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8章
1 帰宅
しおりを挟む染み付いた習性のようなもので、昨晩、就寝した時刻が遅かろうと、いつもと変わらぬ時間に目が覚める。
まだ時刻は6時半。
リアムはそっと起き上がると、早速シロウの部屋を覗きにむかった。
この時刻ではシロウも目を覚ましてはいないとは思ったものの、少しは落ち着いて、寝ている間に人型に戻っているかもしれないとわずかな希望を抱いていた。
何より、シロウが部屋にいることを確かめずにいられなかった。
部屋に漂う桜の甘い芳香がリアムの鼻にふわりと香る。
静かに開けた扉の先のベッドには、変わらず獣の姿のシロウが横たわっている。ちゃんと部屋にいることに安堵しつつも、未だ狼の姿のままなことに少しだけ落胆した。
部屋には早朝の優しい陽の光が窓から差し込み、清潔なリネンに包まれて、穏やかな寝息を立てているシロウをやわらかく照らしていた。
シロウの狼の白い毛は街を徘徊し、人目を忍んで隠れていたせいか、薄汚れて見える。昨晩は早くに休ませたい、その気持ちが先立ち、そのままベッドに押し込むようにしてしまったが、桜の香りに混ざった狼の獣臭もかすかに匂う。
──狼の姿のままでも身を清めてから休ませればよかった。
自分のメイトを危険から守れず、そのような汚れた姿にしてしまったことに、リアムは強い自責の念にかられた。
今からでも遅くはない、シロウを風呂に入れて綺麗にしてあげようと心を決めるが、再び意識がないまま勝手に風呂に入れるのは、無くしている信頼を一層損ないかねないと思い直し、リアムはひとまずシロウを起こしてから、風呂にいれることにした。
安らかな眠りを妨げるのはかわいそうだが、仕方がない。リアムは自分の信頼回復を優先する。
──まずはバスタブに湯を沸かしに行こう。その間はまだ休ませておける。
リアムはそっと部屋を出ると、隣のバスルームへと向かった。
風呂が沸くころに再びシロウの部屋へ戻る。ノックをしつつ、扉を薄く開くと、シロウはまだすやすやと寝ていた。リアムはベッドに近づくと、優しくシロウの毛並みを撫でる。
「シロウ、起きて」
シロウの耳がぴくぴくと動く。可愛らしい。
「シロウ。起きてお風呂に入ろう?」
背中を撫でていた手を顔へ移動させると、優しく頬を撫でる。
狼の顔で表情豊かにリアムを見上げ、小首をかしげる。
何とも愛らしい。
「起きた?お風呂に入らないか?」
「お風呂?」と寝ぼけた頭で思ったが、反応するより先に無言を肯定ととったリアムはシロウを抱きかかえられると、そのままさっさと部屋から出ていく。
半分寝ながらリアムに抱き抱えられて、すぐ隣のバスルームにあっという間に連れてこられ、冷んやりとしたタイルの床に下ろされる。温かな腕から一転して、肉球の先から感じる床が冷たく、ぽやぽやしていた頭が覚める。
──お風呂だ……
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