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24. マルコの同僚、レオナルド田中くん④
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レオナルドは公爵の期待に見事に応えた。
ある係員が「なんで公爵はマルコを叔父上と呼ぶんだろう」と聞いてきた時は、「公爵が子供の頃に飼っていた猫の名前が『叔父上』だったと聞いたよ。その猫とマルコが似てるんだって。子供の頃に飼ってた動物って、生涯、忘れないよね~」とか、「マルコとレオナルドだけ王族専属なんて贔屓だろ」との声には、「カウンターの高さと椅子のせいさ。カウンターの高さに対して椅子が合ってないんだ。他部署のカウンターより、王族係のカウンターは低いんだ。それなのに椅子は同じサイズ。つまり、王族係のカウンターに座れるのは、俺とマルコしかいないからだよ。試しに座ってみろよ」と煙に巻き、ダダン公爵は陛下の見立ての正確さに舌を巻いた。
こうしてマルコ生まれ変わり説を受け入れたレオナルドは、前世では「にほん」という国に住んでいたと、すんなり理解できたわけである。いまレオナルドが住んでいる世界には「にほん」という国はない。ということは、「にほん」は異なる世界にある(もしくはあった)国なんだろうというところまで、彼は正確に把握した。
その後、レオナルドは職場で前世の記憶を披露。
同僚たちの反応は、最初はすごかった。あれやこれやとレオナルドを質問攻めにしたものだ。
しかし、レオナルドが「にほん」とやらが「どんなに文明が発達した国だったか」と語ったところで、その便利な物を実際に想像するのは難しい。
例えば生活に欠かせない電子機器も、操作は出来ても機器の内臓システムまで完璧に把握している人は少ないだろう。
前世のレオナルドがまさにそれ。
電気もないオリアナに住んでいる同僚たちに、いくら電子機器を説明したところで、説明しているレオナルドが、いまいちそのシステムを理解していないのだから、伝わるはずがなかった。
電車や自動車も同じである。
だからレオナルドが熱弁しても、一向に伝わらず、だんだんみんなレオナルドの前世語りに飽きたのだ。
今では、レオナルドの話を聞いてあげるのはマルコだけである。
さて、そんなマルコの「にほん」の印象はというと、それは最悪だ。
マルコの「にほん」の印象―。それは妖精を虐待し、奴隷のいる野蛮人の国で、拷問器具の中に多くの人を詰め込む国。おいおいである。
まず「妖精を虐待する」という誤解は、レオナルドが電子機器で見る動画の説明をした際に生じたものだ。
そもそも動画の意味さえ分からないマルコに、あろうことかレオナルドは「小さい箱の中で人が動くもの」という、超簡単な説明をしたのだ。
それを聞いたマルコは血の気が下がった。マルコの母の実家は湖水地方にある。湖水地方といえば妖精伝説が生きている。小さい人といえば妖精だ。小さい箱に妖精を入れて見る、それは間違いなく妖精の虐待。
これを昼休みに知ったマルコは大泣きし、真っ赤な目でフロアに戻ったものだからダダン公爵を慌てさせた。公爵が「すぐに王医を呼べ!」と叫んだ時には、レオナルドが慌てた。
結局、その日、マルコは半休になり、なんと飛んできた王妃に付き添われて宿舎ではなく、王宮の客間で就寝。またもや王宮がホテル化した。
夕食時にはすっかり元気になったものの、マジョリカ妃殿下がちゃっかりレオンを呼び出し、「親族の夕食会」と称してマルコを帰さなかった。
さすがである。
次に「奴隷」については、「妖精の虐待」と同様、マルコの事実誤認だ。
オリアナの人々の足は馬車。かつてのオリアナは馬車といえば、貴族でも乗合馬車が主流だったが、経済的に豊かになったことで、今では貴族は自家用馬車を所有している。しかも家長用に一台、夫人用に一台、嫡男用に、令嬢用にという具合に、日本の田舎で4人家族なら4台自家用車があるのと同じ現象がオリアナでも起きていた。
馬車が増えるということは、当然、渋滞が発生する。貴族は自家用馬車だが、庶民の足はまだまだ乗合馬車だ。その乗合馬車が渋滞に巻き込まれ、時間通りに停留所に到着しないという困った現象が発生。
