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来世 4
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「知っている者なのか?」
「あっ、はい……赤縄の、中で……」
あぁ……、それはそうか。
「い、今は……違います。ウォルテールと、いいます……」
少女が少々裏返った声で、目の前の狼の名を教えてくれた。
では君の名は?と、聞き返すと「フォギー……。こっちは、イェーナです……」と、足元の黄色い毛並みをした狼の名も教えてくれる。
皆がちゃんと、自身の名を持っていることに嬉しくなって微笑むと、パッと視線を逸らされてしまったが……。
「よ、よく……狼の姿なのに、分かった……ね。と、言ってます」
「髪の色がそのまま体毛の色になるのでしょう?ウォルテールさんの髪色は覚えてました」
「……お、狼……怖く、ないの?……って」
「? 怖くはないですよ。ウォルテールさんだって分かってますし。
領主様救出の時だって、たくさんの狼の方に手助けしていただきましたし」
「…………撫でてって、言ってる……」
「えっ⁉︎」
これは俺。
サヤに触ってと要求した狼に、ちょっとモヤっとした感情を抱いてしまったのだ。
サヤは、男性が苦手だ。とくに、女性だと認識されている場合、警戒心が強まる。このウォルテールという者が、赤縄の中でサヤと接したというなら、彼女の性別だって理解していることだろう。
そ、それなのに……自分の身体を触らせるって…………なんかこう……。
俺のその反応に対し、サヤはというと。
「えっ、良いんですか⁉︎」
と、なにやら嬉しそうな声を上げるものだから、更にモヤっとしてしまった。
ウォルテールに駆け寄って、その前に膝をつくサヤ。手を伸ばし、首の辺りの毛をそっと撫でる。
するとウォルテールは、伏せていた身体を起こして、サヤの首元に自身の首をグリグリと擦り付ける仕草をはじめた。
あ、なんかこれ見たことあるな……。
「ウォルテール……甘えすぎだ」
と、そこでアイルの冷めた声。
キョトンとした視線をアイルに向けるサヤ。
ウォルテールはというと、若干バツの悪そうな顔だな……。
「子供のうちならともかく、育ってまでそのように甘えるな」
アイルはウォルテールの表情など意に介さず、ぴしゃりと言い放つ。
「それにサヤは主の番だ。お前の出る幕ではない」
「えっ⁉︎」
ちょっ、それをわざわざ指摘したってことはつまり……。
「アイルさん、ウォルテールさんはまだ十三歳ですよ?」
「我々にとってはもう子供の範疇ではない。子供だと主張したいなら話は別だが……そいつはそのつもりではなかったと俺は認識している」
苦笑気味だったサヤの表情が、その言葉で若干、強張った。
それにいち早く気付いた様子のウォルテールが、項垂れ、伏せの状態に戻ってしまう……。
「ウォルテールは頭を冷やせ。
イェーナ、今日はお前が任務にあたれ」
それを見てアイルがそう支持を飛ばすと、黄色い狼が進み出てきた。
ずっと状況を静観していた感じからして、物静かな性格なのかな……。視線も何か、申し訳なさそうに見える。
気落ちしてしまった様子のウォルテールがフォギーの足元に戻り、アイルがサヤの指示のもと、犬橇をイェーナの中衣に取り付ける作業を始めた。
とはいえ、サヤにとっても初めての試みであるため、若干戸惑う様子を見せる。
「綱だけで引くのか……?
