693 / 1,121
閑話 夫婦 13
しおりを挟む
マルのこと……。好奇心を満たすまで、情報を得るだけの相手のつもりだったと、ローシェンナは言った。
「だけどあいつ、私の予想以上に変人で、好奇心の塊だった。しかも知識欲に見境がないじゃない?
あたしが獣化を初めて見せた時すら、どうやって身体を変形させるのかって、そっちの興味ばかりでねぇ。
まさか人に、あそこまで無条件に受け入れられるだなんて、想像していなかったから……線を引く機会を逃しちゃったのよねぇ……」
新たな知識に大興奮してむしゃぶりつくマルと、それに翻弄されるローシェンナ。
二人の若かりし頃を想像すると、なんだかおかしかった。
笑えるような気分じゃなかったはずなのに、ささくれていた気持ちがほんの少しだけ、癒された気がした。
「あんな風に獣人を受け入れられる変人、あいつくらいのものだと思ったのに……世の中って本当、予想の上をいくわぁ」
「…………」
「マルクスが、どこで何をしているかは、ずっと知ってた。
仕事柄、そういうのは調べ易かったから……。それがまた良くなかったのよねぇ。どうしても最後は、あの目に看取ってもらいたいって、思っちゃったの。
人とか獣とかじゃなく、あたしを見てくれる目で……見てほしかった……。
それに、あいつがあたしを探していることも、獣人を調べていることも知ってたわぁ。
どこかで区切りをつけてやらないと、踏み込んじゃいけないところにまで、踏み込んでしまいそうだった。
だから……ちゃんと踏ん切りがつくように、あたしの最後を教えておいてやらないと……って、そんな風に言い訳して……最後の場所をあいつのところにしようって……選んだの」
淡々としたその声音では、苦しみを吐き出しているのか、後悔を吐き出しているのか、それともただ思い出を語っているのか……分からなかった。
岩の上に置かれたの灯りはひとつきりで、ローシェンナの表情は、朧げにしか見えなかったし……。
「そうしたらあいつ、聞いていた以上に壊れてた……。もう、狂ってしまってるのかしらって、何度も疑ったわぁ。
あたしが死ねば、あいつもコロッと死ぬんだろうって、分かってしまったら死ねなくて……。だからそれだけで、獣人を人と証明するだとか、そんなのはあたし、本当はどうでもよかったの……。
あたしはあいつより歳も上だったし、種も違う……。だけど、たまに会って、少しだけ一緒に過ごして……死なないよう見張っておくだけなら、許されるかしらって。
………………あたしもほんと馬鹿、反省してないわねぇ……」
種が違う。それは越えられない隔たりだと思っていた。と、ローシェンナ。
マルはそれを区別しなかった。彼にはそこにある垣根を認識する気が無かった。だから余計に、輝いて見えたのだと……。
きっとサヤも、そう思っているのだろう。
俺とサヤの間には、俺には認識できない垣根がある。
特別な知識を持つサヤにしかそれは、見えやしないのだ……。
だけどローシェンナは、そうしたらねぇ……と、俺の方を見ずに、ただ闇に染まった空を見上げ……空の向こうの、マルを想って……。
「この村には無いはずのものが、あったの……。
ノエミを獣人だって、当然理解して、結婚したホセ。生まれたロゼ……。こんな境遇で、それでも幸せそうに笑って暮らす……。姿すら違うのに。
当たり前の家族みたいにするのよぅ、あの二人。ノエミの頬にね、口づけするのよ、ホセは。
レイルを愛しそうに見つめるの……。獣の姿なのに……全然気にしない。
サナリを抱いて、自分と瞳の形が似てるとか、口元がノエミに似てて可愛いとか言うのよぅ。
そんな様子にね、初めは戸惑いしかなかったわぁ。そんなわけない、あるはずないって……でも…………」
あそこには、幸せしか、ないの……。
そう吐き出したローシェンナ。
泣くのかと思った。だけど、彼女の瞳は涙を流さなかった……。
「手を汚す前に願っていたら……あたしにもあったのかしら……」
マルとの先が……あったのかしら……と、そう言っているのが、手に取るように分かったら……黙ってなど、いられなかった。
「マルは、今だって貴女しか、見ていないよ」
手を汚したとか、そんなこともマルは、全然見ていない。
「あいつは、あたしとの先なんて、考えてすらいないわよぅ」
「それはそうだよ。貴女が望まないのに、それをマルが望もうとするわけがない。
マルは貴女が良ければ良いと思ってる。貴女がおばあちゃんになるまで、それなりの距離を保ちつつ近くにいる。それが貴女が許してくれた距離だから。それであいつは満足なんだ。
マルは……サヤに平気で交配とか、孕むとか、とんでもない言葉を使う……。だけど貴女に対しては言わないでしょう?
