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【番外編】グレーゾーンのギリアムさん1
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「カレン、俺とは別れてくれ。君には俺がいなくても生きて行けるだろう。エリカには俺がいないとダメなんだ」
は?なんだそれ。
目の前の恋人、いや、元恋人になるんか。
顔を歪ませて開口一番そんな事を言い出した。
仕事が忙しく、ここんとこ連絡してなかったが、久しぶりに連絡が来て、話したいことがある、と二人でよく来ていたこじんまりした隠れ家レストラン「グロリア亭」に呼び出されたと思ったらこれか。
ジェリコは一つの年上で、付き合って5年。地元の高等部一年からの付き合いだった。
お互いの家に挨拶にもいってて、ついこの間まで、そろそろ婚約か?なんて思っていた矢先だった。
彼の隣には私とは正反対のフワフワした淡い水色の髪に珊瑚色の瞳をした、小柄で綿菓子みたいなイメージの女が座っていた。潤んだ大きな瞳、今にも泣きそうな顔で。
何でここに居る?2人の別れ話に何であなたがいるの?
そう思って彼女を見てたら、その、エリカとやらが涙をポロポロとこぼしながら言った。
「ごめんなさい。そんなに睨まないで。私が悪いの。私がジェリコと出会ったりしたから」
ううっとハンカチを目に当てて、彼女は泣き崩れた。
「エリカは悪くない。俺が悪いんだ。カレン、彼女を責めないでくれ」
別に睨んでませんけど、責めてもないですけど。
それより、側から見たら私は完全な悪者なんじゃないの?
泣きたいのはこっちなんだけど。
さっさと終わらせたくて、私は口を開いた。
「まぁ、要はあんたは他に好きな人が出来たのね、で、別れたいのね。それはわかった。でも私達の別れ話に、何で彼女連れて来たの?そんな事する?」
「エリカはどうしてもカレンに謝りたいと。じゃないと申し訳なくて付き合えないって言うんだ」
何それ。私と別れた後誰と付き合うかは勝手だけど、わざわざ別れ話に自分から名乗り出て来る時点で、どんな女かお察し・・・謝りたい?嘘をつけ。悪いと思うなら普通は来ないでしょ。
か弱げに見えて、結構いい根性してる。
こういう女に関わっちゃいけない。本能で感じた。
ジェリコも馬鹿だな・・・
言いたいことは山ほど会ったが、このしたたかそうな女に言いくるめられて、こちらが不利になりそうだったのでさっさと切り上げる事にした。
「了解しました。じゃあもう行って良いかな」
「待ってくれカレン!俺たちの5年はそんなもんだったのか?」
はぁ?何言ってるの?幸せになってねとでも言えと?
それとも今までありがとうとか?
ジェリコに感謝の気持ちは無くはないが、この女がいる今は言いたくない。
こっちは言いたいこと我慢して受け入れて大人しく引き下がろうとしてるのに。
どこまでも自分勝手な。イライラしてくる。
「そんなもんもこんなもんも、一方的に終わらせたのはあんたでしょーが!」
はっ!いけない。つい感情的になってしまった。
ガヤガヤとしていた店内が、一瞬シーンとなる。
シクシクと泣いてる彼女の声だけが聞こえた。
「すみません、大声出して。お気になさらず」
私は咄嗟に周りに謝った。
「二階空いてるから良かったらどうぞ」
ママさんがさりげなくやって来て、声をかけてくれた。
「いえ、もう帰ります。お騒がせして本当にすみません。また来ますね」
「良いのよ。また来てね」
私は立ち上がると2人を見ることなく、店を去った。
胸がモヤモヤする。
店を出て、少し歩いた先にあったバーに思わず入る。
