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祝賀会 2

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 祝賀会会場は、商業会館の大広間だった。
 三階にあり、警備の面でもやりやすいため選ばれた。大きな露台にはいくつか机や椅子が配置され、衝立でゆるく仕切られている。俺たちがここを使うことは無いだろうけれどと、内心思いつつ、横目で確認だけしておいた。
   広場の屋台も只今片付けられており、後で出店した職人らもここに集う予定。昼間の祭りの打ち上げも兼ねているわけだ。

 まずはそのまま控室に通される。
 主賓となる為、あとで登場することになる。暫くここで待機だ。
 通過した会場にはちらほら知人の姿もあり、手を振る程度の軽い挨拶をしておいた。
 居合わせたギルに、早く控室に行けと身振りで追い払われたためでもある。
 どうやら、俺目当ての望まぬ客も、すでに幾人かいるようだった。逃げるが勝ちだな。

「御子息様、何か不都合はございませんか」

 控室でのんびりしていると、商業組合長のレブロンが様子見がてら、挨拶にやってきた。
 不都合は特にないよと伝え、マルに無理をさせたことを詫びると、あれはマルの独断ですからとレブロン。

「いつものことですから、お気になさらず。
 むしろ今回は、ウーヴェにきちんと引き継ぎを済ませてありましたから、通常より問題無いくらいでしたよ」

 はっはと笑われ、普段から苦労かけてたんだろうなと、ちょっと申し訳なく思った。
 マルは確かに有能なんだけど……ほんと、奇行に走るのが唐突だからな。

「まあ、それよりも、まずお耳に入れておきたい件がございまして、こうしてご挨拶がてら、お邪魔させて頂いたのですが……。
 御子息様が、これから起こそうとなされております事業に興味があるという商人や職人が、今日は多数出席しております。あとそのぅ……?」

 そこで、この女性は?    と、サヤを見て訝しげな顔をする。

「レブロンも、前に大店会議で顔を合わせたろう?    私付きの給仕係をさせていたのを、おぼえていないか?    カメリアという。今はバート商会で専属意匠師をしている」

 そう言うと、ああっ。と、思った様子だ。
 ぺこりとお辞儀をするサヤに会釈を返して、ちらりと俺を見る。何故わざわざ紹介したのかを、問う視線。

「……本日は夜会であるからね。だが私にはもう、時が来れば手折ると決めた華があるから、蝶は望まないんだ」
「左様でしたか」

 ニッコリと、レブロンが微笑む。

「でしたら、これはお伝えすべくもありませんね。
 話の通じる相手にはそれとなく伝えておきます」
「そうしておいてもらえると助かる」
「しかし……今までそのような話は、耳にしておりませんでしたのに」
「伏せていたからね。マルにも手を借りていた。
「私の貴冑きちゅうの華は、幼き頃より私のかたわらにあったのだけど……私の都合で、一度手を離すしかなかったから……。やっと今年、こうして再び、手元に戻った。やっとね」
「王都にいた頃よりのえにしでしたか」
「ああ、ほんの小さな蕾の頃からね。私の心魂しんこんを捧げる、唯一の華だ。心を許せる者にしか託しはしない」
「心得ました」

 レブロンは王都にて勤めていた経験があるという。
 俺の言葉に問題なくついてくるところをみると、結構な大店で貴族相手の商いに携わっていたことがあるのだろう。
 まあこれで、多少は捌く人数が減ったかな。
 事情は了解したといった様子のレブロンが、念の為にと、参加者の名簿と、簡単な職種の説明、同行者の年齢や容姿、推測できる目的を書き込まれた書類を渡してくれた。
 これが有ると無しでは大違いだ。礼を言って受け取る。危険度の高そうなものは頭に叩き込んでおくことにしよう。

 レブロンが退室すると、サヤがほぅ……と、溜息を吐きつつ。

「貴族の喋り方って……難解なんですね。レブロンさん、凄いです」

 ……この様子は全く意味を理解していないな。
 そのことに内心でほっと息を吐きつつ「回りくどいだけだよ」と、言っておく。
 サヤの横で、ほんと回りくどい。と、顔で言ってるハインには、絶対意味をサヤに教えるなよ。と、仕草で釘を刺しておいた。多分注意しておかなかったら、こいつは躊躇せず口にする。
 演技込みとはいえ、相当な言葉を口にしていると自覚しているため、俺も表情を取り繕うので精一杯だ。

「サヤ、悪いのだけど、温かいお茶が欲しい」
「はい、頂いて来ますね」

 控室をサヤが去ると、俺は椅子にだらしなく身を投げ出した。顔が火照る。恥ずかしいっ、サヤがいる場所であんな言葉を……っ。

「結構なことを口走りましたね……」
「演技だよ!    お前間違っても、サヤに意味を言うな⁉︎」
「さっきも聞きました」
「何回でも注意しておきたい心境なんだよ!」

 間違っても言葉をそのまま俺の考えていることだとは思って欲しくない!
 いや、考えてないわけじゃなく……責任としてそれは……だけどまだ早いから!    全然急いでないから!    俺もサヤも成人してないんだから考えなくて良いんだから!

 一生懸命自分に言い聞かせ、サヤが戻るまでに顔の火照りと動悸を治めることに心血を注いだ。
 だけど頭の中では、自分の吐いた言葉がぐるぐる回る。うあああぁぁぁ。忘れろ俺!

 時が来れば手折ると決めた華があるから、蝶は望まないセイジンしたらダくときめたオンナがいるからホカにキョウミはない
 私の貴冑の華は、幼き頃より私の傍かたわらにあったコウキなうまれのオンナだ。ムカシからオレのものだ
 ほんの小さな蕾の頃からね。私の心魂を捧げる、唯一の華だオレのためにミサオをたててくれてる。オレのタマシイほどにタイセツなアイテだ
   心を許せる者にしか託しはしないテをダすなよ

 意味を知られたら俺、真面目に悶死するかもしれない……っ!
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