992 / 1,121
少し前の話 5
しおりを挟む
それから約一日、この現状をどうするか、考えて過ごした……。
今更どうやっても覆らない。
どう思考を巡らせても、無理だ。何ひとつ、現状は揺るがないように思えた。
混乱は不可避。国中が荒れる。争い、殺し合うことになるだろう。
どこからどう切り崩そうか、必死で考えたけれど、何ひとつ策は出てこない。
でも責任を取らなきゃ駄目なんだ。
俺が招いたことなのだから。
そうしてとりあえず、見つけたやるべきことは…………。
狩猟民の衣服を一式貰い受けた。
天候との相談になるだろうが、動ける日は少しでも動きたいのだとリアルガーにお願いしたら、あっさり貰えた。
貰ったは良いものの、着ようと思ったら、あろうことか一人では身につけられない……。結局、リアルガーに指示され衣服を持ってきた子供に、そのまま手伝ってもらいながら着替えた。
……着替えひとつ満足にできなくなってるんだな俺……本当、役立たずにも程がある。
右手首にも被せがちゃんとあり、驚いたのだけど……狩猟中に負傷する者はそれなりにいて、こういうものが必要になることも多く、作り慣れているそう。
そうしてやっとこさ支度を済ませた段階でやって来たのがユスト。
あんぐりと口を開き俺を見ていたが、鹿皮の短靴を履いたのを見て、慌てて駆け寄ってきた。
「天幕を出るおつもりですか⁉︎ まだもう少し、安静にしていませんと」
「昨日、もう大丈夫だと認めたのに?」
「最低限というだけですよ!」
「それで充分だよ。動けるのだから、動かないとね。
それからユスト、その口調はもう辞めてくれ。俺はもう、貴方の主君じゃないんだから」
そう言うと、まるで衝撃を受けたかのように固まる……。
……いや、だって俺にはもう、地位も何も無い。給料も支払えない。そんな相手を敬う必要は無いじゃないか。
「もう貴族じゃない……だから、自分が生きていく分くらいは、自分で稼がないと。
幸いにも左腕は無事だし、身体の機能が戻れば、狩猟にも出れると思うんだ」
「狩猟にも出る気なんですか⁉︎」
「だってここはそれで食っていくんだろう?」
肌着。短衣。その上に毛皮の中衣。上着。毛皮の上着。その上に雪除けの外套。随分と着込んだ。更にホルスターを着込むとすれば中衣の下……? だがこの分厚い手袋……これで投擲はちょっと難しいというか……小刀が握れそうにない。投擲の際は手袋を外す必要があるな。……むぅ、手袋だけは自分で装着できるようにならないと……。
「駄目に決まっているでしょう! まだそんなの、全然無理です。今の貴方の身体は……っ」
「だから、今直ぐとは言ってない。まずは体力を取り戻してからだって。そのために動くんだろ」
押し問答しつつ、天幕を出ると、思いの外冷たい風に一瞬で頬が冷たくなる。
成る程。着膨れしすぎじゃないかと思っていたけれど、これは確かに、あれくらい着こまなきゃ体温を奪われてしまうのか。
想像以上の寒さだ。
そして寒さとは別に突き刺さる、視線の数々。中の騒ぎは外にも漏れていたようで、頭蓋の仮面を被った集団がこちらを見ていた。
大人から子供まで……皆が顔を隠している。
…………ふむ。頭蓋の仮面……。
「……俺もあの頭蓋の仮面がいるな……」
「だからっ、貴方まだ、歩くのがやっとでしょうがっ!」
「分かってる。ちゃんと歩くだけにするから」
ユストが過保護だ……。まるでハインの代わりのように。
とりあえず歩き始めてみたのだけど、思った以上に動けず、百歩も進まぬうちに息切れしてしまった。
「服、重…………」
あと硬い。動きにくくて余計に体力を消耗するんだな、これ……。
「北って……こう言うのの加工、名産品、のはず、だよな…………?」
確かそのはずだが……。
