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12章
1翌朝明けて
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シロウは柔らかな温もりを感じて目が覚めた。
未だ部屋の中は暗く、ダウンライトの灯りがうっすらと部屋を照らす。ベッドルームにあるフランス窓には厚いカーテンが引かれており、外はまだ夜なのかもう朝は明けたのか、ここからではわからない。
(今、何時だろう)
時計を見ようと身体を動かそうとして、温もりの正体に気づき躊躇する。後ろから抱きしめるように回された腕はシロウの腰をやんわり捉えており、身動きをすれば、リアムを起こしてしまいそうだった。
シロウはリアムを起こさないようにそうっとベッドの上で体をよじり、静かに腕から抜け出して、ナイトテーブルの時計を見る。
時刻は朝5時半を少し過ぎた頃。
もう一眠りしたものかと思うが、目が冴えてしまい眠くはない。
昨晩、部屋に戻ってから二人は何も話さずに、シャワーを浴びると早々に寝てしまった。
昼にこの屋敷へ到着してからパーティに至るまで、シロウの気の休まる時がないほどに、さまざまな出来事が怒涛のように起こっていた。気疲れしていたのだろう。泣き疲れて寝てしまう子供のように、ベッドに入るとストンと寝てしまったのだ。
ただ、気疲れだけだとも言えなかった。
朝から飛行機に乗り、サクラメント空港に着いた後は車に乗り換えて約三時間。午前中いっぱいは移動に費やされ、この屋敷に着いたのは昼過ぎだったし、肉体的にもそれなりに疲労を感じていたに違いない。起きた身体は少しの疲労を残すものの、頭は思いのほかさっぱりしていた。
シロウは昨晩のことを少し思い起こし、小さなため息をついた。
寝て起きたら問題が解決していたら、どんなに良かったことか。悩みは尽きないがどうしたって通らなければならない道なのだ。
リアムの親も、姉のサクラコも。
遅いか早いかの違いでしか無い。
枕元の携帯を見ると、姉からの着信はないがショートメールは来ていることを報せてくる。
《どうしてここにいるのか、ちゃんと説明してね》
短くも的確なメッセージは脳裏に昨夜の困惑した姉の姿を思い出させた。
今日これから、姉に会ってどう説明したら良いのか……。一晩寝たスッキリした頭でも、良い案は浮かばない。ただ、会わずに日本に帰してはいけないことだけはわかる。
携帯をサイドボードに置いて、再び枕に頭を埋めると、ベッドのスプリングが軋んで、横のリアムが身じろいだ。
起こしてしまったかと、隣を見るが目を覚ました様子はない。シロウはそのままリアムの寝顔を眺める。
いつも自分より早く起きて、シロウが寝ている間にベッドを出て、支度を整えてしまうリアムの、狼の姿ではない寝顔を見るのは初めてだった。
滅多にないその光景に、思わずシロウはまじまじと見つめてしまう。
穏やかな寝息をたてているリアムは、眠っている姿すら整っていて、隙が
無い。
くっきりと男らしい弧を描く眉。高くすらりとした鼻梁。がっちりとして凛々しい顎。
そして、今は閉じている瞼の下には透き通るような美しいアイスブルーの瞳。
目尻に少しだけある皺すら、美しいリアムの顔を損ねることはない。
ほぅっとため息が出そうになるのを堪えて、覗き込む。額にかかる前髪に手を伸ばそうとした時、腰に腕が回りぐっと抱きよせられた。
未だ部屋の中は暗く、ダウンライトの灯りがうっすらと部屋を照らす。ベッドルームにあるフランス窓には厚いカーテンが引かれており、外はまだ夜なのかもう朝は明けたのか、ここからではわからない。
(今、何時だろう)
時計を見ようと身体を動かそうとして、温もりの正体に気づき躊躇する。後ろから抱きしめるように回された腕はシロウの腰をやんわり捉えており、身動きをすれば、リアムを起こしてしまいそうだった。
シロウはリアムを起こさないようにそうっとベッドの上で体をよじり、静かに腕から抜け出して、ナイトテーブルの時計を見る。
時刻は朝5時半を少し過ぎた頃。
もう一眠りしたものかと思うが、目が冴えてしまい眠くはない。
昨晩、部屋に戻ってから二人は何も話さずに、シャワーを浴びると早々に寝てしまった。
昼にこの屋敷へ到着してからパーティに至るまで、シロウの気の休まる時がないほどに、さまざまな出来事が怒涛のように起こっていた。気疲れしていたのだろう。泣き疲れて寝てしまう子供のように、ベッドに入るとストンと寝てしまったのだ。
ただ、気疲れだけだとも言えなかった。
朝から飛行機に乗り、サクラメント空港に着いた後は車に乗り換えて約三時間。午前中いっぱいは移動に費やされ、この屋敷に着いたのは昼過ぎだったし、肉体的にもそれなりに疲労を感じていたに違いない。起きた身体は少しの疲労を残すものの、頭は思いのほかさっぱりしていた。
シロウは昨晩のことを少し思い起こし、小さなため息をついた。
寝て起きたら問題が解決していたら、どんなに良かったことか。悩みは尽きないがどうしたって通らなければならない道なのだ。
リアムの親も、姉のサクラコも。
遅いか早いかの違いでしか無い。
枕元の携帯を見ると、姉からの着信はないがショートメールは来ていることを報せてくる。
《どうしてここにいるのか、ちゃんと説明してね》
短くも的確なメッセージは脳裏に昨夜の困惑した姉の姿を思い出させた。
今日これから、姉に会ってどう説明したら良いのか……。一晩寝たスッキリした頭でも、良い案は浮かばない。ただ、会わずに日本に帰してはいけないことだけはわかる。
携帯をサイドボードに置いて、再び枕に頭を埋めると、ベッドのスプリングが軋んで、横のリアムが身じろいだ。
起こしてしまったかと、隣を見るが目を覚ました様子はない。シロウはそのままリアムの寝顔を眺める。
いつも自分より早く起きて、シロウが寝ている間にベッドを出て、支度を整えてしまうリアムの、狼の姿ではない寝顔を見るのは初めてだった。
滅多にないその光景に、思わずシロウはまじまじと見つめてしまう。
穏やかな寝息をたてているリアムは、眠っている姿すら整っていて、隙が
無い。
くっきりと男らしい弧を描く眉。高くすらりとした鼻梁。がっちりとして凛々しい顎。
そして、今は閉じている瞼の下には透き通るような美しいアイスブルーの瞳。
目尻に少しだけある皺すら、美しいリアムの顔を損ねることはない。
ほぅっとため息が出そうになるのを堪えて、覗き込む。額にかかる前髪に手を伸ばそうとした時、腰に腕が回りぐっと抱きよせられた。
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