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後遺症 3
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そこからは、日常の業務時間だ。
それぞれが、それぞれの仕事をこなしていく。
執務室での作業は、平常心を保つことが出来ていた。ここは大丈夫。
けれど、サヤが昼食の賄い作りに行き、戻って来て、昼食を取ってからは、俺の仕事はほぼ無い。
暫く執務室で、今でなくても良いような作業をしていたけれど、ハインが別館を離れる為、部屋に戻るように言われてしまう。
ここから、調子が狂い出した。
部屋に居ると、駄目だ、思い出す。刈り取ってしまった命について、考えてしまう。
血で汚れた家具は血を拭き取り、浄められ、シミの消えない座褥や服は処分された。
しかも俺自身がとどめを刺したわけでもない。
なのに、気持ちがざわつくのだ。
俺は、俺の身を守る為に、命を刈らせてしまった。二人に、そんなことをさせてしまった。
そう思うと、罪悪感に、胸が押し潰されそうになるのだ。
出たい。この部屋に極力居たくない。外に、今までの日常に戻りたい。
二人に、あんなことをさせてしまう前に、戻りたい。
仮眠の為交代するサヤが、出向いてくるまでを待つことすら、俺には出来なかった。
「なあ、もうひと段落したんだから……見回りに……」
「朝も言ったはずです。安全の確証が無いのに、見回りは危険ですと」
チリッ、と……腹の底を熱が焼いた。
「だから……俺だって言ったよな?
それじゃ、いつまでも確証が持てない。ずっとお前たちを煩わせることになるんだ。
そんな効率悪いことしてるより、数日覚悟して外を彷徨いてみればいい。何もなければ安全。何かあっても対処していけば……」
「ご自身を危険に晒すような手段はおやめ下さい!」
怒りを露わにしてそう言うハインの表情が、襲撃の夜を思い出させる。
やることがあるうちは良かった。他のことに追われて、考える余裕などなかったから。
一人残った兇手の為に、現場に出向くことも、村の見回りも禁止されたまま、有り余る時間に、翻弄される。
形は違えど、俺はまた、俺の為に命を奪った。
俺の所為で、刈り取られた。
しかもそれを、友の手に、させた。この場所で!
「いい加減にしてくれ!
雨季にはどうせ、閉じ込められるんだろう⁉︎ なら残りの数日くらい、好きにさせてくれ‼︎」
怒鳴って部屋を飛び出した。
何か、得体の知れない焦りを感じていた。
ここに居たら駄目だ。俺はきっとまた間違えてしまう。
そうだ、間違えてしまった。またやってしまった。
ギルを、ハインを、穢してしまった。俺の所為で!
「あ? レイ、どこ行くんだ?」
階段を下りたら、客室から出て来たギルに呼び止められた。
けれど無視して玄関に向かうと、俺の部屋から飛び出してきたハインが「レイシール様!」と、鋭い声で俺を呼ぶ。
その声に心臓を掴まれ、より恐ろしくなってしまった俺は、ただ逃げる為に、走り出していた。
「レイシール様⁉︎ 外はいけません‼︎」
「レイ⁉︎」
二人の声から逃げた。ただ無心に足を動かして、全力で。
逃げなければ、あの二人は追ってくる。俺の代わりに手を汚す。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、また、穢してしまう。俺の所為で、俺の所為で、俺の……っ‼︎
どの段階から、自分が飲み込まれていたのか気付けなかった。
ただ、意識した時にはもう、恐怖に雁字搦めで、身体の均衡が保てなくなっていた。
やばい……身体が、重くなる……手足の自由が、感触が鈍くなる……そんなことを思ってる間に、膝が崩れた。
空気が油になってしまったような感覚。腹の底から這い出し、溢れてくる、恐怖。……駄目だ、こんなところで崩れたら……、また、皆の手を、煩わせてしまう……。だから、駄目だ。崩れるな。お前は、何もしてないくせに、友に手を汚させて、のうのうと生き残ったくせに、更に手間を掛けさせて、何様だ。なんでおまえは、そうやって、まわりを、まきこんで、ふりまわして、けがれさせてなお、じぶんがひがいしゃみたいな、つらをしてやがるんだ……!
「もし、体調が優れぬのか?」
想像だにしない近さで、耳慣れない、鋭い声がした。
それと同時に肩を掴まれ、ぐいと身を引き起こされて、俺は混乱と恐怖で息が詰まった。
油になってしまった空気では、呼吸が出来ない。
「おい!」
揺さぶられるが、ただ喘ぐことしか出来ない。怖い、苦しい、誰⁉︎ 俺は、どうなってる⁇
視界が歪み、暗転する。
ああ、似てる……暗い水の底に、引きずり込まれるあの感覚に……。
空気の代わりに身体に纏わりつき、俺の中にまで入り込んできたのは、絶望だった……。俺は、またあれに、飲み込まれるのか…………。
「見つけた、レイ‼︎」
飛び掛けた意識を、サヤの声が繋ぎ止める。
誰かの硬い手が離れ、身体を柔らかいものに包み込まれた。
「過呼吸?
吐き。体の中の空気全部、一旦吐き出してしまい。そうしたら、落ち着いて、ゆっくり吸うて。
大丈夫、空気を吸い過ぎてるだけや、慌てへんかったら、ちゃんと、呼吸の仕方、すぐに思い出せる」
背中をさする、優しい手。
油になってしまった空気を、言われるがまま、すべて吐き出す。
「うん、大丈夫やで。ゆっくり吸うて。ほら、ちゃんとできるやろ?」
まだ怖かったけれど、言われた通りに、吐いた空気をまた吸う。……出来た。ちゃんと、息が、空気が吸える。
「落ち着いて。ゆっくり繰り返し。大丈夫。ちゃんと支えとくし、慌てんと、な。
……あの、有難うございます。
旅の方……ですか? もう落ち着きましたから、大丈夫です。
お急ぎでなければ、少しお時間を頂けますか。是非お礼を……」
優しい声音で、俺を不安にさせまいと、語りかけてくれたサヤの言葉の後半が、先程俺を支えていた誰かに向けられているのを、漠然と聞いていた。
「あ、いや……君、今レイと言ったか。
……まさか、レイシールか? 記憶と随分違う……背が……髪の色も……」
そういえば……何か、馴染み良い声だ……どこか、聞き覚えがある……。
……駄目だ、思い出せない……頭が、うまく、働かない……。だるい……。身体も、鉛の様に重くて、動かない……。
「あの…………どちら様ですか」
サヤの警戒が、身体に伝わってきた。
俺の身体に回された手に、ギュッと力がこもる。
その様子に、声の主が慌てて弁明し出した。
「すまない。怪しい者では……三年以上会っていなかったが、元は学友なのだ。
その……レイシール、意識はあるか? 私を、憶えていると良いのだが……?
……あっ、ハイン。ハインはどうしている? あれならば私を憶えていると思うのだが、君は……レイシールの、小姓か?」
「従者です。申し訳ありません、暫く、離れていて頂けますか。
そのうち、ハインさんたちも駆け付けて下さると思うのですが、それまでは……」
「ん。承知した。幼いのによく気付く。君は良い従者だな」
優しい、柔らかい声だ。先程の鋭さは影を潜めた。
ああ、この声音なら、覚えがある……いつもゆったりと喋ってらっしゃった……あの方の……クリスタ様の……。
ピクリと、サヤが揺れた。身体をひねったのか、少し浮き上がるような感覚。
「ギルさん! こっち、道なりで、二本杉の所です‼︎」
音を拾ったのか、気配に気付いたのか、サヤが声を上げた。
しばらくの間待つと、耳慣れた足音。
「サヤ、すまん。見つけてくれて助かった……レイは……る、ルオード様⁉︎」
ギルが驚いた様子でそう呼んだ。ああそうだ、この柔らかい声音は、ルオード様だ。
「やあ、ギルバート。久しいな。君が居るとは思わなかったよ。
じゃあやはり、レイシールなのだよな、彼が。
びっくりした。背が、頭一つ分は伸びているな。骨格もがっちりして……あの少女の様に愛らしかったレイシールが、こんな立派な青年に急成長しているとはな。
髪色も変わっているから、本気で気付かなかった」
「ははっ、約三年半近くたちますか。
こちらに戻ってから、まさかの急成長でしたよ。
あと、髪色は、これが本来の色だそうで。
サヤ、俺が運ぶ。レイの様子は……」
「過呼吸を起こしてらっしゃいました。もう、落ち着いたと思うのですが、半時間は誰か、見ていた方が良いです。だいぶ消耗されたみたいで、眠ってしまった様ですし……あの、これより仮眠の時間でしたので、差し支えなければ私が」
「カコキュウ……ってのはなんだ?」
