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2章
第6話 アステオは?
しおりを挟む学園祭初日。幕開けと共に、大きな花火が二つ上がった。
生徒以外の入場はまだだが校庭は人で溢れていて、そのなかに小さな子供やお年寄りの姿まであるのが非日常的だ。
「二日目と三日目が全体公開日か。今日は内輪の筈なのに、結構混んでるな」
「学園生の身内は、だいたい初日に来るからな! 親やら兄弟やらに見られるぶん、生徒の方もピリピリしてるが」
「あんたはいいのか、エリック?」
「俺は母ちゃんも父ちゃんも仕事だ! こういうとき三男坊は気楽だぜ」
ニカッ、といい笑顔でエリックは笑った。
「三男なのか。兄弟が多いんだな」
「姉ちゃんが二人、兄ちゃんが二人だ。シエルは一人っ子なんだったか?」
「ああ、よく覚えてるな」
「俺んち、爺ちゃんの代で授爵されただけで、元は平民だからなー。シエルにちょっと親近感覚えてたんだ」
「そうなのか」
と、そんな話をしてたとき。ドタドタ、と大きな足音が近づいてきた。
「───おはよう、みんなっ! 今日は売り上げ一位を目指して頑張るわよ!!」
「い、委員長………………」
いつも以上に気合いの入った、クラス代表の登校だった。
「いい? 競技は体格や技術の差があるから、上級生には勝ちにくいの。だから総合一位をとるには、クラスの出し物の売り上げがカギよ! じゃんじゃんじゃんじゃん稼いじゃって!」
鼻息を荒くして捲し立てる委員長。
「………なんでそこまで、総合一位に拘るんだ?」
「………てか、出し物も一年が優勝するのは厳しいだろ」
思わず呟いた俺とエリックを無視し、委員長は手に持っていた模造紙を広げる。
「これが学園祭のタイムテーブルよ。黒板に貼っておくから各自見ること」
三日間の学園祭のうち、行われる大会やイベントが事細かに書かれている。出場するクラスの代表者の名前も書かれていて、委員長の気合いの入り様がよくわかる。
「シフトは以前相談した通り。その他各自出場する種目の時間以外は自由行動だけど、できればクラスメイトの応援に足を運ぶこと」
「「はーい」」
「いい? 節度を持って行動すること。くれぐれもはしゃぎすぎてトラブルを起こしたりするんじゃないわよ!」
何か委員長、先生みたいだな。この学校は結構放任なので、先生もこんな注意しないけど。
と、思ってたらチラッと委員長と目が合った。なんだよ、俺はケンカなんかしないぞ。
「じゃあ、初めての学園祭。みんな楽しんで!」
♯♯
「シ、シエル。僕、今日の午前中は時間あるんだけど?」
クラスの打ち合わせが終わって、解散になった後。アステオがそう話しかけてきた。
シエルはパチ、と目を瞬かせる。
「知ってる」
「!……に、鈍いやつだな……! いいか、君も午前中は時間が空いてるんだから──!」
「俺、2-6の巨大迷路と3-1のクイズが気になるんだけどさ。アステオは?」
「………え?」
「ん?」
なんだ?
あ、ここの縁日もいいな。
「昼は俺、せっかくだからここで食べようと思ってるんだけど。あ、もしかして何か予定あるのか?」
そう気づいてパッとパンフレットから顔を上げるシエル。しかしそこにいたのは、ちょっと顔を赤らめたアステオで。
「え、いや………別に、なんでもない」
「なんなんだ」
よくわからずそう言う。けれど気にした様子もなく、心なしかフニャリと緩んだ顔でシエルの手をとった。
「………ほら、行くんだろ。僕は魔法研究会の展示を見たい」
表情とは裏腹につっけんどんな態度でそう言ったアステオに、シエルは感心したような声を上げる。
「はー、おまえは勉強ばっかりだな」
「いいだろ、好きなんだから」
そのまま手を繋ぎ、仲良く話しながら教室を出ていく二人。そんな彼らを、微笑ましそうにクラスメイトが眺めていた。
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