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55 見知らぬ天井?

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 プレイルームのベッドって、天蓋がついていただろうか──。
 いや、ついていない。
 プレイルームのベッドは見慣れている。なにせ、毎日のように掃除に入っているのだ。ベッドメイクもしているが、このような天蓋のついた部屋は一つもなかった。
 ならば、ここはどこだ?
 
 慌てて起きあがろうともがいて、体に回された腕を振り払う。がっしりと身体を抱きこむ腕はそう簡単に離してくれなかった。仕方がないと、健介はサイベリアンの両腕を掴み、力いっぱいに引きはがす。もう、サイベリアンが目を覚まそうともかまいはしなかった。 
 ようやくサイベリアンという枷から抜け出し、ベッドを降りようとする。

(ベッドが広い……)

 自分なら四人か五人だって横になれそうなほど広さを、四つ這いでベッドの端までやってくる。後ろを振り返ると、サイベリアンの手が健介のいた場所をもぞもぞと探すように手を動かしていた。
 幸いにもまだ、サイベリアンは目を覚ましていない。今のうちに状況を確認しなくては、と垂れ下がる薄布をめくった。
「!?」
 うすうす気づいていたことではあったが、やはりベッドの外の部屋はプレイルームではなかった。絢爛豪華、贅の限りを尽くしたというような内装、ここは……。
 見覚えがなくはない。
 いや、正確には同じ部屋を見たことはないが、似たような部屋を見たことは過去に一度だけあった。
 そう、Subだと医者に診断されて倒れた自分を介抱するために、サイベリアンが連れてきた部屋だ。だが、いまいるのはその部屋ではない。
 高い天井を見上げると、クリスタルの豪華なシャンデリアのような照明が吊るされている。いまは灯されていないものの、点いたらどれほどの煌めきを放つことだろう。窓に吊るされたカーテンは健介の部屋のぺらぺらの布とは違って重厚で、陽の光を少しも通さないという意気込みを感じるほどのものだ。
 そろりと床に足をつけると、毛足の長い絨毯にふかりと埋まる。裸足で歩いても、柔らかく冷たくない。
 広いベッドがそれほど大きく見えないほどに広い部屋。そこに置かれた家具にふんだんに施された見覚えのある金の意匠。
 あの時寝かされていた部屋ですら、健介には人生で一度も目にしたことのないような豪華極まりないものだったが、この部屋はそれすらも上回っている。目がくらみそうだった。

 外を確認しようかと、ぺそぺそと歩き始めてふと気が付く。健介は未だ何も着ておらず、真っ裸のままなのだ。このまま窓際に近づくのはちょっとどうかとためらった。
 もはや、外を確認するまでもなく、ここはハウスではないことは明確だった。だが、いまが何時なのか、それが知りたい。
 プレイヤーをしたからといって、掃除や洗濯といった普段の仕事をしなくていいわけではないのだ。そんなこと、ゾイにもひと言も言われていない。シュナやウンシアだって、プレイヤーとして働きながら、健介を手伝うために掃除や洗濯をしているではないか。
 健介がいなかったら、二人が健介の不在分も仕事をしなくてはいけない……。

 部屋の中をくるりと見回すとふわっと花の香りが鼻をかすめる。部屋の端に視線を向けると豪奢なキャビネットの上に大輪の百合が生けられた大きな花瓶が目に入った。
 健介が花瓶に生けられた花を見たのはこの世界に来てから初めてのことだった。住む世界の違いを目の当たりにした気持ちだった。
(流石、第二皇子殿下……)
 皮肉ではなく、素直に心の中でそう思った。

 寒いとかではなかったが、股間をぶらぶらさせたまま部屋のなかをうろついているのは……少々奔放が過ぎる気がする。しかも自分の部屋でもなく人様の家なのだ。何かは折れるものはないかとあたりを見回すが、以前に部屋で起きた時のように服が置いてあるということはなかった。
 それにしても、どうしてハウスのプレイルームではなく、サイベリアンの屋敷(推定)にいるのだろうか──。
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