「混乱や過度なストレスで……あ、精神的な、重圧で、呼吸の仕方を間違ってしまうことが、あるんです。また不安が強まったりすると、起こる可能性が……。対処方は、心得ていますので、私がついています。それでその、お客様は……レイシール様に、ご用の方なのでしょうか?」
意識はあるのに、だるい……目を開けていられない。
ルオード様がいらっしゃっているなら、失礼のない様にしなければならないのに……。
この方は、もう、王宮の……王女様の、近衛になられた筈……。
そんな俺をよそに、三人は言葉を交わしていく。
「ああ、まあ、そうなるか。
マルクスより、嘆願があった件だ。聞いているか?」
「……いや、初耳ですよ……あんの馬鹿……っ」
「ははは、いつものことだ、気にするな。
それに、こちらにとっても利が高いと思うから、こうして私たちが派遣されたのだ。
ああ、途中で少し雑ごとが起こってな。部隊を置いて、先に来た」
「ぶ、部隊⁈ マルは何を要求したんですか⁉︎」
「慌てなくても大丈夫だよ。正式に受理された派遣だ。
手続き自体は終了していると聞いているから、マルも準備は済ませているのだと思うよ。
私の派遣を伏せていたのは、こちらの都合と悪戯心かな?」
「黙ってていいことと駄目なことの判断つかねぇんだなあいつ……あとでシメときます」
「気にしなくて良いのに。……ああ、少し待ってくれるか、馬を連れて来る」
身体を抱き上げられ、運ばれる振動が、何か、懐かしい記憶を刺激する。
ギルと、ルオード様の声が、学舎のひと時を思い出させる。
気付けば、俺を飲み込もうとしていた絶望は、また小さく、身を縮こませ、俺の腹の奥底に身を潜ませてしまったようだった。
あぁ、良かった。最悪の状態は免れた……もう、迷惑は掛けたくない。これ以上は、もう……。
そんな風に、揺られながら考えていたら、垂れた腕を、別の温かい手が包む。
「レイシール様……また何か、思いつめてらっしゃったのでしょうか……」
柔らかく握られる手のぬくもり。声の位置からして、きっとサヤなのだろう。
「……これは、まだ色々、抱えている様だな……」
「ええ……。性格もありますが、環境が……。やっぱりこいつは、平穏でいられない様です。
……サヤ、そんな顔するな。また暫くすれば、落ち着くはずだ」
「……はい……」
そこまでで、俺は意識を保っていられなくなった。
それぞれが、それぞれの仕事をこなしていく。
執務室での作業は、平常心を保つことが出来ていた。ここは大丈夫。
けれど、サヤが昼食の賄い作りに行き、戻って来て、昼食を取ってからは、俺の仕事はほぼ無い。
暫く執務室で、今でなくても良いような作業をしていたけれど、ハインが別館を離れる為、部屋に戻るように言われてしまう。
ここから、調子が狂い出した。
部屋に居ると、駄目だ、思い出す。刈り取ってしまった命について、考えてしまう。
血で汚れた家具は血を拭き取り、浄められ、シミの消えない座褥や服は処分された。
しかも俺自身がとどめを刺したわけでもない。
なのに、気持ちがざわつくのだ。
俺は、俺の身を守る為に、命を刈らせてしまった。二人に、そんなことをさせてしまった。
そう思うと、罪悪感に、胸が押し潰されそうになるのだ。
出たい。この部屋に極力居たくない。外に、今までの日常に戻りたい。
二人に、あんなことをさせてしまう前に、戻りたい。
仮眠の為交代するサヤが、出向いてくるまでを待つことすら、俺には出来なかった。
「なあ、もうひと段落したんだから……見回りに……」
「朝も言ったはずです。安全の確証が無いのに、見回りは危険ですと」
チリッ、と……腹の底を熱が焼いた。
「だから……俺だって言ったよな?
それじゃ、いつまでも確証が持てない。ずっとお前たちを煩わせることになるんだ。
そんな効率悪いことしてるより、数日覚悟して外を彷徨いてみればいい。何もなければ安全。何かあっても対処していけば……」
「ご自身を危険に晒すような手段はおやめ下さい!」
怒りを露わにしてそう言うハインの表情が、襲撃の夜を思い出させる。
やることがあるうちは良かった。他のことに追われて、考える余裕などなかったから。
一人残った兇手の為に、現場に出向くことも、村の見回りも禁止されたまま、有り余る時間に、翻弄される。
形は違えど、俺はまた、俺の為に命を奪った。
俺の所為で、刈り取られた。
しかもそれを、友の手に、させた。この場所で!
「いい加減にしてくれ!
