ある夏の思い出

shoichi

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第2章

一人じゃない

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「行きたくない。」

「ダメだ。着替えろ。」

ついに、二学期が始まる午前六時の攻防だ。

「ってか、何でいるんだよ!!」

「あ?今日は暇だから、泊まったんだろ?」

勝手に、僕の生活の一部と化している星矢。

「ばぁちゃん、アイロンしてくれてんだろ!!」

学ランを指差す星矢。

「じゃ、どうするんだ?このまま、逃げ続けるのか?情けない。」

何も言い返せない僕がいて、星矢を睨んでしまった。

「何だ?テメェ。」

パジャマ代わりのTシャツの胸ぐらを掴まれ、僕も星矢の胸ぐらを掴んでいた。

「この野郎。」

痛いと思う暇もなく、頭に激痛が走り、左の頬に更に激痛が走った。

頭突きとパンチをもらったようだ。

掴んでいた星矢の胸ぐらから、頬を抑える両手。

「怖いのか?」

僕は、震えた声で、そうだよ。としか、呟けなかった。

「俺よりもか?」
「そういう問題じゃ無い!!」



僕は、初めて人を殴った。



「ほら、乗れよ。あと、そうだ…」

ギリギリ遅刻であろう時間に、外へ引っ張り出された。

「これ、お守りと仲直りの印に。これ、やるよ。」

マジェンヌから取り出された、黒い一個のリストバンド。

「た…ちばな?」

少し腫れた口元を押さえ、リストバンドに書かれた一文字の白い刺繍。

「俺、橘って苗字だからな。」

ちょっと、湿っていて、少し変な匂いがする。

「怖くなったら、そのリストバンドを見ろ。」

「…その度に、痛みを思い出すよ。」

「そうだ!!喧嘩は、一人じゃできないからな。思い出せ!!行くぞ。」



中学二年、夏終わりのことだった。
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