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6章
1 どうして
しおりを挟むレナートの研究室を後にしてから、どのくらいの時間が経っただろうか。
あてもなく歩いても仕方がないと思い、校内のベンチに座ってから随分と時間が経っていた。日は傾いていたが、それでもまだまだ外は明るい。
日本より日の入りが遅いこちらは夏の時期なら夜の8時頃までは暗くならない。とはいえ、日が西に傾き始めた空は夕暮れの複雑な色合いを見せ始めていた。
昼前、この道を歩いたときには木々の合間からさす木漏れ日の煌めきに晴れやかだった気持ちも、今は夕日が道に作る陰のように暗く沈んでいる。
「どうしよう……」
誰に向けてでも無く言葉が口から出る。
このままいつまでもここに座っているわけにはいかないことはシロウにもわかっていたが、かといってリアムの部屋に戻る気にもなれず、ただただ無為な時間をベンチに座って過ごしている。
日陰は既に涼しさを感じるがシロウの座るベンチには日の入り前の最後の光でまだ少し暖かい。
この土地らしい乾いた風がシロウの頬を撫でる。気持ちの良い夏の夕暮れのはずだが、行くあてのないシロウには木陰に落ちる影のように先行きも暗い。
リアムによって人狼にさせられたのかもしれない──。
レナートから人狼の話を聞いている間に頭に浮かんだその考えを今もシロウは振り払えずにいた。
そうだという確信ない。
だが、そうでないと言い切れる自信もシロウにはなかった。
──ただ……なぜ……?
元から知り合いだったのかと記憶を遡ってみるが、さすがにあれほどに目立つ人と会っていたら、たとえ一度であったとしても覚えているだろう。
確かに自分がリアムに会ったのは、初めてレナートの研究室に挨拶に来たあの日だ。
では、シロウの知らないところでリアムが一方的にシロウを知っていた可能性はどうか──。
おそらく、それもあり得ないだろう。
己の身体的な秘密を守ることが第一で、学生時代は仲の良い友人もいなければ、ひっそりと教室の隅で過ごし、群れる人を避けるかの様に過ごした。無論、目立つようなことも無かったし、目立つことをすることもなかった。
大学での成績も耳目を集めるほどではなかったし、この間まで勤めていた会社でだって、華々しい功績とは無縁である。
本当に運良く、つてでこの研究室の空き枠に滑り込んだのだ。
そんな自分が一体どこでリアムの目に触れるというのだろうか。
元から知り合いだったのかと記憶を遡ってみるが、さすがにあんなに目立つ人と会っていたら一度であっても覚えているだろう。
確かに自分がリアムに会ったのは、初めてレナートの研究室に挨拶に来たあの日だ。
では、シロウの知らないところでリアムが一方的にシロウを知っていた可能性はどうか。
おそらく、それもあり得ないだろう。
己の身体的な秘密を守ることが第一で、学生時代は仲の良い友人もいなければ、ひっそりと教室の隅で過ごし、群れる人を避けるかの様に過ごした。無論、目立つようなことも無かったし、目立つことをすることもなかった。
大学での成績も耳目を集めるほどではなかったし、この間まで勤めていた会社でだって、華々しい功績とは無縁である。
本当に運良く、つてでこの研究室の空き枠に滑り込んだのだ。
そんな自分が一体どこでリアムの目に触れるというのだろうか。
だが、リアムに会うまで、確かにシロウは人狼である認識なかった。レナートも人狼だとは思っていなかったと言っていた。
なら、やはり『リアムと出会った後に人狼になった』、その事実だけは確かなのだ。
では、なぜリアムは見ず知らずの俺にいきなり話しかけたのだろうか。
『メイト』だから……。
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