落ち着いた店内に静かに音楽が流れている、カウンターしかない小さな店だった。
渋いマスターが一人。
迷わずカウンターに行き、バーボンソーダを頼んだ。
一気に飲んで、やっと落ち着いた。
マスターが気を利かせてチェイサーをくれる。
「ありがとうございます。同じのもう一杯ください」
マスターはニコリとしてまた下がっていった。
あ~あ。何だったんだ、本当。
この春に魔術専科を卒業して、騎士団第二隊に入隊して1ヶ月。確かに覚えなきゃ行けないことも多くて、連絡を疎かにしてた。
ジェリコは去年第三隊に配属されて地方に行くことも多く、
気がつけばここ数ヶ月、すれ違っていたのは確かだったけど・・・
信頼があるからこそ、連絡がなくても大丈夫だと思っていた。
はぁ、ダメだな。どんどん暗くなってしまう。
「あ~、小娘、ここにいたのぉ?」
後ろから声をかけられた。振り向くと背の高い、葡萄色の髪に濃い緑の瞳のかなり美麗な男の人が立っていた。
「えぇっと?どちら様でしたっけ?」
「え~、私の事知らない?今月姉御さんの代理で来たギリアム・マコーレンなんだけどぉ」
「あぁ、調査局から来た事務官さんの。私の事ご存じなんでか?」
「知ってるわよぉ。今年入隊のカレンデュラ・オリバーでしょ」
凄い。まだ、来たばかりで新入隊員まで把握してるんだ。
王国調査局の調査員というのは伊達ではないらしい。
そういえば、第二隊に挨拶に来た時、あまりに容姿端麗で一瞬ざわついたけど、ギリアムさんが一言話した途端、みんなのガッカリ度が凄かった。
スラリと優美な姿に、語尾を伸ばした話し方でかなりギャップがあるんだよね、ギリアムさんは。
残念すぎるイケメン事務官と女子隊員の間では有名だった。
「何か御用ですか?」
「冷たいじゃないのぉ。一緒に飲みましょぅ」
「すみません、一人で飲みたい気分なんです」
「ムシャクシャした時は誰かにぶちまけるのもいいんじゃないぃ?」
「何故その事を知って・・・」
「ま、いいからいいから、乾杯~」
ギリアムさんはスルリと私の隣に座ると、いつの間にか注文していたバーボンソーダを持ち上げて小首を傾げた。
しっかし、肌も髪もピカピカだな。
男?男だよね?
「あいつ、5年も付き合っていたのに、ちょっと連絡ないくらいで好きな人れきたから、別れようとか言うんれすよぉぉ」
「あらあら、良かったじゃない、結婚前でぇ。浮気は繰り返すからねぇ。で、相手は?」
「エリカとか呼んれました」
「エリカ、エリカね~。しつこくうちの副隊長に絡んでた人かなぁ。ミランダさんがこの人はずっと手紙送り続けてしつこかったって、言ってたな、確かぁ」
「え?ロックス副隊長に?なんて身の程知らずな奴なんれすか!」
「ミランダさんが要注意人物よ、って言ってたぁ」
「そんな奴にジェリコは引っかかったんれすね、バッカらなぁ~」
「同一人物かどうかはまだわからないけどねぇ。ちょっと気になるんだよねぇ」
「ロックス副隊長が~あんなわかりやすい人に引っかかるわけないじゃないれすか!ミランダさんが相手なのれ、退散したんれすよ!」
「ちょっと小娘、あんたさっきから飲み過ぎぃ。マスター、お水ちょうだい」
「ギムレットしゃん、ワラシはまらまらいけまふっっ」
「ギリアムよ。ギムレットはお酒でしょぅ。もうダメ、帰るよぉ」
うっ、目の前がグラグラする・・・というか、眠い・・・
「あ、小娘、小娘。ちょっと、寝ないでくれるぅ?家!あんた家どこ?」
ねぇ~、と遠くでギリアムさんの声が聞こえたけど、私はそのまま眠りに引き込まれた。
***
ガバッと起き上がる。
ちゃんとうちに帰ってたんだ、と、思ったら、違う!ここはどこ?
