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望む未来 15

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「姫様が、リカルド様が実は冷静な方であると知らない可能性って、あるのかな」
「いや、現状、この場でリカルド様を冷静な方だって思ってるのは、レイ様だけだと思いますよ。
 彼の方の情報、行動、どれを取っても徹底されています。レイ様がそう言うんじゃなければ、気の所為で済ませるところですよ」

 俺の気の迷いだったらどうしようかな……。
 ちょっと不安になったけれど、まずはリカルド様を、もっと知ってからだと、思い直す。
 サヤが、不思議そうに首を傾げるから、リカルド様が粗暴に見せかけて、実は冷静な人であるという可能性が浮上していること、象徴派という派閥が絡んでいる可能性が高いことを話しておく。

「うん、じゃあ知らないとしよう。
 なら、姫様があんなことを言い出す理由も分かった。リカルド様の牽制だ。
 象徴派の長であることを知っていて、それを王政の中枢に入れることを、警戒しての行動じゃないかな」
「あー……策略の為にレイ様を夫にすると宣言してみせたと?」
「象徴派が焦って、何か行動すると思っているのじゃないかな」

 冷静になれば、姫様がそんな突拍子もないことを言い出すなんかおかしい。
 彼の方は立場も分かってらっしゃる。俺が姫様の夫となるわけがないのに、それをあえて口にしたのは、隙を作る為ではないかと推測できる。姫様がリカルド様と結婚したくないが為に、無理をごり押ししてきている。と、見せる為に。
 猪だと思わせているリカルド様は、直上っぽく状況に反応せざるを得ないだろう。
 さらに、姫様の発言に慌てて、象徴派が何か行動に出れば、その尻尾を掴む気でいるのかも。
 そう考えると、納得がいくのだ。
 マルは若干納得不良な顔をしつつ、まあ良いと、懸案事項は保留とした様子だ。

「……でもそうなると、レイ様、狙われませんか……」
「狙われるだろうな。男爵家で爪弾き者の二子くらい、サクッと始末しようと思うかもしれない。けどまぁ、分かりやすい的だ。有効な手段じゃないかな」

 俺という標的が定まれば、行動しやすい。
 象徴派は俺をなんとかしなければ、自分の理想が遠退いてしまうことになるから、俺を処理しようとする可能性は高いな。
 王様の容態的に、結婚は待った無しだ。俺が無理となれば、もうリカルド様としか選択肢が無い。
 俺と交渉し、自ら引く様、促すなら、穏便だ。力技に出てくることも、あり得ると思う。

「それ……レイに危険を、押し付けてるいうこと⁉︎」

 それまで黙って話を聞いていたサヤが、慌ててそう口を挟む。
 けど、姫様は俺をただ、危険に晒そうとは、思ってらっしゃらないだろう。

「だから、近衛を派遣した。土嚢壁なんて未知なものに、近衛の一部隊を差し向けたのは、出来過ぎだと思ってたんだ。
 土嚢壁の有用性の検証と、経過観察という名目でこんな場所まで来た。姫様も土嚢壁の有用性を熱弁していたから、近衛部隊が象徴派対策であることは、ある程度伏せようとしているのじゃないかな」

 まあ、リカルド様が、言い分を納得してるかどうかは別として。
 姫様も、もしかしたら、どこかの段階で、俺に事情を打ち明けようと思っていたのかもしれない。
 ただ、それよりリカルド様が先に来てしまった。だから俺に事情を説明する暇もなく、作戦を実行した。みたいな感じだろうか。

 神の采配だと言っていたのは、俺が都合良く、象徴派を釣りやすい状況を提供したからではないだろうか。
 そこまで考え、ふと、思い至る。
 ……マル、まさか……。

「いやいやいや、そこまで考えてないです。
 象徴派の存在は知ってましたけど、僕は単に、姫様がレイ様と接触する接点を切望されているのをお膳立てするついでに、警備要員と支援金を提供して貰おうとしただけですよ?」

 全部マルの思惑かと疑いの目を向けると、違うと否定された。
 ……いや、その言葉が本当かどうかはともかく、まだなんか隠してるな……別の思惑はあったのかもしれない。
 いまいちマルの挙動に信用が置けない……。だって目が凄く、楽しそうだ。

「そもそも姫様は僕にそんなに情報、おろしてくれませんよ?
 彼の方の心のうちなんて、本当に少数の人間しか知らないんじゃないですかね」
「……じゃあマル、姫様は何を狙っているのだと思う?
 ただリカルド様と婚儀を挙げたくない。……だけで行動する方じゃないよな」

 俺がそう問うと、マルは、まぁねぇ、姫様の性格ですからと、相槌を打つ。

「普通に考えれば、リカルド様が傀儡派の首魁であることと、王政の乗っ取りを企てている証拠を確保して、リカルド様のと婚儀自体を潰すこと。で、夫は居ないが王は危篤。ということで自身が王位に就くしかない土壌を築き上げる……辺りですか?
 けどまぁ、まだ沢山狙ってると思いますよぅ。
 土嚢壁や河川敷、交易路についてだって、真面目に国の利益になると思ってらっしゃるでしょうし。王になった暁にはもっと大々的にとか思ってたりしそうです」

 まあ、そこは副産物だろう。
 そうだよな……やっぱり、リカルド様の正体を突き詰めるべきか。
 巻き込まれた以上、力になれることはなって差し上げたいと思うしな……。姫様が王となれば、俺も解放されるのだろうし。

「……サヤ、姫様の肉体時な頑強さと寿命は、色を作れないこと以外は、我々と変わらない……だったよな」
「はい。
 病の特徴を聞く限りは、特別な疾患は無いように感じました。そうであれば、寿命も、肉体的な頑強さも、変わらないはずです。
 根拠は示せませんが、少なくとも、寿命が短いと証明する根拠も無い。と言った方が、正しい表現かもしれません」

 つまり、白い方は、必ず全員が短命ではないのだ。
 だが、王家の方は代々短命だ……それは、激務故となるのかな……。
 そこでふと、気になった。
 サヤの世界では、二万人に一人の特殊な病なのだよな?

「王家の方は、何故、代々白く生まれる方が、多いのだろうな……」
「病の巣が、血脈にあるのではないですか?」
「あの、それなんですけど……」

 俺のふとした疑問。
 明確な答えなど求めたわけではなかったが、サヤがおずおずと挙手をしたものだから、視線がサヤに集まる。

「あの……王家について、もう少し、詳しく教えて頂けないでしょうか……。
 個人的に思うことがあり……、その……あまり、確証のある話ではなく……それでも良いなら、ちょっと、ご相談したいことが、あります」

 その言葉に、俺とマルが身を乗り出す。
 だがそれを、遮る手があった。

「では、まず席を改めましょう。隣の応接室へ移動して下さい」

 ハインが、茶器の乗った盆を片手に、半眼で俺たちを見ている。

「延々と扉の近くで立ち話を続けないで下さい。
 サヤの耳を頼り過ぎです。私が茶を用意しに退室しても気付かない程に没頭してしまう状態では、サヤだって上の空ですよ」

 居なかったんですか、ハイン……。それ、ややこしい話から逃げただけだったりしませんか……。

「では、応接室をご利用下さい。私はここで、外を警戒しておきます」

 茶器一式を押し付けられ、さっさと応接室に三人揃って押し込まれた。
 そしてパタンと扉が閉まる。

「…………ややこしい話が嫌だったのかな……」
「……十中八九、逃げましたよね、あれ……」

 まあ、ハインは難しい話、興味無いよな。うん。報告だけ後でしておこう。
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