狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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14章

3 人狼って!?

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シロウは自身を奮い立たせて、姉の目をしっかり見返す。
「俺はリアムさんのことが好きだよ。姉さん」
 シロウは意志の強さを見せた。
「獅郎……でも、二人とも男の子よ」
 二人とも男の子って歳でもないんだけど……とお門違いなところに須臾気を取られる。
 シロウは今まで興味を持った相手も、好きになった相手もいなかった。それは男性にだけでなく、女性に対しても。
 だが、リアムを好きだと気づいたとき、好きになる気持ちに性別は関係ないと思った。

「男とか、女とか関係ないよ。側に……ただ側に居たいって気持ち、姉さんにもわかるよね」
 サクラコは驚いた。今までサクラコはシロウがこんなにはっきりと自分の気持ち──考えを口にしたところを見たことがなかった。

「そう……。なら……でも……」
 「でも」のあとに続く言葉をシロウに言うことが出来ない。サクラコはただただシロウが心配だった。それはわかってほしかった。
 姉の目を見つめていたシロウは姉の手を取り、力強く握りしめた。
「大丈夫だよ」
「心配なの……」
 そう言った姉が何かを思い出したようにハッと目を見開く。
「あと!人狼ってどういうこと!?」
 姉の剣幕に驚くが、答えを持たない質問に何と返事をするか躊躇う。
「それは……」
「いつから!?いつからなの」
「俺にもわからないんだよ。こっちに来て、気がついたら狼になってしまって」
 自分でもありえない説明だとは自覚している。それでも、そうとしか答えられない。
「そんな……」
「でも、姉さんだって、義兄さんが人狼だって……いつ知ったの?俺には何も言ってなかった」
 ノエルが人狼だと知っていたら、
「それは……」
 言えなかった事情はシロウにも少しは理解できる。いきなり、「実はあなたのお兄さんになる人は狼なのよ」と言われて、素直に「はい、わかりました」とはいかない。
 サクラコも折を見てシロウに伝えるつもりだったのではないかと思う。
「俺にも、リアムさんにもどうして俺が人狼なのかはわからないんだよ。だから……さっき、リアムさんのお父さんに尋ねたんだ」
「血がどうのって言っていたのは?」
 サクラコは先天的人狼と人から人狼になることが出来る後天的人狼がいることを知らないようだった。
 シロウは上手く説明できると思えなかったが、自分がわかることを最大限に伝えることにした。
「生まれながらに狼になれる人、リアムさんやノエルさんがそうなんだけど、普通の人間も人狼の血を与えられると人狼に変化するんだって」
「なら!」
「待って!最後まで聞いて」
 勘違いをしそうな姉を押し留めて、続きを話す。
「姉さんは俺がリアムさんによって人狼にされたと思うかもしれないけど、そうじゃない」
 「と思う」という言葉はあえて言わない。シロウが曖昧な説明をすれば、その非難が一身にリアムの身に降りかかるから。
「俺は生まれながらの人狼なんだよ」
 シロウにも確信はない。でも、リアムを信じると決めたシロウにはそう答えるしかなかった。
「じゃあ、私もそうなの?もし、そうじゃなくても、血を貰ったら人狼になれるの?」
 その言葉でシロウはサクラコがノエルからあまり人狼の説明を受けていないことがわかった。
「人狼は男性?雄?だけなんだ」
「そんなぁ……」
 あからさまにガッカリする姉にかける言葉が見つからない。
 ここまでの話からすると、サクラコはノエルと知り合うまで、人狼の存在をかけらも知らなかったのだと理解する。
 両親が亡くなったとき、シロウはまだ幼かった。たとえ、両親のどちらかが人狼の家系であると知っていたとして、それをシロウに伝えたとは思えない。姉も10歳か11歳か──、狼に変身しない女性ならあえて伝えていなかった可能性もある。
 でも、両親のどちらも人狼の家系でなかった場合、自分の人狼の血はどこから来たものなのだろう。
 その謎を解くために、日本に行くことが決まっている──シロウの意思は無視して。
 知りたいと思う一方、その真実を明るみにした時にどんな答えが見つかるのかシロウは少し怖かった。

 
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