ハッとなって思わず布団をめくって見ると、服は着ていた。
しかし、男物のパジャマだった。
サーッと血の気がひく。ヤバイ。振られた勢いで、ギリアムさんと・・・?
あれ?でもあの人って男?オネエ?あれ?どっち?
混乱していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「小娘ぇ~、入るよぉ」
ドアを開けてトレーを持ったギリアムさんが入って来る。
休日だからか、ラフなシャツを着ていた。
うわっ!眩しい!この人、本当喋らなけりゃ完璧。
「おはようございます。えーっと昨日は・・・」
「おはよう~。あんた、すっごい酔っぱらって、家聞いてもわかんないから連れて帰って来たのぉ。トイレで綺麗に吐いちゃって、仕方ないから着替えさせたのよぉ。服は洗濯してるから。勝手にごめんねぇ」
「いえ、全然。こちらこそ大変ご迷惑おかけしました」
思わずベッドの上で土下座する。
「あぁ、いいの、いいの、女の酔っ払いは慣れてるからぁ」
「慣れてる?」
「そ、うち四人兄弟で、上三人が女なのぉ。大酒飲みで、介抱したり、着替えさせるなんてよくあるから、気にしないでぇ」
な、なるほど女の中に男が一人。
それで時々クネりが入るのか?
「ところで、具合はどうよ。一応回復ポーション持って来たけどぉ」
「ちょっと頭痛いです」
「じゃ、飲みなさい。ご飯は?軽い物作ったけど食べる?」
「いただきます」
優しい。お姉さんみたい。
私は兄と弟に挟まれてるから、姉は憧れだった。
吐いたとこまで見せてしまったら、もう怖いものなんてない。
遠慮なくいただく事にした。
ギリアムさんとダイニングに行くと、絵に描いたようなおしゃれな朝食がテーブルの上にあった。
さすが王都。何これ?クレープ?食事のクレープ初めて見た。
「小娘の好き嫌いわかんなかったから適当に作ったけど、良かったら食べてぇ」
「好き嫌いないです。めちゃくちゃ美味しそうですね。いただきます」
そして、見た目を裏切らず、凄く美味しかった。プロだプロ。
「お料理上手ですね。びっくりしました」
「まぁね。いつでもお嫁にこれるのよぉ」
「ははは、そうですね」
ニコニコしながらギリアムさんが話を聞いてくれる。
この人、居心地良いな。
じっと私を見てるな、と思ったら、突然彼は私の両頬を挟み、ぐいっと顔を寄せて来た。
「ちょっと小娘!昨日から気になってるんだけど。あんた何でこんな髪も肌もボロボロなの!少し前までこんなじゃなかったでしょ!」
え?えぇっっ?
「確かに、入隊してから忙しくて何もしてなくて。髪と顔洗ってそのまま寝ちゃうとか・・・」
「ギャー!なんて事!なんであのサラサラの綺麗な黒髪がこんなパサパサに・・・肌だってこんなに荒れて・・・若いからって手入れ怠ると、あっという間にババアになるの!」
「す、すみません。元々あまり詳しくなくて・・・」
「あんた出身北の方だったわね。じゃあ、元々空気と水の綺麗なところで育ったから保ってたのね・・・」
ギリアムさんはぶつぶつと言っている。
「ちょっと、おいで。ついでにお手入れしてあげるから」
言うなり、お風呂に湯を張り出した。
私を風呂場まで連れて行き、まずはしっかり湯船に浸かれと嗅いだことも無いくらい良い匂いのバスオイルを入れると、シャンプーとトリートメントの説明をしだす。
さっぱりわからなかったが、言われた順番に使え、というのはわかった。
お風呂や洗面所の棚を見ると、化粧品、バスグッズなど全て「Rita」の物であった。
王妃も愛用してるブランドである。
ひょえ~、美意識が高い!!!
