい……。
もし運が味方して、花形になれたとしても、それを維持するのは不可能だろう。
それまでの連戦で酷使した身体は、直ぐに限界を迎えてしまう。たった三回負ければ、転落だ。
そうなったらば、もう一度頂点に返り咲くなんて……アラタの身体には到底無理だよ……」
彼の言う通りだと思った。
ただ上り詰めるだけなら、まだ……。そこまでに全てを振り絞って、体に鞭打って挑めば、アラタなら或いはって、思う……。
だけどそうして到達した花形という看板は、維持してこそ効果があるものなの。
勝利し続けてこその、花形。
そうしてようやっと、その名に見合った褒賞を得られるようになる。
花形になるだけでも相当なことで、何百、何千といる剣闘士のうち、たった一握りにしか到達できない領域なのだって、知っていたわ。
けれど、アラタの目的がお金であるならば、維持が必須。剣闘士団は、経営にだって膨大なお金を必要とする。
花形の看板に触れただけでは、なんの意味もないの。
「だから、もう一つの方法……今のやり方を、僕から提示した。
彼の父親から、豺狼剣闘士団を買い取る道を」
「父親から、買い取る?」
「そう。全ての剣闘士団は金で買い取れる。その金額が工面できるならばね。
アラタが今剣闘士としてここに立つのは、父親の命令で、活動資金を工面するためだ。
だから、ここで戦い続けたって、アラタの自由になる金なんて得られない。
学び舎を卒業して剣闘士に専念したって同じだ。
だから、僕を利用するように言った。
アラタは見ての通り細身だし、手にする武器は小剣二本。大抵の人間は、彼が勝つとは考えない……。
だから、アラタの賭け金は跳ね上がることになる。
僕の提案を、彼は聞き入れてくれた。だから僕は、ここでアラタの資産を増やしているんだよ」
「君に黙っていたのは、僕の自己満足だった……。
君は、知れば心を痛めると思った。だけど……それ以上に君は、知らせてもらえなかったことに傷付くって、分かっていたはずなのに……」
苦いものを噛み締めるような声音だったわ。
「……分かってくれたなら良いの。そのかわり、もう隠し事はしないでちょうだい」
彼らなりの配慮だったのだということも、本当は分かっていた。
だけど私は、綺麗なものだけを見ていたいんじゃないの。
どんなことだって、貴方たちのことならば知りたいのよ。
「だって私たち、親友でしょう?」
「…………そうだね……」
彼はそう言って、私の頬を撫でたわ。
まだ表情には苦しさが滲んでいたけれど、それを振り捨てるように顔を上げる。
「君にも話すよ。全部……。この計画の全てを」
そうして彼がまず話してくれたのは、アラタは決して、魔牛に負けはしないということ。
「アラタが軽装なのは、身を軽くして心臓への負担を減らすためと、その方が動きやすいからだよ。
魔牛相手には、防御よりも身軽さを優先した方が良い。どんな重装備だろうが、あの突進をくらってはひとたまりもないからね。
だから魔牛の攻撃は、全て避けるのが前提。だけどそれだけでは、観客は喜ばない」
観客……?
さっきから湧き上がっている歓声を、この時初めて、別の意味で意識したわ。
そうしてこの歓声こそが、アラタの求めるものなのだと理解した。
「臆病は処罰対象だ。剣闘士は命を賭けてこそ。
アラタは、本当はもっと楽に動けるし、魔牛を仕留めることも容易にできる。
だけど敢えてギリギリで動き、弱腰と取られないように振る舞っている。
ああして剣で浅く斬り付けているのも、極端な軽装も、演出のうちなんだ」
クルトの言葉に、私は目を見張ったわ。
そうして改めてアラタを見た。
普段と変わらないような軽装に、小剣二振りだけを携えて、闘技舞台に立つアラタ。
確かに、焦った様子は見受けられなかった……。
意識すると、ぎりぎりで魔牛を避けるあの動きも体力温存の一環なのかしら? と、思い至る。
「……僕は、アラタの譲歩はここまでだと、さっき君にそう言ったよね。
先ほど話したのは、元々のアラタの計画だよ。大きな怪我を繰り返していた、あの頃のね……。
だから僕も言ったんだ。そんなに金が必要なら僕が出資者になるって。
無論、怒って拒否された……。それでは彼が守ろうとしているものは、何も守れない……」
アラタは、お爺様の残した剣闘士団、そこに所属する剣闘士を、守ろうとしていた。
だけどその理由が分からなかったわ。
だって彼は、放っておいてもいつかそれを、お父様から引き継ぐことになるのでしょうに。
「それでは遅いんだ。
今、あそこに所属する剣闘士は奴隷出身者ばかりで、自分の身を買い戻す以外、剣闘士を辞める手段が無い。
その為には賞金を稼がなければならない。だけど身を鍛えることすらできないんだ……。
