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控えめに言って死ぬ

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日の出と共に始まった修行、最初の半年は控えめに言って死ぬ、と思った。
元々ガヴァン一族は念話で会話していたらしく、テレパシー能力が発達していた。

攻撃をかわすにしても、目で見て判断して動くのでは遅いと、目を頼るな、感じろ!と極限まで感覚を研ぎ澄ます修行を行った。
本気でナイフとか投げてくる。死ぬ。

スピードの能力があるビルでさえ、遅いらしい。
子供のアル(聞けばもうすぐ11歳らしい)ですら、軽々とこなすことが出来ない。
スタン、スタンと岩場を飛び移り、崖上から石を投げ落とし、避けながら上がって来いと言う。死ぬ。


一旦自分の常識を全て捨て去り、まっさらにするのは中々容易では無かったが、根が素直なビルは思い切った。
冒険者としてのランクも経験も全て白紙にもどし、子供に戻ったと思って、10下のアルにも教えを乞うた。



そうして一年が過ぎ、まだまだ足りないと、さらにもう一年延長した。
気がつけば2年経っていた。
今ではすっかり集落の生活にも慣れ、木から木の移動も難無くこなす。

もうすぐユージーンの特化卒業の時期となった。
アーサーと約束した2年の期限でもある。

師匠のガヴィルからも、そろそろいいだろうと、集落を出る事になった。
冗談混じりに、一族から嫁をもらうか?と聞かれたが、まだまだ駆け出しの冒険者にそんなゆとりはなく、丁重にお断りした。
クリストファーやレオナルドを見慣れてるビルでもガヴァンの人々は男女とも目を見張る程に美しかったが、この2年、死なない様に技や知識を吸収する事に忙しく、正直なところ愛だの恋だの言ってられなかった。

集落のみんなも初めは遠巻きにしていたが、なりふり構わず食らいついてくるビルに段々と協力的になり、
2年経つ頃には一族のように接してくれたのが何より嬉しかった。



入り口で、集落総出で見送ってくれた。

「じゃあ、元気でなビル。もう崖から落ちるなよ」
「師匠も元気で、皆さんには本当にお世話になりました」

一族の皆も、口々に元気で、また来いよ、と声をかけてくれた。

アルも見送りに来ていた。
2年でだいぶ背が伸びたが、まだまだ小柄だ。
泣きそうになってるのを堪えてるのか、眉間に皺が寄っている。ぶっきらぼうに

「じゃ、またな」

と言ったきり、横を向いた。

「ああ、アル、ありがとうな」

ビルはアルの頭をくしゃくしゃっと撫でた。


「わしらは移動しているから、ずっとここにおるわけではない。またいつか、縁が合えば会えるだろう」
「俺にできることがあれば、何でも言ってください」

二人はがっしりと握手を交わし、ビルは集落を後にした。



帰ってからのビルはそれこそ、今までと次元の違う動きで、あっという間にBランク、Aランク、Sランクと駆け上がり、ギルドマスターを引退するエドの推薦もあって、最年少でギルドマスターを引き継ぎ、今に至る。


そして10年が経ち、この間、北の森の調査依頼にもマックスと行って何度かガヴァンの集落に行こうとしたが、やはり移動したらしく、元の場所にはいなかった。
マックスも今はわからないと言う。
あの時は本当に運が良かった。

一応、王都のギルドの連絡先をガヴィルには伝えておいたが、手紙も来たことはなかった。

それが、短いとはいえ、ガヴィルからの手紙である。
ジイさん、そろそろ危ないのか・・・と感慨深い。

今ここにこうしているのはガヴィル・ガヴァンとその一族のお陰だ。

読み終えた手紙を丁寧に封筒にしまうと、孫のアルが来たら今までの恩返しとばかりに、丁重にもてなそう。と思っていたのだった。








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