未来から来た彼女！

第二章 春の雨に洗われた太陽

第6話 どうして死なないの

同じ顔、同じ性格、同じ名前、でも同じ未来を持っていない女の子が俺に近づいてきた。

俺の心臓の鼓動が速くなり始めたが、先程のリング上よりも激しいものだった。

その顔を何度見ても、忘れられない記憶を思い出させてくれる。

「知らなかった、君って…「痴情」じゃなかったの？」

17歳の少年に「痴情」という言葉を使うのは明らかに重すぎて、少女は慎重に疑問の口調で締めくくったが、彼女自身は何を慎重にしているのかわからなかった。

俺は口をきかなかったが、たた、温涼ウェンスズミの顔の隅々までこの目で注意深く見つめた、しばらくして眉毛を指した。

温涼ウェンスズミは頭を少し回し、無意識のうちに手を動かし、そこに何か汚れがあると思ったが、我慢した。

「髪と眉の色が違うとカメラ映りが悪い……前に彼女が言っていたけど、あんたには関係ないと思うけど」

俺は冷静に細かい指摘をした。

「あなたはいつも『彼女』をこんな風に見っているの？」

少女の瞳孔が微かに不自然に振動した。

「前はたくさんチャンスがあって、見る勇気がなかった。今は勇気があるが、チャンスがなくなった」

俺は立ち止まって目をそらし、地面から立ち上がり、サイドシートに歩いて行き、再び座った。そして、温涼ウェンスズミも近づき、二人は友達のように並んで座った。

このような状況は、想像されていたほど沈黙と気まずさがなかった。

「実際、どうでもいいだ。結局君らは一人、しかも、俺には見分けもできる」

俺の息遣いがだいぶ落ち着き、彼女が急に髪色を変えた理由もわかった。

「多分…古いものが去らないと新しいものは来ないと思って？というか『彼女』は影よりもリアルだと分かっても、やっぱり『彼女』の影をあまりつけたくない」

温涼ウェンスズミはこの質問をわざと避けずに、指先がゆっくりと髪を包みながら言いました。

「『彼女』が嫌いなの？」と俺は突然質問をした。

「嫌じゃないよ、ただ『彼女』がかわいそうだと思うだけで、しかも『彼女』のような卑しくなりたくない、もう…私らしくない、あなたの方も感じたでしょう？」

温涼ウェンスズミは首を横に振って、呟いた。

「……うーん」

俺は無言で、深呼吸をして心を落ち着かせた。

「……」

「……」

「どうして、そんなに早く恋人を見つけたの？」

突然、温涼ウェンスズミは、非常にさり気なく、非常に突然、突然しすぎてまるで俺が、愛する人から不満を言われたように、直接俺の心を刺した。

この言葉が俺の心の中で渦巻となり、ぼんやりと頭を回して温涼ウェンスズミを見て、小さな水溜まりが眼にゆっくりと浮かんた。

「言ったよね、見分けられるって」

温涼ウェンスズミは彼を見ず、頭を向けてわずかに微笑んだ。彼女の亜麻色の髪は明るく輝いていて、なじみのある香りが漂っていた。

「ただ『彼女』に優しくしたい、それだけ」

俺の胸が高鳴り、『彼女』とは姜惜兮キョウシーシーか、未来の温涼ウェンスズミのどちらを意味するのか、それとも二人を同じ恋人として扱おうとしていたのかわからなかった。