雨季にはどうせ、閉じ込められるんだろう⁉︎ なら残りの数日くらい、好きにさせてくれ‼︎」
怒鳴って部屋を飛び出した。
何か、得体の知れない焦りを感じていた。
ここに居たら駄目だ。俺はきっとまた間違えてしまう。
そうだ、間違えてしまった。またやってしまった。
ギルを、ハインを、穢してしまった。俺の所為で!
「あ? レイ、どこ行くんだ?」
階段を下りたら、客室から出て来たギルに呼び止められた。
けれど無視して玄関に向かうと、俺の部屋から飛び出してきたハインが「レイシール様!」と、鋭い声で俺を呼ぶ。
その声に心臓を掴まれ、より恐ろしくなってしまった俺は、ただ逃げる為に、走り出していた。
「レイシール様⁉︎ 外はいけません‼︎」
「レイ⁉︎」
二人の声から逃げた。ただ無心に足を動かして、全力で。
逃げなければ、あの二人は追ってくる。俺の代わりに手を汚す。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、また、穢してしまう。俺の所為で、俺の所為で、俺の……っ‼︎
どの段階から、自分が飲み込まれていたのか気付けなかった。
ただ、意識した時にはもう、恐怖に雁字搦めで、身体の均衡が保てなくなっていた。
やばい……身体が、重くなる……手足の自由が、感触が鈍くなる……そんなことを思ってる間に、膝が崩れた。
空気が油になってしまったような感覚。腹の底から這い出し、溢れてくる、恐怖。……駄目だ、こんなところで崩れたら……、また、皆の手を、煩わせてしまう……。だから、駄目だ。崩れるな。お前は、何もしてないくせに、友に手を汚させて、のうのうと生き残ったくせに、更に手間を掛けさせて、何様だ。なんでおまえは、そうやって、まわりを、まきこんで、ふりまわして、けがれさせてなお、じぶんがひがいしゃみたいな、つらをしてやがるんだ……!
「もし、体調が優れぬのか?」
想像だにしない近さで、耳慣れない、鋭い声がした。
それと同時に肩を掴まれ、ぐいと身を引き起こされて、俺は混乱と恐怖で息が詰まった。
油になってしまった空気では、呼吸が出来ない。
「おい!」
揺さぶられるが、ただ喘ぐことしか出来ない。怖い、苦しい、誰⁉︎ 俺は、どうなってる⁇
視界が歪み、暗転する。
ああ、似てる……暗い水の底に、引きずり込まれるあの感覚に……。
空気の代わりに身体に纏わりつき、俺の中にまで入り込んできたのは、絶望だった……。俺は、またあれに、飲み込まれるのか…………。
「見つけた、レイ‼︎」
飛び掛けた意識を、サヤの声が繋ぎ止める。
誰かの硬い手が離れ、身体を柔らかいものに包み込まれた。
「過呼吸?
吐き。体の中の空気全部、一旦吐き出してしまい。そうしたら、落ち着いて、ゆっくり吸うて。
大丈夫、空気を吸い過ぎてるだけや、慌てへんかったら、ちゃんと、呼吸の仕方、すぐに思い出せる」
背中をさする、優しい手。
油になってしまった空気を、言われるがまま、すべて吐き出す。
「うん、大丈夫やで。ゆっくり吸うて。ほら、ちゃんとできるやろ?」
まだ怖かったけれど、言われた通りに、吐いた空気をまた吸う。……出来た。ちゃんと、息が、空気が吸える。
「落ち着いて。ゆっくり繰り返し。大丈夫。ちゃんと支えとくし、慌てんと、な。
……あの、有難うございます。
旅の方……ですか? もう落ち着きましたから、大丈夫です。
お急ぎでなければ、少しお時間を頂けますか。是非お礼を……」
優しい声音で、俺を不安にさせまいと、語りかけてくれたサヤの言葉の後半が、先程俺を支えていた誰かに向けられているのを、漠然と聞いていた。
「あ、いや……君、今レイと言ったか。
……まさか、レイシールか? 記憶と随分違う……背が……髪の色も……」
そういえば……何か、馴染み良い声だ……どこか、聞き覚えがある……。
……駄目だ、思い出せない……頭が、うまく、働かない……。だるい……。身体も、鉛の様に重くて、動かない……。
「あの…………どちら様ですか」
サヤの警戒が、身体に伝わってきた。
俺の身体に回された手に、ギュッと力がこもる。
その様子に、声の主が慌てて弁明し出した。
「すまない。怪しい者では……三年以上会っていなかったが、元は学友なのだ。
その……レイシール、意識はあるか? 私を、憶えていると良いのだが……?
