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31. 王妃様の夏の晩餐会予算申請と地雷を踏んだカスハラ子爵令嬢③
しおりを挟むフロアにいる順番待ちの依頼者、そしてカウンター内の補助係の手が一斉に止まった。
ンゴンゴ伯爵がアンの元へダッシュ。
「それは申し訳ございませんでした。その書類を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「これよ!」
アンは書類をカウンターに乱暴に置いた。
ンゴンゴ伯爵は2枚の書類を手にするなり、「失礼ですが、こちらの1枚は補助係で確認しておりませんよね?」と、アンに告げる。
「はあ?何、言ってるの!ちゃんと見せたわよ!ねえ」
アンは隣の執事を見る。
執事は、アンの悪だくみには加担していない。いないものの、実際に午前中に補助係に来て書類を見せてはいる。
「いえ、私どもは確かに午前中、こちらで確認して頂きました」
執事が言葉丁寧に説明すると、「ほらね!」と勝ち誇った表情をするアン。
「確かにこちらの1枚は、私どもで確認した書類です。これは間違いありません。しかし、もう1枚は確認しておりません!」
「なんでそんなことが分かるのよ!」
ンゴンゴ伯爵は、アンと執事の前にその書類を提示しながら、「補助係では書類を確認する際、赤インクでレ点をつけているのです。御覧ください。こちらの1枚はレ点がついておりますが、こっちはレ点がありません。つまり、この書類は補助係では確認していないということです」
ンゴンゴ伯爵が冷静に説明。
執事は「いや、しかし」と、2枚の書類を見比べて不思議な表情をするが、アンは激昂。
「だ、だったら、その1枚丸ごと見落としたんじゃないの!そうよ、見落としたのよ!マルコっていう補助係がいるでしょ?そいつよ、そいつが確認してたわ!」
パーテーションの内側にいたマルコは、突然、自分の名前が出たので目を丸くし、それを聞いた王妃の顔から表情が抜け落ちた。
「そのマルコって子、呼びなさいよ!そして謝ってよ!」
ンゴンゴ伯爵の声が低くなり、「失礼ですが、どうしてマルコだとおっしゃるのでしょうか?マルコをご存じなんですか?」と、アンに詰問。
その伯爵の迫力に気圧され、一瞬、言葉に詰まったアンだが、カウンターの中にいるダダン公爵を指して、「あの人!あの人が『マルコ』って呼んでいたわ!」と、今、思いついた嘘を吐く。
ダダン公爵は大寒波並みの冷気を発しながら、「ほう?私がこの書類を確認するように、『マルコ』を呼んだというのか?」と、ンゴンゴ伯爵の隣に並びながら答えた。
「そうよ!」
この時点で、カウンターの中にいる二人の様子がただ事ではないと気付けたら、この後のアンの人生は、多少は変わったかもしれないが、彼女は全く気付かなかった。
ダダン公爵は、カウンター内の全補助係に問う。
「モニング子爵領の架橋工事申請書類を確認した者!」
地方土木係のカウンター前にいたガッシュとレビンが同時に「はい!」と手を上げ、公爵の元に走り寄った。
「僕たち二人で確認しました!」
公爵はアンに向き直り、「この書類は、この二人で確認したものだ!」と断言。
アンは、子供ように先のことなど考えず、思いつきで嘘をつく。だから、まさか補助係が書類の内容を覚えていたとは思わなかったのだ。
「じゃ、じゃ、その二人のうち、どちらかがマルコなんでしょ?」
この発言でアンがマルコを貶めようと画策したと、全補助係が理解した。とんでもねー女だと。
「彼らはマルコではない!」
ダダン公爵が一喝。
「何よ、私が間違えたというの!あなた、さっきから態度が悪いのよ!私は子爵令嬢よ!」
「ほう。ここで身分を盾にするのか。であれば、私は公爵だ!そして彼は」と、ダダン公爵は隣のンゴンゴ伯爵を見て「伯爵だ!たかが子爵ごときが、高位貴族に対してなんたる態度!」と、怒鳴りつけた。
「そ、そんな、なんで、だって、し、知らなかった」
アンは狼狽しながら後退り。
「知らなければ何をしてもよいのか!自身の勘違いで相手を怒鳴りつけても謝罪なし!それがモニング子爵流か!それでも貴族か!恥を知れ!」
「申し訳ございません。何かこちらの手違いでとんでもない失礼を!」
執事が額に汗して頭を下げた。
「そこの侍従!その箱を見せろ!」
ダダン公爵に気圧され、子爵家の侍従が震えながら手に持つ箱をカウンターに置こうとすると、「ちょっと!」とアンが慌ててそれを阻止しようと動くが、「とことん無礼な小娘だな!」と公爵に一喝され、その場にへたりこんだ。
公爵と伯爵が箱を開けると、中にもう1枚の書類、補助係が確認したレ点付きの書類が出てきた。
それを公爵がガッシュとレビンに見せると、「これです!これが僕たちが確認した書類です!」と答えた。
「どういうことだ、下位貴族の子爵令嬢!ここにちゃんと確認済の書類があるようだが。なぜわざわざ補助係に見せていない書類を本店に出したのか!」
へたりこんだアンは何も答えられなかった。
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