このゴワゴワした上着、どう見積もっても素人仕事では…………。
「そりゃ売りもン作る村や街の連中の話だ。ここは関係ねぇ」
急に背後で、耳に馴染んだ発音。しかし振り返る前に、ずぼりと目元までが何かに覆われ、視界が消失した。
「⁉︎ な、何⁉︎」
「馬鹿かお前はっ! なに顔晒して歩いてやがる、凍りたいのか!」
「そこまで⁉︎」
「吹雪いたら一瞬だ馬鹿野郎!」
片手でなんとか押し上げると、サヤが被っていたような毛皮の帽子だ。
それを俺に被せたのはジェイド。これまた頭蓋の仮面で顔は見えないのだが。
ん? でもこの帽子は柔らかい……。
「そりゃそうだろ。潜伏前に外であつらえたやつだ。……って、そうじゃねンだよ……。
何ふらふら彷徨いてやがる、寝床に戻れ怪我人が!」
「もう治ったって!」
「治ってねぇ! ンなに早く治るか!」
そこからジェイドとまで押し問答。結局リアルガーがジェイドを呼びにきて、彼らがどこかへ出かけようとしているのを知った。
何処へ行くのか聞くと、今日は晴れたから、村に行くのだという。
「村へ?」
「そぅだよ。晴れたら狩った獲物を引き渡しに行くから……」
「俺も行きたい」
「……っはぁ⁉︎」
「後学のために。俺も筋力が戻ったら働きたいし、やれることを見つけないと」
「おまっ……お貴族様が何言ってやがる⁉︎」
「それもう終わったから」
そう言うと、ジェイドまで表情を固め、言葉を失ったように口元を歪める。何か言いたそうに……だけど言葉を探しあぐねているみたいに…………あ、そうかっ!
「ごめんな……もう吠狼を雇うのも正直無理でさ……だから本当は、ここに置いてもらうのも筋違いだと思うんだよ……。
けどまだ何もできないから、もう少しの間だけ頼らせてもらえるか。
せめて自分の食べるものくらいは自分で賄う。何か良い職が見つかったら、世話になってしまった分もちゃんと……」
「待て……待てって! なンなンだよその無駄に高い自立心は!
お前、俺らが怪我人放り出すような恩知らずだとか本気で考えてたら殴るぞ⁉︎」
「思ってないよそんなこと」
「なら何焦ってやがる⁉︎」
焦ってる、わけじゃ……。
一瞬言葉を詰まらせてしまった俺に、ジェイドは詰め寄る。
「ユストが止めなかったはずねぇよな。なのになン……」
助け船は、また意外な場所から。
「それくらい許してやりゃどうだぁ? 天幕の中だけに押し込めとくのは、そりゃ窮屈だろうよ」
「はぁ⁉︎ ついてくるつってンだぞ⁉︎」
「橇に座らせときゃいい」
リアルガーが、何故か擁護してくれた……。
そうして指し示されたのは、俺も見慣れた、犬橇…………。
「その手じゃ狼の背は無理だが、橇なら問題ねぇよ。
お前さんだろぅ? これのおかげで俺たちは助かってる。その礼だよ」
「俺?」
「犬橇を世に出した」
「いや、俺じゃないよ。それはサヤが……」
「成る程自覚無し。本当かよ」
そこから謎の大笑い……。
面白ぇなこいつと背中をバンバン叩かれ、若干肩の傷に響いた。
よく分からなかったけれど、乗せていってくれるなら乗ろう。既に小さい子供が数人座っており、その子らのひとりを俺の膝に座らせる形で、場所を確保することになった。
「マジかよ……」
天を仰ぐジェイドを、かかと笑い飛ばすリアルガー。
「良いじゃねぇの。お貴族様が、片腕失くして、悲嘆に暮れて過ごすのかと思いきや、自分で食ってく! だぞ!
その心意気は立派じゃねぇ? 汲んでやりゃ良いじゃねぇか」
「こいつは洒落にならねぇンだよ……」
まだブチブチと文句を続けるジェイド……。
でも結局根負けしたのか、犬笛で合図を送っていた。
とりあえずそれで連れて行ってもらえることが決まり、俺にも頭蓋の仮面が用意された。村に残る者に借りるだけ。俺用はまた作ってくれるという。
さて、出発!
