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マルクス 5
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でまあ、情報の共有というのは、マルとサヤがひたすら話し込むという時間だった。
俺には全く意味の分からないやりとりが多く、案外マルとサヤが意思疎通できていることに唖然とする。
初めの一時間くらいは耐えたが、ギルが「無理」と、溢して離脱した。
ハインは元から聞き流す気でいたようで、今は執務机を利用して何かしらの書類を書いている。
ギルの離脱後も、俺はサヤの横に座ってるわけだが、もう随分前に話の流れは意味が分からなくなっていた。気付けば外は暗い……。
「失礼致します。夕食の準備が整いましたので、運ばせて頂きますが、宜しゅうございますか?」
部屋を離れていたワドが、そう言ってきたので、俺は一も二もなく頷いた。
とにかくこの意味の分からない会話から脱出だ。
そもそも、マルの興味に付き合っていたら、サヤが限界に達する可能性も高い。こいつは何日だって、食事も抜きで、こうしてられるのだから。
「マル、一旦休憩だ。食事だ。聞こえてるか?」
「はいはい、聞こえてます。うん。だいたい、サヤくんの言おうとしてることは分かったと思う。じゃあ、疑問点とかが出てきたら、その都度聞くから、その時はよろしく。
あ、ギル。悪いんだけど、今日泊まってもいいかな」
「……もう用意してある。いつもの部屋だ」
ワドの後に帰ってきたギルが、そう言って肩をぐるりと回す。仕事を片付けてきたって顔だな。
ハインも書類を一旦端に集め、作業を中断した。
俺の方に向かって歩いてきたギルが、ふと、俺の手前で足を止めた。
「サヤ、腕の方は……痛みとかは無いのか」
「え? 大丈夫です。特に変化は感じてませんよ」
ギルを見上げたサヤが、こてりと首を傾げて返事を返す。
だがギルは、それに溜息を零した。
「違う……。身体の負担になってねぇのかって話だ。
お前、血を失くしてるって自覚無いのか? 長時間マルに付き合ってると、保たねぇって言ってんの。食事が済んだら、しばらく休憩しろ。長椅子でいいから横になれ」
「だ、大丈夫ですよ?」
「……抱き上げられて部屋に運ばれるのとどっちがいい」
「休みます」
扱いが手馴れてるな……さすがギルだ。俺がそう思って感心してると、ギルがこちらを向く。
ぱくぱくと口を動かし、サヤを指差す。かお、いろ?
サヤに気付かれないよう、俺にだけ分かるよう。
サヤが少し疲れているように見えるのだろう。
俺は目で分かったと伝える。
それでギルは、満足したように側を離れ、自分の席に移動した。
「明日な、会議は2時からだ。
人数は十三人、金貸しと、土建組合の後継が追加されてる。
席順は前回同様にした。後継は隣な。
あ、サヤは腕の怪我があるから、出来るだけ台車と、レイ担当。街人連中に茶を出すのはルーシーでいい。ワドもいるから、それで問題ないしな」
食事を進めながらギルがそんな風に説明を挟む。
俺と台車担当って……それ普通に、サヤに俺の後ろで立っていろと言ってないか…。
俺がギルを睨むと、なんだよ、文句あんのか?とでも言いそうな顔で片眉を上げた。
「当然だろ。お前は貴族だぞ。なんで街人連中とおんなじ扱いが通ると思ってんだ」
う……。そ、そうか……。
「しかもサヤは腕のことがある。
お前はそれを配慮するだろうが、他の連中は期待できねぇだろ。
だから、不満があろうが納得しろ。
腕の傷は、隠れるようにするから……そこは安心しろ」
そう言って肉を口に放り込む。
次に口を開いたのはハインだった。
「司会進行は私ですね。まあ、マルが大体理解したでしょうから、私が話すことはあまり無いですね。参加者の顔色を注視しておくことにします
「睨んだらダメだからな。極力穏やかな顔しておいてくれ」
「無理です」
はぁ……また街人方からハインが怖すぎるって言われたらどうしよう。俺は、お願いしに来てるのであって、脅しに来てるのではないのに、また誤解されかねない……。
ちょっと憂鬱になってしまった……。
「あの……私、レイシール様担当と言われても、会議は体験したことがないので、何をして良いか分からないです……。どうすれば良いでしょう」
おずおずと手を挙げて、サヤが聞く。
なんで手を挙げるんだろう?はい、注目。ってことなのかな。
それにしても、サヤにも分からないことがあるんだな。なんかホッとした。
いや、これっていわゆる方便だから、別段特別なことはないと思うけど。
俺がそう口を開こうとしたら、ギルがそれを阻み、先に説明を始めてしまう。
「サヤはレイのお茶を出したり、冷めたら入れ替えたりするのが建前の仕事な。後は護衛だ。
腕のことがあるから、無理はさせたくないんだが……それでも多分、お前が一番強い。
今回は、面識のない人間が二人追加されてるから、警戒を緩めるわけにゃいかねぇし、頼む」
え?そんな必要ないだろ?と、思いはしたが……口を挟まないことにした。
面識のない人間とはいえ、組合や大店の関係者だ。素性は知れてる。何かあった場合、連帯責任になりかねないのだから、何かあるとも思えない……が、そう言っておく方が、サヤが気を使わないと思ったのだろう。
サヤはその言葉に「はい、頑張りますっ」と、気合いを入れていた。
それにギルはうっすらと笑う。全くな……気配りができすぎる……男前だよ、ほんと。
「じゃあ、対策については僕が話を進めたら良いんだね。分かった。
あ、そう言えばさ、領主様の許可は取ってるんだよね? 大掛かりなことになるだろうし、始めてから文句言われたら困るよ?」
何気にマルにそう聞かれ、ハインの視線がちらりと俺を見る。
だから俺は、マルに向かってこくりと頷き、言った。
「うん、大丈夫だよ」
今回は、言うつもりないから。
「とにかく日にちが無い。極力、大急ぎで進めてほしい。
一番理想なのは、雨の前に終わることだけど……」
「うーん……こればっかりは安請け合いできないなぁ。
まあ、日雇いだけ雇って対応するよりは、早く進められると思うんだけど……やる気次第?」
「お前が総指揮取るんだろうが、やる気も出させろよ」
「えー?手段選ばなくて良いならできるけど……穏便なのと、そうじゃないのどっちが良いかな?」
「馬鹿、穏便じゃないのは選択肢に入れんな」
ギルが上手い具合に話を反らしてくれた。
それで俺は、小さく息を吐く。突っ込まれなくて良かった……。
大丈夫。マルに累が及ぶようにはしない。これは俺の責任で行うと決めたのだ。
父上に確認を取るのは無理だ。全て異母様で止まってしまうのだから。
そして、異母様は許可を出さない。あの方は、現状維持しか望んでいらっしゃらない。
別館を避難場所に利用させて欲しいと許可をもらいに行った時、言われたのだ。
今まで通りにと。
あの方がそう言う以上、それ以外は何一つ許されない。
だが……。今まで通りで、良い筈が無いのだ。
領主の仕事は、領民を守ることだ。ならば、徒らに税金を徴収するべきじゃないし、環境が改善できるならば、すべきだ。
俺が領主代行なのだ。これが必要かどうか決めるのは俺でなければならない。
異母様より、兄上より、療養中の父上より、俺が今一番、領民に近い場所に立っている。
俺が一番、見えている筈なのだ。領民たちが、何を望むのかを。
後のことを考えると、身が竦んでしまうから、あえて考えない。
いつもと同じ…そう思われているうちに、終われば…それが一番良い。
だけど、気づかれてしまったら……その責任は、俺が担う。そう決めた。
「あ。そうだ!
サヤの髪、どうする?明日の給仕、やっぱりやめて従者の格好にした方が良いのか⁉︎」
と、そこで急に、ギルがそう叫んだ。
はたと気付く。そうだった……髪!
全く考えていなかった。女性の格好の時は、隠すことになったんだった!
「ええと……ど、どうしようか。帽子や髪飾りで隠すわけにも……」
「どんな髪飾りだ。隠せねぇよそんなんじゃ。室内で帽子ってのもな……逆に怪しいだろ。
あああぁぁ、やっぱルーシーを街人の給仕にしてワドをレイに回すか……いや、もう一人誰か入れるべきか……適当なのがいねえぇぇ」
「サヤを誤魔化す方法……他に何かあったっけ、染めたりとか?」
「黒色ってどうなんだ……? 染まるのか?」
「えっと、私の国では、一旦色を抜いてから染めます」
『どうやって⁉︎』
「や、薬剤? 私もやったことがないので、分からないですっ」
ギル、俺、サヤでわたわたと慌てた会話を交わす。
マルとハインはもう諦めて従者の格好にしたら良いんじゃ? という意見であるようだ。
いや、そりゃそうなんだけど……。一端従者の格好をやめさせたのに、今更というか……。しかもギルだって人を用意するの大変そうだしさ……。
で、ギルはギルで、ルーシーが煩ぇんだよと頭を抱えている。
「失礼致します。
サヤ様の御髪の件でしたら、一応と思いまして用意してあるものがございますが……お持ちし致しましょうか?」
そして、困った時にこう言ってくれるのはワドなのだ。
なんでそんなに手回しが良いのか……執事の鏡だ!
「出来る限り、サヤ様の御髪に近いお色でと思ったのですが、思うほどにはございませんでした。その為、現状で、一番濃い色合いのものを取り寄せました」
そう言って、ワドの指示で持ってこられたのは紫紺色の鬘だった。
鬘は一つ用意するのに同色の人毛が三十人分必要だ。特定の色を得ようと思えば、それこそ一年やそこら掛かってもおかしくない。
前回ここに来た時から、十日かそこら……よく準備したな……。感心するしかない。
食事の後に、一度かぶってみて、髪型を整えましょうとワドが言う。前髪を実際に切って作るという作業が必要らしい。
「眉はルーシーがなんとか誤魔化してくれるな。よしっ、これでなんとかなった!」
胸をなで下ろすギル。
ルーシーがそんなに怖いのだろうか……。
だが、これでサヤは女性の格好をしやすくなるということだよな?
鬘があるならば、男装しないで過ごすこともできるんじゃあと、淡い期待をする。
が、やはり、偽るというのは、そんな簡単な話ではなかったのだ。
俺には全く意味の分からないやりとりが多く、案外マルとサヤが意思疎通できていることに唖然とする。
初めの一時間くらいは耐えたが、ギルが「無理」と、溢して離脱した。
ハインは元から聞き流す気でいたようで、今は執務机を利用して何かしらの書類を書いている。
ギルの離脱後も、俺はサヤの横に座ってるわけだが、もう随分前に話の流れは意味が分からなくなっていた。気付けば外は暗い……。
「失礼致します。夕食の準備が整いましたので、運ばせて頂きますが、宜しゅうございますか?」
部屋を離れていたワドが、そう言ってきたので、俺は一も二もなく頷いた。
とにかくこの意味の分からない会話から脱出だ。
そもそも、マルの興味に付き合っていたら、サヤが限界に達する可能性も高い。こいつは何日だって、食事も抜きで、こうしてられるのだから。
「マル、一旦休憩だ。食事だ。聞こえてるか?」
「はいはい、聞こえてます。うん。だいたい、サヤくんの言おうとしてることは分かったと思う。じゃあ、疑問点とかが出てきたら、その都度聞くから、その時はよろしく。
あ、ギル。悪いんだけど、今日泊まってもいいかな」
「……もう用意してある。いつもの部屋だ」
ワドの後に帰ってきたギルが、そう言って肩をぐるりと回す。仕事を片付けてきたって顔だな。
ハインも書類を一旦端に集め、作業を中断した。
俺の方に向かって歩いてきたギルが、ふと、俺の手前で足を止めた。
「サヤ、腕の方は……痛みとかは無いのか」
「え? 大丈夫です。特に変化は感じてませんよ」
ギルを見上げたサヤが、こてりと首を傾げて返事を返す。
だがギルは、それに溜息を零した。
「違う……。身体の負担になってねぇのかって話だ。
お前、血を失くしてるって自覚無いのか? 長時間マルに付き合ってると、保たねぇって言ってんの。食事が済んだら、しばらく休憩しろ。長椅子でいいから横になれ」
「だ、大丈夫ですよ?」
「……抱き上げられて部屋に運ばれるのとどっちがいい」
「休みます」
扱いが手馴れてるな……さすがギルだ。俺がそう思って感心してると、ギルがこちらを向く。
ぱくぱくと口を動かし、サヤを指差す。かお、いろ?
サヤに気付かれないよう、俺にだけ分かるよう。
サヤが少し疲れているように見えるのだろう。
俺は目で分かったと伝える。
それでギルは、満足したように側を離れ、自分の席に移動した。
「明日な、会議は2時からだ。
人数は十三人、金貸しと、土建組合の後継が追加されてる。
席順は前回同様にした。後継は隣な。
あ、サヤは腕の怪我があるから、出来るだけ台車と、レイ担当。街人連中に茶を出すのはルーシーでいい。ワドもいるから、それで問題ないしな」
食事を進めながらギルがそんな風に説明を挟む。
俺と台車担当って……それ普通に、サヤに俺の後ろで立っていろと言ってないか…。
俺がギルを睨むと、なんだよ、文句あんのか?とでも言いそうな顔で片眉を上げた。
「当然だろ。お前は貴族だぞ。なんで街人連中とおんなじ扱いが通ると思ってんだ」
う……。そ、そうか……。
「しかもサヤは腕のことがある。
お前はそれを配慮するだろうが、他の連中は期待できねぇだろ。
だから、不満があろうが納得しろ。
腕の傷は、隠れるようにするから……そこは安心しろ」
そう言って肉を口に放り込む。
次に口を開いたのはハインだった。
「司会進行は私ですね。まあ、マルが大体理解したでしょうから、私が話すことはあまり無いですね。参加者の顔色を注視しておくことにします
「睨んだらダメだからな。極力穏やかな顔しておいてくれ」
「無理です」
はぁ……また街人方からハインが怖すぎるって言われたらどうしよう。俺は、お願いしに来てるのであって、脅しに来てるのではないのに、また誤解されかねない……。
ちょっと憂鬱になってしまった……。
「あの……私、レイシール様担当と言われても、会議は体験したことがないので、何をして良いか分からないです……。どうすれば良いでしょう」
おずおずと手を挙げて、サヤが聞く。
なんで手を挙げるんだろう?はい、注目。ってことなのかな。
それにしても、サヤにも分からないことがあるんだな。なんかホッとした。
いや、これっていわゆる方便だから、別段特別なことはないと思うけど。
俺がそう口を開こうとしたら、ギルがそれを阻み、先に説明を始めてしまう。
「サヤはレイのお茶を出したり、冷めたら入れ替えたりするのが建前の仕事な。後は護衛だ。
腕のことがあるから、無理はさせたくないんだが……それでも多分、お前が一番強い。
今回は、面識のない人間が二人追加されてるから、警戒を緩めるわけにゃいかねぇし、頼む」
え?そんな必要ないだろ?と、思いはしたが……口を挟まないことにした。
面識のない人間とはいえ、組合や大店の関係者だ。素性は知れてる。何かあった場合、連帯責任になりかねないのだから、何かあるとも思えない……が、そう言っておく方が、サヤが気を使わないと思ったのだろう。
サヤはその言葉に「はい、頑張りますっ」と、気合いを入れていた。
それにギルはうっすらと笑う。全くな……気配りができすぎる……男前だよ、ほんと。
「じゃあ、対策については僕が話を進めたら良いんだね。分かった。
あ、そう言えばさ、領主様の許可は取ってるんだよね? 大掛かりなことになるだろうし、始めてから文句言われたら困るよ?」
何気にマルにそう聞かれ、ハインの視線がちらりと俺を見る。
だから俺は、マルに向かってこくりと頷き、言った。
「うん、大丈夫だよ」
今回は、言うつもりないから。
「とにかく日にちが無い。極力、大急ぎで進めてほしい。
一番理想なのは、雨の前に終わることだけど……」
「うーん……こればっかりは安請け合いできないなぁ。
まあ、日雇いだけ雇って対応するよりは、早く進められると思うんだけど……やる気次第?」
「お前が総指揮取るんだろうが、やる気も出させろよ」
「えー?手段選ばなくて良いならできるけど……穏便なのと、そうじゃないのどっちが良いかな?」
「馬鹿、穏便じゃないのは選択肢に入れんな」
ギルが上手い具合に話を反らしてくれた。
それで俺は、小さく息を吐く。突っ込まれなくて良かった……。
大丈夫。マルに累が及ぶようにはしない。これは俺の責任で行うと決めたのだ。
父上に確認を取るのは無理だ。全て異母様で止まってしまうのだから。
そして、異母様は許可を出さない。あの方は、現状維持しか望んでいらっしゃらない。
別館を避難場所に利用させて欲しいと許可をもらいに行った時、言われたのだ。
今まで通りにと。
あの方がそう言う以上、それ以外は何一つ許されない。
だが……。今まで通りで、良い筈が無いのだ。
領主の仕事は、領民を守ることだ。ならば、徒らに税金を徴収するべきじゃないし、環境が改善できるならば、すべきだ。
俺が領主代行なのだ。これが必要かどうか決めるのは俺でなければならない。
異母様より、兄上より、療養中の父上より、俺が今一番、領民に近い場所に立っている。
俺が一番、見えている筈なのだ。領民たちが、何を望むのかを。
後のことを考えると、身が竦んでしまうから、あえて考えない。
いつもと同じ…そう思われているうちに、終われば…それが一番良い。
だけど、気づかれてしまったら……その責任は、俺が担う。そう決めた。
「あ。そうだ!
サヤの髪、どうする?明日の給仕、やっぱりやめて従者の格好にした方が良いのか⁉︎」
と、そこで急に、ギルがそう叫んだ。
はたと気付く。そうだった……髪!
全く考えていなかった。女性の格好の時は、隠すことになったんだった!
「ええと……ど、どうしようか。帽子や髪飾りで隠すわけにも……」
「どんな髪飾りだ。隠せねぇよそんなんじゃ。室内で帽子ってのもな……逆に怪しいだろ。
あああぁぁ、やっぱルーシーを街人の給仕にしてワドをレイに回すか……いや、もう一人誰か入れるべきか……適当なのがいねえぇぇ」
「サヤを誤魔化す方法……他に何かあったっけ、染めたりとか?」
「黒色ってどうなんだ……? 染まるのか?」
「えっと、私の国では、一旦色を抜いてから染めます」
『どうやって⁉︎』
「や、薬剤? 私もやったことがないので、分からないですっ」
ギル、俺、サヤでわたわたと慌てた会話を交わす。
マルとハインはもう諦めて従者の格好にしたら良いんじゃ? という意見であるようだ。
いや、そりゃそうなんだけど……。一端従者の格好をやめさせたのに、今更というか……。しかもギルだって人を用意するの大変そうだしさ……。
で、ギルはギルで、ルーシーが煩ぇんだよと頭を抱えている。
「失礼致します。
サヤ様の御髪の件でしたら、一応と思いまして用意してあるものがございますが……お持ちし致しましょうか?」
そして、困った時にこう言ってくれるのはワドなのだ。
なんでそんなに手回しが良いのか……執事の鏡だ!
「出来る限り、サヤ様の御髪に近いお色でと思ったのですが、思うほどにはございませんでした。その為、現状で、一番濃い色合いのものを取り寄せました」
そう言って、ワドの指示で持ってこられたのは紫紺色の鬘だった。
鬘は一つ用意するのに同色の人毛が三十人分必要だ。特定の色を得ようと思えば、それこそ一年やそこら掛かってもおかしくない。
前回ここに来た時から、十日かそこら……よく準備したな……。感心するしかない。
食事の後に、一度かぶってみて、髪型を整えましょうとワドが言う。前髪を実際に切って作るという作業が必要らしい。
「眉はルーシーがなんとか誤魔化してくれるな。よしっ、これでなんとかなった!」
胸をなで下ろすギル。
ルーシーがそんなに怖いのだろうか……。
だが、これでサヤは女性の格好をしやすくなるということだよな?
鬘があるならば、男装しないで過ごすこともできるんじゃあと、淡い期待をする。
が、やはり、偽るというのは、そんな簡単な話ではなかったのだ。
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★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
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