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仮面 9
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どう誤魔化したって、どうせすぐにボロが出る。
そんなことより、サヤが、心配だ。クリスタ様の正体を知り、何をしようとしているのか、全く分からない。
この際だから、どんな形でも良い。懐に飛び込んでやろう。
俺の行動に、ギルとハインは二人揃ってギョッとした。
だが、ディート殿は一度目を見開いたものの、すぐ、楽しそうに細める。
「うん? どういう意味だ? クリスタ様の目的は、土嚢壁の視察と、貴殿に再会することだと見受けられたが?」
「建前の方は良いのです。クリスティーナ様としての目的を知りたい。
貴方の仕える方です。何か知らされては、いませんか」
「ははっ、言ってしまうのか。
とりあえず誤魔化す方を選ばせてやろうと思ったのだが……覚悟はある様子だ」
体勢を変えることなく、にこやかに笑って、ディート殿が言う。
そして「姫の目的も、同じだと思うが」と、言った。
「レイ殿には、学舎に居た頃から目をつけていたと仰っていたぞ。
彼の方は、人集めが趣味みたいなものだ。有能だと思う者を見極めて、手駒にしたがる。
レイ殿も、引き抜こうと思っていたのに、直前に一度逃げられてしまって、諦め掛けていたのだそうだ。
だが、田舎に引っ込んで、そのまま朽ちるのかと思っていた貴殿が、急にとんでもない手段で行動し出した。それで、想いが再熱した……と、いった感じだ」
「え……じゃぁ、まさかあの、近衛になれってのが本音?」
あまりなことに、ついそう溢したのだが……。
「どうだろうな……。
姫は、貴殿の実績作りにも拘ってらっしゃる。ただ近衛にするだけなら、そのまま引き抜けば済むだろう?」
と、言われてしまった。
ううぅ……ディート殿の態度や表情……まるで素に見える……。虚偽を述べている風には、微塵も見えない。
この方の性格は、ここまで共に過ごした時間である程度把握していると思うが、ギルやハインほど密じゃないからな……。けれど、ルカ系の人が、わざわざこの手のことで策略を巡らすようなことをするとは思えない……。面倒臭いと考えるタチだと思うんだよな。
瞳を見据え、表情の変化に細心の注意を払うが、ディート殿は我関せずといった様子だ。全く動じていない。ハインが剣呑な表情で隙を伺っているのも分かっているだろうに……全く警戒している風にも見えなかった。だから、余計に手が出せない。
「貴殿をひとまず近衛に据える。更に実績を作って、立場を補強する。土嚢は国政、軍事、両方に有効なとんでもない代物だ。きちんと成功させたなら、結構なものだぞ。
貴殿は、ルオード様より上を狙うことも、出来るのではないか?」
「はぁ⁉︎ 何言ってるんですか。俺は、成人前の、未熟者ですよ!」
「そう。成人すらしておらぬのに、それだけの功績だぞ。しかも男爵家の二子という、後ろ盾も何もない状態で、稲妻の様に鮮やかな手を打ってきた逸材だ」
そんな風に言って、にんまりと人の悪い笑みを浮かべる。
いや、あれはマルの手だから!
と、言ってしまいたかったが、言ったところでただの屁理屈だろう。現状が、その様になっているのだから、その様に受け取られる。それだけのことだ。
けれど、じゃあ、俺は姫に、何を期待され、使われようとしているのか……。そう考えても、何も思い浮かばなかった……ルオード殿の上って、師団長とか、そういうこと?それこそ巫山戯てる。剣が握れない師団長。ただの笑い話だ。
「近衛に任じられる者にも、色々いてな、現状は近衛であるが、新たな王が即位した際は姫の懐刀として各方面に配置されることになる。まあ、俺の場合は剣の腕で気に入られたわけだから、多分近衛をこのまま続けるか、武官として軍に配置されるのか、その辺りだろう。レイ殿は……難しいな……内政面が有力かな。領地運営経験者であるし……」
ディート殿が、顎に手を当てて考え込みつつ、そんな風に言う。
新たな王……って、変な言い方だな。次の王位は、姫様が継ぐのだろうに。けれどまあ、良い。流しておく。
この方、先程の指摘といい、なんか隠し事をしてたり、策略を巡らせてたりする雰囲気が微塵もないのが、逆に怖い。
なんでこんなに友好的な態度なんだろう……親切に質問に答えてくれている様にしか見えない……。
この人本当に、姫の近衛なんだよな……。
「まあ、なんにしてもだ。レイ殿が引き受けざるを得ない状況を作り出す為に、あれこれ画策しているのだと思うぞ。彼の方は今、色々と切羽詰まっているからな。手駒を増やそうとするのも、それ故かもしれん」
「切羽詰まってる?」
「公にはなっていないからな。そこは口に出来ん」
言えないのにちらつかせるの⁉︎
だが、姫様にも何かの事情があるのだと、それだけは分かったわけだ……。出せる情報のギリギリまで開示してくれているのだと思えば、ありがたい限りだが、そうする意図が分からない。
だがまあ、貰えるものは貰っておく。
サヤは一体、これにどう絡んでいるんだ?