髪を洗い、体を洗い、湯船に浸かる。
ふぇ~、気持ちいい!久しぶりに生き返る。
髪をタオルでくるんで、置いてあったロンTとハーフパンツ借りるとリビングに戻った。
下着は汚してなかったらしいのでそのままだ。
ロンTほさすがに袖が長いので折り返す。
「お風呂ありがとうございます」
「気持ちよかったでしょう。こっちに来てぇ。パックしながら髪の毛乾かすから。その前に髪の毛先を少し切らなきゃ、良い?」
「はい、お任せします」
言うなり、ソファに座る自分の前にペタンと座らされた。
髪も伸ばし放題で腰に届く程になっている。
うーむ。確かに酷い有り様だったかも・・・反省。
髪の毛にまたもや香りの良いオイルを地肌からすり込み、
丁寧にタオルドライした後、ケープを巻かれハサミでチョキチョキ切り出した。
なんか手慣れてる?フェイスパックを乗せたまま感心していた。
「凄い美容関係に詳しいですね。Rita初めて使いました」
「3番目の姉が勤めてて、社員割引で買えるのぉ。2番目の姉は美容師で、1番上は美容皮膚科の先生」
「ひぇ~、美容一家ですね。なるほど。マコーレンさん、髪も肌も凄い綺麗ですもんね、納得」
「ギリアムでいいって。それより何感心してるのよぉ。あんたもこれからちゃんとやるの。これ、一回だけでは全然ダメだわぁ・・・決めたっ!小娘はしばらくうちに居なさい。客間使って良いから」
キッパリと言い切った。
え?それって美容合宿!?凄い有難いけど。
すぐに返事が出来ず、迷ってると
「あんたねぇ、こんなボロボロのおブス状態なら、振られたって文句いえないの。いくら5年の付き合いだって、他にイイ女が寄って来たらそっちに行かれるわぁ。仕事忙しくても女捨てたらダメダメ!」
うっ・・・おっしゃる通り。どこかで気ぃ抜いてた。
私は何も言い返せなかった。
俯く私に、ギリアムさんはバシンと背中を叩いて言った。
「落ち込んでるヒマはないの!ご飯だって、ちゃんと栄養と美容考えたのにしてあげるから、あんた元は良いんだから、ピカピカになって見返してやんなさいっっ!」
「はいっ!よろしくお願いします」
そうして、私はギリアムさんの美容合宿に参加する事になった。
ん?あれ?一人暮らしの男性の家に泊まり込みって良いのかな?
ま、いいか。客間だし。ギリアムさんだし。
は?なんだそれ。
目の前の恋人、いや、元恋人になるんか。
顔を歪ませて開口一番そんな事を言い出した。
仕事が忙しく、ここんとこ連絡してなかったが、久しぶりに連絡が来て、話したいことがある、と二人でよく来ていたこじんまりした隠れ家レストラン「グロリア亭」に呼び出されたと思ったらこれか。
ジェリコは一つの年上で、付き合って5年。地元の高等部一年からの付き合いだった。
お互いの家に挨拶にもいってて、ついこの間まで、そろそろ婚約か?なんて思っていた矢先だった。
彼の隣には私とは正反対のフワフワした淡い水色の髪に珊瑚色の瞳をした、小柄で綿菓子みたいなイメージの女が座っていた。潤んだ大きな瞳、今にも泣きそうな顔で。
何でここに居る?2人の別れ話に何であなたがいるの?
そう思って彼女を見てたら、その、エリカとやらが涙をポロポロとこぼしながら言った。
「ごめんなさい。そんなに睨まないで。私が悪いの。私がジェリコと出会ったりしたから」
ううっとハンカチを目に当てて、彼女は泣き崩れた。
「エリカは悪くない。俺が悪いんだ。カレン、彼女を責めないでくれ」
別に睨んでませんけど、責めてもないですけど。
それより、側から見たら私は完全な悪者なんじゃないの?