あいつは貴女の全部を知ってる。貴女の知らない貴女だって知ってるんだ。
貴女に家庭を匂わせることは、しないよ……。
貴女が傷付くことを、貴女に向かって言うわけがない。苦しむことは、当然排除するんだよ、徹底的に」
俺の根幹にサヤがあるように、マルの行動理由は全て、ローシェンナなのだ。
だから、ローシェンナを苦しめるようなことを、あいつはしない。ローシェンナには、家庭を拒む気持ちがあるって分かっているから。
「なのにあいつは、貴女の望まないことをひとつだけ、譲らない……。
獣人を人だと証明する。それだけは、きっと貴女が何を言っても譲らないよ。
何故だと、思う。どうしてそれだけ、譲らないのか……」
急に畳み掛けるみたいに喋り出した俺に、ローシェンナはびっくりしたのだろう。
瞳を大きく見開いて、寝転がったまま、俺を食い入るように見ていた。
「俺も、マルと同じ風に思うから、あいつの気持ちがよく分かるよ……。
マルが譲らないのは、貴女の隣に、並びたいから……。
貴女がマルを、自分と同じだと思ってくれないから……同じだって、分からせないとって、そう思っているからだ……」
言葉で伝えたって、無意味だと理解しているのだ。
だから、貴女ひとりを納得させるために、世界を動かそうとする。
「あんな自分勝手な男が、獣人を人と認めさせるなんてことを、世を正すためにしてるわけないでしょう?
元から、貴女の名誉を回復するためだけに始めた戦いなんだよ。
全部、貴女ひとりのため。そして貴女を納得させるためなんだ。
だけど、今は少し違うかな……。貴女は貴女ひとりだけの納得では、幸せになってくれないから……貴女の吠狼も幸せにしなきゃと思ってる。
変人だけど、懐は本当に深いから……なんというかこう……ほんと変人だけど……」
結婚とかはどうでも良いのだ……。あいつは、そういう枠で考えてない。
ローシェンナが大切にしているものが、あいつにとっても大切ものなのだ。
あまりに荒唐無稽な話にぽかんとしてしまっているローシェンナ。嘘みたいだけどね、これは本当だよ。
だってマルが俺と共闘すると決めた時、あいつははっきり、自分の目的は、貴女の名誉を回復することだと、口にしたからね。
「それに俺、前に一度だけ、マルの本音を聞いたことがあるんだ。
サヤが俺の婚約者に定まった時、サヤには、幸せになってほしいって。……種の違いなんかに、煩わされてほしくないって……」
あの時感じたのだ。
これは、マルの願いなのだと。マルの、ローシェンナに対する想いなのだと。
種に煩わされてほしくない……あれがマルの本音だ。
「…………俺は、マルみたいに無欲にはなれない。一緒に生きるという確約が欲しい。俺とサヤがちゃんと繋がってるって分かる約束が。
俺は自分に自信がないから……共にあるだけじゃ、不安で立っていられない……。
いつでも触れられなきゃ、確認できなきゃ、怖い。俺は本当に矮小な人間なんだよ。
喜んでほしい人が、幸せだって思ってほしい人が、隣にいてくれなきゃ……サヤが、俺の隣で笑ってくれなきゃ……俺は、なんのために…………」
なんのために、頑張れば良いのか、分からなくなる……。
だってな……自分の幸せを考えてなきゃ駄目だって……俺も幸せにならなきゃ駄目だって、サヤが言ったんだ。
「俺が幸せだって思うためには、サヤが必要なのに……サヤにそれが、伝わらない……。
サヤと出会うまで、俺には何もなかったんだ……。俺は世界の何とも、歯車を噛み合わせずに空回りしてたんだと思う。繋がれば壊される……そう思ってたしね……。
越えられない垣根は、俺を取り囲んでた……俺は息をすることすら、苦しかった……。
それが、サヤと出会ってから、世界が変わったんだ……。越えられないと思ってた垣根が、ただ線を引いただけだったみたいに、脆くなった。
そこを越えたら、景色が色付いたんだ。音が増えた。色んなものが、美しく感じる、大切に思える。同じものを見て生きてきたはずなのに、まるで変わったんだ。それこそ、異界に来たくらいに、俺の世界が変わった……。
豊かになった。大切だって思えるものが、愛しく感じれるものが、どんどん世界に増えていくんだ。それを恐れなくて良い……怖がらなくて良いんだ!