「……レイ、マルにはもう、話を聞いたのか?」
ギルが、神妙な面持ちで、そう聞いて来た。
……うん、そこだよな。この状況を作ったのはマルだ。彼は、姫様と、クリスタ様が同一人物だと、知っていた可能性が高い。
だが、こうなってみると……マルが、どうにも姫様の為に動いていた様に、思えてならない。
確かに俺の目的の為、状況を最大限有効に活用してある様に思えていたけれど、姫様が俺の実績作りに拘ってるってのを前から知っていたなら……。
「……マルも、近衛なのですか……?」
ものは試しだ。駄目元で聞いてみた。
「いや? 違うのではないかな。俺も姫の僕を全員把握しているとは言えぬが、王都で見かけたことはない」
……あっさり答えてくれた……。ああぁもう、気持ち悪いな⁉︎
「ディート殿、貴方も、姫様の僕であるのでしょう? 何故、そうも簡単に、情報を提供して下さるのですか?」
何でも答えられる範囲のことに答えてくれるなら、これも答えてくれるかと思い、聞いてみた。
するとディート殿は、待ってましたとばかりに満面の笑顔になる。
「それは、俺がまだ、正式な近衛ではないからだ。
部隊の中では、俺だけがまだ、鎖に繋がれてはいない。
それとな、ルオード様より姫とは別の、命を受けている。姫が暴走する場合は、歯止めとなる様にと。
俺は、姫に忠誠を誓う身となる予定だが、それはルオード様の元でと決めているんだ」
これも情報だ。
姫の意思と、ルオード様の意思は、同じではない。
ルオード様は、全てにおいて姫の言いなりではなく、彼の願う別の目的の為に動くつもりでいる。
そしてルオード様は姫の意思で行動を縛られるが、ディート殿はまだ縛られていない。
ディート殿は現在、姫様よりルオード様の命が優先。
ディート殿……貴方は本当に、曲者だ。
「有難うございます。
では安心して、情報源になって頂きます」
「ああ、答えれる範囲だけは、答えよう」
まあそうだろうな。ルオード様の意思に沿わないことは言えないって解釈しておこう。
「姫様は、俺の実績づくりを重要視されているんですね」
「そうだ。だから多分、サヤも、彼の方の欲しいものに加わったと思うぞ。
貴殿ごと、サヤを手中にしようと思っている筈だ。直接は断られてしまったしな」
ルオード様の得た情報は、ディート殿にも共有されているということ。当然逆もそうなのだろう。
サヤを手中にしたくなったというのは、サヤの知識が狙われているということか。正直、恐ろしかった。あの時のクリスタ様の様子……サヤの意思や願いなど気にせず、サヤを道具として使う者の目だった。
まえから、為政者然としているとは思っていたが……彼の方は、そうなるべく育てられた方だったのだな……。
「ルオード様の希望する落とし所を、貴方はご存知なのですか?」
「残念ながら、知らぬ。というか、彼の方も……迷っているのだと思うぞ。
ルオード様は、それこそ、姫が生まれた時からの長い付き合いだからな。姫の置かれた現状に、憂いているのは確かだ。
だが、姫が選ぼうとしている道を、肯定出来かねているだけでな」
頭の中で情報を振り分けつつ、マルはどうかなと考える。
姫様の意を汲んでいたのは確かだろう。だがそれで、俺が不利になるような状況を作ったわけではないし、どちらの希望にも沿った案を叩き出しただけだと思えば、別に腹を立てるようなことではないと思える。
姫様の近衛ではない可能性が高いと、ディート殿は仰った。まあマルは、等価交換が基本だ。部下にせずとも、同等の価値がある情報か、金を提供すれば、得たいものは得られる。逆を言えば、部下にしたとしても、手綱を握ることが難しい相手ということだ。マルは、命令で縛れない。
けどマルは、俺の印を、受け取ってくれたんだよな……。
なら、脈はあるのではなかろうか。
命令しようとは思わない。彼も多分、そういうのを嫌うから。
でも、彼の思惑に背かない範囲なら、俺の願いを聞いてくれる余地は、ある様に思える。
「よし。マルと、話してくる」
そんなことより、サヤが、心配だ。クリスタ様の正体を知り、何をしようとしているのか、全く分からない。
この際だから、どんな形でも良い。懐に飛び込んでやろう。
俺の行動に、ギルとハインは二人揃ってギョッとした。
だが、ディート殿は一度目を見開いたものの、すぐ、楽しそうに細める。
「うん? どういう意味だ? クリスタ様の目的は、土嚢壁の視察と、貴殿に再会することだと見受けられたが?」