泣きたいのはこっちなんだけど。
さっさと終わらせたくて、私は口を開いた。
「まぁ、要はあんたは他に好きな人が出来たのね、で、別れたいのね。それはわかった。でも私達の別れ話に、何で彼女連れて来たの?そんな事する?」
「エリカはどうしてもカレンに謝りたいと。じゃないと申し訳なくて付き合えないって言うんだ」
何それ。私と別れた後誰と付き合うかは勝手だけど、わざわざ別れ話に自分から名乗り出て来る時点で、どんな女かお察し・・・謝りたい?嘘をつけ。悪いと思うなら普通は来ないでしょ。
か弱げに見えて、結構いい根性してる。
こういう女に関わっちゃいけない。本能で感じた。
ジェリコも馬鹿だな・・・
言いたいことは山ほど会ったが、このしたたかそうな女に言いくるめられて、こちらが不利になりそうだったのでさっさと切り上げる事にした。
「了解しました。じゃあもう行って良いかな」
「待ってくれカレン!俺たちの5年はそんなもんだったのか?」
はぁ?何言ってるの?幸せになってねとでも言えと?
それとも今までありがとうとか?
ジェリコに感謝の気持ちは無くはないが、この女がいる今は言いたくない。
こっちは言いたいこと我慢して受け入れて大人しく引き下がろうとしてるのに。
どこまでも自分勝手な。イライラしてくる。
「そんなもんもこんなもんも、一方的に終わらせたのはあんたでしょーが!」
はっ!いけない。つい感情的になってしまった。
ガヤガヤとしていた店内が、一瞬シーンとなる。
シクシクと泣いてる彼女の声だけが聞こえた。
「すみません、大声出して。お気になさらず」
私は咄嗟に周りに謝った。
「二階空いてるから良かったらどうぞ」
ママさんがさりげなくやって来て、声をかけてくれた。
「いえ、もう帰ります。お騒がせして本当にすみません。また来ますね」
「良いのよ。また来てね」
私は立ち上がると2人を見ることなく、店を去った。
胸がモヤモヤする。
店を出て、少し歩いた先にあったバーに思わず入る。
落ち着いた店内に静かに音楽が流れている、カウンターしかない小さな店だった。
渋いマスターが一人。
迷わずカウンターに行き、バーボンソーダを頼んだ。
一気に飲んで、やっと落ち着いた。
マスターが気を利かせてチェイサーをくれる。
「ありがとうございます。同じのもう一杯ください」
マスターはニコリとしてまた下がっていった。
あ~あ。何だったんだ、本当。
この春に魔術専科を卒業して、騎士団第二隊に入隊して1ヶ月。確かに覚えなきゃ行けないことも多くて、連絡を疎かにしてた。
ジェリコは去年第三隊に配属されて地方に行くことも多く、
気がつけばここ数ヶ月、すれ違っていたのは確かだったけど・・・
信頼があるからこそ、連絡がなくても大丈夫だと思っていた。
はぁ、ダメだな。どんどん暗くなってしまう。
「あ~、小娘、ここにいたのぉ?」
後ろから声をかけられた。振り向くと背の高い、葡萄色の髪に濃い緑の瞳のかなり美麗な男の人が立っていた。
「えぇっと?どちら様でしたっけ?」
「え~、私の事知らない?今月姉御さんの代理で来たギリアム・マコーレンなんだけどぉ」
「あぁ、調査局から来た事務官さんの。私の事ご存じなんでか?」
「知ってるわよぉ。今年入隊のカレンデュラ・オリバーでしょ」
凄い。まだ、来たばかりで新入隊員まで把握してるんだ。
王国調査局の調査員というのは伊達ではないらしい。
そういえば、第二隊に挨拶に来た時、あまりに容姿端麗で一瞬ざわついたけど、ギリアムさんが一言話した途端、みんなのガッカリ度が凄かった。
スラリと優美な姿に、語尾を伸ばした話し方でかなりギャップがあるんだよね、ギリアムさんは。
残念すぎるイケメン事務官と女子隊員の間では有名だった。
「何か御用ですか?」
「冷たいじゃないのぉ。一緒に飲みましょぅ」
「すみません、一人で飲みたい気分なんです」
「ムシャクシャした時は誰かにぶちまけるのもいいんじゃないぃ?」
「何故その事を知って・・・」
「ま、いいからいいから、乾杯~」
ギリアムさんはスルリと私の隣に座ると、いつの間にか注文していたバーボンソーダを持ち上げて小首を傾げた。
しっかし、肌も髪もピカピカだな。
男?男だよね?