だから今は、サヤだけじゃない。たくさん大切にしたいものが増えた。義務や責任としてじゃなく心から、ハインやギルや、ここのみんなのためにも頑張りたいって思えるようになった。
だけどそれはやっぱり、サヤがそう思う心を、俺に与えてくれたから、支えてくれるからなんだ……。
俺もサヤを支えたいと思うから、強くなりたいと思うんだ……。サヤの幸せのために、自分や周りの全てを幸せにしたいと思えるんだ。
全部サヤがいてこそなのに……それが、伝わらない……俺の幸せは、全部根幹に、サヤがあるのに……っ」
俺が世界を愛するためには、サヤが必要なんだ。
「血のためとか、家名のためとか、俺にはそれじゃ駄目なんだ。
義務や責任としてじゃなくて、心から愛したい、大切にしたいって、思えるんだよ、サヤといれば……」
サヤが俺の世界の鍵なんだ。
俺は、鎖で雁字搦めだった俺を、解き放ってくれたサヤこそを愛したいんだ。俺の手で幸せにしたいんだ。そのためにこの世界があるんだとさえ、思うのに。
俺の全てをそのために捧げたって良いとすら、思うのに……。
「………………ですって、サヤ」
「だけどあいつ、私の予想以上に変人で、好奇心の塊だった。しかも知識欲に見境がないじゃない?
あたしが獣化を初めて見せた時すら、どうやって身体を変形させるのかって、そっちの興味ばかりでねぇ。
まさか人に、あそこまで無条件に受け入れられるだなんて、想像していなかったから……線を引く機会を逃しちゃったのよねぇ……」
新たな知識に大興奮してむしゃぶりつくマルと、それに翻弄されるローシェンナ。
二人の若かりし頃を想像すると、なんだかおかしかった。
笑えるような気分じゃなかったはずなのに、ささくれていた気持ちがほんの少しだけ、癒された気がした。
「あんな風に獣人を受け入れられる変人、あいつくらいのものだと思ったのに……世の中って本当、予想の上をいくわぁ」
「…………」
「マルクスが、どこで何をしているかは、ずっと知ってた。
仕事柄、そういうのは調べ易かったから……。それがまた良くなかったのよねぇ。どうしても最後は、あの目に看取ってもらいたいって、思っちゃったの。
人とか獣とかじゃなく、あたしを見てくれる目で……見てほしかった……。
それに、あいつがあたしを探していることも、獣人を調べていることも知ってたわぁ。
どこかで区切りをつけてやらないと、踏み込んじゃいけないところにまで、踏み込んでしまいそうだった。
だから……ちゃんと踏ん切りがつくように、あたしの最後を教えておいてやらないと……って、そんな風に言い訳して……最後の場所をあいつのところにしようって……選んだの」
淡々としたその声音では、苦しみを吐き出しているのか、後悔を吐き出しているのか、それともただ思い出を語っているのか……分からなかった。
岩の上に置かれたの灯りはひとつきりで、ローシェンナの表情は、朧げにしか見えなかったし……。
「そうしたらあいつ、聞いていた以上に壊れてた……。もう、狂ってしまってるのかしらって、何度も疑ったわぁ。
あたしが死ねば、あいつもコロッと死ぬんだろうって、分かってしまったら死ねなくて……。だからそれだけで、獣人を人と証明するだとか、そんなのはあたし、本当はどうでもよかったの……。
あたしはあいつより歳も上だったし、種も違う……。だけど、たまに会って、少しだけ一緒に過ごして……死なないよう見張っておくだけなら、許されるかしらって。
………………あたしもほんと馬鹿、反省してないわねぇ……」