馬の輓具のように、橇とは直接繋げないで良いと?」
「う……私もあまり、知らないんです。私が見た犬橇は複数匹の犬で引いてましたし……」
「成る程……ならばとりあえずこれで、試してみよう」
二本の綱を使い、金属の輪に通し、お互いを繋ぐようにして装着が済んだ。まるで草相撲をするみたいな繋ぎ方だ。
「どうやって乗ればいい?」
「荷物を積む場所は座面部分です。騎手はこの椅子の背の、取手に捕まるようにして、板の上に立ちます」
「成る程……まずは俺が試そう。フォギー、ここに座ってくれ」
フォギーが呼ばれ、座面の部分にとりあえず座らされた。ソワソワとしているが、座りにくいわけではないらしい……。
そして犬笛を咥えたアイルが椅子の後方に立ち、音のしない笛を吹くと、イェーナはゆっくりと、歩き出した。
「始めは、騎手も足で地面を蹴ったり、走って助走をつけたり、してました」
サヤの助言のもと、アイルが板の上から足を下ろし、まずは橇を押すようにして走ると、イェーナがそれに合わせて速度を上げる。
そして、頃合いかというところで、アイルは板の上に飛び乗った。
多少負荷は掛かった様子ながら、イェーナは速度を緩めずに走る。
そして、あっという間に遠くなってしまった……。
「お、思った以上に、速くないか?」
「……私もちょっと、そう思いました…………あっ⁉︎ 体重移動で方向転換をするって、伝えてませんよね⁉︎
急に曲がるのも無理なので、ゆっくり……あっ⁉︎」
言ったそばから遠方の一団が曲がりそこね、派手に振り飛ばされる光景に、息を飲む。
慌てるサヤの横を、ウォルテールがバッと走り抜け、橇に向かったが、彼が到着するより先にむくりと身を起こす二人の影。……良かった、無事である様子だ。
そして、また橇に戻る。
そうしてそんな光景を何度か繰り返した後…………。
「これは、凄く良い、と思う!」
興奮したフォギーが、とても楽しそうに騎手となって戻ってきた。アイルと交代したらしい。
「乗り方のコツはだいたい掴んだ。今から伝える。騎手はサヤか?」
「いや、俺が乗るんだ。俺が行かないといけないから」
「えっ⁉︎ あの……わ、私は、行ってはいけない……の?」
俺の返事に、サヤが慌てて声を上げ、俺の表情に、声をどんどん、小さくしていく……。
見ていると結構危険なようだし、そもそも寒空の下を長時間寒風に晒されて移動することになるわけで、今のサヤには遠慮してもらいたい。そう思ったのだけど……。
項垂れるサヤの横に、いつの間にやらウォルテールが来ていて、まるでサヤを慰めるかのように身をすり寄せ、あまつさえ、その手をペロリと舐めたものだから、一瞬で頭が真っ白になった。
「あ、ウォルテールさん……」
「…………」
気付いたサヤが彼の首の辺りを撫で、その手に気持ち良さげに身をすり寄せたウォルテールが、何故か俺をちらりと見る。
その視線が……まるで俺を値踏みするみたいなその視線が、妙にカチンときてしまった。咄嗟にサヤに手を伸ばしそうになったのだが……。
「あー……レイシール、思ったんだがな。サヤと二人で行ってきたらどうだ?」
その前にオブシズの言葉で、我にかえった。
「サヤは、その幼子に手向ける花を、自分で用意したいんだろうし、ずっと看病で心身共に酷使したんだ。少しくらい、息抜きをしても良いんじゃないのか?
そっちのフォギーだって、数回転ける程度で操縦を覚えたのだし、そう難しくもなさそうだ。
それに、セイバーン村までは一時間以上掛かるんだぞ? 途中で操縦を交代できた方が、効率よく移動できるし……お前はその手だから、長時間ずっと操縦って、ちょっと厳しいだろう?」
と、そんな風に言われ……。
右手の握力が心許ない俺が、ずっと取手に掴まっておくのは、確かに無理かもしれないと思い至った。
「前の座席、毛皮の膝掛けと、座面置きを、用意しましょう。
そうすれば、それほど寒さも気にならないです。
狼は、休憩を特に必要としませんから、交代の時以外をずっと走れば、あの村までなら、一時間程度で到着できると、思いますよ」
