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5章
2 人狼とは
しおりを挟む「ところで、もう人狼に慣れた?」
しばらくして、世間話と研究室の様子などの話が途切れたころ、少し小声でレナートが尋ねてきた。
「いえ、あまり上手くコントロール出来ません。意識して、変化したりは、まだ難しいです」
「そうか。そりゃそうだな。まだ2週間くらいだものね。人狼はみんな子供のころから群れで変体の練習を繰り返すから」
レナートも生まれつきの人狼なのだろうか。
ふと湧いた疑問を口に出す。
「あの、レナート教授は……」
「あぁ、私は生まれながらの人狼だよ。そもそも後天的な人狼は少ない」
そういうものなのか?とシロウは思った。では、後天的人狼とはなんなのか……?自分のように突然、身体が人狼化してしまうものなのだろうか。
「後天的な人狼は幼い頃から訓練しておらず、かつ長い間人間として生活をしていたわけだから、そうそう簡単にコントロールはできないさ。コントロールできないと、どこかで何かの弾みで人狼化して、パニックになったら、大変危険なことだ。まして、自分のメイトともなれば少しくらい過保護になるのもおかしくない。特にあいつみたいなαタイプの人狼は多少自分勝手なところもあるが、少しは大目に見てやってくれ。」
そう言われたものの、あまりに干渉しすぎだと思う。
ところで、メイト?……αタイプ……?とはなんだろうか、シロウはまたも知らない単語が出てきて、困惑した。
「どうした?」
黙り込んだシロウにレナートは怪訝そうな視線を向けている。
怒涛の情報量に頭がついていかない。
ここにきて新たな人狼知識がレナートの口から次々と語られて、理解が追いつかない。おそらくまだまだ知らないことの方が多いのだろうことは薄々感じていた。
ただ、意図してかはわからないがリアムが自分に人狼の基礎知識をあまり話していないのではないかということに気づく。
「αタイプとはなんですか?」
まずは手始めにわからない単語を尋ねる。
「君はどの程度人狼について、リアムから話を聞いているんだい?」
そう問われて、シロウは困惑した。リアムからは人狼の生態についてのほとんどの情報は得られていなかった。
思い返して見ると『群れの性質は狼のそれに近い』とだけ、何かテレビを観ていた時に言われただけだ。あとは自身の身をもって知る、変身することのみ。
それが顔にでていたのか、レナートは少しため息をつくと、天井を見つめてから話始める。
「つまりはほとんど何も聞いていないんだな、アイツ。ちゃんと面倒を見るって言っていたから安心していたのに。」
リアムへの悪態をついた後にレナートは人狼講義を始めることにする。
「まず、人狼は狼と同じ社会性を持っている。狼は普段パックという群れで生活をしているが、そこには群れでの順位があるんだ。上から順にα(アルファ)、β(ベータ)、そして群れの最下位の個体をΩ(オメガ)と呼ぶんだ。人狼社会では、群れのリーダーをα、そしてそれを支える副官的な役割をβと読んでいる。βはαタイプの力のある人狼で群れのトップになっていないってことが多い。Ωは群れで弱い個体ではあるが、αとは違った形で群れをまとめる重要な役割を担っているんだよ。」
そこまで言ってから、レナートはシロウの様子を伺った。
おそらく、リアムは意図して説明を避けていたのだろうとレナートは思い至った。生まれながらの人狼である自分ならいざ知らず、御伽噺のような狼人間がこの世に存在するという事実ですら、当事者でない人間からしてみたら驚き以外の何物でもない。その上、自身がその狼人間だったと知らされたら、それだけで受け入れることに時間を要するに違いなかった。
レナートは先程の悪態を心の中で詫びた。
変わらず傾聴の姿勢をとるシロウを眺めながら、説明を続けた。
「Ωの役割は群れによって違う…というか、Ωは群れの最弱狼であると同時に要の存在で、調停者とも呼ばれる。そのため、Ωのいる群れは強い。ただ、大半の群れにはΩがいない。だから、群れはΩの存在を隠すんだ。群れで存在を知っているのはリーダーのαと一部のβくらいだ。私も詳しくはわからない。」
シロウが怪訝な顔をしている。
「何か疑問があるのかな?」
そう問われたシロウは素直に疑問を口にする。
「秘匿された存在という割にレナート教授はよくご存知だな……と思いまして。」
「あぁ……私が元々いた群れにはΩがいたんだよ。マーキングされていないΩはαタイプにだけわかる匂いがある。Ωに覚醒したばかりで、αのマーキング前だったから、ひと悶着あってね。」
「ひと悶着……とは?」
マーキングされていないΩであると何がおきるというのだろう……。
シロウは思ったままの質問を口にした。
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