狼二匹で、橇は簡単に進む。
俺と子供。そして狩られた獲物が載っているのに、それをものともせず、一気に助走。
「行くぞ!」
リアルガーの号令で、狼に跨った面々が橇に続いた。
森の中を橇で抜けられるのかなと思っていたけれど、ちゃんと通れるように道が整備してあるよう。
あっという間に森を出ると、後は地平の先に低い山が見えるのみの。真っ白い平野だった。
「うわぁ……。壮観だな。
ここが全て草地になるというなら、何故荒野なんて呼ばれるんだろう……」
「ンなん……その草がほぼ食い尽くされて土ばっかになるからだろ……」
成る程。
人は定住しているのだから、そう遠くまで草を喰ませに連れ出せない。
どうしたって同じ場所で草を食べ続けることになり、荒野になるわけか。
「奥地は放置なの?」
「馬事師らが食わせてる」
馬と共に訓練がてら、遠方まで移動する馬事師らは、そうやって良い草地を目指して移動するらしい。
地方についても色々学んだつもりだったけれど、やはり目で見る印象は随分と違う気がした。
「俺……セイバーンの麦畑が好きなんだよ。黄金色の大海原が広がる光景は本当に美しくて……。
だけど、雪も良いな……。若草色の平野もきっと綺麗なんだろう……」
「…………お前……悠長だな……」
状況分かってるのかよとブツブツ文句を言い出すジェイド。
だがそれを「良いんじゃねぇ? 悲壮感いっぱいで落ち込まれても困っちまうくせに」と茶化すリアルガー。
風を切って進むこと……体感時間にして二時間弱といった辺りか……遠方に白く立ち登る煙が見えだした。
そうしてまた暫く進んでから……。
「ここまでだ」
そう言い、橇が止まり、膝の上に座していた子供がピョンと飛び降りる。
「二時間後にここだ」
「うん」
その短いやり取りだけで、一人が懐から真っ赤な旗を取り出し、一本の槍を雪に深く突き刺してから、そこに括り付ける。
「降り出したら早めに切り上げろ」
「分かってる」
どうするのかと思ってたら、ここから村へは子供達だけで行くようだ。おいおい……。
「子供たちだけで⁉︎」
「本当は大人も一人はついていくが、今回はいいだろ。あんたが一緒に行くんだし」
え……。
今更どうやっても覆らない。
どう思考を巡らせても、無理だ。何ひとつ、現状は揺るがないように思えた。
混乱は不可避。国中が荒れる。争い、殺し合うことになるだろう。
どこからどう切り崩そうか、必死で考えたけれど、何ひとつ策は出てこない。
でも責任を取らなきゃ駄目なんだ。
俺が招いたことなのだから。
そうしてとりあえず、見つけたやるべきことは…………。
狩猟民の衣服を一式貰い受けた。
天候との相談になるだろうが、動ける日は少しでも動きたいのだとリアルガーにお願いしたら、あっさり貰えた。
貰ったは良いものの、着ようと思ったら、あろうことか一人では身につけられない……。結局、リアルガーに指示され衣服を持ってきた子供に、そのまま手伝ってもらいながら着替えた。
……着替えひとつ満足にできなくなってるんだな俺……本当、役立たずにも程がある。
右手首にも被せがちゃんとあり、驚いたのだけど……狩猟中に負傷する者はそれなりにいて、こういうものが必要になることも多く、作り慣れているそう。
そうしてやっとこさ支度を済ませた段階でやって来たのがユスト。
あんぐりと口を開き俺を見ていたが、鹿皮の短靴を履いたのを見て、慌てて駆け寄ってきた。
「天幕を出るおつもりですか⁉︎ まだもう少し、安静にしていませんと」
「昨日、もう大丈夫だと認めたのに?」
「最低限というだけですよ!」
「それで充分だよ。動けるのだから、動かないとね。
それからユスト、その口調はもう辞めてくれ。俺はもう、貴方の主君じゃないんだから」
そう言うと、まるで衝撃を受けたかのように固まる……。
……いや、だって俺にはもう、地位も何も無い。給料も支払えない。そんな相手を敬う必要は無いじゃないか。