「あいつ、5年も付き合っていたのに、ちょっと連絡ないくらいで好きな人れきたから、別れようとか言うんれすよぉぉ」
「あらあら、良かったじゃない、結婚前でぇ。浮気は繰り返すからねぇ。で、相手は?」
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「え?ロックス副隊長に?なんて身の程知らずな奴なんれすか!」
「ミランダさんが要注意人物よ、って言ってたぁ」
「そんな奴にジェリコは引っかかったんれすね、バッカらなぁ~」
「同一人物かどうかはまだわからないけどねぇ。ちょっと気になるんだよねぇ」
「ロックス副隊長が~あんなわかりやすい人に引っかかるわけないじゃないれすか!ミランダさんが相手なのれ、退散したんれすよ!」
「ちょっと小娘、あんたさっきから飲み過ぎぃ。マスター、お水ちょうだい」
「ギムレットしゃん、ワラシはまらまらいけまふっっ」
「ギリアムよ。ギムレットはお酒でしょぅ。もうダメ、帰るよぉ」
うっ、目の前がグラグラする・・・というか、眠い・・・
「あ、小娘、小娘。ちょっと、寝ないでくれるぅ?家!あんた家どこ?」
ねぇ~、と遠くでギリアムさんの声が聞こえたけど、私はそのまま眠りに引き込まれた。
***
ガバッと起き上がる。
ちゃんとうちに帰ってたんだ、と、思ったら、違う!ここはどこ?
ハッとなって思わず布団をめくって見ると、服は着ていた。
しかし、男物のパジャマだった。
サーッと血の気がひく。ヤバイ。振られた勢いで、ギリアムさんと・・・?
あれ?でもあの人って男?オネエ?あれ?どっち?
混乱していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「小娘ぇ~、入るよぉ」
ドアを開けてトレーを持ったギリアムさんが入って来る。
休日だからか、ラフなシャツを着ていた。
うわっ!眩しい!この人、本当喋らなけりゃ完璧。
「おはようございます。えーっと昨日は・・・」
「おはよう~。あんた、すっごい酔っぱらって、家聞いてもわかんないから連れて帰って来たのぉ。トイレで綺麗に吐いちゃって、仕方ないから着替えさせたのよぉ。服は洗濯してるから。勝手にごめんねぇ」
「いえ、全然。こちらこそ大変ご迷惑おかけしました」
思わずベッドの上で土下座する。
「あぁ、いいの、いいの、女の酔っ払いは慣れてるからぁ」
「慣れてる?」
「そ、うち四人兄弟で、上三人が女なのぉ。大酒飲みで、介抱したり、着替えさせるなんてよくあるから、気にしないでぇ」
な、なるほど女の中に男が一人。
それで時々クネりが入るのか?
