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均衡 6

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「なんか想定外のことが多くてびっくりするよ……」
「そうですね。ですが、やはり見る方は見ており、レイシール様が認められていることが、私は誇らしく感じます」

 認められてる……のか、なぁ?

「流石レイシール殿。ですな!」

 陛下からの使者。それはやはりというか、フィオレンティーナ殿だった。
 相変わらず小柄であるものの、男と見紛う猛々しさ。
 だが今回は男装ではない。

「とても凛々しいですね。式典の正装も良かったですが、こちらはまた趣が違う」

 フィオレンティーナ様は、紺を基本とした服装。正装ほど煌びやかではなく、より実戦向きに簡略化されている風だった。

「正装から崩して作られた制服でござる。
 ギルバート殿、これをたった一月ほどで完成させたのだ。流石の手腕と感心致した!」

 ギルは、王都に居残りしている間に、近衛の制服を完成させていた。いやはや、仕事が速い。

 形としては、正装とほぼ変わらないよう。装飾を極力減らし、実戦使用に整えられているよう。
 本日のフィオレンティーナ殿は、太腿部分のふんわりとした細袴に中衣、そして背側が長い上着といういでたちだ。

「拙者はこの細袴が気に入ってござる。男物より足運びが楽に感じるうえに、袴のようにバサバサせぬのだ!
 隊長とマルグは袴に見える細袴で、ロレッタ、ディアはこの細袴に巻き袴というのが多い」

 うん。なんとなく想定していた感じだ。

「男装よりも動きやすくなるとは思わなんだ。拙者、あれが最も動きやすいと思っておったのだがな」
「女性は身体に独特の凹凸がありますからね。ギルは常々、動きを妨げないことに拘っていました」
「よもや、体感する日が来ようとは」

 いや、貴女それはどうなんですか……。
 確かにフィオレンティーナ殿はとても筋骨隆々で、あまり女性らしさが体型には出ていない気はするけども。

 まぁ、でも……数ヶ月ぶりにお会いしても、変わらず元気で、まったく陰りを見せない彼女。
 どうやら洗礼を上手く掻い潜り、彼女らは彼女ららしく、やっていっているのだろう。
 先程のエヴェラルド殿のこともあり、余計それに安堵を覚えた。彼は仲間が少なかったのだろう……。

「只今戻った!」
「おかえりーっ。レイ様も久しぶり!」
「サヤ、待ってた」
「首を長くして待ってたわよねぇ」

 最後の方はサヤに対する揶揄いの言葉。
 言われたサヤは、いえそんなっ、と、わたわた慌てる。そしてそれをまた囃し立てられ、俯いてしまった。

 陛下のお部屋は華やか。揃いの制服に身を包んだ女近衛の面々が集っており、中にはサヤと、オブシズもいた。
 実は朝一番で入宮し、陛下との謁見も済ませていたのだ。
 会合の間、関係者以外は会場に立ち入れない。武官や従者は待合室で待機となるのだが、この二人をそこに行かせると、色々問題が起こりそうだった。
 本当は、二人ともバート商会で留守番しておいて欲しかったのだけど……来ると言って聞かなかったし。
 それと、長という立場の体面上、従者と武官を連れていないというのは、些か礼儀に適っていない。王宮はそういう形式にこだわるため、そんな細かいことが特に言われるのだ。

 俺が迎えに来たことを揶揄われたサヤは赤く染まっていたけれど、それでも俺に微笑みかけてくれた。

「お帰りなさいませ」
「ただいま。サヤ、オブシズも問題無かった?」
「はい」
「ここで問題なんて起こさないわよねーっ」
「来ても返り討ち」
「不浄場にも護衛付きゆえ、ご安心召されよ!」

 最後の一言は余計だったと思う……。
 サヤが申し訳ないやら、恥ずかしいやらで、また俯いてしまった。

「すまぬな。こやつらも頑張ってはいるのだが、如何せん、数の不利は否めぬ。なかなかに女近衛は崖っ淵よ」

陛下がそう説明してくれたけれど、皆はそうは、思っていないよう。

「えー、そうですかぁ? でも私たち、模擬戦では結構いい感じですよ?」
「己の得物でなら、負けない」
「近衛とは流石に厳しいけど、一般騎士なら結構な勝率よねぇ」

 おや、もう鍛錬場では男性に紛れていることが可能になったらしい。
 たった数ヶ月で針の筵を脱しているらしいことに驚いた。

「ふっふっふ、そりゃヴァイデンフェラーの鍛錬、こんなもんじゃないもん。私にはここの鍛錬じゃ、物足りないくらいだったからね!」
「遠射も、森ならもっと木々が邪魔する。障害物が少ない、楽」
「力で来るだけなんだもの。そんなのいつだってそうだったんだから、当然いなす方法だって熟練してるに決まってるじゃないのねぇ」
「「ねーっ!」」
「相手にしてもらえぬゆえな。無理やり雪崩れ込んで強引に試合を強奪してやったでござる!
 こちらの実力を示すにはそれしかないということでな!」

 キャッキャとはしゃいでいる女近衛の面々であったけど、やってたことは相当だった……。
 いや、雪崩れ込んで奪うって……。リヴィ様に怒られなかったのかな……。

「なんでもして良いって、陛下が仰ってくれたんだ。
 とにかく実力を認めさせよ! 女と侮る輩は脳筋だ、力で勝てばぐうの音も上がらぬわ! って、凄い格好良かったんだから!
 隊長も三人抜きしたら、結構認められるようになったんだよ。
 仲良くなった騎士もいるしね。まぁ……まだ少数なんだけど」
「それでも、前よりはずっと動きやすくなったわねぇ」

 そんな風に笑い合う女性陣。
 独りではなく、お互いという仲間がいることが、彼女らには良く作用したのだろう。

「貴女たち、作法がなってません。レイ殿は貴女たちより上役。言葉を謹みなさい」

 奥の部屋から、リヴィ様がやって来た。
 まず皆をそう嗜めたものの、リヴィ様は何故か台車を押しており……上には茶器と菓子類が置かれていて、女中はどうしたのだろうと首を傾げる。
 そんな俺に対しリヴィ様は、にこりと微笑んで会合お疲れ様と、労いの言葉をくれた。

「陛下のご要望がありましたから、お茶にします。今日はサヤが持って来てくれたお菓子がありますもの。
 レイ殿もお付き合いくださるかしら? このお茶、私が入れましたの。最近ようやっと、良い香りがたつようになったのよ」

 思いの外、弾んだ口調。明るい表情のリヴィ様。
 サヤが持って来たお菓子という言葉にが歓声が上がり、またリヴィ様に嗜められる。
 けれど……。
 女近衛の皆は、どうやら日々に充実感を感じているよう。それは充分伝わって来て……。

「はい、ご相伴に預かります」

 俺も笑って、そう答えた。
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