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探れない過去 5
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「それは…………っ、だけどそれは、あの方の立場を思えば仕方がないことじゃないか?
神殿と貴族、お互い責任のある身だし……」
「くあぁ~、まだ言いますか。
そもそも今回の孤児だって、信用して良いものですかねぇ!
カタリーナの時みたいに、また何か仕掛けてきてるのかもしれないですよねぇ!」
「っ、あれはっ、マルが勝手にそう思ってるだけだろ⁉︎
アレクは今回だって二人のこと気にかけて、元気にしてるかって聞いてきたしっ」
「それは自分の手駒管理をしているだけじゃありませんかねぇ⁉︎」
「カタリーナたちがそういうのじゃないって、お前は調べて知ってるだろ⁉︎」
売り言葉に買い言葉というか……。
俺もつい、頭に血が上ってしまった。
マルがどうあってもアレクを受け入れまいとしていること。
見当違いの見解で、彼を貶めることに腹が立って。
アレクはそういう人じゃない。
彼がどれほどの苦しみを抱えているか、マルは知らないのに、何でそんなことを言う?
生死に関わるような、髪色を失うような経験をして神殿に来て、その上で更に酷い体験を重ねてきている人だ。
あんな風に感情を殺し尽くさなければならないほどの苦しみを、今も抱えている人だ。
それでも良くあろうと足掻いている。一分一秒をずっと、ずっと、ずっとだ!
彼はギリギリで自分を律している。そこに他者を介入させる余裕なんて、きっと無いんだ!
「もういい!」
そう叫んでマルの言葉を遮った。
これ以上を聞いていたくなかった。
マルはアレクを受け入れる気が、元から無い。自分の得ている情報を分析すれば、その答えしか無いからという理由で。
だけど人は、そういうものじゃないだろ。
情報だけで全てが見通せるわけじゃない。
数字にならないものだって、抱えている……言葉にできないことだって、抱えている。そういうものだろう⁉︎
部屋に逃げ込んだら、俺たちの言い争いなど気にも止めていなかったハインが、俺の荷の整理を続けていた。
ハインは賄いの準備があったから留守番していたのだけど、どうやら下準備は既に終わったらしい。
俺がそのまま寝台に直行して上掛けの中に潜り込んだら、これ見よがしな溜息が聞こえてきた。
「マルの意見がああいう立ち位置になることくらい、分かっているでしょうに」
「お前までマルに賛成するのかよ⁉︎」
「まぁ、マルの意見には一理あると思います」
その言葉とともに上掛けをはぎ取られたけれど、丁寧にかけ直された……。
「皆が貴方の言うことを是としていたのでは、直ぐに共倒れです。
貴方のものの考え方は、明らかに偏っていますから」
「俺がそもそも間違ってるって、言いたいのか⁉︎」
「間違ってるでしょう? 人は綺麗事だけでは生きていけません。
貴方にそれができるのは、貴方が貴族で、周りが貴方のそれを、必死で支えているからです」
……………………。
言い返す言葉が無かった……。
俺一人がどれだけ声高に叫んだところで、皆の協力がなければ何ひとつできやしないことを、俺は知っていたから……。
ハインの言う通り、俺にこれが許されているのは、俺がそういう立場で、周りに犠牲を強いているから。
皆がそれを俺に、許してくれているからだ……。
「まぁ、今の世に間違ってるのは今更です。それを覆すつもりでいるのですから、当然のことですし。
つまり、あちらも貴方にそうあってほしいと思っているからこそなので、どっちもどっちということですね」
次に聞こえてきたのは、そんな言葉。
「多分、貴方がそうあれることが、皆にとっての幸せに近い形なのでしょう。
貴方はその綺麗事を、本当にしていける人だと、思わせておけば良いと思います。
その考えに基づいて拘るのならば、良いのではないですか。
それに対する説明責任はあると思いますが」
猛省した。
俺はマルに、アレクの情報を与えていない。
なのに、俺の見ているものが、マルに見えるはずがないではないか……。
寝台の上で丸くなって、己の間違いを恥じていたら、コンコンと訪を告げる音。
ハインが対応してくれるようで、気配が遠退く。
そうして、どうされてますか? 不貞腐れてます。みたいな言葉のやり取りが聞こえて、俺は更に身を縮めた。
やらかした。
よくよく考えたら、サヤの前で俺、癇癪起こして部屋に逃げ込んだんだ……。
成人男性のやることじゃない……。なんて子どもっぽいことをしてしまってるんだ俺は。
何かあれば部屋に逃げ込む。そう思われていたらどうしよう!
