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産みの苦しみ 4
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「草紙にも思いっきり、付録の宣伝を刷り込んでやったし、アギーの社交界全体を巻き込んだ大きな仮装夜会、絶対に話題になってるわよ。
だから、後は思うことをそこで、盛り込むだけ」
今年最後の草紙には、この一年かけて綴られた物語、その裏話が社交界にて公開されると記された。
人の悪い笑みを浮かべるクララ。
クララ本人はまだ成人前の身で、社交界には庇護者同伴でなければ、参加が叶わない。
しかし、今回は特別出演と称して参加する。無論、作家枠である……。くそ、扮装回避しやがった。
「まぁとにかく。この麗しい主を直視できるように練習しておきなさいな。良かったじゃない、貴方一人が生贄じゃなくて」
「これはこれでだいぶんヤバイ気がしていますけどね……」
どこか絶望に近い表情になってしまっているオブシズ。
そりゃ、物語の扮装とは言え相手役が男じゃな……。絶望したくもなる。
そんなオブシズ本人はというと、それはそれは凛々しい偉丈夫にできあがっていた。
衣服の色合いは、深く落ち着いた緑と茶が基本。
ウエディングドレスなるものでも見たが、上着に襟が付くのがサヤの国の衣装には多いのだという。
不思議な瞳の色と相まって、本当に、物語の世界から抜け出してきたかのようだ。
「ブラウスやシャツにも襟はあるのですけれど、形が全く違うので首が出てしまいます。
なので、上着の前をきっちり締める形でスタンドカラー。そして軍服とくれば、この形かなと」
アイザックジャケットという名前なんです。と、サヤ。
立襟の着いた上着のような形だが、前見頃に釦が二列に並んでおり、きっちりと前を閉めて着る。そしてベルトを上着の上に巻くという、かなり変わった装いだ。
また、両肩には房飾りが付いており、右肩からは丸紐の飾りを垂らし胸飾に繋げてある。……この紐はなんのためにあるのだろう……。
まぁ、特徴的なのはその上着部分のみ。細袴等は見慣れた形状だし、そんなに奇抜であったりはしない。
「本当はベルトに剣帯を付けたり、マントを羽織ったりもするんですけど、室内ですし、当日は帯剣できませんから外しています。
あとは、胸元に勲章をいくつか飾りますし、上着にも刺繍がもう少し増えます」
途端にしゅんとなってしまったルーシー。
「刺繍、間に合わなくてすいません……」
「大丈夫ですよ。越冬はこれからなんですから。寧ろ、早く進んでるくらいですよ!」
サヤの言葉に、途端に元気を取り戻した。
そこにヨルグが付け足す。
「あぁ、そうそう。勲章の方だけど、こちらはもうすぐ完成するわ」
「早いですね、有難うございます!」
そんなサヤが纏う巫女の衣服は、そのアイザックジャケットなるものをもっと長くした感じだ。
腰にベルトは無く、二列の釦で留められた前布が、太腿辺りから見頃にくっついておらず前に垂れていて、その長い上着のような形状の下にもう一枚、袴を着用している。
色は基本的に白く、袴や飾りは冴えた赤色が使われている。
サヤ曰く「私の国で巫女と言えば、白と赤なんです」とのこと。
黒髪に白と赤。とても映える。本日も俺の女神は完璧だ。
そして俺が纏うのは、対照的に青が基本となる衣装だ。
立襟で、袖は無いものの、後はつま先まで全身を覆う形。ドレスというものらしい。ワンピースの更に長いやつだ。
真っ青なそのドレスの腰に、白い紗の腰帯を巻き、前側に長く垂らしているのだが、これにも後日刺繍が入るそうだ。
そしてその上から、白くて長い上着を纏っている。こちらには袖が付いていたが、随分と長く、変わった形の袖だ。
「振袖の雰囲気を取り入れたんです。
レイシール様は男性ですし、体型の誤魔化しも兼ねて」
上着は胸前に着いた飾りで留められている。どこかサヤの着た、水の乙女の衣装に近い、清楚な雰囲気だ。露出が少ないことだけは救いだな……。
「髪が長かったら完璧な姫だったのに……」
「かつらで誤魔化すんだから良いでしょ。だから物語の髪色を再現できるわよ」
「そっか! 完璧ですっ。最高っ。あぁ、夢みたいです!」
大変盛り上がっているルーシーには申し訳ないが、苛立ちしか感じない……。
「姫の装飾品。まだ殆どできていないの。ごめんなさい」
「衣装の雰囲気ができてからでないと、難しいっておっしゃってましたもんね。
でも、胸の上着飾りは完璧です。あの雰囲気に合わせていただければ」
「分かったわ」
そうして、概ね衣装は問題無しとなった。
今日の仕事はここまでにしよう……。もう心が折れそうだ……。
小部屋に戻り、仮縫いの状態だった衣装を慎重に脱いで、それはまた、ルーシーとギルに託された。
男用の礼装に戻り、あとはこの塗りたくられた顔面だけと、ごしごし手拭いで擦っていたら、そんな風にしても落ちないですよとサヤが来て。
「擦ったから赤くなってますよ……」
「だって落ちないんだよこれ……」
むくれている俺に、ちょっと待っててくださいね。と、そう言った。
サヤ本人も衣装を脱ぎ、本日は女性用の礼装を纏い直している。
午後から祝詞の祝いに参加するためだ。
長椅子に促され、座らされて、懐から取り出されたのは……ツバキ油?
