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「……短刀は……ウーヴェさんを狙って振るわれたんです……。
ウーヴェさんは引かなかったので、体当たりする形で、回避と避ける場所の確保をすることになりました。けれど、勢いが少し、足りなかったんです。あまり全力でぶつかると、ウーヴェさんに怪我をさせてしまいそうで……。読み間違ったのは私なので、ウーヴェさんに責任はありません」
長椅子に寝かされた状態で、サヤは渋々と状況説明をしていた。
レイとハインが目を光らせているので、誤魔化しは効かないだろうしな……。
状況はこうだった。
バルチェ商会に出向いた一行は、店主か責任者を求めた。
しかし生憎というか、運良くというか、エゴンは終日不在であったそうだ。
その為、責任者としてウーヴェが出てきた。対応自体はきちんとしていたようだ。
そのまま応接室に通され、そこで明日の会議の日時を伝え、帰ろうとしていた矢先、騒ぎが起こった。
ウーヴェに見送られ、店の方に出て来たところであったので、鉢合わせする形になったらしい。
刃物を持って乱入して来たのは三十路そこらの男であったそうだ。
怪我の為、働けなかった期間の生活費工面のため、エゴンに借金したらしい。
思ったより怪我の具合が改善せず、長引いた。返済期間の延期を求めたが、娘を借金のかたに出せば良いと突っぱねられたという。
娘は結婚を視野に入れたような状況であったので、なんとか考え直して欲しいと願い出たが、まるで娘が目的であったかのように受け入れられない。結果として、今日までになんとか借金を返そうと奔走することとなり……叶わなかった。
そして自暴自棄になった挙句、刃物を持って暴れることとなったようだ。
とはいえ、当初は事情も分からず、刃物を持って暴れる男でしかなかったわけだ。
まずは店の警備を担当ている強面の男達が、男を切り捨てようとしたらしい。
そこをウーヴェが制止した。
事情を確認しろという指示だったわけだが、指示を出したところを刃物の男が見咎めた。エゴンの身内かと叫び、娘を守るといった趣旨のことを叫びつつ、突進して来たという。
ウーヴェはそれでも引かず、まずは話を聞けと男に声を掛けた。逃げようとしないので、咄嗟にサヤが割って入り、庇った。
子供に見えるサヤが血を流したことで、男は一気に青ざめ……。
それで正気に戻ったらしいと判断し、サヤが事情を確認した。というわけだ。
「お前な…………。なんでそう……無茶なことをするんだ……」
「無茶と言われても……咄嗟に動いてしまったんです。意識したわけじゃありませんから。
実際、かなり、無理な貸付だったみたいなんです。
書類を確認したウーヴェさんが眉を潜めるくらいに。
怪我の治りが順調だったとしても、その方の仕事の収入からではやりくり出来ないような感じで。
返済が目的でないと言われれば、そうかなって思えるような……。
でも、字が読めない方だったので、書類に何が書いてあるのか分かってなかったんです。
それでウーヴェさんが、借金の借り直しを提案されました。
長期になりますけど、収入から返せるような内容になりました。
きちんと計算をされ、細かく説明されてましたから、多分もう、大丈夫だと思います。
エゴンさんの借金は、一旦ウーヴェさんが肩代わりした形ですね」
一生懸命状況を説明してくれるのは良いが、人の心配の前に、自分の心配をしろと言いたい。くそ……。類は友を呼ぶと言うが、まさかサヤまでこっちの分類か。自分のことをそっちのけにするのは本当に勘弁してくれ。俺の心労を慮ってくれる気は無いのか⁉
「……父親の貸し付けたものを息子が肩代わりして新しく貸し付けたのですか?
随分と回りくどいのですね……」
ハインが眉を潜めていた。ああ、俺もそう思う。書類だけで済まさなかったのか?