「もう貴族じゃない……だから、自分が生きていく分くらいは、自分で稼がないと。
幸いにも左腕は無事だし、身体の機能が戻れば、狩猟にも出れると思うんだ」
「狩猟にも出る気なんですか⁉︎」
「だってここはそれで食っていくんだろう?」
肌着。短衣。その上に毛皮の中衣。上着。毛皮の上着。その上に雪除けの外套。随分と着込んだ。更にホルスターを着込むとすれば中衣の下……? だがこの分厚い手袋……これで投擲はちょっと難しいというか……小刀が握れそうにない。投擲の際は手袋を外す必要があるな。……むぅ、手袋だけは自分で装着できるようにならないと……。
「駄目に決まっているでしょう! まだそんなの、全然無理です。今の貴方の身体は……っ」
「だから、今直ぐとは言ってない。まずは体力を取り戻してからだって。そのために動くんだろ」
押し問答しつつ、天幕を出ると、思いの外冷たい風に一瞬で頬が冷たくなる。
成る程。着膨れしすぎじゃないかと思っていたけれど、これは確かに、あれくらい着こまなきゃ体温を奪われてしまうのか。
想像以上の寒さだ。
そして寒さとは別に突き刺さる、視線の数々。中の騒ぎは外にも漏れていたようで、頭蓋の仮面を被った集団がこちらを見ていた。
大人から子供まで……皆が顔を隠している。
…………ふむ。頭蓋の仮面……。
「……俺もあの頭蓋の仮面がいるな……」
「だからっ、貴方まだ、歩くのがやっとでしょうがっ!」
「分かってる。ちゃんと歩くだけにするから」
ユストが過保護だ……。まるでハインの代わりのように。
とりあえず歩き始めてみたのだけど、思った以上に動けず、百歩も進まぬうちに息切れしてしまった。
「服、重…………」
あと硬い。動きにくくて余計に体力を消耗するんだな、これ……。
「北って……こう言うのの加工、名産品、のはず、だよな…………?」
確かそのはずだが……。
このゴワゴワした上着、どう見積もっても素人仕事では…………。
「そりゃ売りもン作る村や街の連中の話だ。ここは関係ねぇ」
急に背後で、耳に馴染んだ発音。しかし振り返る前に、ずぼりと目元までが何かに覆われ、視界が消失した。
「⁉︎ な、何⁉︎」
「馬鹿かお前はっ! なに顔晒して歩いてやがる、凍りたいのか!」
「そこまで⁉︎」
「吹雪いたら一瞬だ馬鹿野郎!」
片手でなんとか押し上げると、サヤが被っていたような毛皮の帽子だ。
それを俺に被せたのはジェイド。これまた頭蓋の仮面で顔は見えないのだが。
ん? でもこの帽子は柔らかい……。
「そりゃそうだろ。潜伏前に外であつらえたやつだ。……って、そうじゃねンだよ……。
何ふらふら彷徨いてやがる、寝床に戻れ怪我人が!」
「もう治ったって!」
「治ってねぇ! ンなに早く治るか!」
そこからジェイドとまで押し問答。結局リアルガーがジェイドを呼びにきて、彼らがどこかへ出かけようとしているのを知った。
何処へ行くのか聞くと、今日は晴れたから、村に行くのだという。
「村へ?」
「そぅだよ。晴れたら狩った獲物を引き渡しに行くから……」
「俺も行きたい」
「……っはぁ⁉︎」
「後学のために。俺も筋力が戻ったら働きたいし、やれることを見つけないと」
「おまっ……お貴族様が何言ってやがる⁉︎」
「それもう終わったから」
そう言うと、ジェイドまで表情を固め、言葉を失ったように口元を歪める。何か言いたそうに……だけど言葉を探しあぐねているみたいに…………あ、そうかっ!
「ごめんな……もう吠狼を雇うのも正直無理でさ……だから本当は、ここに置いてもらうのも筋違いだと思うんだよ……。
けどまだ何もできないから、もう少しの間だけ頼らせてもらえるか。
せめて自分の食べるものくらいは自分で賄う。何か良い職が見つかったら、世話になってしまった分もちゃんと……」
「待て……待てって! なンなンだよその無駄に高い自立心は!