「しっかりとした化粧は落ちにくいので、これを使いますね」
小瓶の油をまず数滴。自身の指に馴染ませながら、目を閉じてくださいと言われ、言われるがまままぶたを閉じた。
その閉ざされた瞳の上を、サヤの指がくるくる、円を描くように踊り、目元に油を塗り込んでいく。
次は、唇……そして頬や額。
ハインが湯を持ってきますねとサヤに告げて、皆が部屋を出ていく気配……。
「……油、いっぱい使いすぎじゃない?」
「今年は種が沢山取れましたから、使っても大丈夫ですよ。
それに擦って肌を傷付けてしまってますから……肌の保湿も兼ねて。
椿油は肌に馴染みやすい、優しい性質なので」
ハインが戻ってきて、小机に盥等を置いている、ことことという音。
「仕度が済みましたら、執務室にお越しください」
それだけ言い残して出て行き、部屋は静寂に包まれた。
「次は、手拭いで拭き取りますね」
淡々としたサヤの言葉。
「うん……」
居た堪れないとは、このことだ。
よりにもよって、恋人の前で女装……。最低だ。自分が提案してしまったことだけに、逃げるに逃げられず……。
サヤは俺の姿を見て何も言わなかった……。きっと呆れたのだろうし、俺のこと、格好悪いと思ったろう……。
ただでさえ普段から不甲斐ないのに、これ以上評価を下げてどうする俺……。
そんな風に考え、気分が塞ぐばかりだ。
鬱々としていたら、顔に湯で濡らされた手拭いが当てられた。
そっと顔に押し当てるようにして、油を拭き取り……。
「あんな、こんな風に言ったら、レイは嫌かもしれへんけど……。
凄く、綺麗で、似合うてたで? 本当……お姫様みたいやった」
「………………」
うん。喜べませんね……。
無言の俺に、サヤはまた黙ってから。
「……怒ってる?」
今回の衣装、考えたのはサヤで、俺が女装は嫌だと言っていたにも関わらず、用意されたのは女性用だった。
サヤは当然、俺が女装しなければならないのを分かっていたのだ。
恐る恐るそう問われて、怒ってはいないよと、渋々告げる。
俺が気にしてるのは、サヤが俺をどう思うかだけ。
「格好いい思うたで?」
……は?
「凄う、似合うてたって、言うたやろ?」
…………え、ちょっと待って。
「……女装だよ?」
「女装やけど……コスプレは難しいんやで? 特に、男の人が女の人をするのんは……。
せやし、レイが凄う綺麗で、格好いいって思うた。あっちで見た、どんなレイヤーさんより綺麗やった」
「……レイヤーさん……」
「コスプレを凄いする人達のこと。女装コスしてる人いっぱいいてるけど、レイが一番似合うてたと思う。
写真を撮る一瞬やのうて、ちゃんと全部、お姫様みたいやったし」
似合う似合うと力説され、恐る恐るサヤの顔を見た。
今までサヤの反応が怖くて顔を見れなかったのだけど、サヤは……言葉通り、頬を染めて興奮していた……。
え、なんでそんな顔になる?