「それならやっぱり心が広いですね～」

温涼ウェンスズミは聞いた後、皮肉を言った。

「もし『彼女』は知っていたら、少しうれしく感じるかも」と俺は首を横に振った。

「私をよく知っているの？」

温涼ウェンスズミは眉をひそめて聞いた。


「あなたが『彼女』を知らないからさ、これからは会わない方がいいと思う」

「なんで？」

俺は立ち上がり、温涼ウェンスズミに背を向けた。

「俺に少なくとも希望を残してください…」

話が終わった後、彼は遠くにある垂直した砂袋まで歩いて、素手でボクシングの練習を始めました。

彼らの様子を見て、周りの生徒たちも近寄らなかった。薛勇シュエツヨシはこっそりと「彼女、彼女、彼女」、と聞こえたが、更に混乱した。

温涼ウェンスズミは元の位置に座り、美しい目は輝きを失い、静かに言った。

「『彼女』は永遠の九月に閉じ込められ出られないのに、そんなに『彼女』を愛しているのに、どうして…死なないの?」

「……」

「温《ウェン》…先輩」

このとき、隣で怯弱な声が響き、温涼ウェンスズミの目に殺気を飛び出したが、ほんの一瞬で目の違和感がすぐに消え、鼻声がした。

「う～ん？」

姜惜兮キョウシーシーは寒気を感じ、恐怖のあまり手に持っていたミネラルウォーターが突然落ちてしまい、急いでかがんでそれを拾い上げました。

「先、先輩は…歌が上手ですね…歓迎会の時…本当に上手だった…」

姜惜兮キョウシーシーは今、緊張しながら声をかけた。

「ありがとう、あとは？」

温涼ウェンスズミは笑顔で彼女をからかった。

「私は……あなたと賀兄さんとのムービーを見たことがあるよ、あれは先輩ですよね？顔を出さなくても、声ですぐにわかったわ！」

「それは私ではない」

温涼ウェンスズミは断固として首を横に振った。

「どうして？」

姜惜兮キョウシーシーは信じられず、温涼ウェンスズミは立ち上がり、170センチの背の高い体型で、横にいる姜惜兮キョウシーシーがさらに小さく見えました。

「それはあなたの彼氏が好きな人だけと、心配しないで私じゃない」

温涼ウェンスズミは、何かを強調しているように率直で言いました。

姜惜兮キョウシーシーはよくわからなかったが、でもやはりパニックに陥りました。

「後輩、心配しないで、彼は先程、あの人と同じように優しくするからって言っていたよ！」

温涼ウェンスズミは突然微笑み、口調が遅くなりました。

「先輩、私の名は….」

姜惜兮キョウシーシーは名前をぎこちなく言おうとしたら、温涼ウェンスズミは手を振って、話しを止まらせた。

「あなたの名前が何であるかは私には関係ありません、知りたくもありません」

少女は温涼ウェンスズミの口調に慣れておらず、静かに水のボトルを手にしっかりと握り締めていました。

「あなたは長所も短所も言えない一つを気づいた、知りたい？」

温涼ウェンスズミは彼女を上から下まで見て、姜惜兮キョウシーシーは無意識のうちに聞いた。

「何に？」

温涼ウェンスズミは二度と彼女を見ず、腰を動かして軽く言った。

「バカで単純だ…」

「先輩、そんな風に言われると、本当に怒りますよ…」

姜惜兮キョウシーシーはしばらくびっくりしてから、つぶやきました。

温涼ウェンスズミは彼女を横目でちらりと見て、挑発的に微笑み、「じゃあ、彼氏を呼んで、私を殴るように頼めば？」

少女は彼女を無視し、一人で賀天然ガテンネンに近づき、両手で水を手渡した。彼にはここでの会話を話すつもりはないようだ。

しかし、少年はすでに姜惜兮キョウシーシーの気持ちを感じており、温涼ウェンスズミをちらりと見た後、彼女を少し面白いそうな話しをして、彼女はすぐに微笑んだ。

間もなく彼は訓練を終え、着替えて更衣室から出てきて、姜惜兮キョウシーシーとおしゃべりをして笑って去った。

彼はボクシングジムを出るまで、温涼ウェンスズミを一度も目をあわせなかった。

逆に温涼ウェンスズミのほうは、躊躇なく立ち去る二人を見て、安堵したように言葉を発した。

「もし、幸運は愚か者に味方するなら、私も少し愚かになりたい、残念だけとできないなぁ！」