お前、俺らが怪我人放り出すような恩知らずだとか本気で考えてたら殴るぞ⁉︎」
「思ってないよそんなこと」
「なら何焦ってやがる⁉︎」
焦ってる、わけじゃ……。
一瞬言葉を詰まらせてしまった俺に、ジェイドは詰め寄る。
「ユストが止めなかったはずねぇよな。なのになン……」
助け船は、また意外な場所から。
「それくらい許してやりゃどうだぁ? 天幕の中だけに押し込めとくのは、そりゃ窮屈だろうよ」
「はぁ⁉︎ ついてくるつってンだぞ⁉︎」
「橇に座らせときゃいい」
リアルガーが、何故か擁護してくれた……。
そうして指し示されたのは、俺も見慣れた、犬橇…………。
「その手じゃ狼の背は無理だが、橇なら問題ねぇよ。
お前さんだろぅ? これのおかげで俺たちは助かってる。その礼だよ」
「俺?」
「犬橇を世に出した」
「いや、俺じゃないよ。それはサヤが……」
「成る程自覚無し。本当かよ」
そこから謎の大笑い……。
面白ぇなこいつと背中をバンバン叩かれ、若干肩の傷に響いた。
よく分からなかったけれど、乗せていってくれるなら乗ろう。既に小さい子供が数人座っており、その子らのひとりを俺の膝に座らせる形で、場所を確保することになった。
「マジかよ……」
天を仰ぐジェイドを、かかと笑い飛ばすリアルガー。
「良いじゃねぇの。お貴族様が、片腕失くして、悲嘆に暮れて過ごすのかと思いきや、自分で食ってく! だぞ!
その心意気は立派じゃねぇ? 汲んでやりゃ良いじゃねぇか」
「こいつは洒落にならねぇンだよ……」
まだブチブチと文句を続けるジェイド……。
でも結局根負けしたのか、犬笛で合図を送っていた。
とりあえずそれで連れて行ってもらえることが決まり、俺にも頭蓋の仮面が用意された。村に残る者に借りるだけ。俺用はまた作ってくれるという。
さて、出発!
狼二匹で、橇は簡単に進む。
俺と子供。そして狩られた獲物が載っているのに、それをものともせず、一気に助走。
「行くぞ!」
リアルガーの号令で、狼に跨った面々が橇に続いた。
森の中を橇で抜けられるのかなと思っていたけれど、ちゃんと通れるように道が整備してあるよう。
あっという間に森を出ると、後は地平の先に低い山が見えるのみの。真っ白い平野だった。
「うわぁ……。壮観だな。
ここが全て草地になるというなら、何故荒野なんて呼ばれるんだろう……」
「ンなん……その草がほぼ食い尽くされて土ばっかになるからだろ……」
成る程。
人は定住しているのだから、そう遠くまで草を喰ませに連れ出せない。
どうしたって同じ場所で草を食べ続けることになり、荒野になるわけか。
「奥地は放置なの?」
「馬事師らが食わせてる」
馬と共に訓練がてら、遠方まで移動する馬事師らは、そうやって良い草地を目指して移動するらしい。
地方についても色々学んだつもりだったけれど、やはり目で見る印象は随分と違う気がした。
「俺……セイバーンの麦畑が好きなんだよ。黄金色の大海原が広がる光景は本当に美しくて……。
だけど、雪も良いな……。若草色の平野もきっと綺麗なんだろう……」
「…………お前……悠長だな……」
状況分かってるのかよとブツブツ文句を言い出すジェイド。
だがそれを「良いんじゃねぇ? 悲壮感いっぱいで落ち込まれても困っちまうくせに」と茶化すリアルガー。
風を切って進むこと……体感時間にして二時間弱といった辺りか……遠方に白く立ち登る煙が見えだした。
そうしてまた暫く進んでから……。
「ここまでだ」
そう言い、橇が止まり、膝の上に座していた子供がピョンと飛び降りる。
「二時間後にここだ」
「うん」
その短いやり取りだけで、一人が懐から真っ赤な旗を取り出し、一本の槍を雪に深く突き刺してから、そこに括り付ける。
「降り出したら早めに切り上げろ」
「分かってる」
どうするのかと思ってたら、ここから村へは子供達だけで行くようだ。おいおい……。
「子供たちだけで⁉︎」
「本当は大人も一人はついていくが、今回はいいだろ。あんたが一緒に行くんだし」
え……。
0
お気に入りに追加
837
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる