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蜜月 7

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 懇々と説明したよね。サヤは魅力の塊だと!
 今まで全力で耐えてたんですと。ただサヤに嫌われたくない一心で、必死だったんですと!
 それに対し、サヤはなんて答えたと思う⁉︎

「そういう風に見れへんのを、私を傷付けんように、言葉を選んで言うてくれてるんやて、思うてた……」

 どうしてそうなるううううぅぅぅ⁉︎

「あんまりそういうこと考えたらサヤが気持ち悪いだろうなと思って……っ、一生懸命意識をすり替えて来たんだよ、他の問題ごととかに!」
「か、かんにん…………知らへんかった」
「昨日は本気でブチギレ寸前だったんだからな⁉︎」
「で、でもっ、止めてくれって凄い真剣な声で言うたやん⁉︎
 せやから、あ、あぁいう格好私がしても、気持ち悪いんかなぁって思うのも、仕方ないというか……」
「そんなわけないでしょうが‼︎」

 正直言えば無茶苦茶好きですけど⁉︎ そりゃ見れるならばいくらだって見てたいが! 次にそんなことあったら俺は我を忘れるよ⁉︎

 何故サヤがそんな勘違いをするに至ったかというと……。俺や皆の配慮が、裏目に出てしまった結果であったようだ。
 ざっくり纏めると、男性というのは恋愛感情なんて関係なしに、女性を抱ける生き物であるという教えに、俺の行動が合致しないと感じたことが原因であるよう。
 いや、はずれてないよ……男ってのはそういう生き物だよ……。
 俺だってあられもない格好の女性が目の前に現れたら、気持ちはともかくとして、身体は反応してしまう可能性高いし……。

「せやけどレイは……」

 婚姻が近付いてきても、全くそんな様子を伺わせず、話題にもしなかった……。まるで興味が無いかのように。
 それを友人……おそらくルーシーやクララにそれとなく相談したところ、そういった対象としては見れないのでは……? という話になったらしい…………っ。
 世の中にはそんな男性もいるし、貴族社会ならば良くあることで、政略的な婚姻や、上位貴族からの降嫁である場合特に多いのだと。
 そういった時、相手を無下にはできず、家臣として傅くような夫婦関係となったり、お互いに存在を認識しないよう、空気のように接するのを暗黙の了解としたり……。そうすると当然、肉体的な繋がりなど求めないと……!

 な、なんでだ……俺がサヤを好きだって知ってるだろ……分かってるだろ⁉︎
 なんでそういうややこしい解釈をしようと思った⁉︎
 サヤは、欲望に弄ばれてしまった経験があるから、そういう意識を向けられることに敏感だ。
 だから俺は極力、そうしないよう努めていただけなのに、そのことをそんな風に……まさかの斜め上に捩れた解釈っ。

「俺……サヤを抱きしめたり口づけしたりもしてるのに!」
「それをやって、身体に全く反応が無いのは……その…………疑わしいって……」
「⁉︎」
「……そう思わせないための、フリなんやないかって……普通は反応があって然るべきって」

 配慮が……配慮が全っ力で、裏返されてる…………!

 いや、間違ってない……。たしかに好みによっては全く興味を抱かない場合もあるよね……あるけども!

「俺はずっとサヤを好きだって言ってきてるのに!」

 全力で言ってきてるはずだろっ⁉︎
 そう訴えたら、サヤは困ったように眉を寄せ……。

「推しを愛でるんと同じ感覚なんかなって」
「推しって何⁉︎」

 それで、齟齬を埋めるべく言葉を交わし、まぁだいたいの誤解は解けた……うん。多分……解けたと思いたい……。ちょっとまだ解釈が追いつかず、ちゃんと理解できているかいまいち確信が持てないのだが……。
 サヤの国の文化……。推しを愛でるというそれは、驚愕を通り越して理解不能だった……。

 なんなの……実際には会ったこともない人を好いて、応援する文化って……何目指してるの⁉︎
 人ですらない、絵や道具、食べ物なんかも対象ってどういうこと⁉
 ていうかっ、道具、食べ物等を人に例え、それすらも対象になるっていうのはもう……俺には想像も及ばない世界で全く意味不明!

「サヤの国の文化が奇怪すぎる…………っ!」
「そんなに特別やない思う。クオン様の草紙かて、似たようなものやし」
「あれは花形が存在してるじゃん!」

 食べ物とかじゃなく、ちゃんと人だし!

