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2章
第10話 絶対楽しいだろ?
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3組の二人による演技が展開されていく。丁寧で緻密な魔法陣。彼らの真面目な性格をよく表しているなとアステオは思った。
(………そう、彼らは昔からとても真面目なんだ。気が利くし穏やかで、だからこそ彼らがあんなことを言うなんて思わなかった………)
普通に友達を紹介したつもりで、まさか貴族でないと蔑まれるとは思いもしなかった。自分だって初めシエルを平民のくせにと罵っていたのに、どうしてああなると考えなかったんだろう。
「相手の属性は土と風か。俺が風の方を対応する」
「わかった」
短く答え、アステオは杖を構える。
その理由はわかっている。いつの間にか嫌いな平民は、シエルという個人になっていたからだ。
きっかけはきっと、あのパーティー。
「シエル、最後に大技くる! 精霊を引き付けておいて!」
「りょーかい!」
学園祭でシエルがロイドと話しているのを見たときに、どうしようもないモヤモヤを感じた。そしてそれは今もずっと晴れずにいる。
(……シエルに僕の知らない部分があるのは当たり前。知り合ってまだ数ヶ月しか経たないし、彼はたぶん秘密も多いから)
自分にそう言い聞かせ続ける。頭ではわかっていた、こんなことで落ち込むのは無意味だと。
ただ、とアステオは思う。
(……そう。ただ、シエルを何も知らないことに、僕が勝手に打ちのめされているだけだ)
『そこまで! 先攻は演技を止めてください!』
♯♯
準備を含めた休憩に移り、いよいよアステオたちの番が始まる。今回考えたのは前回の花火の発展版、火薬と煙を用いて空に絵と文字を描くというものだった。
『学園祭の三日間は、先生たちが魔法で快晴を保っているからさ。綺麗な青空へ好きに落書きするなんて、絶対楽しいだろ?』
そう、キラキラした顔で言うシエルに、残念ながらアステオは同意できなかった。
アステオにとって本番とは、絶対失敗できないもの。完璧にやらなければならないもの。楽しむなんて自由な発想、生まれることすらなかった。
でも、その考えはいいなと思った。舞台映えしそうな空中絵画の発想はもちろん、本番を楽しむというその豊かな心構えが。
「本番始まったらすぐ詠唱だ。アステオ、おまえは向こうの妨害は気にせず、ゆっくり呪文を唱えてろよ?」
「当然、シエルが守ってくれるんでしょ? しっかりサポートしてよ」
当たり前だとそう答えると、シエルは任せろ、というふうにニヤッと笑った。その顔にさえ、不覚にもドキリとしてしまう。
すべて順調だった。入念に準備はしてたし、準備期間に少し休んだとはいえそのときもシエルが見舞いに来てくれてたから。
しかし、どこかで気の緩みがあったのかもしれない。それは、最後の大技がさあ完成する、というときだった。
突然、視界がぐらりと歪んだ。それ自体は珍しいことではない。アステオの病弱な身体は頻繁に目眩を起こす。
最悪だったのはそのとき、杖が演技のため塞がっていたこと。そしてちょうどよろけた角度から、妨害の魔法がぶつかってきたこと。
防御は、展開できない。
「…………アステオ!!」
シエルの必死な声が、最後に聞こえた。
(………そう、彼らは昔からとても真面目なんだ。気が利くし穏やかで、だからこそ彼らがあんなことを言うなんて思わなかった………)
普通に友達を紹介したつもりで、まさか貴族でないと蔑まれるとは思いもしなかった。自分だって初めシエルを平民のくせにと罵っていたのに、どうしてああなると考えなかったんだろう。
「相手の属性は土と風か。俺が風の方を対応する」
「わかった」
短く答え、アステオは杖を構える。
その理由はわかっている。いつの間にか嫌いな平民は、シエルという個人になっていたからだ。
きっかけはきっと、あのパーティー。
「シエル、最後に大技くる! 精霊を引き付けておいて!」
「りょーかい!」
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(……シエルに僕の知らない部分があるのは当たり前。知り合ってまだ数ヶ月しか経たないし、彼はたぶん秘密も多いから)
自分にそう言い聞かせ続ける。頭ではわかっていた、こんなことで落ち込むのは無意味だと。
ただ、とアステオは思う。
(……そう。ただ、シエルを何も知らないことに、僕が勝手に打ちのめされているだけだ)
『そこまで! 先攻は演技を止めてください!』
♯♯
準備を含めた休憩に移り、いよいよアステオたちの番が始まる。今回考えたのは前回の花火の発展版、火薬と煙を用いて空に絵と文字を描くというものだった。
『学園祭の三日間は、先生たちが魔法で快晴を保っているからさ。綺麗な青空へ好きに落書きするなんて、絶対楽しいだろ?』
そう、キラキラした顔で言うシエルに、残念ながらアステオは同意できなかった。
アステオにとって本番とは、絶対失敗できないもの。完璧にやらなければならないもの。楽しむなんて自由な発想、生まれることすらなかった。
でも、その考えはいいなと思った。舞台映えしそうな空中絵画の発想はもちろん、本番を楽しむというその豊かな心構えが。
「本番始まったらすぐ詠唱だ。アステオ、おまえは向こうの妨害は気にせず、ゆっくり呪文を唱えてろよ?」
「当然、シエルが守ってくれるんでしょ? しっかりサポートしてよ」
当たり前だとそう答えると、シエルは任せろ、というふうにニヤッと笑った。その顔にさえ、不覚にもドキリとしてしまう。
すべて順調だった。入念に準備はしてたし、準備期間に少し休んだとはいえそのときもシエルが見舞いに来てくれてたから。
しかし、どこかで気の緩みがあったのかもしれない。それは、最後の大技がさあ完成する、というときだった。
突然、視界がぐらりと歪んだ。それ自体は珍しいことではない。アステオの病弱な身体は頻繁に目眩を起こす。
最悪だったのはそのとき、杖が演技のため塞がっていたこと。そしてちょうどよろけた角度から、妨害の魔法がぶつかってきたこと。
防御は、展開できない。
「…………アステオ!!」
シエルの必死な声が、最後に聞こえた。
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