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執着 2
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そんな風に時間は過ぎ、俺たちの食事が終わる頃、やっとサヤが帰って来た。
夜間警備の者がやって来るまで、一応と思い、警備をしていたらしい。
予定していない仕事までこなしていたとは……。
「お疲れ様サヤ。警備は仕事に含まれないのだから、気にしなくて良いんだよ?」
「いえ……、ちょっと気になることがあったものですから……」
少々歯切れの悪い言い方が引っかかった。
けれど、サヤは今から夕食だ。疲れたろうから、そちらを優先させよう。
「温め直してきますから、サヤは暫く休憩しておいて下さい」
ハインがそう言い、席を立つが、サヤはかぶりを振る。
「いえ、今のうちに水を汲んでこようかと。あの、今日は……?」
「ああ、良いですよ。サヤは久しぶりでしょうから、入れましょう」
ハインがそう言うと、サヤの表情が一気に明るくなった。
とても嬉しそうに、弾むような足取りでハインに続き、調理場に消える。
何を話していたかは一目瞭然だった。そうか……それこそサヤは、十日以上ご無沙汰だったな。
と、今出て行ったばかりのハインが食堂に戻ってくる。ゆったりとお茶を楽しんでいたギルに、ギッと睨みをきかせ、宣った。
「ギル、暇でしょうからサヤを手伝って下さい」
「なんで暇前提だ」
「暇そうだからです」
「水を汲むだけなんですから手伝いなさい」と、拒否権は無い様だ。
カチンときたギルの眉が釣り上がるが、俺はまあまあとそれをなだめる。
「手伝って損は無いと思うんだ。後でギルも利用するだろうから」
「一泊するだけなんだから、湯浴みはいらねぇよ」
「湯浴みじゃないんだ。風呂の準備だから」
聞き間違えたとでも思ったのか、ギルは一瞬考え込み、暫くしてから「何って?」と、聞き返してきた。
「風呂。
前、小部屋の一部を衝立として注文したろう?
調理場に風呂を作ってあるんだ。まあ、形状は鍋なんだけどね」
「え……? なんか……変な想像しかできねぇんだけど……」
「多分想像通りだと思いますよぅ。ほんと、鍋ですから」
マルにまで言われて、ギルは確認せずにはおれなくなった様だ。そわそわと立ち上がって調理場に向かった。そして、扉の向こうに消えた後、暫くしてから「マジで⁉︎」という驚愕の声が聞こえる。俺はマルと顔を見合わせて、くつくつと笑った。
そういえば、ギルにも一度風呂を体験してもらおうと思ってたのだ。丁度良かったな。
因みに、俺とマルは戦力外だ。俺は桶を一つしか持てないし、マルには体力が無い。
「使った後の感想が楽しみですねぇ」
初め、風呂を面倒がっていたマルがそんな風に言うから笑った。
使ったら病みつきだよな。気持ちがいいし、一気に洗えるし、凄くさっぱりするのだ。
水汲みはあっという間に終わった様だ。サヤは手桶ではなく、樽に水を入れて運ぶので、凄く早い。重たいものが平気な利点を最大限活用しているのである。
それでも一人より、二人でやる方が早い。樽に水を汲む速度が上がるからだ。
サヤが席に着き、ハインが温めた料理を運んで来る。
ギルも戻って来て、席に着いた。もう一度お茶を堪能するのかと思ったのだが、そうではないらしい。
「あー……サヤも、戻ったし、俺の用件の話、ここでして良いか?」
ギルがそう言うと、サヤが緊張したのが分かった。
……え……何?
食事は進めているけれど、気持ちは食事にいっていないらしいサヤの態度に、不安が膨らむ。
サヤが緊張するようなことなのか?
サヤを見ると、視線が合った。けれど、次の瞬間逸らされて、サヤが頬を赤らめたものだから、俺の混乱は更に拍車が掛かった。
ギルの方を見ると、サヤを見つつ、苦笑い。
…………何か……得体の知れない、もやもやとしたものが、胸の中を蠢く。
二人の反応が、嫌なことを連想させられたのだ。
嫌な……って、違う。俺が口を挟むようなことじゃ、無いことだ。
前も、こんなことを考えた。あれはいつだった……? たしか、サヤが倒れた時だ。カナくんの話を聞いた時。
そう、サヤがカナくんのことを、眠りに落ちる前の、譫言のように口にしたのだ。幼馴染だと。
家族以外で唯一出て来た名前。そして、俺の予感は的中して、サヤがカナくんのことを、想っていると知った。
……そう、サヤの想い人はカナくんだ。そしてギルにだって、サヤを恋愛対象として見るなと言ってある。だから、サヤがギルとどうこうということは、無い……はず、だ……。
本店命令と、ギルは言った。それはつまり、ギルのご両親や、兄のアルバートさんが絡んでくるということだ。
今、家督はアルバートさんが継いでいるわけだから、そちらが主なのかな……。
でも、アルバートさんが俺に相談してくることが分からない。
学舎を辞めてから、ギル越しの接点しか無いのだ。王都に居た時は、優しくしてもらった。
結構熱血で、突っ走る傾向のあるギルと正反対の、温和で実直な方だ。貴族との付き合いを熟知されていて、無理難題を言うような方じゃない。そもそも、頼み事をされたことって、無いよな。ギルとかなり年の差があり、ルーシーの父でもあるわけで……あ、ルーシー絡みなのか?いや、それも変だ。だって、サヤの事でと、ギルは言ったのだから。
「あのな、サヤの着ている従者服、サヤが意匠を考案したって話はしたよな。
それの図案を買い取らせてもらって、写しを本店にも送ったんだよ。
多分こうなるとは思ってたんだが……やっぱりというか……早馬で、返事が届いてな。
いくら積んでも構わない。どんな条件でも飲む。……っていう前提で、お前と交渉してこいって言われたんだ」
サヤの図案?
俺が感情に流されているときの話だよな……。でも図案関係なのだから、ギルとどうこうの話ではないとハッキリした。そのことに少なからずホッとする。
しかし、視界の端で、ますますサヤが縮こまって、耳まで赤くなっているのが見える。
ギルは、暫し沈黙した。そして……。
「サヤをな。なんとしてでも囲えってことなんだ」
夜間警備の者がやって来るまで、一応と思い、警備をしていたらしい。
予定していない仕事までこなしていたとは……。
「お疲れ様サヤ。警備は仕事に含まれないのだから、気にしなくて良いんだよ?」
「いえ……、ちょっと気になることがあったものですから……」
少々歯切れの悪い言い方が引っかかった。
けれど、サヤは今から夕食だ。疲れたろうから、そちらを優先させよう。
「温め直してきますから、サヤは暫く休憩しておいて下さい」
ハインがそう言い、席を立つが、サヤはかぶりを振る。
「いえ、今のうちに水を汲んでこようかと。あの、今日は……?」
「ああ、良いですよ。サヤは久しぶりでしょうから、入れましょう」
ハインがそう言うと、サヤの表情が一気に明るくなった。
とても嬉しそうに、弾むような足取りでハインに続き、調理場に消える。
何を話していたかは一目瞭然だった。そうか……それこそサヤは、十日以上ご無沙汰だったな。
と、今出て行ったばかりのハインが食堂に戻ってくる。ゆったりとお茶を楽しんでいたギルに、ギッと睨みをきかせ、宣った。
「ギル、暇でしょうからサヤを手伝って下さい」
「なんで暇前提だ」
「暇そうだからです」
「水を汲むだけなんですから手伝いなさい」と、拒否権は無い様だ。
カチンときたギルの眉が釣り上がるが、俺はまあまあとそれをなだめる。
「手伝って損は無いと思うんだ。後でギルも利用するだろうから」
「一泊するだけなんだから、湯浴みはいらねぇよ」
「湯浴みじゃないんだ。風呂の準備だから」
聞き間違えたとでも思ったのか、ギルは一瞬考え込み、暫くしてから「何って?」と、聞き返してきた。
「風呂。
前、小部屋の一部を衝立として注文したろう?