……あっ、ハイン。ハインはどうしている? あれならば私を憶えていると思うのだが、君は……レイシールの、小姓か?」
「従者です。申し訳ありません、暫く、離れていて頂けますか。
そのうち、ハインさんたちも駆け付けて下さると思うのですが、それまでは……」
「ん。承知した。幼いのによく気付く。君は良い従者だな」
優しい、柔らかい声だ。先程の鋭さは影を潜めた。
ああ、この声音なら、覚えがある……いつもゆったりと喋ってらっしゃった……あの方の……クリスタ様の……。
ピクリと、サヤが揺れた。身体をひねったのか、少し浮き上がるような感覚。
「ギルさん! こっち、道なりで、二本杉の所です‼︎」
音を拾ったのか、気配に気付いたのか、サヤが声を上げた。
しばらくの間待つと、耳慣れた足音。
「サヤ、すまん。見つけてくれて助かった……レイは……る、ルオード様⁉︎」
ギルが驚いた様子でそう呼んだ。ああそうだ、この柔らかい声音は、ルオード様だ。
「やあ、ギルバート。久しいな。君が居るとは思わなかったよ。
じゃあやはり、レイシールなのだよな、彼が。
びっくりした。背が、頭一つ分は伸びているな。骨格もがっちりして……あの少女の様に愛らしかったレイシールが、こんな立派な青年に急成長しているとはな。
髪色も変わっているから、本気で気付かなかった」
「ははっ、約三年半近くたちますか。
こちらに戻ってから、まさかの急成長でしたよ。
あと、髪色は、これが本来の色だそうで。
サヤ、俺が運ぶ。レイの様子は……」
「過呼吸を起こしてらっしゃいました。もう、落ち着いたと思うのですが、半時間は誰か、見ていた方が良いです。だいぶ消耗されたみたいで、眠ってしまった様ですし……あの、これより仮眠の時間でしたので、差し支えなければ私が」
「カコキュウ……ってのはなんだ?」
「混乱や過度なストレスで……あ、精神的な、重圧で、呼吸の仕方を間違ってしまうことが、あるんです。また不安が強まったりすると、起こる可能性が……。対処方は、心得ていますので、私がついています。それでその、お客様は……レイシール様に、ご用の方なのでしょうか?」
意識はあるのに、だるい……目を開けていられない。
ルオード様がいらっしゃっているなら、失礼のない様にしなければならないのに……。
この方は、もう、王宮の……王女様の、近衛になられた筈……。
そんな俺をよそに、三人は言葉を交わしていく。
「ああ、まあ、そうなるか。
マルクスより、嘆願があった件だ。聞いているか?」
「……いや、初耳ですよ……あんの馬鹿……っ」
「ははは、いつものことだ、気にするな。
それに、こちらにとっても利が高いと思うから、こうして私たちが派遣されたのだ。
ああ、途中で少し雑ごとが起こってな。部隊を置いて、先に来た」
「ぶ、部隊⁈ マルは何を要求したんですか⁉︎」
「慌てなくても大丈夫だよ。正式に受理された派遣だ。
手続き自体は終了していると聞いているから、マルも準備は済ませているのだと思うよ。
私の派遣を伏せていたのは、こちらの都合と悪戯心かな?」
「黙ってていいことと駄目なことの判断つかねぇんだなあいつ……あとでシメときます」
「気にしなくて良いのに。……ああ、少し待ってくれるか、馬を連れて来る」
身体を抱き上げられ、運ばれる振動が、何か、懐かしい記憶を刺激する。
ギルと、ルオード様の声が、学舎のひと時を思い出させる。
気付けば、俺を飲み込もうとしていた絶望は、また小さく、身を縮こませ、俺の腹の奥底に身を潜ませてしまったようだった。
あぁ、良かった。最悪の状態は免れた……もう、迷惑は掛けたくない。これ以上は、もう……。
そんな風に、揺られながら考えていたら、垂れた腕を、別の温かい手が包む。
「レイシール様……また何か、思いつめてらっしゃったのでしょうか……」
柔らかく握られる手のぬくもり。声の位置からして、きっとサヤなのだろう。
「……これは、まだ色々、抱えている様だな……」
「ええ……。性格もありますが、環境が……。やっぱりこいつは、平穏でいられない様です。
……サヤ、そんな顔するな。また暫くすれば、落ち着くはずだ」
「……はい……」
そこまでで、俺は意識を保っていられなくなった。
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★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
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