フォギーがそんな風に言葉を添えてくれ、それと一緒に中衣を掴み、グイッとウォルテールをサヤから引き剥がす。
「ほら、一時間くらいなら、サヤの体調だって問題無いさ」
…………でも……と、心の中では思ったものの……。
サヤを残し、そこにウォルテールも残っているのだと考えると、心は決まった。
「分かった……。サヤも一緒に行こうか」
そう言うと、サヤの表情が、目に見えて和らぐ。
「はい……」
嬉しそうに微笑んでそう言った彼女を、腕の中に抱き込み。
「そのかわり、隠し事は無し。疲れたら正直に言って、休憩を挟むことが条件だ」
と、付け足した。
こくりと頷いた彼女に、アイルが「では操縦方法を伝える」と、言うから、俺たちは橇を引いたまま大人しく待っていたイェーナの所に向かう。
そして、俺は数度振り落とされ……サヤは落ちた一回も綺麗に受け身を取ったため、操縦の基本はサヤに任せようということで、明日の予定が決まった……。
「あっ、はい……赤縄の、中で……」
あぁ……、それはそうか。
「い、今は……違います。ウォルテールと、いいます……」
少女が少々裏返った声で、目の前の狼の名を教えてくれた。
では君の名は?と、聞き返すと「フォギー……。こっちは、イェーナです……」と、足元の黄色い毛並みをした狼の名も教えてくれる。
皆がちゃんと、自身の名を持っていることに嬉しくなって微笑むと、パッと視線を逸らされてしまったが……。
「よ、よく……狼の姿なのに、分かった……ね。と、言ってます」
「髪の色がそのまま体毛の色になるのでしょう?ウォルテールさんの髪色は覚えてました」
「……お、狼……怖く、ないの?……って」
「? 怖くはないですよ。ウォルテールさんだって分かってますし。
領主様救出の時だって、たくさんの狼の方に手助けしていただきましたし」
「…………撫でてって、言ってる……」
「えっ⁉︎」
これは俺。
サヤに触ってと要求した狼に、ちょっとモヤっとした感情を抱いてしまったのだ。
サヤは、男性が苦手だ。とくに、女性だと認識されている場合、警戒心が強まる。このウォルテールという者が、赤縄の中でサヤと接したというなら、彼女の性別だって理解していることだろう。
そ、それなのに……自分の身体を触らせるって…………なんかこう……。
俺のその反応に対し、サヤはというと。
「えっ、良いんですか⁉︎」
と、なにやら嬉しそうな声を上げるものだから、更にモヤっとしてしまった。
ウォルテールに駆け寄って、その前に膝をつくサヤ。手を伸ばし、首の辺りの毛をそっと撫でる。
するとウォルテールは、伏せていた身体を起こして、サヤの首元に自身の首をグリグリと擦り付ける仕草をはじめた。
あ、なんかこれ見たことあるな……。
「ウォルテール……甘えすぎだ」
と、そこでアイルの冷めた声。
キョトンとした視線をアイルに向けるサヤ。
ウォルテールはというと、若干バツの悪そうな顔だな……。
「子供のうちならともかく、育ってまでそのように甘えるな」
アイルはウォルテールの表情など意に介さず、ぴしゃりと言い放つ。
「それにサヤは主の番だ。お前の出る幕ではない」
「えっ⁉︎」
ちょっ、それをわざわざ指摘したってことはつまり……。
「アイルさん、ウォルテールさんはまだ十三歳ですよ?」
「我々にとってはもう子供の範疇ではない。子供だと主張したいなら話は別だが……そいつはそのつもりではなかったと俺は認識している」
苦笑気味だったサヤの表情が、その言葉で若干、強張った。
それにいち早く気付いた様子のウォルテールが、項垂れ、伏せの状態に戻ってしまう……。
「ウォルテールは頭を冷やせ。
イェーナ、今日はお前が任務にあたれ」
それを見てアイルがそう支持を飛ばすと、黄色い狼が進み出てきた。
ずっと状況を静観していた感じからして、物静かな性格なのかな……。視線も何か、申し訳なさそうに見える。
気落ちしてしまった様子のウォルテールがフォギーの足元に戻り、アイルがサヤの指示のもと、犬橇をイェーナの中衣に取り付ける作業を始めた。
とはいえ、サヤにとっても初めての試みであるため、若干戸惑う様子を見せる。
「綱だけで引くのか……?