それを聞いたレオナルドが「にほん」ではバス専用車線があったことから、「だったら馬車専用車線を設定すればいいのに」と発言。これを聞いた公爵が「その手があったか!」と感激し、すぐに宰相に進言した。宰相は「素晴らしいアイディア!」と即採用し、今では乗合馬車専用車線を作って、渋滞が起きても乗合馬車はオンタイムで動いている。
この経緯から、なんと宰相府がレオナルドをヘッドハンティングしたのだ。曰く「前世の記憶を生かして行政に参加して欲しい」と。
公爵はいい顔をしなかった。なぜなら優秀な係員は手元に置きたい。特にマルコのペアであるレオナルドは手放したくない。
しかし、レオナルドにとっては、宰相府という花形部署に異動して力を発揮できるまたとないチャンスだ。それを潰すほど公爵は度量の狭い人間ではない。
そこで公爵は、レオナルドに宰相府へ異動のチャンスがきたことを告げた。
これに対し、レオナルドは「お試し期間を設けていいですか?」と返答。なんでも「にほん」では勤務にあたり「試用期間」という制度があるらしい。
補助係全員から集めたお金で買った餞別の花束を受け、華々しく宰相府に赴いたレオナルド。
しかし、たった1日で戻ってきた。
驚いたのは公爵以下、補助係の全同僚だ。レオナルドは「たかが前世の記憶だけで仕事するにはおこがましいほど、宰相府は高度な仕事をしていた。自分にはとても無理」と説明。全同僚は「残念だったね」と労ったが、公爵はほくほく。
しかし事実は違った。
戻った日の昼食時、レオナルドはマルコだけに本音を告げたのだ。
「あんなやばいところで働くなんて無理!宰相府の人たちの働きぶりをみて、社畜だったころを思い出しちゃったよ」
マルコにとって、知らない言葉が出てきた。
「しゃ、しゃちく?しゃちくって何?」
「ん-、なんていうか自由がないっていうか、会社に搾取され続けるというか」
これを聞いたマルコは真っ青になった。
「しゃちくって不幸なことなの?」
レオナルドはものすごく嫌そうな顔で「うん、不幸なこと」と答えた。
自由がなくて搾取される…。そして不幸なこと…。
「それって奴隷でしょ!」
マルコは叫んだ。
「うん、そうだね」とレオナルドはあっさり肯定。
もうちょっと詳細に、例えば労働の対価を貰っているので厳密には奴隷ではないとか、そう説明すれば良かったのだが、いかんせんレオナルドはそこまで配慮しなかった。
これにより、レオナルド前世で奴隷説がマルコの中に確定した。
ある係員が「なんで公爵はマルコを叔父上と呼ぶんだろう」と聞いてきた時は、「公爵が子供の頃に飼っていた猫の名前が『叔父上』だったと聞いたよ。その猫とマルコが似てるんだって。子供の頃に飼ってた動物って、生涯、忘れないよね~」とか、「マルコとレオナルドだけ王族専属なんて贔屓だろ」との声には、「カウンターの高さと椅子のせいさ。カウンターの高さに対して椅子が合ってないんだ。他部署のカウンターより、王族係のカウンターは低いんだ。それなのに椅子は同じサイズ。つまり、王族係のカウンターに座れるのは、俺とマルコしかいないからだよ。試しに座ってみろよ」と煙に巻き、ダダン公爵は陛下の見立ての正確さに舌を巻いた。
こうしてマルコ生まれ変わり説を受け入れたレオナルドは、前世では「にほん」という国に住んでいたと、すんなり理解できたわけである。いまレオナルドが住んでいる世界には「にほん」という国はない。ということは、「にほん」は異なる世界にある(もしくはあった)国なんだろうというところまで、彼は正確に把握した。
その後、レオナルドは職場で前世の記憶を披露。
同僚たちの反応は、最初はすごかった。あれやこれやとレオナルドを質問攻めにしたものだ。
しかし、レオナルドが「にほん」とやらが「どんなに文明が発達した国だったか」と語ったところで、その便利な物を実際に想像するのは難しい。
例えば生活に欠かせない電子機器も、操作は出来ても機器の内臓システムまで完璧に把握している人は少ないだろう。
前世のレオナルドがまさにそれ。
電気もないオリアナに住んでいる同僚たちに、いくら電子機器を説明したところで、説明しているレオナルドが、いまいちそのシステムを理解していないのだから、伝わるはずがなかった。
電車や自動車も同じである。
だからレオナルドが熱弁しても、一向に伝わらず、だんだんみんなレオナルドの前世語りに飽きたのだ。
今では、レオナルドの話を聞いてあげるのはマルコだけである。
さて、そんなマルコの「にほん」の印象はというと、それは最悪だ。
