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澱みと浄化

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澱みは人々の負の感情が一定数を超えると西の森の聖地と呼ばれる場所に発生すると言われている。

週に一度、各騎士団が交代で西の森を巡回し、様子を見るのは、澱みの兆候があれば浄化師に連絡するためだ。

連絡があれば、騎士団と浄化師は西の森に向かい、浄化師はその髪に澱みを取り込み、その場で浄化する。
取り込めなければ、浄化師は騎士団と一緒に魔獣を討伐する。
魔獣は西の森から出さない様最新の注意を払われていた。


浄化師の髪は浄化を顕現させてから、白銀に変わる。
澱みを取り込み、浄化が一目でわかるようにするためだ。
そして、少しでも澱みを多く取るよう、長く伸ばす。

澱みを取り込んだ髪は澱みの量により変わるが、一旦銀灰色に染まる。
浄化が完了すれば、また元の白銀に戻る。
その繰り返しだった。

通常は髪を腰辺りまで伸ばすが、クリストファーは既にくるぶしあたりまで魔力で伸ばしていた。

クリストファーは内心焦っていた。
髪が鈍色にまで変わっている。
白銀に戻る暇がないほど、浄化が追いついていないからだ。
このところ澱みが現れるスピードがどんどん上がっている。

このままではいずれ、限界が来る。
限界が来たら、この世界に与える影響がわからない。
今まで、こんなことは無かったからだ。

いざとなったら、自分とともに限界まで取り込んだ澱みを消滅させようとクリストファーは密かに決意していた。

(誰も傷ついて欲しくない。)


西の森。
クリストファー 7歳。
レオナルド 34歳

レオナルドは現役浄化師として活躍していた。
左腕に子供のクリストファーを抱えたまま、髪に意識を集中する。

髪の毛先から銀灰色になる。
もう少しで髪の毛全体が銀灰色になりそうになった時、しゅるしゅるしゅると毛先から澱みが抜けていってしまった。

「あ~!やっべ!澱み取り損ねた。仕方ねぇから、討伐に切り替えるぞ!!」
「またか!!レオ!お前は相変わらず澱みを取り込むのが下手くそだな!!」

グラントの父、第二隊の隊長 ロベルトが剣に硬化の魔力を流しながら怒鳴った。
他の騎士たちも臨戦態勢を整える。

レオナルドは魔力を扱うのは天才的でも、唯一澱みの取り込みだけは苦手だった。

「俺は討伐の方が得意だ!まかせろ、ロベルト」
「お前に任せると被害がでかくなるんだよ!!」

ドッカーン!!ドカーン!ボガーン!!

西の森が一部抉れる。

「わはははは、今日も絶対好調!俺!」

右手をまっすぐに伸ばして、魔力の塊を次々に魔獣にぶつける。
クリストファーはギュッと父親の首に縋りついていた。

怖くても目は閉じずに、我慢、我慢と自分に言い聞かせながら。
脳裏にはここにくる前にレオナルドにれ言われた言葉を思い出していた。

「俺は言葉で説明するのは上手くないから、浄化師の仕事は俺のやる事を見て学べ」


白銀の髪をなびかせ、仁王立ちで魔力を駆使する壮麗な姿は、さながら破壊の魔王のようだった。

澱みを取り込み既に魔獣化した動物たちがレオナルドの攻撃によって、ぼろぼろと崩れて消滅する。
あちらこちらでも騎士たちと魔獣が交戦し、辺りは混戦状態だった。  



1時間後、白い煙が立ち上り、魔獣もいなくなっていた。

「さてと、もう魔獣はいねぇな」

レオナルドが辺りを見回し、
クリストファーを抱えたまま西の森の一角に張られた、怪我人を収容したテントに向かう。

テント内は魔獣との戦いで怪我した騎士たちが運び込まれていて、あちこちで呻き声がしていた。

抱えていたクリストファーを下ろして目線を合わせる。

「クリストファー、この間教えた治癒の魔術わかるな?この中の奴らを治してやれ」

クリストファーはコクンと頷く。
顎で切り揃えたキラキラのプラチナブロンドがサラリと揺れた。

大きな紫の瞳は涙の膜が張っていたが、健気に治療を開始する。
(皆んな、痛いの無くなって。元に戻って。
痛いの痛いの飛んでいけ!!!)

ぎゅーと目を瞑ったまま、伸ばした小さな手のひらに魔力を集中させて、テント内に放つ。

キラキラした魔力がテント内に満ちて、怪我をして呻いていた声が、口々に変わっていく。
「治った!」「痛みが消えたぞ」

「さすが俺の息子!魔力の扱いが上手いな」
いい子いい子とクリストファーの頭を撫でた。


この調子で、レオナルドはクリストファーを浄化に連れて行っていた。
3~4回に1回は澱みの取り込みに失敗し、浄化という名の討伐になっていたが・・・ 


澱みの取り込みに失敗し、怪我をして苦しむ騎士たちをもうこれ以上見たくないと、クリストファーは小さな胸に誓っていた。


———————————————————————
レオナルドー!!!お前のせいでクリストファーが一人で背負い込むことになったんじゃないか!!ということです。


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