「建前の方は良いのです。クリスティーナ様としての目的を知りたい。
貴方の仕える方です。何か知らされては、いませんか」
「ははっ、言ってしまうのか。
とりあえず誤魔化す方を選ばせてやろうと思ったのだが……覚悟はある様子だ」
体勢を変えることなく、にこやかに笑って、ディート殿が言う。
そして「姫の目的も、同じだと思うが」と、言った。
「レイ殿には、学舎に居た頃から目をつけていたと仰っていたぞ。
彼の方は、人集めが趣味みたいなものだ。有能だと思う者を見極めて、手駒にしたがる。
レイ殿も、引き抜こうと思っていたのに、直前に一度逃げられてしまって、諦め掛けていたのだそうだ。
だが、田舎に引っ込んで、そのまま朽ちるのかと思っていた貴殿が、急にとんでもない手段で行動し出した。それで、想いが再熱した……と、いった感じだ」
「え……じゃぁ、まさかあの、近衛になれってのが本音?」
あまりなことに、ついそう溢したのだが……。
「どうだろうな……。
姫は、貴殿の実績作りにも拘ってらっしゃる。ただ近衛にするだけなら、そのまま引き抜けば済むだろう?」
と、言われてしまった。
ううぅ……ディート殿の態度や表情……まるで素に見える……。虚偽を述べている風には、微塵も見えない。
この方の性格は、ここまで共に過ごした時間である程度把握していると思うが、ギルやハインほど密じゃないからな……。けれど、ルカ系の人が、わざわざこの手のことで策略を巡らすようなことをするとは思えない……。面倒臭いと考えるタチだと思うんだよな。
瞳を見据え、表情の変化に細心の注意を払うが、ディート殿は我関せずといった様子だ。全く動じていない。ハインが剣呑な表情で隙を伺っているのも分かっているだろうに……全く警戒している風にも見えなかった。だから、余計に手が出せない。
「貴殿をひとまず近衛に据える。更に実績を作って、立場を補強する。土嚢は国政、軍事、両方に有効なとんでもない代物だ。きちんと成功させたなら、結構なものだぞ。
貴殿は、ルオード様より上を狙うことも、出来るのではないか?」
「はぁ⁉︎ 何言ってるんですか。俺は、成人前の、未熟者ですよ!」
「そう。成人すらしておらぬのに、それだけの功績だぞ。しかも男爵家の二子という、後ろ盾も何もない状態で、稲妻の様に鮮やかな手を打ってきた逸材だ」
そんな風に言って、にんまりと人の悪い笑みを浮かべる。
いや、あれはマルの手だから!
と、言ってしまいたかったが、言ったところでただの屁理屈だろう。現状が、その様になっているのだから、その様に受け取られる。それだけのことだ。
けれど、じゃあ、俺は姫に、何を期待され、使われようとしているのか……。そう考えても、何も思い浮かばなかった……ルオード殿の上って、師団長とか、そういうこと?それこそ巫山戯てる。剣が握れない師団長。ただの笑い話だ。
「近衛に任じられる者にも、色々いてな、現状は近衛であるが、新たな王が即位した際は姫の懐刀として各方面に配置されることになる。まあ、俺の場合は剣の腕で気に入られたわけだから、多分近衛をこのまま続けるか、武官として軍に配置されるのか、その辺りだろう。レイ殿は……難しいな……内政面が有力かな。領地運営経験者であるし……」
ディート殿が、顎に手を当てて考え込みつつ、そんな風に言う。
新たな王……って、変な言い方だな。次の王位は、姫様が継ぐのだろうに。けれどまあ、良い。流しておく。
この方、先程の指摘といい、なんか隠し事をしてたり、策略を巡らせてたりする雰囲気が微塵もないのが、逆に怖い。
なんでこんなに友好的な態度なんだろう……親切に質問に答えてくれている様にしか見えない……。
この人本当に、姫の近衛なんだよな……。
「まあ、なんにしてもだ。レイ殿が引き受けざるを得ない状況を作り出す為に、あれこれ画策しているのだと思うぞ。彼の方は今、色々と切羽詰まっているからな。手駒を増やそうとするのも、それ故かもしれん」
「切羽詰まってる?」
「公にはなっていないからな。そこは口に出来ん」
言えないのにちらつかせるの⁉︎
だが、姫様にも何かの事情があるのだと、それだけは分かったわけだ……。出せる情報のギリギリまで開示してくれているのだと思えば、ありがたい限りだが、そうする意図が分からない。
だがまあ、貰えるものは貰っておく。
サヤは一体、これにどう絡んでいるんだ?
