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新たな問題 6
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壊されていたら……?
はじめサヤは、なんて言っていた?
すぐに助けが来たから、カナくんが来てくれたから、たいしたことはされていないと、そう言っていたのに?
「そンなン……何がたいしたことかは、そいつ次第だろ」
呆然と考えていたことに、ジェイドが視線を逸らして返事を返す。
「だいたい、大概なことでも、たいしたことないって、言うしかねぇンだ」
「サヤは孤児じゃない! ジェイドのいた環境とは、大きく違う。そんな、そんなこと⁉︎
サヤの世界はここなんかよりずっと豊かで、夜道だって女性が一人出歩けるような、平和な所で!」
だけどそんな平和な場所で、彼女は…………。
ぐるぐると頭の中を、出会った時からのサヤが巡っていく。
怯えていた……。夜着を着た俺を見ただけで、肩を抱いただけで、背中を晒す礼服を着せられただけで。
震えていた……。ほんの些細なことで……記憶を手繰るだけで、慕う相手すら、受け入れられないほどに……。
「そりゃ、理由にはなりますけど……辻褄は合いますけど…………」
マルが、彼にしては珍しく、現状から視線を逸らすような言葉を吐き、狼狽えた様子を見せる。
「……その……、それは可能性の一つとして、心に留めておくとして。
他の理由を、探りませんか……そうとは、限らないですしね?」
俺に視線をやて、困ったみたいに、そんな風に言うから……。
マルにも否定できないのだと、分かってしまう。
それを、知られたくなくて、ああ言ったのか?
俺が、サヤ以外を娶る気がないと言ったから?
サヤには正妻としての責務が、果たせないから?
なら、子は別で作ると言えば、サヤは考え直してくれるのか?
そんな馬鹿みたいなことを考えて、自分の思考に吐き気がした。
子供を産むためだけの、都合の良い女性を、用意すればと考えた、自分に。
そんなこと、できるわけがない!
なら、他にどんな方法がある?
もしこの仮定が正しいのだとしたら、俺はサヤに何もしてやれない……。
無理やり彼女を娶ったとしても、ただ苦しめるだけ……子を成せないかもしれない彼女を、役割を果たせないことで、更に追い詰めるだけになる。
じゃあ俺は、どう足掻こうと彼女を手に入れるなんてできない……。彼女を幸せになんて、できないってことなのか?
結局、俺は、こうなのか……。
望んではいけない、手に入れてはいけない……………………それが、俺の、罰。絶望だ……。
頭がうまく、働かなかった。
だっておかしい。サヤは俺に罪なんて無いって、そう言ったのに。
それを証明するために戦うって、そう言ってくれたのに。
そのサヤを失うなら、やっぱり俺は…………。
「すまない……しばらく、一人になりたい…………」
なんとかそう、口にした。
もう、何も考えたくなかった……。
世界が違う。
はじめから、分かっていた…………。
「分かっていたけど…………」
手に入れたと思えば、零れ落ちる。
初めから、そう決まっていたみたいに……。
もう、疲れた…………。
◆
その日はその後、何も手につかず、俺はただひたすら、出会った時からの、サヤとの時間を思い返していた。
五の月の終わりの頃から、もう十二の月の終わりだ……半年以上が過ぎた。
過ぎてしまえばあっという間……。その中でサヤは、どんどん俺の中で、比重を占めていった。
「子ができるかどうかなんて……どうだって良い……」
俺一人の気持ちで済むなら、そんなことは、どうだって良かった。
ただサヤと共にあれたらそれで良い。
本心からそう思ってる……。
でもそう言うことは、父上への裏切りだし、貴族としての責任放棄になる。
好きで得た後継という立場ではないのに…………それが苦しい。
子供なんて……そんなものは、神の恵みだ。誰と婚姻を結んだところで、できるときはできるし、できないときはできない。
サヤの世界では、違うのかな……。
彼女には、我々では到底及ばない知識がある。だから、子ができるかどうかすら、彼女には分かるのだろうか……。
だけどそんなことより……。
サヤがこれからの人生も、一人その苦しみを抱えて生きていくのかと思うと、その方が苦しくて、気がおかしくなりそうだった。
彼女がカナくんを拒んでしまった理由は、ここにもあったのだろうか……。
求められても、応えられない。
だから彼女は、拒むしか、できなかった?
だけどそれは、なんだかしっくりとしない気がした。
彼女は、カナくんを受け入れられない理由を、自分でも分からないのだと、そう言って泣いていた。
あれは心からの叫びだった。背を丸めて、苦しそうに、泣いていたのだ。
だからサヤは、乗り越えようと足掻き、自分を虐めるように鍛えた。
つまり、カナくんを拒んだ理由は、俺とは違う…………。
「俺が、駄目な理由…………」
かんにん……って、サヤは俺に、何故か謝った。
ふさわしい人と幸せになれと言いながら、涙を零した。
捧げた魂すら、返すと言った。
あんな風に、無理矢理な口づけを、拒まなかった。
はじめから、先を求めていなかった。
それでも、俺の気持ちを受け止めてくれた。
身体を、許そうとすらしてくれた。
それは、何故なんだろうか……。
何度考えてもそれは……サヤの気持ちがそこにあるようにしか、思えなくて……。
なのに拒まれた現実が、俺には理解できなくて……。
ひたすら、考えて、時間だけが過ぎた。
はじめサヤは、なんて言っていた?