種が違う。それは越えられない隔たりだと思っていた。と、ローシェンナ。
マルはそれを区別しなかった。彼にはそこにある垣根を認識する気が無かった。だから余計に、輝いて見えたのだと……。
きっとサヤも、そう思っているのだろう。
俺とサヤの間には、俺には認識できない垣根がある。
特別な知識を持つサヤにしかそれは、見えやしないのだ……。
だけどローシェンナは、そうしたらねぇ……と、俺の方を見ずに、ただ闇に染まった空を見上げ……空の向こうの、マルを想って……。
「この村には無いはずのものが、あったの……。
ノエミを獣人だって、当然理解して、結婚したホセ。生まれたロゼ……。こんな境遇で、それでも幸せそうに笑って暮らす……。姿すら違うのに。
当たり前の家族みたいにするのよぅ、あの二人。ノエミの頬にね、口づけするのよ、ホセは。
レイルを愛しそうに見つめるの……。獣の姿なのに……全然気にしない。
サナリを抱いて、自分と瞳の形が似てるとか、口元がノエミに似てて可愛いとか言うのよぅ。
そんな様子にね、初めは戸惑いしかなかったわぁ。そんなわけない、あるはずないって……でも…………」
あそこには、幸せしか、ないの……。
そう吐き出したローシェンナ。
泣くのかと思った。だけど、彼女の瞳は涙を流さなかった……。
「手を汚す前に願っていたら……あたしにもあったのかしら……」
マルとの先が……あったのかしら……と、そう言っているのが、手に取るように分かったら……黙ってなど、いられなかった。
「マルは、今だって貴女しか、見ていないよ」
手を汚したとか、そんなこともマルは、全然見ていない。
「あいつは、あたしとの先なんて、考えてすらいないわよぅ」
「それはそうだよ。貴女が望まないのに、それをマルが望もうとするわけがない。
マルは貴女が良ければ良いと思ってる。貴女がおばあちゃんになるまで、それなりの距離を保ちつつ近くにいる。それが貴女が許してくれた距離だから。それであいつは満足なんだ。
マルは……サヤに平気で交配とか、孕むとか、とんでもない言葉を使う……。だけど貴女に対しては言わないでしょう?
あいつは貴女の全部を知ってる。貴女の知らない貴女だって知ってるんだ。
貴女に家庭を匂わせることは、しないよ……。
貴女が傷付くことを、貴女に向かって言うわけがない。苦しむことは、当然排除するんだよ、徹底的に」
俺の根幹にサヤがあるように、マルの行動理由は全て、ローシェンナなのだ。
だから、ローシェンナを苦しめるようなことを、あいつはしない。ローシェンナには、家庭を拒む気持ちがあるって分かっているから。
「なのにあいつは、貴女の望まないことをひとつだけ、譲らない……。
獣人を人だと証明する。それだけは、きっと貴女が何を言っても譲らないよ。
何故だと、思う。どうしてそれだけ、譲らないのか……」
急に畳み掛けるみたいに喋り出した俺に、ローシェンナはびっくりしたのだろう。
瞳を大きく見開いて、寝転がったまま、俺を食い入るように見ていた。
「俺も、マルと同じ風に思うから、あいつの気持ちがよく分かるよ……。
マルが譲らないのは、貴女の隣に、並びたいから……。
貴女がマルを、自分と同じだと思ってくれないから……同じだって、分からせないとって、そう思っているからだ……」
言葉で伝えたって、無意味だと理解しているのだ。
だから、貴女ひとりを納得させるために、世界を動かそうとする。
「あんな自分勝手な男が、獣人を人と認めさせるなんてことを、世を正すためにしてるわけないでしょう?
