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九話 余計なこと

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「先生。ちょっとここに来て座ってください」

 朝、研究室に入ると先にいたユーリットが改まって言い、彼の向かいにある椅子を指差した。

「な、何かな……?」

 アルーシャは何となくいやな予感がした。
 あれか、これか。それともあちらがバレたかな。色々考えるが結局分からず、アルーシャは大人しくユーリットの向かいに恐る恐る座った。
 キラ、とユーリットの目が光った気がする。

「この間、中間発表のとき父と話しましたよね」
「えっ。あ……あ、うん」

 なんだ、そのことかとアルーシャは詰めていた息を吐く。

「そうそう、休憩のときね。きみは元気かって聞かれて、ユーリットのことを話したよ」

 ユーリットを弟子にしてからは、度々話す機会があった。
 偉い方と話すのはやはり物慣れないが、国王さまは僕の話にもきちんと耳を傾けてくださる優しい方だし、話題がユーリットのことなので苦にはならない。あのときは少し話しすぎて、ユーリットと離れる時間が長くなってしまったくらいだ。

 そのことを思い出して答えると、ユーリットの目がスッと細められた。

「……余計なことを言ったでしょう」
「ええ!?」

 覚えがない。

「全く、仕事を手伝わせたことなど黙っていればいいでしょう。それに、僕の論文の載った雑誌のことまで喋りましたね」
「え、いけなかった……?」
「スクラップして、自室の本棚に仕舞っているそうですよ!」

 それを聞いて、アルーシャはスッと立ち上がり、研究の本や紙が乱雑に積まれている本棚の奥から数冊引き出して見せた。

「ほら、僕も! ここに五冊と、机に二冊。家にも沢山あるよ」

 パシーーーン、と雑誌が宙を舞った。
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