「……気持ち悪くない?」
「悪くなかった。似合うてたもん」
「……あれ? なんか齟齬がないかなこれ……」
「?」
「女装だよ?」
「うん。でもコスって、性別とか超越するし」
………………。
うん、考えないことにしよう。
とりあえずサヤは俺に幻滅してないようなので、それで良いことにした。
だから、後は思うことをそこで、盛り込むだけ」
今年最後の草紙には、この一年かけて綴られた物語、その裏話が社交界にて公開されると記された。
人の悪い笑みを浮かべるクララ。
クララ本人はまだ成人前の身で、社交界には庇護者同伴でなければ、参加が叶わない。
しかし、今回は特別出演と称して参加する。無論、作家枠である……。くそ、扮装回避しやがった。
「まぁとにかく。この麗しい主を直視できるように練習しておきなさいな。良かったじゃない、貴方一人が生贄じゃなくて」
「これはこれでだいぶんヤバイ気がしていますけどね……」
どこか絶望に近い表情になってしまっているオブシズ。
そりゃ、物語の扮装とは言え相手役が男じゃな……。絶望したくもなる。
そんなオブシズ本人はというと、それはそれは凛々しい偉丈夫にできあがっていた。
衣服の色合いは、深く落ち着いた緑と茶が基本。
ウエディングドレスなるものでも見たが、上着に襟が付くのがサヤの国の衣装には多いのだという。
不思議な瞳の色と相まって、本当に、物語の世界から抜け出してきたかのようだ。
「ブラウスやシャツにも襟はあるのですけれど、形が全く違うので首が出てしまいます。
なので、上着の前をきっちり締める形でスタンドカラー。そして軍服とくれば、この形かなと」
アイザックジャケットという名前なんです。と、サヤ。
立襟の着いた上着のような形だが、前見頃に釦が二列に並んでおり、きっちりと前を閉めて着る。そしてベルトを上着の上に巻くという、かなり変わった装いだ。
また、両肩には房飾りが付いており、右肩からは丸紐の飾りを垂らし胸飾に繋げてある。……この紐はなんのためにあるのだろう……。
まぁ、特徴的なのはその上着部分のみ。細袴等は見慣れた形状だし、そんなに奇抜であったりはしない。
「本当はベルトに剣帯を付けたり、マントを羽織ったりもするんですけど、室内ですし、当日は帯剣できませんから外しています。
あとは、胸元に勲章をいくつか飾りますし、上着にも刺繍がもう少し増えます」
途端にしゅんとなってしまったルーシー。
「刺繍、間に合わなくてすいません……」
「大丈夫ですよ。越冬はこれからなんですから。寧ろ、早く進んでるくらいですよ!」
サヤの言葉に、途端に元気を取り戻した。
そこにヨルグが付け足す。
「あぁ、そうそう。勲章の方だけど、こちらはもうすぐ完成するわ」
「早いですね、有難うございます!」
そんなサヤが纏う巫女の衣服は、そのアイザックジャケットなるものをもっと長くした感じだ。
腰にベルトは無く、二列の釦で留められた前布が、太腿辺りから見頃にくっついておらず前に垂れていて、その長い上着のような形状の下にもう一枚、袴を着用している。
色は基本的に白く、袴や飾りは冴えた赤色が使われている。
サヤ曰く「私の国で巫女と言えば、白と赤なんです」とのこと。
黒髪に白と赤。とても映える。本日も俺の女神は完璧だ。
そして俺が纏うのは、対照的に青が基本となる衣装だ。
立襟で、袖は無いものの、後はつま先まで全身を覆う形。ドレスというものらしい。ワンピースの更に長いやつだ。
真っ青なそのドレスの腰に、白い紗の腰帯を巻き、前側に長く垂らしているのだが、これにも後日刺繍が入るそうだ。
そしてその上から、白くて長い上着を纏っている。こちらには袖が付いていたが、随分と長く、変わった形の袖だ。
「振袖の雰囲気を取り入れたんです。
レイシール様は男性ですし、体型の誤魔化しも兼ねて」
上着は胸前に着いた飾りで留められている。どこかサヤの着た、水の乙女の衣装に近い、清楚な雰囲気だ。露出が少ないことだけは救いだな……。
「髪が長かったら完璧な姫だったのに……」
「かつらで誤魔化すんだから良いでしょ。だから物語の髪色を再現できるわよ」
「そっか! 完璧ですっ。最高っ。あぁ、夢みたいです!」
大変盛り上がっているルーシーには申し訳ないが、苛立ちしか感じない……。
「姫の装飾品。まだ殆どできていないの。ごめんなさい」
「衣装の雰囲気ができてからでないと、難しいっておっしゃってましたもんね。
でも、胸の上着飾りは完璧です。あの雰囲気に合わせていただければ」
「分かったわ」
そうして、概ね衣装は問題無しとなった。
今日の仕事はここまでにしよう……。もう心が折れそうだ……。
小部屋に戻り、仮縫いの状態だった衣装を慎重に脱いで、それはまた、ルーシーとギルに託された。
男用の礼装に戻り、あとはこの塗りたくられた顔面だけと、ごしごし手拭いで擦っていたら、そんな風にしても落ちないですよとサヤが来て。
「擦ったから赤くなってますよ……」
「だって落ちないんだよこれ……」
むくれている俺に、ちょっと待っててくださいね。と、そう言った。
サヤ本人も衣装を脱ぎ、本日は女性用の礼装を纏い直している。
午後から祝詞の祝いに参加するためだ。
長椅子に促され、座らされて、懐から取り出されたのは……ツバキ油?