すぐに助けが来たから、カナくんが来てくれたから、たいしたことはされていないと、そう言っていたのに?
「そンなン……何がたいしたことかは、そいつ次第だろ」
呆然と考えていたことに、ジェイドが視線を逸らして返事を返す。
「だいたい、大概なことでも、たいしたことないって、言うしかねぇンだ」
「サヤは孤児じゃない! ジェイドのいた環境とは、大きく違う。そんな、そんなこと⁉︎
サヤの世界はここなんかよりずっと豊かで、夜道だって女性が一人出歩けるような、平和な所で!」
だけどそんな平和な場所で、彼女は…………。
ぐるぐると頭の中を、出会った時からのサヤが巡っていく。
怯えていた……。夜着を着た俺を見ただけで、肩を抱いただけで、背中を晒す礼服を着せられただけで。
震えていた……。ほんの些細なことで……記憶を手繰るだけで、慕う相手すら、受け入れられないほどに……。
「そりゃ、理由にはなりますけど……辻褄は合いますけど…………」
マルが、彼にしては珍しく、現状から視線を逸らすような言葉を吐き、狼狽えた様子を見せる。
「……その……、それは可能性の一つとして、心に留めておくとして。
他の理由を、探りませんか……そうとは、限らないですしね?」
俺に視線をやて、困ったみたいに、そんな風に言うから……。
マルにも否定できないのだと、分かってしまう。
それを、知られたくなくて、ああ言ったのか?
俺が、サヤ以外を娶る気がないと言ったから?
サヤには正妻としての責務が、果たせないから?
なら、子は別で作ると言えば、サヤは考え直してくれるのか?
そんな馬鹿みたいなことを考えて、自分の思考に吐き気がした。
子供を産むためだけの、都合の良い女性を、用意すればと考えた、自分に。
そんなこと、できるわけがない!
なら、他にどんな方法がある?
もしこの仮定が正しいのだとしたら、俺はサヤに何もしてやれない……。
無理やり彼女を娶ったとしても、ただ苦しめるだけ……子を成せないかもしれない彼女を、役割を果たせないことで、更に追い詰めるだけになる。
じゃあ俺は、どう足掻こうと彼女を手に入れるなんてできない……。彼女を幸せになんて、できないってことなのか?
結局、俺は、こうなのか……。
望んではいけない、手に入れてはいけない……………………それが、俺の、罰。絶望だ……。
頭がうまく、働かなかった。
だっておかしい。サヤは俺に罪なんて無いって、そう言ったのに。
それを証明するために戦うって、そう言ってくれたのに。
そのサヤを失うなら、やっぱり俺は…………。
「すまない……しばらく、一人になりたい…………」
なんとかそう、口にした。
もう、何も考えたくなかった……。
世界が違う。
はじめから、分かっていた…………。
「分かっていたけど…………」
手に入れたと思えば、零れ落ちる。
初めから、そう決まっていたみたいに……。
もう、疲れた…………。
◆
その日はその後、何も手につかず、俺はただひたすら、出会った時からの、サヤとの時間を思い返していた。
五の月の終わりの頃から、もう十二の月の終わりだ……半年以上が過ぎた。
過ぎてしまえばあっという間……。その中でサヤは、どんどん俺の中で、比重を占めていった。
「子ができるかどうかなんて……どうだって良い……」
俺一人の気持ちで済むなら、そんなことは、どうだって良かった。
ただサヤと共にあれたらそれで良い。
本心からそう思ってる……。
でもそう言うことは、父上への裏切りだし、貴族としての責任放棄になる。
好きで得た後継という立場ではないのに…………それが苦しい。
子供なんて……そんなものは、神の恵みだ。誰と婚姻を結んだところで、できるときはできるし、できないときはできない。
サヤの世界では、違うのかな……。
彼女には、我々では到底及ばない知識がある。だから、子ができるかどうかすら、彼女には分かるのだろうか……。
だけどそんなことより……。
サヤがこれからの人生も、一人その苦しみを抱えて生きていくのかと思うと、その方が苦しくて、気がおかしくなりそうだった。
彼女がカナくんを拒んでしまった理由は、ここにもあったのだろうか……。
求められても、応えられない。
だから彼女は、拒むしか、できなかった?
だけどそれは、なんだかしっくりとしない気がした。
彼女は、カナくんを受け入れられない理由を、自分でも分からないのだと、そう言って泣いていた。
あれは心からの叫びだった。背を丸めて、苦しそうに、泣いていたのだ。
だからサヤは、乗り越えようと足掻き、自分を虐めるように鍛えた。
つまり、カナくんを拒んだ理由は、俺とは違う…………。
「俺が、駄目な理由…………」
かんにん……って、サヤは俺に、何故か謝った。
ふさわしい人と幸せになれと言いながら、涙を零した。
捧げた魂すら、返すと言った。
あんな風に、無理矢理な口づけを、拒まなかった。
はじめから、先を求めていなかった。
それでも、俺の気持ちを受け止めてくれた。
身体を、許そうとすらしてくれた。
それは、何故なんだろうか……。
何度考えてもそれは……サヤの気持ちがそこにあるようにしか、思えなくて……。
なのに拒まれた現実が、俺には理解できなくて……。
ひたすら、考えて、時間だけが過ぎた。
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