「……レイ、マルにはもう、話を聞いたのか?」
ギルが、神妙な面持ちで、そう聞いて来た。
……うん、そこだよな。この状況を作ったのはマルだ。彼は、姫様と、クリスタ様が同一人物だと、知っていた可能性が高い。
だが、こうなってみると……マルが、どうにも姫様の為に動いていた様に、思えてならない。
確かに俺の目的の為、状況を最大限有効に活用してある様に思えていたけれど、姫様が俺の実績作りに拘ってるってのを前から知っていたなら……。
「……マルも、近衛なのですか……?」
ものは試しだ。駄目元で聞いてみた。
「いや? 違うのではないかな。俺も姫の僕を全員把握しているとは言えぬが、王都で見かけたことはない」
……あっさり答えてくれた……。ああぁもう、気持ち悪いな⁉︎
「ディート殿、貴方も、姫様の僕であるのでしょう? 何故、そうも簡単に、情報を提供して下さるのですか?」
何でも答えられる範囲のことに答えてくれるなら、これも答えてくれるかと思い、聞いてみた。
するとディート殿は、待ってましたとばかりに満面の笑顔になる。
「それは、俺がまだ、正式な近衛ではないからだ。
部隊の中では、俺だけがまだ、鎖に繋がれてはいない。
それとな、ルオード様より姫とは別の、命を受けている。姫が暴走する場合は、歯止めとなる様にと。
俺は、姫に忠誠を誓う身となる予定だが、それはルオード様の元でと決めているんだ」
これも情報だ。
姫の意思と、ルオード様の意思は、同じではない。
ルオード様は、全てにおいて姫の言いなりではなく、彼の願う別の目的の為に動くつもりでいる。
そしてルオード様は姫の意思で行動を縛られるが、ディート殿はまだ縛られていない。
ディート殿は現在、姫様よりルオード様の命が優先。
ディート殿……貴方は本当に、曲者だ。
「有難うございます。
では安心して、情報源になって頂きます」
「ああ、答えれる範囲だけは、答えよう」
まあそうだろうな。ルオード様の意思に沿わないことは言えないって解釈しておこう。
「姫様は、俺の実績づくりを重要視されているんですね」
「そうだ。だから多分、サヤも、彼の方の欲しいものに加わったと思うぞ。
貴殿ごと、サヤを手中にしようと思っている筈だ。直接は断られてしまったしな」
ルオード様の得た情報は、ディート殿にも共有されているということ。当然逆もそうなのだろう。
サヤを手中にしたくなったというのは、サヤの知識が狙われているということか。正直、恐ろしかった。あの時のクリスタ様の様子……サヤの意思や願いなど気にせず、サヤを道具として使う者の目だった。
まえから、為政者然としているとは思っていたが……彼の方は、そうなるべく育てられた方だったのだな……。
「ルオード様の希望する落とし所を、貴方はご存知なのですか?」
「残念ながら、知らぬ。というか、彼の方も……迷っているのだと思うぞ。
ルオード様は、それこそ、姫が生まれた時からの長い付き合いだからな。姫の置かれた現状に、憂いているのは確かだ。
だが、姫が選ぼうとしている道を、肯定出来かねているだけでな」
頭の中で情報を振り分けつつ、マルはどうかなと考える。
姫様の意を汲んでいたのは確かだろう。だがそれで、俺が不利になるような状況を作ったわけではないし、どちらの希望にも沿った案を叩き出しただけだと思えば、別に腹を立てるようなことではないと思える。
姫様の近衛ではない可能性が高いと、ディート殿は仰った。まあマルは、等価交換が基本だ。部下にせずとも、同等の価値がある情報か、金を提供すれば、得たいものは得られる。逆を言えば、部下にしたとしても、手綱を握ることが難しい相手ということだ。マルは、命令で縛れない。
けどマルは、俺の印を、受け取ってくれたんだよな……。
なら、脈はあるのではなかろうか。
命令しようとは思わない。彼も多分、そういうのを嫌うから。
でも、彼の思惑に背かない範囲なら、俺の願いを聞いてくれる余地は、ある様に思える。
「よし。マルと、話してくる」
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