「ええと、なんでも……ウーヴェさんはお父様の書類がお好きではないそうで……。
きちんと自分の流儀の中に収めないと納得できないということでした。
なので、借主本人の名前できっちり借金を返した状態にしたかったみたいです。
それと……私が怪我までして収めたものを、無駄にしたくないでしょうからって、この件は不問としてくださいました。エゴンさんにも内緒です。
一見、冷たい感じの方でしたけど、良い方でしたよ。ちょっとハインさんに似てますよね。
怪我の手当ても申し出て下さってたのですけど……触れられたくなかったんです。だから、ルーシーさんに無理を言って、付き合って頂きました。
あの……ルーシーさんを怒らないで下さいね。全部、私が無茶を言ったんです」
眉の下がった顔で、サヤが言う。
それにしても、その書類のやり取りの間、ずっと血を流したままだったということが大問題だ。俺は到底許容できない。ウーヴェは治療しようとしたと言うが……もう少し、やりようがなかったのかと思ってしまう。
いや、実際俺も逃げられたし……そいつも逃げられまくったのかもしれないけどな……。
「で、ギル。そのウーヴェという者を、貴方はご存知ですか」
「ん。二回ほど顔を合わせた覚えがある。まあ、結構印象的ではあるな。独特の雰囲気を持った奴だ。
父親は蝦蟇だが、あいつは蛇似だな。
サヤのいう良い人の範疇が、どれくらい広いのかよく分からんが……そんな好印象でもなかったと思うんだがなぁ……。物腰は丁寧で紳士的だが、なんというかこう……冷めているというか……世間から一歩引いてるというか……」
投げやりに見えるというか……妙な雰囲気があるやつなのだ。
父親には全くと言って良いほど似てない。どことなく爬虫類っぽいくらいの類似点があるのみだな。
ぶくぶくした蝦蟇に対し、蛇はほっそりとした体型だ。会った二回とも全身黒い衣装を身につけていた。髪は翡翠色で瞳は珊瑚色。背もさほど高くない。ハインと同じか、もう少し低い。
父親の書類が好きではない……という表現は面白いと思った。実際、父親の商売にいちいち反発し、好き勝手にやっている……と、エゴンが言っていたのを覚えている。
同じ屋根の下で、同じ商売をしているみたいなのだが……あまりそのやり口は見えてこない。
エゴンの方が目につきすぎて、霞んでしまう感じなのだ。
と、考えつつ視線を巡らせた先で、レイが自分の手を見下ろしたまま、固まっているのが目についた。
「どうしたレイ、なんか付いてるのか」
なんとなくそう声を掛ける。
するとレイは、その手をぎゅっと握りしめてから、ゆっくり首を振った。
なんだ?
だが、その後は特になんの反応もない。
とりあえず、意識の端に留めるだけにしておいて、俺はサヤとハインの会話に視線を戻した。
「ウーヴェさんが、明日、改めて謝罪に伺うからと仰いまして、大店会議に、バルチェ商会後継として参加するとのことです。そんな大ごとではないですって、お伝えしたんですけど……どうしてもと」
「ほう……謝罪に……。それは、顔を見るのが楽しみですね。期待しておきましょう」
ハインがそう言い、人の悪いというか、標的を見定めたようというか……なんともいえない険悪な顔をした。
レイはというと、ただひたすら、サヤを見つめていた。
サヤは、そんなレイに「本当に、良い人でしたよ?馬車に乗るときも、傷を気にして、手を貸そうとして下さいましたし」と、弁明している。
良い人……ね。
まあ俺の印象が、必ずしも正しいわけではないだろうしな。
俺の記憶の中のウーヴェは、少し危険な感じのする男だった。刃物を向けられても引かなかった……という部分は、その印象通りなのだ。そのくらいのことでは動じない。というか、刺せるなら刺してみろと挑発する方がしっくりくる。
この件を不問にした……というのも、多分サヤを慮ってというのは建前で、騒動にしたくなかっただけだと思う。外聞が悪いしな。
とはいえ……今更外聞など……という気がしなくもない。
金貸しの中では大店で、やり口も強引。少しくらい汚いことをしてても納得できる。そんな雰囲気の店なのだから。今更刃物を持った人間が、一人押しかけたくらい、騒ぎにもならないだろう。
俺はここに来て二年程度の新参だから、それより前は話で聞いた程度のことしか知らないが、俺がこの街に来るまでは、一番貴族に近しい立場にいたのがエゴンなのだ。