 俺の好きも、その崇拝に近いものなのではと思ったらしい。
 暴走しかけたって途中で止めるし、現実になったら冷めるのだろうと……。
 冷めてたんじゃなく、必死で冷ましてたんですけどね⁉︎

 まぁ、つまり……。
 そんな、好みでもない肉体の相手を、妻へと迎え入れた俺への配慮が、昨日のあの夜着であったのだ……。
 せめて俺が好ましいと思えるような服装をと……。特に男性ウケが良さそうなものを、え、選んだのだと…………。

 あの下着のような夜着を製作したのは、勿論ルーシー…………。
 ギルじゃなかったのがせめてもの救いだけど…………っ。

「怒っちゃ駄目です!
 ルーシーさんは単純に、凄く可愛いって意匠を気に入ってくれて……色違いでお揃いにしましょうって、前から色々作ってた中の、ひとつで……」

 単純に、サヤの国の夜着の話から派生したもので、何かを意図して作られたわけではないそうだ。
 が。
 あんな破廉恥な夜着を既にいくつもお揃いで持っていると聞いて戦慄した……。
 無自覚に凶器を量産してぶち込むって……何をしてくれてるんだルーシー⁉︎

 しかもその上で、事前情報としてサヤに話された予備知識というのが大問題な内容だった。
 夫婦という関係性を円満に続けるための心得だと言われたそれは……。

 ふっ、夫婦になった以上、そういう、見た目の奉仕? を、するのも、日常ごと。寧ろ妻の勤めなのだと……。
 女体の特徴が嫌いな男はいないから、とりあえずことあるごとに胸をくっつけとけば良いと。雰囲気作りは胸からだと!
 夫婦間でも常態化して飽きるものだから、結構色々な遊び方にも挑戦するものなのだと……っ、ちょっとくらい変な趣味でも気にするなとっ⁉︎

 まっ……間違ってないかもしれないが…………それ、今、サヤに必要な知識だったか……⁉︎
 常態化も何も……俺たち始まってすらいないんですけど⁉︎
 ていうか、この耳年増感ある無駄知識クララだなっ⁉︎ サヤになんてこと吹き込んでやがるっ、後で覚えとけよ⁉︎

「とにかく、それ全部一回捨てて! 事前情報全部保留!
 俺は普段のままのサヤと、全然普通にそういうことしたいし、できるし、これは口先で言ってるんじゃないからっ!」

 だけどそう言うと、サヤの中で恐怖が生まれ、彼女はそれを押し殺そうとするのだ……。

「…………そういうのが俺は、気になってしまうんだ……。
 サヤの今までの経験だって聞いてるから、少しだってそういう、乗り越えがたい気持ちがあるうちは、無理強いしたくない。たったそれだけのことだったんだよ。
 これも俺の性癖なんだと思ってくれたら良い。だからサヤは、焦らないで。無理しなくていい。
 俺は本当に、サヤと一緒になれたことが、それだけで充分幸せなんだ。
 だから、契りがいつになったって構わない……ちゃんとそれが、本心だよ」

 そう言うとサヤは……ホッとしたように肩の力を抜き、瞳を潤ませ……俺の肩にこてんと頭を預けてきた……。
 ゔっ……今の話をしてそれをされるのも結構クるんだけど……耐えろ、俺。

「おおきに……。かんにんな……でも、嬉しい……」

 震える声だった。だけど、やっと不安から解放されたといった、気の抜けた声……。
 ……気負っていたんだろうな……。俺がこの話題に触れないから、自分でなんとかしなければって、きっと……。
 俺もサヤに、これに関して聞くなんてできなかったし……お互いに気を回しすぎたのかもな……。

「…………当然のことだと思うよ? 一生を添い遂げるんだから。
 どっちかに無理が偏るなんてことしてたら、続かないじゃないか……」

 サヤが仮面の笑顔になるのも俺は、嫌なんだ……。
 我が儘なんだよ俺は。いちいち気になるし、拘るし……でも、俺をそんな風にしたのは、そうすることを許してくれたのは、サヤなんだからね……。

 なんとか誤解が解けて良かった。
 だけどこれだけ、もうひとつだけ注意しておく必要がある。

「あの夜着は駄目……。
 あれは我慢以前に、我を忘れちゃうから……。それくらい危険だから!
 だからあんな格好はもう絶対しないで、ルーシーとお揃いの夜着は封印!」

 あれを耐えられたのは本気で奇跡だから! 絶対にもう無理だから‼︎
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