今団長であるアラタの父親は、剣を握ったこともない男だからね」
剣闘士団の団長……興行師は、剣闘士を鍛えることも仕事のうちと聞くわ。
だから、花形まで上り詰めたアラタのお爺様は、その後も成功した。
彼には剣闘士が戦いを勝ち抜くために必要なものが、ちゃんと分かっていたのね。
「鍛えられなければ、剣闘士らは戦い方も知らずに、無謀な挑戦をするしかなくなる……。
なのに怪我をしても、その怪我を治療する費用すら用意してもらえないじゃ、どうしようもない」
「そんな……酷いわ」
アラタの怪我を思い出し、身が震えたわ。
でも、クルトの言葉で、状況が見えてきた。
本来なら、出資者を募る興行師は、出資してもらう代わりに、出資者からの希望を叶える必要があるの。
例えば、その名を鎧に刻み、闘技舞台に立つ。だとか、年内に大賞や称号をひとつ以上取る。みたいなことが多いと思うけれど、中には無理難題を言う人もいる。
全ての賞と称号を総なめにせよ。であるとかがそうね。
この都で一、二を争う大きな剣闘士団に、それに見合うだけの資金を出資するならば、叶えられなくもない願いでしょう。
けれどそのために用意する金額は、想像できないくらい膨大なものになるはずよ。
アラタの父親が担う弱小剣闘士団に、それは願うだけ無茶。
そして、アラタの父親には、それが無茶な要求であるかどうか、出資額がその願いに相応しい金額であるかどうかすら、判断できないということ。
「……クルトが出資者となることも拒否するのは、たとえ願いを無難なものにしてお金を渡しても、それがちゃんと剣闘士に使われる保証はない……ということなのね?」
「……」
私の問いかけに、クルトは一瞬何故か瞠目した。
けれど諦めたように息を吐き。
「その通り。多分全て、借金返済と酒代に消えるのだろう。
何より出資者が付くことで、父親を増長させることを、アラタは嫌がっているんだ」
「そうね。出資者が付くということは、そのやり方に賛同しているということ。
興行師の箔になってしまうのだものね……」
そしてクルトの社会的名声にだって響きかねないことを、アラタは嫌ったのだと思う。
……アラタは、まるで十六歳の平民とは思えないようなことを考えるのね。
まさかお爺様の残した剣闘士団と剣闘士たちを、自らの手で守ろうとしていたなんて。
彼でなければきっと、考えもしない……思いつきもしないことだと思うわ。
「……君は本当に聡明だね。
普通女性は、僕の話したこと程度で、そんなことまで見えやしないんだよ……」
「え? 何かおっしゃった?」
思考に囚われていたせいで、クルトの囁きを聞き逃してしまったわ。
けれどクルトは首を振って、独り言だからと笑ったの。
「アラタの決意は固かった。剣闘士団を救わないという選択肢は、彼の中には無いんだよ。
だけど、あの身体で、花形を目指すのは難しい……。
もし運が味方して、花形になれたとしても、それを維持するのは不可能だろう。
それまでの連戦で酷使した身体は、直ぐに限界を迎えてしまう。たった三回負ければ、転落だ。
そうなったらば、もう一度頂点に返り咲くなんて……アラタの身体には到底無理だよ……」
彼の言う通りだと思った。
ただ上り詰めるだけなら、まだ……。そこまでに全てを振り絞って、体に鞭打って挑めば、アラタなら或いはって、思う……。
だけどそうして到達した花形という看板は、維持してこそ効果があるものなの。
勝利し続けてこその、花形。
そうしてようやっと、その名に見合った褒賞を得られるようになる。
花形になるだけでも相当なことで、何百、何千といる剣闘士のうち、たった一握りにしか到達できない領域なのだって、知っていたわ。
けれど、アラタの目的がお金であるならば、維持が必須。剣闘士団は、経営にだって膨大なお金を必要とする。
花形の看板に触れただけでは、なんの意味もないの。
「だから、もう一つの方法……今のやり方を、僕から提示した。
彼の父親から、豺狼剣闘士団を買い取る道を」
「父親から、買い取る?」
「そう。全ての剣闘士団は金で買い取れる。その金額が工面できるならばね。
アラタが今剣闘士としてここに立つのは、父親の命令で、活動資金を工面するためだ。
だから、ここで戦い続けたって、アラタの自由になる金なんて得られない。
学び舎を卒業して剣闘士に専念したって同じだ。
だから、僕を利用するように言った。
アラタは見ての通り細身だし、手にする武器は小剣二本。大抵の人間は、彼が勝つとは考えない……。
だから、アラタの賭け金は跳ね上がることになる。
僕の提案を、彼は聞き入れてくれた。だから僕は、ここでアラタの資産を増やしているんだよ」
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