それをたかだか服屋の倅が学舎で親睦があったという理由で掻っ攫ったのだから、こちらに良い顔を見せる筈がない。その息子なのだから、俺に好印象を持っているわけもないのだ。自ずと、見える部分が限られるよな。
だがまあ、それも明日だ。今の段階で何か問題があるわけでもない。謝罪してくれるというなら、待てば良いわけだ。
会議の人数が十二人から十三人に変わったくらいは手間でもない。
俺がそんなことを考えている間、同じく何か思案していた風なハインがサヤに問うた。
「サヤ。マルとの交渉ですが……」
「出ます」
ハインが何を言わんとしてるかを確認するまでもなく、サヤは即答した。
レイが、慌てて制止を促す素振りを見せるが、サヤはそれを許さない。
「私のことです」と、レイを見てそう言った。
「出ます。大丈夫です。もう手当てして頂きましたし、痛みだって、大したことありませんから、話をする程度のことに支障はありません。
私のことなのに、私の知らないところで話が進むなんて嫌。だから……」
必至だ。長椅子から体を起こし、止めようとするレイの手も払ってしまった。
ここで引けば、後がないとでもいうように。そんなサヤに、ハインは、少し表情を緩める。サヤを不安にさせないために、ゆっくりとした口調で言い聞かせるように言った。
「心得てます。ですが、今日は外出を控えるべきです。
少なからず血を失いました。
明日の大店会議だって、休む気は無いのでしょう?それなら、無理をして、しわ寄せがあるのは、貴女の本意ではないはずです。
ですから、ギル」
こちらに振られた話の意図は、充分分かった。
「ああ、サヤを外出させたくない。今から捕獲してくる。
明日の為と、土嚢の件と、サヤについて話したいって言えば、高速で仕事処理して時間を空けると思うしな」
俺がそう請け負うと、満足そうに頷いた。
なんだかなぁ……。まあ、使われてやるけど。
俺はため息をつき、馬車の準備を頼むために、使用人を呼ぼうと部屋の外に足を向けかけた。
そこにサヤが、「あの」と、声をあげる。
「マルさんとの交渉ですけど、マルさんに了承頂く必要がある課題は何ですか。教えて下さい」
「んっ?そりゃ……土嚢関連行事の責任者にすることだろ?あと、サヤの特定が出来ないように情報を管理、操作してもらうことだよな?」
俺がそう答え、確認のためハインに視線をやる。
ハインもそれに首肯したのみで、修正は特に無いようだ。
何か言い出すぞ……。何となくそんな予感はした。そして、案の定そうだった。
「あの、その交渉、私にやらせて頂けませんか?」
ウーヴェさんは引かなかったので、体当たりする形で、回避と避ける場所の確保をすることになりました。けれど、勢いが少し、足りなかったんです。あまり全力でぶつかると、ウーヴェさんに怪我をさせてしまいそうで……。読み間違ったのは私なので、ウーヴェさんに責任はありません」
長椅子に寝かされた状態で、サヤは渋々と状況説明をしていた。
レイとハインが目を光らせているので、誤魔化しは効かないだろうしな……。
状況はこうだった。
バルチェ商会に出向いた一行は、店主か責任者を求めた。
しかし生憎というか、運良くというか、エゴンは終日不在であったそうだ。
その為、責任者としてウーヴェが出てきた。対応自体はきちんとしていたようだ。
そのまま応接室に通され、そこで明日の会議の日時を伝え、帰ろうとしていた矢先、騒ぎが起こった。
ウーヴェに見送られ、店の方に出て来たところであったので、鉢合わせする形になったらしい。
刃物を持って乱入して来たのは三十路そこらの男であったそうだ。
怪我の為、働けなかった期間の生活費工面のため、エゴンに借金したらしい。
思ったより怪我の具合が改善せず、長引いた。返済期間の延期を求めたが、娘を借金のかたに出せば良いと突っぱねられたという。
娘は結婚を視野に入れたような状況であったので、なんとか考え直して欲しいと願い出たが、まるで娘が目的であったかのように受け入れられない。結果として、今日までになんとか借金を返そうと奔走することとなり……叶わなかった。
そして自暴自棄になった挙句、刃物を持って暴れることとなったようだ。
とはいえ、当初は事情も分からず、刃物を持って暴れる男でしかなかったわけだ。
まずは店の警備を担当ている強面の男達が、男を切り捨てようとしたらしい。
そこをウーヴェが制止した。