「ところで、具合はどうよ。一応回復ポーション持って来たけどぉ」
「ちょっと頭痛いです」
「じゃ、飲みなさい。ご飯は?軽い物作ったけど食べる?」
「いただきます」
優しい。お姉さんみたい。
私は兄と弟に挟まれてるから、姉は憧れだった。
吐いたとこまで見せてしまったら、もう怖いものなんてない。
遠慮なくいただく事にした。
ギリアムさんとダイニングに行くと、絵に描いたようなおしゃれな朝食がテーブルの上にあった。
さすが王都。何これ?クレープ?食事のクレープ初めて見た。
「小娘の好き嫌いわかんなかったから適当に作ったけど、良かったら食べてぇ」
「好き嫌いないです。めちゃくちゃ美味しそうですね。いただきます」
そして、見た目を裏切らず、凄く美味しかった。プロだプロ。
「お料理上手ですね。びっくりしました」
「まぁね。いつでもお嫁にこれるのよぉ」
「ははは、そうですね」
ニコニコしながらギリアムさんが話を聞いてくれる。
この人、居心地良いな。
じっと私を見てるな、と思ったら、突然彼は私の両頬を挟み、ぐいっと顔を寄せて来た。
「ちょっと小娘!昨日から気になってるんだけど。あんた何でこんな髪も肌もボロボロなの!少し前までこんなじゃなかったでしょ!」
え?えぇっっ?
「確かに、入隊してから忙しくて何もしてなくて。髪と顔洗ってそのまま寝ちゃうとか・・・」
「ギャー!なんて事!なんであのサラサラの綺麗な黒髪がこんなパサパサに・・・肌だってこんなに荒れて・・・若いからって手入れ怠ると、あっという間にババアになるの!」
「す、すみません。元々あまり詳しくなくて・・・」
「あんた出身北の方だったわね。じゃあ、元々空気と水の綺麗なところで育ったから保ってたのね・・・」
ギリアムさんはぶつぶつと言っている。
「ちょっと、おいで。ついでにお手入れしてあげるから」
言うなり、お風呂に湯を張り出した。
私を風呂場まで連れて行き、まずはしっかり湯船に浸かれと嗅いだことも無いくらい良い匂いのバスオイルを入れると、シャンプーとトリートメントの説明をしだす。
さっぱりわからなかったが、言われた順番に使え、というのはわかった。
お風呂や洗面所の棚を見ると、化粧品、バスグッズなど全て「Rita」の物であった。
王妃も愛用してるブランドである。
ひょえ~、美意識が高い!!!
髪を洗い、体を洗い、湯船に浸かる。
ふぇ~、気持ちいい!久しぶりに生き返る。
髪をタオルでくるんで、置いてあったロンTとハーフパンツ借りるとリビングに戻った。
下着は汚してなかったらしいのでそのままだ。
ロンTほさすがに袖が長いので折り返す。
「お風呂ありがとうございます」
「気持ちよかったでしょう。こっちに来てぇ。パックしながら髪の毛乾かすから。その前に髪の毛先を少し切らなきゃ、良い?」
「はい、お任せします」
言うなり、ソファに座る自分の前にペタンと座らされた。
髪も伸ばし放題で腰に届く程になっている。
うーむ。確かに酷い有り様だったかも・・・反省。
髪の毛にまたもや香りの良いオイルを地肌からすり込み、
丁寧にタオルドライした後、ケープを巻かれハサミでチョキチョキ切り出した。
なんか手慣れてる?フェイスパックを乗せたまま感心していた。
「凄い美容関係に詳しいですね。Rita初めて使いました」
「3番目の姉が勤めてて、社員割引で買えるのぉ。2番目の姉は美容師で、1番上は美容皮膚科の先生」
「ひぇ~、美容一家ですね。なるほど。マコーレンさん、髪も肌も凄い綺麗ですもんね、納得」
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え?それって美容合宿!?凄い有難いけど。
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うっ・・・おっしゃる通り。どこかで気ぃ抜いてた。
私は何も言い返せなかった。
俯く私に、ギリアムさんはバシンと背中を叩いて言った。
「落ち込んでるヒマはないの!ご飯だって、ちゃんと栄養と美容考えたのにしてあげるから、あんた元は良いんだから、ピカピカになって見返してやんなさいっっ!」
「はいっ!よろしくお願いします」
そうして、私はギリアムさんの美容合宿に参加する事になった。
ん?あれ?一人暮らしの男性の家に泊まり込みって良いのかな?
ま、いいか。客間だし。ギリアムさんだし。
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