「任せて宜しいですか?」
「はい、あの……二人で話してみます」
「そうしてください。
マルには私から言っておきます」
それでハインと来訪者のやりとりは終わった。
そのままハインは部屋を出て行き、来訪者は部屋に残り、扉を閉めて寝台に近づいて来る。
きしりという音と、気配。寝台に腰掛けたのだろう。そうして俺の丸まった背に、何かが触れた。
「…………難しい……なぁ。
あれを、マルさんに言うべきなんか……」
サヤの声。
彼女の言うアレは、アレクの……身体と心を切り売りしているような、あの行為のこと。
俺とサヤしか気付いていない……アレクの闇……。
「アレクさんは、正しいことやとは、思うてへん……。
それでもああしてはるし、それをとやかく言われたないんやろうなって、思うし……」
呟くようなサヤの言葉に、俺は返事を返す。
「…………アレクは言葉にしていない。認めてない……。
それを俺たちが口にするのは、おかしいと思う……」
「うん……」
何事も起こっていないのだと、それは貴方の勘違いだと、アレクはその無理を押し通した。
溢れた負の感情を押さえ込み、笑って、そう言ったのだ……。
なのにそれを俺たちが決めつけて、本人のいない場所で口にすべきではないと思う。
それをしてしまったら、アレクはもう一生……俺に心を開いてはくれないだろう……。
まだ……信用してもらっていない。それは分かっている。
だけど俺は、可能性を残していたい。
あの人を、一人きりにしてはいけない。そう、思うのだ……。
「正しいことが、その人にとって救いになるかどうかは、別やもんね……」
「うん……」
サヤも知らない。
アレクの中に蠢いていた、あの闇を。
俺と、アレクだけだ。お互いが、理解していると分かっているのは。
アレクは一度、距離を置こうとした。
だけどそれでも、俺と繋がっておく方を選んだ。
だから、そこにまだ希望があるのだと、思うのだ。思っていたい……!
「……マルさんがな、レイは相手に心を寄せすぎる……気持ちを理解しようと、重ねすぎるから心配やって、言うてた」
上掛けに置かれたサヤの手が、ゆっくりと俺の肩をさすって、言葉を紡ぐ。
「信じようと思うて裏切られたら……レイが立ち直れへんようになるんやないかって。
せやけどレイは、信じたいんやもんな。仕方がない……。傷付く覚悟かて、してるんやって、ことやろ?」
「うん」
彼はきっと、成したい何かがある。
だから食らいついている。
俺に協力してくれるのも、その目的を成すためなのだと思う。
だから……いつかそれを教えて欲しい。力になりたいのだ。俺に皆がいてくれたように、俺もアレクを、孤独にしたくない。
「だけど俺の勝手な気持ちを、説明なしに押し付けてたのは、反省してる……。
話せないけど……俺なりに考えた結果だってことは、後でちゃんと、マルに説明する……」
「うん」
ぽんぽんと、二回。
サヤの手が優しく俺の肩を叩いて。
「私はレイのしたいようにしたらええと、思う。応援する」
そう言ってくれた。
神殿と貴族、お互い責任のある身だし……」
「くあぁ~、まだ言いますか。
そもそも今回の孤児だって、信用して良いものですかねぇ!
カタリーナの時みたいに、また何か仕掛けてきてるのかもしれないですよねぇ!」
「っ、あれはっ、マルが勝手にそう思ってるだけだろ⁉︎
アレクは今回だって二人のこと気にかけて、元気にしてるかって聞いてきたしっ」
「それは自分の手駒管理をしているだけじゃありませんかねぇ⁉︎」
「カタリーナたちがそういうのじゃないって、お前は調べて知ってるだろ⁉︎」
売り言葉に買い言葉というか……。
俺もつい、頭に血が上ってしまった。
マルがどうあってもアレクを受け入れまいとしていること。
見当違いの見解で、彼を貶めることに腹が立って。
アレクはそういう人じゃない。
彼がどれほどの苦しみを抱えているか、マルは知らないのに、何でそんなことを言う?
生死に関わるような、髪色を失うような経験をして神殿に来て、その上で更に酷い体験を重ねてきている人だ。
あんな風に感情を殺し尽くさなければならないほどの苦しみを、今も抱えている人だ。
それでも良くあろうと足掻いている。一分一秒をずっと、ずっと、ずっとだ!
彼はギリギリで自分を律している。そこに他者を介入させる余裕なんて、きっと無いんだ!
