狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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12章

4憂鬱なメール

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 少しだけ、と言いながら結局小一時間ほど、二人は朝から淫りがわしい行為に耽っていた。
 何度か果てたシロウはぐったりとベッドに横たわって、荒い呼吸を整える。息を吸うたびに白い胸がゆっくりと上下していた。

「シロウ、大丈夫?」
 優しく声をかけられて、シロウは未だ定まらない視線のまま、ゆっくりと頷く。
 起きあがろうとするが身体に上手く力が入らない。
 ふわっと身体が持ち上がったかと思ったら、リアムに抱きかかえられていた。
「シャワーを浴びて、支度をしようか」
 リアムは目尻を綻ばせて微笑み、シロウの額にキスをすると、そのままベッドから歩き始めた。
「あの、歩けます……」
 その声を無視して、明るいバスルームへスタスタと入っていく。
 洗面の大きな鏡に映る真っ裸のリアムに抱き抱えられた、これまた素っ裸の自分の姿にシロウは「わっ」と驚き腕の中で慌てふためいた。
「おっと!」
 落ちそうになるシロウをリアムはぎゅっと抱きしめなおす。
「ごめんなさい。あの……でも、もう降ろしてください」
 先程まで、絡み合う淫らな行為に耽っていたというのに、裸を見たくらいで羞恥に顔を赤くするシロウが可愛くて仕方がない。
 再び股間が兆し始めそうになるところをリアムはぐっと堪えた。本当はシャワーも一緒に入って、シロウの身体を隅々まで自分で洗いたい。
 しかし、一緒に入ればただ身体を洗うだけでは済まない気がする。流石にこれ以上はシロウに負担になるし、何より父親に呼び出されているのをすっぽかすわけにもいかない。
 リアムは鉄の意志でシロウを降ろすと、「ゆっくりあったまっておいで」と言って、シロウを残してバスルームを後にした。


 部屋に戻ったリアムは携帯電話を手に取り、届いた新着メールにざっと目を通す。仕事関係は特に急ぎも無さそうで安心するが、それ以外の2通のメールが目に入って、少しだけ気が滅入った。
 一通目は案の定、父からの『明日、朝の八時にシロウと一緒に書斎に来るように』という、手短に要件を告げるメッセージ。
 昨晩言われた通りのお呼び出しだ。
 行ったところで何を言われるか想像もつかない。すでにシロウがメイトだということを叔父が知っていたのなら、父が知らないはずはないのだ。

(良い反応がもらえたら良いが……)
 人狼にとって、メイトと巡り合うことはこの上ない喜びだ。
 だが、リアムはメイトが「男性で人狼である」という話を聞いた事が無かった。一般的にメイトは女性で人狼ではない。
 それでも、リアムはシロウがメイトだという確信がある。誰に何を言われようとシロウは自分のメイト──そこだけは何があっても譲れない。

 2通目はノエルからの『どういうことか説明しろ』というような内容の長々としたメッセージで、こちらは冒頭の一行を読んで、それ以降読むのをやめた。ノエルに説明する必要はない。だが、チラッと見えた「サクラコ」という文字に、一昨日の昼食を思い出して、一筋縄にはいかない気がした。それが杞憂だと良いが、おそらくそうはならない。シロウがサクラコから詰め寄られている様子が容易に頭に浮かんでしまった。
 自分を「好き」だと言ったシロウはサクラコとのランチの時に、まだ自分達が恋人同士であることは伝えたく無いと言っていた。
 その時は、シロウのタイミングでサクラコに話したら良いと思って、言うも言わないも任せることにしたが、こんなややこしいことになるならあの時に伝えていたらと若干の後悔が滲む。
 そして、今回のパーティの主旨はメイトの披露だった。サクラコはノエルのパートナー……メイトなのだ。サクラコは人狼についてどこまで知って、受け入れているのか。リアムにはこちらも皆目見当がつかない。
 いつに無くリアムは憂鬱な気持ちになる。
 その気持ちを払拭させるように、窓にかかる重苦しいカーテンを開けた。昇り始めた朝日が優しく部屋に差し込んでくる。
 今日も暑くなりそうだ。
 リアムの気分も少しだけ晴れたような気がした。
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