マルコの「にほん」の印象―。それは妖精を虐待し、奴隷のいる野蛮人の国で、拷問器具の中に多くの人を詰め込む国。おいおいである。
まず「妖精を虐待する」という誤解は、レオナルドが電子機器で見る動画の説明をした際に生じたものだ。
そもそも動画の意味さえ分からないマルコに、あろうことかレオナルドは「小さい箱の中で人が動くもの」という、超簡単な説明をしたのだ。
それを聞いたマルコは血の気が下がった。マルコの母の実家は湖水地方にある。湖水地方といえば妖精伝説が生きている。小さい人といえば妖精だ。小さい箱に妖精を入れて見る、それは間違いなく妖精の虐待。
これを昼休みに知ったマルコは大泣きし、真っ赤な目でフロアに戻ったものだからダダン公爵を慌てさせた。公爵が「すぐに王医を呼べ!」と叫んだ時には、レオナルドが慌てた。
結局、その日、マルコは半休になり、なんと飛んできた王妃に付き添われて宿舎ではなく、王宮の客間で就寝。またもや王宮がホテル化した。
夕食時にはすっかり元気になったものの、マジョリカ妃殿下がちゃっかりレオンを呼び出し、「親族の夕食会」と称してマルコを帰さなかった。
さすがである。
次に「奴隷」については、「妖精の虐待」と同様、マルコの事実誤認だ。
オリアナの人々の足は馬車。かつてのオリアナは馬車といえば、貴族でも乗合馬車が主流だったが、経済的に豊かになったことで、今では貴族は自家用馬車を所有している。しかも家長用に一台、夫人用に一台、嫡男用に、令嬢用にという具合に、日本の田舎で4人家族なら4台自家用車があるのと同じ現象がオリアナでも起きていた。
馬車が増えるということは、当然、渋滞が発生する。貴族は自家用馬車だが、庶民の足はまだまだ乗合馬車だ。その乗合馬車が渋滞に巻き込まれ、時間通りに停留所に到着しないという困った現象が発生。
それを聞いたレオナルドが「にほん」ではバス専用車線があったことから、「だったら馬車専用車線を設定すればいいのに」と発言。これを聞いた公爵が「その手があったか!」と感激し、すぐに宰相に進言した。宰相は「素晴らしいアイディア!」と即採用し、今では乗合馬車専用車線を作って、渋滞が起きても乗合馬車はオンタイムで動いている。
この経緯から、なんと宰相府がレオナルドをヘッドハンティングしたのだ。曰く「前世の記憶を生かして行政に参加して欲しい」と。
公爵はいい顔をしなかった。なぜなら優秀な係員は手元に置きたい。特にマルコのペアであるレオナルドは手放したくない。
しかし、レオナルドにとっては、宰相府という花形部署に異動して力を発揮できるまたとないチャンスだ。それを潰すほど公爵は度量の狭い人間ではない。
そこで公爵は、レオナルドに宰相府へ異動のチャンスがきたことを告げた。
これに対し、レオナルドは「お試し期間を設けていいですか?」と返答。なんでも「にほん」では勤務にあたり「試用期間」という制度があるらしい。
補助係全員から集めたお金で買った餞別の花束を受け、華々しく宰相府に赴いたレオナルド。
しかし、たった1日で戻ってきた。
驚いたのは公爵以下、補助係の全同僚だ。レオナルドは「たかが前世の記憶だけで仕事するにはおこがましいほど、宰相府は高度な仕事をしていた。自分にはとても無理」と説明。全同僚は「残念だったね」と労ったが、公爵はほくほく。
しかし事実は違った。
戻った日の昼食時、レオナルドはマルコだけに本音を告げたのだ。
「あんなやばいところで働くなんて無理!宰相府の人たちの働きぶりをみて、社畜だったころを思い出しちゃったよ」
マルコにとって、知らない言葉が出てきた。
「しゃ、しゃちく?しゃちくって何?」
「ん-、なんていうか自由がないっていうか、会社に搾取され続けるというか」
これを聞いたマルコは真っ青になった。
「しゃちくって不幸なことなの?」
レオナルドはものすごく嫌そうな顔で「うん、不幸なこと」と答えた。
自由がなくて搾取される…。そして不幸なこと…。
「それって奴隷でしょ!」
マルコは叫んだ。
「うん、そうだね」とレオナルドはあっさり肯定。
もうちょっと詳細に、例えば労働の対価を貰っているので厳密には奴隷ではないとか、そう説明すれば良かったのだが、いかんせんレオナルドはそこまで配慮しなかった。
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