「もういい!」
そう叫んでマルの言葉を遮った。
これ以上を聞いていたくなかった。
マルはアレクを受け入れる気が、元から無い。自分の得ている情報を分析すれば、その答えしか無いからという理由で。
だけど人は、そういうものじゃないだろ。
情報だけで全てが見通せるわけじゃない。
数字にならないものだって、抱えている……言葉にできないことだって、抱えている。そういうものだろう⁉︎
部屋に逃げ込んだら、俺たちの言い争いなど気にも止めていなかったハインが、俺の荷の整理を続けていた。
ハインは賄いの準備があったから留守番していたのだけど、どうやら下準備は既に終わったらしい。
俺がそのまま寝台に直行して上掛けの中に潜り込んだら、これ見よがしな溜息が聞こえてきた。
「マルの意見がああいう立ち位置になることくらい、分かっているでしょうに」
「お前までマルに賛成するのかよ⁉︎」
「まぁ、マルの意見には一理あると思います」
その言葉とともに上掛けをはぎ取られたけれど、丁寧にかけ直された……。
「皆が貴方の言うことを是としていたのでは、直ぐに共倒れです。
貴方のものの考え方は、明らかに偏っていますから」
「俺がそもそも間違ってるって、言いたいのか⁉︎」
「間違ってるでしょう? 人は綺麗事だけでは生きていけません。
貴方にそれができるのは、貴方が貴族で、周りが貴方のそれを、必死で支えているからです」
……………………。
言い返す言葉が無かった……。
俺一人がどれだけ声高に叫んだところで、皆の協力がなければ何ひとつできやしないことを、俺は知っていたから……。
ハインの言う通り、俺にこれが許されているのは、俺がそういう立場で、周りに犠牲を強いているから。
皆がそれを俺に、許してくれているからだ……。
「まぁ、今の世に間違ってるのは今更です。それを覆すつもりでいるのですから、当然のことですし。
つまり、あちらも貴方にそうあってほしいと思っているからこそなので、どっちもどっちということですね」
次に聞こえてきたのは、そんな言葉。
「多分、貴方がそうあれることが、皆にとっての幸せに近い形なのでしょう。
貴方はその綺麗事を、本当にしていける人だと、思わせておけば良いと思います。
その考えに基づいて拘るのならば、良いのではないですか。
それに対する説明責任はあると思いますが」
猛省した。
俺はマルに、アレクの情報を与えていない。
なのに、俺の見ているものが、マルに見えるはずがないではないか……。
寝台の上で丸くなって、己の間違いを恥じていたら、コンコンと訪を告げる音。
ハインが対応してくれるようで、気配が遠退く。
そうして、どうされてますか? 不貞腐れてます。みたいな言葉のやり取りが聞こえて、俺は更に身を縮めた。
やらかした。
よくよく考えたら、サヤの前で俺、癇癪起こして部屋に逃げ込んだんだ……。
成人男性のやることじゃない……。なんて子どもっぽいことをしてしまってるんだ俺は。
何かあれば部屋に逃げ込む。そう思われていたらどうしよう!
「任せて宜しいですか?」
「はい、あの……二人で話してみます」
「そうしてください。
マルには私から言っておきます」
それでハインと来訪者のやりとりは終わった。
そのままハインは部屋を出て行き、来訪者は部屋に残り、扉を閉めて寝台に近づいて来る。
きしりという音と、気配。寝台に腰掛けたのだろう。そうして俺の丸まった背に、何かが触れた。
「…………難しい……なぁ。
あれを、マルさんに言うべきなんか……」
サヤの声。
彼女の言うアレは、アレクの……身体と心を切り売りしているような、あの行為のこと。
俺とサヤしか気付いていない……アレクの闇……。
「アレクさんは、正しいことやとは、思うてへん……。
それでもああしてはるし、それをとやかく言われたないんやろうなって、思うし……」
呟くようなサヤの言葉に、俺は返事を返す。
「…………アレクは言葉にしていない。認めてない……。
それを俺たちが口にするのは、おかしいと思う……」
「うん……」
何事も起こっていないのだと、それは貴方の勘違いだと、アレクはその無理を押し通した。
溢れた負の感情を押さえ込み、笑って、そう言ったのだ……。
なのにそれを俺たちが決めつけて、本人のいない場所で口にすべきではないと思う。
それをしてしまったら、アレクはもう一生……俺に心を開いてはくれないだろう……。
まだ……信用してもらっていない。それは分かっている。
だけど俺は、可能性を残していたい。
あの人を、一人きりにしてはいけない。そう、思うのだ……。
「正しいことが、その人にとって救いになるかどうかは、別やもんね……」
「うん……」
サヤも知らない。
アレクの中に蠢いていた、あの闇を。
俺と、アレクだけだ。お互いが、理解していると分かっているのは。
アレクは一度、距離を置こうとした。
だけどそれでも、俺と繋がっておく方を選んだ。
だから、そこにまだ希望があるのだと、思うのだ。思っていたい……!
「……マルさんがな、レイは相手に心を寄せすぎる……気持ちを理解しようと、重ねすぎるから心配やって、言うてた」
上掛けに置かれたサヤの手が、ゆっくりと俺の肩をさすって、言葉を紡ぐ。
「信じようと思うて裏切られたら……レイが立ち直れへんようになるんやないかって。
せやけどレイは、信じたいんやもんな。仕方がない……。傷付く覚悟かて、してるんやって、ことやろ?」
「うん」
彼はきっと、成したい何かがある。
だから食らいついている。
俺に協力してくれるのも、その目的を成すためなのだと思う。
だから……いつかそれを教えて欲しい。力になりたいのだ。俺に皆がいてくれたように、俺もアレクを、孤独にしたくない。
「だけど俺の勝手な気持ちを、説明なしに押し付けてたのは、反省してる……。
話せないけど……俺なりに考えた結果だってことは、後でちゃんと、マルに説明する……」
「うん」
ぽんぽんと、二回。
サヤの手が優しく俺の肩を叩いて。
「私はレイのしたいようにしたらええと、思う。応援する」
そう言ってくれた。
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★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
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