事情を確認しろという指示だったわけだが、指示を出したところを刃物の男が見咎めた。エゴンの身内かと叫び、娘を守るといった趣旨のことを叫びつつ、突進して来たという。
ウーヴェはそれでも引かず、まずは話を聞けと男に声を掛けた。逃げようとしないので、咄嗟にサヤが割って入り、庇った。
子供に見えるサヤが血を流したことで、男は一気に青ざめ……。
それで正気に戻ったらしいと判断し、サヤが事情を確認した。というわけだ。
「お前な…………。なんでそう……無茶なことをするんだ……」
「無茶と言われても……咄嗟に動いてしまったんです。意識したわけじゃありませんから。
実際、かなり、無理な貸付だったみたいなんです。
書類を確認したウーヴェさんが眉を潜めるくらいに。
怪我の治りが順調だったとしても、その方の仕事の収入からではやりくり出来ないような感じで。
返済が目的でないと言われれば、そうかなって思えるような……。
でも、字が読めない方だったので、書類に何が書いてあるのか分かってなかったんです。
それでウーヴェさんが、借金の借り直しを提案されました。
長期になりますけど、収入から返せるような内容になりました。
きちんと計算をされ、細かく説明されてましたから、多分もう、大丈夫だと思います。
エゴンさんの借金は、一旦ウーヴェさんが肩代わりした形ですね」
一生懸命状況を説明してくれるのは良いが、人の心配の前に、自分の心配をしろと言いたい。くそ……。類は友を呼ぶと言うが、まさかサヤまでこっちの分類か。自分のことをそっちのけにするのは本当に勘弁してくれ。俺の心労を慮ってくれる気は無いのか⁉
「……父親の貸し付けたものを息子が肩代わりして新しく貸し付けたのですか?
随分と回りくどいのですね……」
ハインが眉を潜めていた。ああ、俺もそう思う。書類だけで済まさなかったのか?
「ええと、なんでも……ウーヴェさんはお父様の書類がお好きではないそうで……。
きちんと自分の流儀の中に収めないと納得できないということでした。
なので、借主本人の名前できっちり借金を返した状態にしたかったみたいです。
それと……私が怪我までして収めたものを、無駄にしたくないでしょうからって、この件は不問としてくださいました。エゴンさんにも内緒です。
一見、冷たい感じの方でしたけど、良い方でしたよ。ちょっとハインさんに似てますよね。
怪我の手当ても申し出て下さってたのですけど……触れられたくなかったんです。だから、ルーシーさんに無理を言って、付き合って頂きました。
あの……ルーシーさんを怒らないで下さいね。全部、私が無茶を言ったんです」
眉の下がった顔で、サヤが言う。
それにしても、その書類のやり取りの間、ずっと血を流したままだったということが大問題だ。俺は到底許容できない。ウーヴェは治療しようとしたと言うが……もう少し、やりようがなかったのかと思ってしまう。
いや、実際俺も逃げられたし……そいつも逃げられまくったのかもしれないけどな……。
「で、ギル。そのウーヴェという者を、貴方はご存知ですか」
「ん。二回ほど顔を合わせた覚えがある。まあ、結構印象的ではあるな。独特の雰囲気を持った奴だ。
父親は蝦蟇だが、あいつは蛇似だな。
サヤのいう良い人の範疇が、どれくらい広いのかよく分からんが……そんな好印象でもなかったと思うんだがなぁ……。物腰は丁寧で紳士的だが、なんというかこう……冷めているというか……世間から一歩引いてるというか……」
投げやりに見えるというか……妙な雰囲気があるやつなのだ。
父親には全くと言って良いほど似てない。どことなく爬虫類っぽいくらいの類似点があるのみだな。
ぶくぶくした蝦蟇に対し、蛇はほっそりとした体型だ。会った二回とも全身黒い衣装を身につけていた。髪は翡翠色で瞳は珊瑚色。背もさほど高くない。ハインと同じか、もう少し低い。
父親の書類が好きではない……という表現は面白いと思った。実際、父親の商売にいちいち反発し、好き勝手にやっている……と、エゴンが言っていたのを覚えている。
同じ屋根の下で、同じ商売をしているみたいなのだが……あまりそのやり口は見えてこない。
エゴンの方が目につきすぎて、霞んでしまう感じなのだ。
と、考えつつ視線を巡らせた先で、レイが自分の手を見下ろしたまま、固まっているのが目についた。
「どうしたレイ、なんか付いてるのか」
なんとなくそう声を掛ける。
するとレイは、その手をぎゅっと握りしめてから、ゆっくり首を振った。
なんだ?
