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4章
第10話 デート
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ほんとは、アステオへの思いを自覚した日から、何十回も考えてきた。
平民の俺と貴族のアステオがずっと一緒にいるということ。友情を越えた気持ちでいる俺が、ずっと傍に居続けるということ。
よくないことなんじゃないか。人が見たら変に思うんじゃないか。
お互いの将来に影を落とすかもしれない。
なにか嫌なことが起こるかもしれない。
なによりいつかアステオが、辛い目に遭うんじゃないか。
そういうことを、ずっと、考えていた。
♯♯
どうやっても断れるわけがなかったデートの待ち合わせに30分前で到着し、ちょうど同じ頃やってきたアステオと合流した。
「僕が先だと思ったのに」
そう言って拗ねるアステオを宥め、まずは二人で練った予定通り、待ち合わせ場所近くのカフェに入った。
外からよく眺めていた店内は思っていたより広く、他のテーブルとの間が離れていて居心地がいい。奥の四人掛けに向き合って座ると、アステオは午前限定だという小さめのフルーツ盛り合わせを頼み、俺は甘いものの気分ではなかったので珈琲だけ頼んだ。
「いる?」
けれど目の前で食べているのを見ると食べたくなるのが人情で、そんな気持ちを見透かされてか、アステオはそう尋ねてくれた。
「ありがとう」
俺は遠慮なくそう答えて口を「あ」と小さく開く。なぜだかアステオは動揺したように顔を赤くした。そして少し躊躇ったかと思うと、溜め息をついて、観念したかのようにフルーツの欠片を食べさせてくれた。
「おいしい?」
「おいしいよ」
二人でニコニコ笑い合った。
カフェを出たあとは、町から乗り合い馬車で20分程の広場に向かう。この場所には先週からサーカス団が来ていて、珍しい動物やマジックが見られると学校でも評判になっていたのだ。
慣れない乗り合い馬車が窮屈になっても、アステオは文句一つ言わず「楽しみだね」とシエルに囁いた。そうして着いた広場は、思った以上に混んでいたが、はぐれないようにと手を繋いでいたら待ち時間はあっという間に過ぎてしまった。
「サーカスへようこそ。皆様へ奇跡の数々をご覧にいれます」
目の前で行われるショーの迫力は、話で聞くのとは全くの別物だ。玉に乗るピエロ、綱渡りに空中ブランコ。その一つ一つがあんまり凄くて、夢中になる。
(すごい! 俺たちも一度演技をやったけど、魔法も使われてないのに、俺たちよりずっとずっとすごい……!)
その感動を分かち合いたくて、俺は思わずアステオの方を向く。そして、うっかり固まった。だって、あまりにもキラキラした目で見ているから。
その顔に一度見とれてしまえば、もう逸らすことは不可能で、シエルは残りのショーの間ついつい隣ばかりを見てしまった。
♯♯
その後、二人はサーカスの出店で遅めの昼食をとり、広場の回りを少し散歩したあとまた乗り合いの馬車で帰路に着いた。
家の近所に到着し、少し暗くなってきたいつもの学校帰りの道をゆったりと歩く。言葉にせずとも、二人の考えていることは一緒だった。
「今日は、楽しかったね……」
「……そうだなー」
手を繋いで、今日のことを振り返る。本当に、夢みたいに楽しい一日だった、とシエルは思う。
「…………ね、また、今度も。
こんなふうに二人で出掛けよう?」
アステオがふいに、そんなことを言った。きゅっと繋いだ手が強く握られる。
いつものシエルならきっと。
流されるまま、きっと「そうだな」なんて答えたんじゃないかと思う。
「………」
サアア、と風が木の葉を揺らした。
夕日が優しく照らすなか、シエルの顔に影がかかる。
「……アステオ。それは、できない……」
アステオの目が見開かれる。それを、シエルは必死で見ないふりした。
平民の俺と貴族のアステオがずっと一緒にいるということ。友情を越えた気持ちでいる俺が、ずっと傍に居続けるということ。
よくないことなんじゃないか。人が見たら変に思うんじゃないか。
お互いの将来に影を落とすかもしれない。
なにか嫌なことが起こるかもしれない。
なによりいつかアステオが、辛い目に遭うんじゃないか。
そういうことを、ずっと、考えていた。
♯♯
どうやっても断れるわけがなかったデートの待ち合わせに30分前で到着し、ちょうど同じ頃やってきたアステオと合流した。
「僕が先だと思ったのに」
そう言って拗ねるアステオを宥め、まずは二人で練った予定通り、待ち合わせ場所近くのカフェに入った。
外からよく眺めていた店内は思っていたより広く、他のテーブルとの間が離れていて居心地がいい。奥の四人掛けに向き合って座ると、アステオは午前限定だという小さめのフルーツ盛り合わせを頼み、俺は甘いものの気分ではなかったので珈琲だけ頼んだ。
「いる?」
けれど目の前で食べているのを見ると食べたくなるのが人情で、そんな気持ちを見透かされてか、アステオはそう尋ねてくれた。
「ありがとう」
俺は遠慮なくそう答えて口を「あ」と小さく開く。なぜだかアステオは動揺したように顔を赤くした。そして少し躊躇ったかと思うと、溜め息をついて、観念したかのようにフルーツの欠片を食べさせてくれた。
「おいしい?」
「おいしいよ」
二人でニコニコ笑い合った。
カフェを出たあとは、町から乗り合い馬車で20分程の広場に向かう。この場所には先週からサーカス団が来ていて、珍しい動物やマジックが見られると学校でも評判になっていたのだ。
慣れない乗り合い馬車が窮屈になっても、アステオは文句一つ言わず「楽しみだね」とシエルに囁いた。そうして着いた広場は、思った以上に混んでいたが、はぐれないようにと手を繋いでいたら待ち時間はあっという間に過ぎてしまった。
「サーカスへようこそ。皆様へ奇跡の数々をご覧にいれます」
目の前で行われるショーの迫力は、話で聞くのとは全くの別物だ。玉に乗るピエロ、綱渡りに空中ブランコ。その一つ一つがあんまり凄くて、夢中になる。
(すごい! 俺たちも一度演技をやったけど、魔法も使われてないのに、俺たちよりずっとずっとすごい……!)
その感動を分かち合いたくて、俺は思わずアステオの方を向く。そして、うっかり固まった。だって、あまりにもキラキラした目で見ているから。
その顔に一度見とれてしまえば、もう逸らすことは不可能で、シエルは残りのショーの間ついつい隣ばかりを見てしまった。
♯♯
その後、二人はサーカスの出店で遅めの昼食をとり、広場の回りを少し散歩したあとまた乗り合いの馬車で帰路に着いた。
家の近所に到着し、少し暗くなってきたいつもの学校帰りの道をゆったりと歩く。言葉にせずとも、二人の考えていることは一緒だった。
「今日は、楽しかったね……」
「……そうだなー」
手を繋いで、今日のことを振り返る。本当に、夢みたいに楽しい一日だった、とシエルは思う。
「…………ね、また、今度も。
こんなふうに二人で出掛けよう?」
アステオがふいに、そんなことを言った。きゅっと繋いだ手が強く握られる。
いつものシエルならきっと。
流されるまま、きっと「そうだな」なんて答えたんじゃないかと思う。
「………」
サアア、と風が木の葉を揺らした。
夕日が優しく照らすなか、シエルの顔に影がかかる。
「……アステオ。それは、できない……」
アステオの目が見開かれる。それを、シエルは必死で見ないふりした。
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