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門出 10
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クオン様との和解? が成立し、そのせいか、よりクオン様は遠慮がなくなった。
硝子筆に予備があると知った途端それを借り、紙に色々を記す。その墨が長持ちする仕様と、木筆とは違う滑らかな動きに大変ご満悦だ。
今まで以上に書き物をするクオン様であったけど、従者の方は若干手持ち無沙汰である様子。ま、墨を差し出す回数が格段に減ってしまったものな。
「貴方ってほんと変な人ね。これだけ才覚があるなら、なんで黙って言いなりだったのよ」
「……俺に才覚なんてものは無いですよ……。環境に恵まれたってだけで」
「あっそ。じゃ、周りがうまく手綱を握ってるってわけね」
「あぁ、正しくそれですね」
納得すると、呆れたといった顔で溜息を吐かれた。
休憩を兼ねた昼食を済ませた後も、ギルとサヤはまだまだ時間が掛かりそうだったので、リヴィ様方に街の散策でも如何ですか? と、声を掛けたら、クオン様は喜び勇んで駆けてくる。
リヴィ様はサヤたちの作業が気になる様子だったけれど、ギルに問うと、暫くはすることが無さそうだとのこと。
ギルにやることが無いと言われてしまったので、リヴィ様も仕方なく散策に加わることとなった。
外を歩き回るのはお立場的にも問題が多い。よって、馬車から外を見て、欲しいものがあれば従者を走らせるという、本来の貴族らしい散策となった。
正直メバックでは珍しい光景だ。俺はコソコソしてることが多いし、バート商会に乗り付ける貴族はあれど、街を散策する方は少ない。
セイバーンの紋章入り馬車を利用したのだけれど、街人がやたらと注目してきて居心地が悪い。
でもリヴィ様方は気にしていない様子だから、きっと慣れているのだろう。
「こうして見てみると、田舎ねぇ……。比較的綺麗だとは思うけど」
「孤児や流民が見えませんわね……」
「流民は、セイバーンにはあまり流れて来ませんからね。
孤児もまぁ……うちは神殿も少なく、孤児の収容施設も遠いですから、余程幼くなければ、近所で面倒を見つつ育てるみたいな場合も多いようです」
街を大きく一回りし、最後に商業広場に立ち寄ると、いつも通り、連なる屋台と行き交う人々でごった返しており、ハインが馬車の速度を落とす。
オブシズや、馬で付き従っていた武官の方々も半数は下馬して馬車の横につく。
貴族の往来と分かって多少人が避けて通るようになったが、それでも結構なものだ。
「ここは賑やかなのね」
「商業広場と言いましてね。日貸しで場所を買って商売ができるんです」
進んで行くと、「かみどめ」と、なんのひねりもない看板を掲げた屋台を発見した。
面白いのは、屋台の前に張り付くように固まった女性陣と、それを遠巻きにしてる女性陣という、なんとも不思議な光景。
丁度良いので少し待っていてもらえますか? と、二人に声を掛けて馬車を停める。俺だけ降りて、足を進めると、ハインの「レイシール様!」という怒りの声と、オブシズが追いかけてきた。
「急に思い立たないでください! ハインが後で怖いですよ……」
「ごめん。でも丁度良いと思ってさ……。あ、失礼。ちょっとごめんね」
振り返った少女が悲鳴を飲み込んで飛び退る。
俺は屋台を覗き、唖然と固まる売り子に「これとこれをもらえる?」と、声を掛けた。
「え……は……?」
「この花の付いた飾り。別々に包装してもらえるかな、贈り物だから」
「は、はいいいぃぃ!」
「慌てなくて良いよ。ごめんね、急に。皆も、すぐに退散するから、気にしないで」
唖然と俺を見る女性ら。本来なら不敬を咎められてしまうが、俺が闖入者なのだから怒るのも可哀想だ。
震える指で必死に髪飾りを取り、小さな紙の袋に入れた売り子が上端を折り曲げる。
うん、ちゃんと教育できてる。
「ありがとう。……あっ、申し訳ない、これももう一つ追加。この小鳥のついた……」
途中で思い出して、もう一つを追加で購入。
原価に包装料を含め、人件費と場所代を込みにした金額。頭の中でざっと計算してみたけれど、特別法外な値段になったりもしていない。
おずおずと差し出された小さな袋三つを受け取って、料金として銀化三枚を差し出すと、震える指でお釣りが返ってきた。
「あ、ありがとう、ご、ございま……」
「うん。こちらこそありがとう」
そうして呆然とした視線に見送られつつ馬車に戻ると……。
「……貴方、普段からあんな風に平気で出歩いてるの?」
と、呆れた様子のクオン様に迎えられた。リヴィ様も瞳を見開き、表情で危険ですわ! と、訴えているし、ちょっと申し訳なくなる。
「いやまさか。普段はもう少し偲びます……」
「……出歩いてはいるのね……」
「村では結構出歩きますけど、メバックではそんなにしませんよ。
でも、あの屋台も地方行政官としての職務の一端なので、お二人に見ていただく良い機会かと思いまして。
はい、どうぞ。お土産です」
はじめに購入した二つをそれぞれに差し出すと、不思議そうにそれを受け取る。
「……封筒?」
「紙の包装用品です。封筒以外でも、折り方の工夫で多少厚みのある品も包める小道具になるんですよ。
中身は新たな装飾品と、同じく紙の包装品。ご覧ください」
言われるままに紙袋を開き、中から少し厚手の紙に挟まれたピンを取り出す二人。
紙を挟んでいることで、挟んで使う道具であるということも伝えているのだから、秀逸だと思う。
「まぁ、可愛らしい……。
でも、これは……?」
「髪留めです。髪を挟んで止めるんですけど、それ一つは銀化一枚にも満たない金額です。
でも結構便利らしくてね。まだ手が出せる金額だと、職を持つ女性に好評らしいですよ」
「……職を持つ女性?」
「前髪とか、目にかかって邪魔になるそうです。それを横に避けておくことができるということで。
勿論、お洒落のために使っても良いです。一本だけでなく、数本使うこともあるとか。
お二人も職を持つ女性となるので、おひとついかがかなと思って」
そう言うと、またもや呆れた顔をされてしまった。けれど、髪留め自体はお気に召していただけた様子。
「……貴方、本当に頓着しないわよねぇ……。
まぁ、婚約者が職を持ってるのだものね」
「やる気に満ちたサヤは、輝いて見えますよ」
「惚気は結構よ……」
「惚気てませんよ……。
本心を言えば、危険なことはしてほしくないんです。だから本当は、従者だって……いつも心臓が潰されそうです。
でも……そこもサヤのサヤらしさなので、否定するわけにもいかず……」
「……自分より強い女性でしょ? そこんとこ、どうとも思わないの?」
「気にしたこともありませんね。俺は指に不自由があるので、どう足掻いたって人並みにだってなれやしないって、分かっていたし……。
サヤは強いけれど、その強さ以上に弱さや、脆い部分もあるので、そこを守ってあげられたらって、そう思ってはいますが……」
「結局惚気るのね……」
「惚気てませんってば……」
どう聞いたって惚気でしょうよ。と、呆れ顔でクオン様。
手元のピンに視線を落とすリヴィ様は、色々考えることがある様子だ。
「……俺たちは学舎出だからというのもあるのですが……ギルの母君が、やはり職を持つ女性でした。
あの業界は、女性でなければ務まらない仕事も多い。
だから、ギルにも職を持つ女性に対する抵抗感は無いです。でなければ、サヤを雇いませんしね」
女近衛となる道を選んだリヴィ様だけど、ただ無理だと諦めてほしくなくて……。
いらぬお節介だとは思いつつ、ついそう付け足した。
女近衛の衣装を手掛けていくこととなれば、お互い接する機会もあるだろうから。その接点を、ただ苦しいだけのものにしてほしくない。
とにかく今は、お互いを知ってもらおう。
まずはその一歩からだ。
硝子筆に予備があると知った途端それを借り、紙に色々を記す。その墨が長持ちする仕様と、木筆とは違う滑らかな動きに大変ご満悦だ。
今まで以上に書き物をするクオン様であったけど、従者の方は若干手持ち無沙汰である様子。ま、墨を差し出す回数が格段に減ってしまったものな。
「貴方ってほんと変な人ね。これだけ才覚があるなら、なんで黙って言いなりだったのよ」
「……俺に才覚なんてものは無いですよ……。環境に恵まれたってだけで」
「あっそ。じゃ、周りがうまく手綱を握ってるってわけね」
「あぁ、正しくそれですね」
納得すると、呆れたといった顔で溜息を吐かれた。
休憩を兼ねた昼食を済ませた後も、ギルとサヤはまだまだ時間が掛かりそうだったので、リヴィ様方に街の散策でも如何ですか? と、声を掛けたら、クオン様は喜び勇んで駆けてくる。
リヴィ様はサヤたちの作業が気になる様子だったけれど、ギルに問うと、暫くはすることが無さそうだとのこと。
ギルにやることが無いと言われてしまったので、リヴィ様も仕方なく散策に加わることとなった。
外を歩き回るのはお立場的にも問題が多い。よって、馬車から外を見て、欲しいものがあれば従者を走らせるという、本来の貴族らしい散策となった。
正直メバックでは珍しい光景だ。俺はコソコソしてることが多いし、バート商会に乗り付ける貴族はあれど、街を散策する方は少ない。
セイバーンの紋章入り馬車を利用したのだけれど、街人がやたらと注目してきて居心地が悪い。
でもリヴィ様方は気にしていない様子だから、きっと慣れているのだろう。
「こうして見てみると、田舎ねぇ……。比較的綺麗だとは思うけど」
「孤児や流民が見えませんわね……」
「流民は、セイバーンにはあまり流れて来ませんからね。
孤児もまぁ……うちは神殿も少なく、孤児の収容施設も遠いですから、余程幼くなければ、近所で面倒を見つつ育てるみたいな場合も多いようです」
街を大きく一回りし、最後に商業広場に立ち寄ると、いつも通り、連なる屋台と行き交う人々でごった返しており、ハインが馬車の速度を落とす。
オブシズや、馬で付き従っていた武官の方々も半数は下馬して馬車の横につく。
貴族の往来と分かって多少人が避けて通るようになったが、それでも結構なものだ。
「ここは賑やかなのね」
「商業広場と言いましてね。日貸しで場所を買って商売ができるんです」
進んで行くと、「かみどめ」と、なんのひねりもない看板を掲げた屋台を発見した。
面白いのは、屋台の前に張り付くように固まった女性陣と、それを遠巻きにしてる女性陣という、なんとも不思議な光景。
丁度良いので少し待っていてもらえますか? と、二人に声を掛けて馬車を停める。俺だけ降りて、足を進めると、ハインの「レイシール様!」という怒りの声と、オブシズが追いかけてきた。
「急に思い立たないでください! ハインが後で怖いですよ……」
「ごめん。でも丁度良いと思ってさ……。あ、失礼。ちょっとごめんね」
振り返った少女が悲鳴を飲み込んで飛び退る。
俺は屋台を覗き、唖然と固まる売り子に「これとこれをもらえる?」と、声を掛けた。
「え……は……?」
「この花の付いた飾り。別々に包装してもらえるかな、贈り物だから」
「は、はいいいぃぃ!」
「慌てなくて良いよ。ごめんね、急に。皆も、すぐに退散するから、気にしないで」
唖然と俺を見る女性ら。本来なら不敬を咎められてしまうが、俺が闖入者なのだから怒るのも可哀想だ。
震える指で必死に髪飾りを取り、小さな紙の袋に入れた売り子が上端を折り曲げる。
うん、ちゃんと教育できてる。
「ありがとう。……あっ、申し訳ない、これももう一つ追加。この小鳥のついた……」
途中で思い出して、もう一つを追加で購入。
原価に包装料を含め、人件費と場所代を込みにした金額。頭の中でざっと計算してみたけれど、特別法外な値段になったりもしていない。
おずおずと差し出された小さな袋三つを受け取って、料金として銀化三枚を差し出すと、震える指でお釣りが返ってきた。
「あ、ありがとう、ご、ございま……」
「うん。こちらこそありがとう」
そうして呆然とした視線に見送られつつ馬車に戻ると……。
「……貴方、普段からあんな風に平気で出歩いてるの?」
と、呆れた様子のクオン様に迎えられた。リヴィ様も瞳を見開き、表情で危険ですわ! と、訴えているし、ちょっと申し訳なくなる。
「いやまさか。普段はもう少し偲びます……」
「……出歩いてはいるのね……」
「村では結構出歩きますけど、メバックではそんなにしませんよ。
でも、あの屋台も地方行政官としての職務の一端なので、お二人に見ていただく良い機会かと思いまして。
はい、どうぞ。お土産です」
はじめに購入した二つをそれぞれに差し出すと、不思議そうにそれを受け取る。
「……封筒?」
「紙の包装用品です。封筒以外でも、折り方の工夫で多少厚みのある品も包める小道具になるんですよ。
中身は新たな装飾品と、同じく紙の包装品。ご覧ください」
言われるままに紙袋を開き、中から少し厚手の紙に挟まれたピンを取り出す二人。
紙を挟んでいることで、挟んで使う道具であるということも伝えているのだから、秀逸だと思う。
「まぁ、可愛らしい……。
でも、これは……?」
「髪留めです。髪を挟んで止めるんですけど、それ一つは銀化一枚にも満たない金額です。
でも結構便利らしくてね。まだ手が出せる金額だと、職を持つ女性に好評らしいですよ」
「……職を持つ女性?」
「前髪とか、目にかかって邪魔になるそうです。それを横に避けておくことができるということで。
勿論、お洒落のために使っても良いです。一本だけでなく、数本使うこともあるとか。
お二人も職を持つ女性となるので、おひとついかがかなと思って」
そう言うと、またもや呆れた顔をされてしまった。けれど、髪留め自体はお気に召していただけた様子。
「……貴方、本当に頓着しないわよねぇ……。
まぁ、婚約者が職を持ってるのだものね」
「やる気に満ちたサヤは、輝いて見えますよ」
「惚気は結構よ……」
「惚気てませんよ……。
本心を言えば、危険なことはしてほしくないんです。だから本当は、従者だって……いつも心臓が潰されそうです。
でも……そこもサヤのサヤらしさなので、否定するわけにもいかず……」
「……自分より強い女性でしょ? そこんとこ、どうとも思わないの?」
「気にしたこともありませんね。俺は指に不自由があるので、どう足掻いたって人並みにだってなれやしないって、分かっていたし……。
サヤは強いけれど、その強さ以上に弱さや、脆い部分もあるので、そこを守ってあげられたらって、そう思ってはいますが……」
「結局惚気るのね……」
「惚気てませんってば……」
どう聞いたって惚気でしょうよ。と、呆れ顔でクオン様。
手元のピンに視線を落とすリヴィ様は、色々考えることがある様子だ。
「……俺たちは学舎出だからというのもあるのですが……ギルの母君が、やはり職を持つ女性でした。
あの業界は、女性でなければ務まらない仕事も多い。
だから、ギルにも職を持つ女性に対する抵抗感は無いです。でなければ、サヤを雇いませんしね」
女近衛となる道を選んだリヴィ様だけど、ただ無理だと諦めてほしくなくて……。
いらぬお節介だとは思いつつ、ついそう付け足した。
女近衛の衣装を手掛けていくこととなれば、お互い接する機会もあるだろうから。その接点を、ただ苦しいだけのものにしてほしくない。
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