馬の輓具のように、橇とは直接繋げないで良いと?」
「う……私もあまり、知らないんです。私が見た犬橇は複数匹の犬で引いてましたし……」
「成る程……ならばとりあえずこれで、試してみよう」
二本の綱を使い、金属の輪に通し、お互いを繋ぐようにして装着が済んだ。まるで草相撲をするみたいな繋ぎ方だ。
「どうやって乗ればいい?」
「荷物を積む場所は座面部分です。騎手はこの椅子の背の、取手に捕まるようにして、板の上に立ちます」
「成る程……まずは俺が試そう。フォギー、ここに座ってくれ」
フォギーが呼ばれ、座面の部分にとりあえず座らされた。ソワソワとしているが、座りにくいわけではないらしい……。
そして犬笛を咥えたアイルが椅子の後方に立ち、音のしない笛を吹くと、イェーナはゆっくりと、歩き出した。
「始めは、騎手も足で地面を蹴ったり、走って助走をつけたり、してました」
サヤの助言のもと、アイルが板の上から足を下ろし、まずは橇を押すようにして走ると、イェーナがそれに合わせて速度を上げる。
そして、頃合いかというところで、アイルは板の上に飛び乗った。
多少負荷は掛かった様子ながら、イェーナは速度を緩めずに走る。
そして、あっという間に遠くなってしまった……。
「お、思った以上に、速くないか?」
「……私もちょっと、そう思いました…………あっ⁉︎ 体重移動で方向転換をするって、伝えてませんよね⁉︎
急に曲がるのも無理なので、ゆっくり……あっ⁉︎」
言ったそばから遠方の一団が曲がりそこね、派手に振り飛ばされる光景に、息を飲む。
慌てるサヤの横を、ウォルテールがバッと走り抜け、橇に向かったが、彼が到着するより先にむくりと身を起こす二人の影。……良かった、無事である様子だ。
そして、また橇に戻る。
そうしてそんな光景を何度か繰り返した後…………。
「これは、凄く良い、と思う!」
興奮したフォギーが、とても楽しそうに騎手となって戻ってきた。アイルと交代したらしい。
「乗り方のコツはだいたい掴んだ。今から伝える。騎手はサヤか?」
「いや、俺が乗るんだ。俺が行かないといけないから」
「えっ⁉︎ あの……わ、私は、行ってはいけない……の?」
俺の返事に、サヤが慌てて声を上げ、俺の表情に、声をどんどん、小さくしていく……。
見ていると結構危険なようだし、そもそも寒空の下を長時間寒風に晒されて移動することになるわけで、今のサヤには遠慮してもらいたい。そう思ったのだけど……。
項垂れるサヤの横に、いつの間にやらウォルテールが来ていて、まるでサヤを慰めるかのように身をすり寄せ、あまつさえ、その手をペロリと舐めたものだから、一瞬で頭が真っ白になった。
「あ、ウォルテールさん……」
「…………」
気付いたサヤが彼の首の辺りを撫で、その手に気持ち良さげに身をすり寄せたウォルテールが、何故か俺をちらりと見る。
その視線が……まるで俺を値踏みするみたいなその視線が、妙にカチンときてしまった。咄嗟にサヤに手を伸ばしそうになったのだが……。
「あー……レイシール、思ったんだがな。サヤと二人で行ってきたらどうだ?」
その前にオブシズの言葉で、我にかえった。
「サヤは、その幼子に手向ける花を、自分で用意したいんだろうし、ずっと看病で心身共に酷使したんだ。少しくらい、息抜きをしても良いんじゃないのか?
そっちのフォギーだって、数回転ける程度で操縦を覚えたのだし、そう難しくもなさそうだ。
それに、セイバーン村までは一時間以上掛かるんだぞ? 途中で操縦を交代できた方が、効率よく移動できるし……お前はその手だから、長時間ずっと操縦って、ちょっと厳しいだろう?」
と、そんな風に言われ……。
右手の握力が心許ない俺が、ずっと取手に掴まっておくのは、確かに無理かもしれないと思い至った。
「前の座席、毛皮の膝掛けと、座面置きを、用意しましょう。
そうすれば、それほど寒さも気にならないです。
狼は、休憩を特に必要としませんから、交代の時以外をずっと走れば、あの村までなら、一時間程度で到着できると、思いますよ」
フォギーがそんな風に言葉を添えてくれ、それと一緒に中衣を掴み、グイッとウォルテールをサヤから引き剥がす。
「ほら、一時間くらいなら、サヤの体調だって問題無いさ」
…………でも……と、心の中では思ったものの……。
サヤを残し、そこにウォルテールも残っているのだと考えると、心は決まった。
「分かった……。サヤも一緒に行こうか」
そう言うと、サヤの表情が、目に見えて和らぐ。
「はい……」
嬉しそうに微笑んでそう言った彼女を、腕の中に抱き込み。
「そのかわり、隠し事は無し。疲れたら正直に言って、休憩を挟むことが条件だ」
と、付け足した。
こくりと頷いた彼女に、アイルが「では操縦方法を伝える」と、言うから、俺たちは橇を引いたまま大人しく待っていたイェーナの所に向かう。
そして、俺は数度振り落とされ……サヤは落ちた一回も綺麗に受け身を取ったため、操縦の基本はサヤに任せようということで、明日の予定が決まった……。
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★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
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