だが、その後は特になんの反応もない。
とりあえず、意識の端に留めるだけにしておいて、俺はサヤとハインの会話に視線を戻した。
「ウーヴェさんが、明日、改めて謝罪に伺うからと仰いまして、大店会議に、バルチェ商会後継として参加するとのことです。そんな大ごとではないですって、お伝えしたんですけど……どうしてもと」
「ほう……謝罪に……。それは、顔を見るのが楽しみですね。期待しておきましょう」
ハインがそう言い、人の悪いというか、標的を見定めたようというか……なんともいえない険悪な顔をした。
レイはというと、ただひたすら、サヤを見つめていた。
サヤは、そんなレイに「本当に、良い人でしたよ?馬車に乗るときも、傷を気にして、手を貸そうとして下さいましたし」と、弁明している。
良い人……ね。
まあ俺の印象が、必ずしも正しいわけではないだろうしな。
俺の記憶の中のウーヴェは、少し危険な感じのする男だった。刃物を向けられても引かなかった……という部分は、その印象通りなのだ。そのくらいのことでは動じない。というか、刺せるなら刺してみろと挑発する方がしっくりくる。
この件を不問にした……というのも、多分サヤを慮ってというのは建前で、騒動にしたくなかっただけだと思う。外聞が悪いしな。
とはいえ……今更外聞など……という気がしなくもない。
金貸しの中では大店で、やり口も強引。少しくらい汚いことをしてても納得できる。そんな雰囲気の店なのだから。今更刃物を持った人間が、一人押しかけたくらい、騒ぎにもならないだろう。
俺はここに来て二年程度の新参だから、それより前は話で聞いた程度のことしか知らないが、俺がこの街に来るまでは、一番貴族に近しい立場にいたのがエゴンなのだ。
それをたかだか服屋の倅が学舎で親睦があったという理由で掻っ攫ったのだから、こちらに良い顔を見せる筈がない。その息子なのだから、俺に好印象を持っているわけもないのだ。自ずと、見える部分が限られるよな。
だがまあ、それも明日だ。今の段階で何か問題があるわけでもない。謝罪してくれるというなら、待てば良いわけだ。
会議の人数が十二人から十三人に変わったくらいは手間でもない。
俺がそんなことを考えている間、同じく何か思案していた風なハインがサヤに問うた。
「サヤ。マルとの交渉ですが……」
「出ます」
ハインが何を言わんとしてるかを確認するまでもなく、サヤは即答した。
レイが、慌てて制止を促す素振りを見せるが、サヤはそれを許さない。
「私のことです」と、レイを見てそう言った。
「出ます。大丈夫です。もう手当てして頂きましたし、痛みだって、大したことありませんから、話をする程度のことに支障はありません。
私のことなのに、私の知らないところで話が進むなんて嫌。だから……」
必至だ。長椅子から体を起こし、止めようとするレイの手も払ってしまった。
ここで引けば、後がないとでもいうように。そんなサヤに、ハインは、少し表情を緩める。サヤを不安にさせないために、ゆっくりとした口調で言い聞かせるように言った。
「心得てます。ですが、今日は外出を控えるべきです。
少なからず血を失いました。
明日の大店会議だって、休む気は無いのでしょう?それなら、無理をして、しわ寄せがあるのは、貴女の本意ではないはずです。
ですから、ギル」
こちらに振られた話の意図は、充分分かった。
「ああ、サヤを外出させたくない。今から捕獲してくる。
明日の為と、土嚢の件と、サヤについて話したいって言えば、高速で仕事処理して時間を空けると思うしな」
俺がそう請け負うと、満足そうに頷いた。
なんだかなぁ……。まあ、使われてやるけど。
俺はため息をつき、馬車の準備を頼むために、使用人を呼ぼうと部屋の外に足を向けかけた。
そこにサヤが、「あの」と、声をあげる。
「マルさんとの交渉ですけど、マルさんに了承頂く必要がある課題は何ですか。教えて下さい」
「んっ?そりゃ……土嚢関連行事の責任者にすることだろ?あと、サヤの特定が出来ないように情報を管理、操作してもらうことだよな?」
俺がそう答え、確認のためハインに視線をやる。
ハインもそれに首肯したのみで、修正は特に無いようだ。
何か言い出すぞ……。何となくそんな予感はした。そして、案の定そうだった。
「あの、その交渉、私にやらせて頂けませんか?」
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★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
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