元から、貴女の名誉を回復するためだけに始めた戦いなんだよ。
全部、貴女ひとりのため。そして貴女を納得させるためなんだ。
だけど、今は少し違うかな……。貴女は貴女ひとりだけの納得では、幸せになってくれないから……貴女の吠狼も幸せにしなきゃと思ってる。
変人だけど、懐は本当に深いから……なんというかこう……ほんと変人だけど……」
結婚とかはどうでも良いのだ……。あいつは、そういう枠で考えてない。
ローシェンナが大切にしているものが、あいつにとっても大切ものなのだ。
あまりに荒唐無稽な話にぽかんとしてしまっているローシェンナ。嘘みたいだけどね、これは本当だよ。
だってマルが俺と共闘すると決めた時、あいつははっきり、自分の目的は、貴女の名誉を回復することだと、口にしたからね。
「それに俺、前に一度だけ、マルの本音を聞いたことがあるんだ。
サヤが俺の婚約者に定まった時、サヤには、幸せになってほしいって。……種の違いなんかに、煩わされてほしくないって……」
あの時感じたのだ。
これは、マルの願いなのだと。マルの、ローシェンナに対する想いなのだと。
種に煩わされてほしくない……あれがマルの本音だ。
「…………俺は、マルみたいに無欲にはなれない。一緒に生きるという確約が欲しい。俺とサヤがちゃんと繋がってるって分かる約束が。
俺は自分に自信がないから……共にあるだけじゃ、不安で立っていられない……。
いつでも触れられなきゃ、確認できなきゃ、怖い。俺は本当に矮小な人間なんだよ。
喜んでほしい人が、幸せだって思ってほしい人が、隣にいてくれなきゃ……サヤが、俺の隣で笑ってくれなきゃ……俺は、なんのために…………」
なんのために、頑張れば良いのか、分からなくなる……。
だってな……自分の幸せを考えてなきゃ駄目だって……俺も幸せにならなきゃ駄目だって、サヤが言ったんだ。
「俺が幸せだって思うためには、サヤが必要なのに……サヤにそれが、伝わらない……。
サヤと出会うまで、俺には何もなかったんだ……。俺は世界の何とも、歯車を噛み合わせずに空回りしてたんだと思う。繋がれば壊される……そう思ってたしね……。
越えられない垣根は、俺を取り囲んでた……俺は息をすることすら、苦しかった……。
それが、サヤと出会ってから、世界が変わったんだ……。越えられないと思ってた垣根が、ただ線を引いただけだったみたいに、脆くなった。
そこを越えたら、景色が色付いたんだ。音が増えた。色んなものが、美しく感じる、大切に思える。同じものを見て生きてきたはずなのに、まるで変わったんだ。それこそ、異界に来たくらいに、俺の世界が変わった……。
豊かになった。大切だって思えるものが、愛しく感じれるものが、どんどん世界に増えていくんだ。それを恐れなくて良い……怖がらなくて良いんだ!
だから今は、サヤだけじゃない。たくさん大切にしたいものが増えた。義務や責任としてじゃなく心から、ハインやギルや、ここのみんなのためにも頑張りたいって思えるようになった。
だけどそれはやっぱり、サヤがそう思う心を、俺に与えてくれたから、支えてくれるからなんだ……。
俺もサヤを支えたいと思うから、強くなりたいと思うんだ……。サヤの幸せのために、自分や周りの全てを幸せにしたいと思えるんだ。
全部サヤがいてこそなのに……それが、伝わらない……俺の幸せは、全部根幹に、サヤがあるのに……っ」
俺が世界を愛するためには、サヤが必要なんだ。
「血のためとか、家名のためとか、俺にはそれじゃ駄目なんだ。
義務や責任としてじゃなくて、心から愛したい、大切にしたいって、思えるんだよ、サヤといれば……」
サヤが俺の世界の鍵なんだ。
俺は、鎖で雁字搦めだった俺を、解き放ってくれたサヤこそを愛したいんだ。俺の手で幸せにしたいんだ。そのためにこの世界があるんだとさえ、思うのに。
俺の全てをそのために捧げたって良いとすら、思うのに……。
「………………ですって、サヤ」
0
お気に入りに追加
837
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる