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閑話 夫婦 2

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 交易路に携わってくれている土建組合員や人足の代表者たちに、この現場の総責任者が俺であること、そして現場を任されるのがクロードとアーシュであることを伝え、挨拶を済ませた。
 六の月よりこの現場に騎士らや、他領からの視察が入るようになる。そのことを、もう一度確認し、何か問題があれば二人に伝えるように申し渡したのだ。
 今回、ここにルカはいないのだけど、昨年夏の土嚢壁作りに参加してくれていた若手の組合員や職人、人足たちは、多く参加している。
 ルカの父である組合長も現場に参加しているけれど、彼は当然、他にも色々仕事があるから、常にではない。
 だから、今回の現場の指揮は、前回ルカの補佐となっていた組合員スタンが担っていた。

「……今回、見回りレイ様じゃねぇのか……」
「俺たちレイ様が来てくれるんだと思って、気合い入れてたのに……」

 残念がってくれる皆に、ごめんなと謝る。ちょっとここに毎日通うのは難しいんだよな、立場的に。

「だけど大丈夫だよ。たまには顔を出すし、この二人は俺も信頼してる二人だから。
 俺より地位の高い人たちだから、大抵の貴族の横暴は抑えてくれるしね。
 作業に支障があるような時、誰かが理不尽を強いられた時は、二人にそれを伝えて、ちゃんと対処するよ」
「………………え、地位が上⁉︎」
「れ、レイ様より上⁉︎」

 途端に挙動不審になる組合員たち。いやあの、大丈夫だよ?
 落ち着いてと皆をなだめていると、クロードがスッと前に進み出る。

「ヴァーリン公爵家より、レイシール様にお仕えするため参りましたクロードと申します。
 地位が上……とのことですが、地位はあくまで出自。私は、レイシール様にお仕えしております。
 ですから、レイシール様の願い、レイシール様のご意思が、この現場の全て。今までと、なんら変わりはございませんから、ご安心ください」
「お、お仕え……公爵家の方が⁉︎」
「…………れ、レイ様あんた何したんだ⁉︎」
「公爵位の人が男爵位のレイ様に仕えるってどういう状態⁉︎」
「えええぇぇ……どういう状態って言われても……こうなんだけど……」

 更に混乱した組合員たちを必死で宥めていたのだけど、暫く状況を見ていたクロードが、これは収まりそうにない……と、思ったのだろう。良い笑顔で回答をくれた。

「それはもう、この方に心底惚れたからです」

 雷に打たれたような表情になる一同。
 アーシュはすっと視線を逸らし、私は関わってませんよといった他人顔。

「……よく分かりました!」
「レイ様、あんた本当に……すげぇな……」

 なんか納得のされ方が違う気がするんだけどな……。
 だけどこれで、クロードは公爵家の人だけど、なんかとっつきやすい人だなと思ってもらえた様子。
 うん、まぁ……いいか、これで。

「それにしても凄いな……堤の部分はもう完成しそうじゃないか」

 前に来た時はまだこれからって感じだったのに、川の内側はもう石まで引かれており、土嚢壁上の道部分を除いて、ほぼ完成している。
 これならば、作業の進み具合にドキドキしないで良さそうだ。いや、万が一堤の完成が雨季に間に合わなかったら大変だと思っていたから。
 ホッと胸をなでおろしたら、それを見ていた組合員たちが顔を見合わせて笑う。

「そりゃ、ここまでは終わらせておかないと」
「万が一雨季に間に合わずに氾濫が起こっちゃまずいから、急いだんだ」
「この先は色々……そのぅ、騎士様方の訓練が入ってくると、見通しが立ちにくくなるだろう?」

 それにピクリと反応した二人。
 あぁ、やっぱりちゃんと気付いてくれた。

「ありがとう。おかげで村の皆も安心して収穫作業ができると思う。
 そうそう、その訓練のことできちんと擦り合わせをしておかなければと思って、今日は来させてもらったんだ」

 見通しが立ちにくくなる……。
 彼らはそう表現してくれたけど、作業が滞って雨季まで響かないように、とても急いで作業を進めてくれたのだと思う。
 きっと色々、無理をしてくれたのだろう。こちらの支払い以上の人員を回してもらっている可能性すらあるだろう。

「今回の訓練だけどね、貴方たちの作業を妨げるようなものにする気は無い。
 この訓練は、それこそこういった……氾濫のような、自然災害時、被害を最小限に抑え込むための技術を国全体に浸透させたいと行われるものなんだ。
 民間との連携が出来なければ、災害時になんて対応できない。だから、お互いの作業を妨げないよう、協力しあって行えるようにしたいと思っている。
 なので、作業効率を下げるような事柄があった場合は、極力進言してほしい。
 まずこちら側は、土嚢壁の練度と速度を一定以上に保つ訓練を主に行う。
 二人で現場全体は見渡せないからね。土嚢の作り方、積み方は、職人側から指導してやってほしい。
 でも、言いにくい相手もいると思うんだよ……。例えば貴族出身の者。そういった時は、このアーシュやクロードへ、その人物の何がどうか、伝えてもらえる?
 こちが側から指導するようにするから。
 この現場はセイバーンの騎士が中心だけど、まず辺境地のヴァイデンフェラーと、隣のアギーから、視察を兼ねて上位の役職に携わった者が来ることになる。
 そしてこれからも、他の領地から視察が入るようになるけれど、その方たちの対応は全てクロードに振ってくれたら良いよ」

 俺の言葉にぺこりと頭を下げるクロード。
 公爵ニ家の血を引くという立場を活用し、貴族の横暴は彼が抑えてくれる。
 これに関しては、クロードにしっかりとお願いしておいた。

「貴方たちは、陛下の勅命を遂行している。交易路を国中に巡らせることは、陛下のお望みだ。その進行は貴族の私たちが妨害して良いことではない。
 恥ずかしいことだけど、それを勘違いしてしまう者らも少なからずいる……。そんな者たちが貴方がたの仕事を滞らせたりしないよう、彼が対処してくれるから」

 俺の言葉に、スタンらはホッと息を吐き、肩の力を少しだけ抜いた。
 きっと彼らはこのことで、胃が痛くなるくらいの日々を送っていたろう。
 貴族対応は慣れていても緊張するし難しい。大らかな方ばかりじゃないし、不敬とみなす事柄だって、人によって違うから。

「あと、備品や必要な道具類等、買い足しが必要なものはアーシュに。拠点村で一括して発注するから。
 そうだな……三日くらい余裕をみて申告してもらえると、当日までには必ず届ける。
 私やマルクスも覗きに来ることがあると思うけど、現場の統括はあくまでこの二人。指示はこの二人に仰いで」

 他にも細々としたことを話し、質問等を含め、すり合わせた。
 それによって職人らの表情も、だいぶん和やかになって、きっと色々心配させていたろうなと申し訳なく思った。

「今日まであまり顔出しできなくって申し訳なかった。
 王都での色々も済んだし、これからはもう少し顔を出せると思う。
 食事や生活環境に関しては、問題無い?    ちゃんと休みは取れている?
 交易路計画は大切な事業だから、そのためにも貴方がた職人の体調には充分な配慮を心掛けてほしい。
 数日の遅れを気にして無茶をしたりしないでくれよ。こちらで調節できることは対処するからね」

 そうして情報共有も無事に済んだら、今度はクロードたち二人に、土嚢壁作りを叩き込んでもらう時間となった。

「今後の指導のためにも、作業ごとは完璧に身につけたい所存です。
 気付いたことがあれば遠慮なくご指摘ください。
 今後、遠慮などしていては現場など回りませんから、お互い本音が言える関係を築けたらと思っております」
「私にも遠慮は無用で願います。先日まで現職騎士でしたので、体力的にも問題ありません。
 これからの騎士指導の練習台とでも思ってください」

 とりあえずまずは昼までの時間を訓練に当ててもらう。さて、じゃあその間俺は……。

「オブシズとシザー、お二人の警護に残っておいて。
 俺とハインは宿舎の確認に行って来るから」
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