調理場に風呂を作ってあるんだ。まあ、形状は鍋なんだけどね」
「え……? なんか……変な想像しかできねぇんだけど……」
「多分想像通りだと思いますよぅ。ほんと、鍋ですから」
マルにまで言われて、ギルは確認せずにはおれなくなった様だ。そわそわと立ち上がって調理場に向かった。そして、扉の向こうに消えた後、暫くしてから「マジで⁉︎」という驚愕の声が聞こえる。俺はマルと顔を見合わせて、くつくつと笑った。
そういえば、ギルにも一度風呂を体験してもらおうと思ってたのだ。丁度良かったな。
因みに、俺とマルは戦力外だ。俺は桶を一つしか持てないし、マルには体力が無い。
「使った後の感想が楽しみですねぇ」
初め、風呂を面倒がっていたマルがそんな風に言うから笑った。
使ったら病みつきだよな。気持ちがいいし、一気に洗えるし、凄くさっぱりするのだ。
水汲みはあっという間に終わった様だ。サヤは手桶ではなく、樽に水を入れて運ぶので、凄く早い。重たいものが平気な利点を最大限活用しているのである。
それでも一人より、二人でやる方が早い。樽に水を汲む速度が上がるからだ。
サヤが席に着き、ハインが温めた料理を運んで来る。
ギルも戻って来て、席に着いた。もう一度お茶を堪能するのかと思ったのだが、そうではないらしい。
「あー……サヤも、戻ったし、俺の用件の話、ここでして良いか?」
ギルがそう言うと、サヤが緊張したのが分かった。
……え……何?
食事は進めているけれど、気持ちは食事にいっていないらしいサヤの態度に、不安が膨らむ。
サヤが緊張するようなことなのか?
サヤを見ると、視線が合った。けれど、次の瞬間逸らされて、サヤが頬を赤らめたものだから、俺の混乱は更に拍車が掛かった。
ギルの方を見ると、サヤを見つつ、苦笑い。
…………何か……得体の知れない、もやもやとしたものが、胸の中を蠢く。
二人の反応が、嫌なことを連想させられたのだ。
嫌な……って、違う。俺が口を挟むようなことじゃ、無いことだ。
前も、こんなことを考えた。あれはいつだった……? たしか、サヤが倒れた時だ。カナくんの話を聞いた時。
そう、サヤがカナくんのことを、眠りに落ちる前の、譫言のように口にしたのだ。幼馴染だと。
家族以外で唯一出て来た名前。そして、俺の予感は的中して、サヤがカナくんのことを、想っていると知った。
……そう、サヤの想い人はカナくんだ。そしてギルにだって、サヤを恋愛対象として見るなと言ってある。だから、サヤがギルとどうこうということは、無い……はず、だ……。
本店命令と、ギルは言った。それはつまり、ギルのご両親や、兄のアルバートさんが絡んでくるということだ。
今、家督はアルバートさんが継いでいるわけだから、そちらが主なのかな……。
でも、アルバートさんが俺に相談してくることが分からない。
学舎を辞めてから、ギル越しの接点しか無いのだ。王都に居た時は、優しくしてもらった。
結構熱血で、突っ走る傾向のあるギルと正反対の、温和で実直な方だ。貴族との付き合いを熟知されていて、無理難題を言うような方じゃない。そもそも、頼み事をされたことって、無いよな。ギルとかなり年の差があり、ルーシーの父でもあるわけで……あ、ルーシー絡みなのか?いや、それも変だ。だって、サヤの事でと、ギルは言ったのだから。
「あのな、サヤの着ている従者服、サヤが意匠を考案したって話はしたよな。
それの図案を買い取らせてもらって、写しを本店にも送ったんだよ。
多分こうなるとは思ってたんだが……やっぱりというか……早馬で、返事が届いてな。
いくら積んでも構わない。どんな条件でも飲む。……っていう前提で、お前と交渉してこいって言われたんだ」
サヤの図案?
俺が感情に流されているときの話だよな……。でも図案関係なのだから、ギルとどうこうの話ではないとハッキリした。そのことに少なからずホッとする。
しかし、視界の端で、ますますサヤが縮こまって、耳まで赤くなっているのが見える。
ギルは、暫し沈黙した。そして……。
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★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
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