「しっかりとした化粧は落ちにくいので、これを使いますね」
小瓶の油をまず数滴。自身の指に馴染ませながら、目を閉じてくださいと言われ、言われるがまままぶたを閉じた。
その閉ざされた瞳の上を、サヤの指がくるくる、円を描くように踊り、目元に油を塗り込んでいく。
次は、唇……そして頬や額。
ハインが湯を持ってきますねとサヤに告げて、皆が部屋を出ていく気配……。
「……油、いっぱい使いすぎじゃない?」
「今年は種が沢山取れましたから、使っても大丈夫ですよ。
それに擦って肌を傷付けてしまってますから……肌の保湿も兼ねて。
椿油は肌に馴染みやすい、優しい性質なので」
ハインが戻ってきて、小机に盥等を置いている、ことことという音。
「仕度が済みましたら、執務室にお越しください」
それだけ言い残して出て行き、部屋は静寂に包まれた。
「次は、手拭いで拭き取りますね」
淡々としたサヤの言葉。
「うん……」
居た堪れないとは、このことだ。
よりにもよって、恋人の前で女装……。最低だ。自分が提案してしまったことだけに、逃げるに逃げられず……。
サヤは俺の姿を見て何も言わなかった……。きっと呆れたのだろうし、俺のこと、格好悪いと思ったろう……。
ただでさえ普段から不甲斐ないのに、これ以上評価を下げてどうする俺……。
そんな風に考え、気分が塞ぐばかりだ。
鬱々としていたら、顔に湯で濡らされた手拭いが当てられた。
そっと顔に押し当てるようにして、油を拭き取り……。
「あんな、こんな風に言ったら、レイは嫌かもしれへんけど……。
凄く、綺麗で、似合うてたで? 本当……お姫様みたいやった」
「………………」
うん。喜べませんね……。
無言の俺に、サヤはまた黙ってから。
「……怒ってる?」
今回の衣装、考えたのはサヤで、俺が女装は嫌だと言っていたにも関わらず、用意されたのは女性用だった。
サヤは当然、俺が女装しなければならないのを分かっていたのだ。
恐る恐るそう問われて、怒ってはいないよと、渋々告げる。
俺が気にしてるのは、サヤが俺をどう思うかだけ。
「格好いい思うたで?」
……は?
「凄う、似合うてたって、言うたやろ?」
…………え、ちょっと待って。
「……女装だよ?」
「女装やけど……コスプレは難しいんやで? 特に、男の人が女の人をするのんは……。
せやし、レイが凄う綺麗で、格好いいって思うた。あっちで見た、どんなレイヤーさんより綺麗やった」
「……レイヤーさん……」
「コスプレを凄いする人達のこと。女装コスしてる人いっぱいいてるけど、レイが一番似合うてたと思う。
写真を撮る一瞬やのうて、ちゃんと全部、お姫様みたいやったし」
似合う似合うと力説され、恐る恐るサヤの顔を見た。
今までサヤの反応が怖くて顔を見れなかったのだけど、サヤは……言葉通り、頬を染めて興奮していた……。
え、なんでそんな顔になる?
「……気持ち悪くない?」
「悪くなかった。似合うてたもん」
「……あれ? なんか齟齬がないかなこれ……」
「?」
「女装だよ?」
「うん。でもコスって、性別とか超越するし」
………………。
うん、考えないことにしよう。
とりあえずサヤは俺に幻滅してないようなので、それで良いことにした。
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★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
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